プロローグ 始まり
初めての執筆です。
趣味でやってますので、拙いところが多々ありますが、温かく見守っていたただけると、嬉しいです。
(何故、こうなった…)
目の前に広がる光景は彼女の記憶とは異なっていた。気力を剣に集束し、何が起ころうと全てを断ち切るような気配を感じさせる男と、魔力が渦を巻いて、まるでハリケーンのエネルギー全てが眼前に立ちはだかっているように感じさせる女が今にも激突しそうな勢いであるのだ。
周りの者たちもそうだ。男の陣営、女の陣営のどちらもがいつでも戦えるようにと戦闘態勢をとっている。
空気が重い。そう感じてしまう雰囲気だからではない。本当に重いのだ。どうやら、男の気力と女の魔力が周囲を渦巻いているらしい。
部屋が震える。その振動は大きくなり、天井のシャンデリアが大きく揺れ始めた。未だ大きくなる振動、そして、グラスが一つ、倒れた。
それを合図に両者が一斉に動きだした。
「死ね!」
「死ぬのは貴方!です!」
「うわぁぁぁぁ!止めて!止めてぇぇ!私の…私の誕生会がぁぁぁ!」
彼女の悲鳴は部屋中に木霊した。
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十年前、
「はぁ、疲れたぁ。」
「疲れるんだったら止めればいいじゃないか、凛。それよりも、今日は勉強会やるから集まろうといったのはお前だろ。何で提案した人がゲームをやってんだか。全く、だから成績が悪いんだ、お前は。」
「だってだって楽しいんだもん!ゲームをしない学年トップの童ちゃんにはわからないでしょうけどぉー!」
「いや、ゲームくらいするぞ。テキストあるやつとか。」
「え!?」
「そんなに驚くことかじゃないだろ!それに最近一緒にゲームしたばっかだろ」
「あー、そういえばやったね!童がめちゃくちゃ弱くてびっくりしたんだった!」
「お前の記憶力の少なさの方がびっくりするぞ…」
彼女の名は加賀 童、こう見えて女である。 男の子っぽい顔立ちにこの口調でよく間違われる。今日は勉強会(2人しかいない)で友達の桜田 凛の家に集まっているのだが……呼んだ本人が勉強もせずゲームをやっていた。もう勉強会と呼べないこの時間、ついに童は凛に勉強させるのを諦め、童も勉強を一旦辞め、休憩することにした。
「てか、そんなに楽しいか?男を口説くゲーム。知ってると思うが、私はキャラ重視でやってるからさ、一回こういうのやったことあるけど乙女ゲーのヒロインが三また、四またしてんのめっちゃムカついてゲームカセットぶっ壊したことあるから、あんまり好きじゃないんだよね。」
「え、やば…あ、でも大丈夫、大丈夫。この白夢語はなんとね!攻略対象が王子一人しかいないの!」
「…は?」
しばしの沈黙のあと、「何言ってんの?お前、」と言いたげな顔で童はそういった。
「だからね、攻略対象が王子一人しかいないの!」
「いやいやいや、乙女ゲームっていろんな攻略対象から自分好みのキャラをおとすゲームなんじゃないの!?」
「いやー、実は最初は普通のを作る気だったらしいんだけど、王子ルートを製作者みんな作りたがって挙句の果てには乱闘が起こって、仕方なくみんなで作ったら他の攻略対象の分のテキスト量がなくなっちゃったらしくて、作り直す時間もなくて王子オンリーになったらしいんだよ!」
「うん。とりあえず、製作者たちがバカだということはわかった。」
「だけどね、その分内容はすっごくすっごーく面白いからやってみてよ。それでそれで一緒に対戦しよ!」
「対戦って…それもう乙女ゲームじゃねえだろ。」
「まぁまぁ、とりあえず帰りに買って行きなよ、はいお金。」
「くっ、金持ちめ。」
そうして童は帰りに白夢語を買った。
そして、結局のところ,
この乙女ゲーム…………ものすごく面白かったのである。
乙女ゲームでありながら剣やら魔法やらで戦闘が出来ることが。
ヒロインのキャラが可愛いことはさながら王子とヒロインのペアが。
そして何より、悪役令嬢に同情したのだと。立ち位置的には悪役令嬢なのだが悪役令嬢らしくなく、嫌がらせしていたのは全部取り巻きであり、何もしていなかったのだと。童曰はく、こんなに悪役に感情移入したのは初めてだと。
そうして童は白夢語にハマってしまった。凛が引くほどに。気付いた時には遅かった。もう戻れないところまで来てしまっていたのだ。…気がついたらゲームをしているほどに。皆が大学受験勉強をしている間もやり続けていた。もちろん、学年トップは維持しているのだが。そして季節は過ぎ、いつの間にか2月であった。
「で、どのくらい進んだの?私はまだグッドエンド三つまでしかクリアしてないけど。」
凛はふと思い出したように質問した。
「えーと、確か後はベストエンドだけだったかな。」
「本当やり過ぎでしょ。私なんて童より一ヶ月先にやってたのに。……しかも成績全く下がんないし。」
「まぁ、勉強は一年前に全範囲やってたからな。それにお前が勉強している間にずっとやってたからな。でも、流石に1ヶ月前には、没収されたけど。」
「でもでも、今日からはできるね。今日こそは一緒にやろう!」
「落ち着け、分かってるから。」
そう、今日、童達は全ての受験が終わったのだ。童がゲームをしている間、凛はしっかりと勉強をして学年ニ位になり、童と同じ学校に受験したのだ。そして、今は帰り道。つまり帰ればゲームが解禁されるのだ。落ち着けと言った童が落ち着いていないのだが。
「ねぇねぇ、コンビニ寄らない?アイス買おうよ、アイス。」
「うん?あぁ、いいけど。」
「よーし!何のアイスにしよう……って、アレ?」
「ん?おい、どうし…」
コンビニに入るなり凛は首を傾げた。どうしたのかと気になり、童も中をのぞいてみると、コンビニは三人組の強盗に襲われていた。強盗犯と目と目が合う。どうやら丁度お金を盗み終わったらしく、こちらに向っていたようだ。一瞬、硬直する。だが犯人が状況を飲み込んだ時にはもう遅かった。犯人の目の前に…童がいたのだ。そして、その硬直が今この場では致命的であった。犯人のみぞおちへ、鉄をも砕く勢いの正拳突きが容赦なく突き刺さる。
「ゲホッッ!?」
殴られた拍子に持っていたナイフを落とした。だが、童は止まらず、追撃として、右肩の関節を外す。男の悲鳴がコンビニにこだまする。「この女は危険だ。」と理解したらしく、コンビニの店員らしき女性にナイフを向けた。
「動くnッガアアァァァァァァァァ!」
おそらく犯人は「動くな!この女がどうなってもいいのか!」と言いたかったのであろう。だが、その言葉はナイフを持っていた手に飛来した何かが刺さったことで遮られた。どうやら童がいつのまにか拾ったナイフを投げたようだ。最後の一人が困惑していると、童の回し蹴りが顔面にクリーンヒットし、気絶した。更に痛みに震えている残りの二人に突然痛みを忘れるほどの寒気が襲った。寒気のする方を見ると童が冷めきった瞳で睨んでいた。震え上がる犯人たちにとどめの一撃が下される。
「流石、自称人類最強だね!」
賞賛のようで、皮肉ひにくをいわであるその言葉に童は答えない。なぜならそれは黒歴史であるから。無かったことなのだ、世界最強になるために真面目に加賀家の武術を鍛錬したことも、助けた女の子に男と間違われたことも。そして、童は皮肉を言われたお返しと言わんばかりに言い返す。
「はぁ、どうしてお前といると強盗だか立て籠もりに巻き込まれるんだ?」
「なんで私が悪いみたいになってるの!?どっちかっていうと童のほうでしょ!私だけの時はこんなのに巻き込まれないもん!」
「はぁ〜?私だって巻き込まれてねぇんだけど‼︎」
「警察です!大丈夫ですか!?ってあれやられてる?あ、そこの君たち、事情が知りたいからちょっと署まで来てくれる?」
「ん?あ、…凛。」
「うん。わかってる。」
「あ!ちょっと君たち!」
言い争いをしている間に警察が来たようだ。そして事情聴取のため連れていかれそうになった童達はめくばせをしたかと思うと当然のように脱兎のごとく逃げた。その後、名前バレして警察から電話がかかって来て、母親に「なんで逃げてんのよ!別に逃げる必要なかったでしょ!」と怒られたのは言うまでもないだろう。
「はぁー、今日は散々だった。だがしかし、私はついにやり遂げたのだ。未だ凛がクリアしていない白夢語のベストエンドを!全てのエンドを見ないと行けない最終ルートを!」
大声で叫びたい気持ちを(深夜だから)抑えつつ怒られない程度にやり遂げたという達成感を口にした。
(さて、寝るか。だが、最後のラスボスは誰だったんだ?ほとんど黒い霧で見えんかったし黄と青の瞳のキャラなんていなかったと思うんだが。まぁいいか、明日ネットの考察でも見れば。)
久しぶりに徹夜してゲームをしたせいだろうか、ベッドに向かう足取りがおぼつかない。
(ヤベェ、ガチで寝みぃ……)
ふらふらしながら進みあと少しというところでバナナの皮を踏んで盛大に滑るような転び方をした。両足が童の頭よりも上の位置にある。「あ、」と思わず声を出してしまった。服が木の葉のように宙を舞っている。どうやら童は脱いであった服を踏んで転んだらしい。
(ハハ、母さんの言う事真面目に聞いときゃ良かった。あぁ、やばい。本当にやばい。眠くて体がうまく動かねぇ。このままじゃ頭から落ちちまう。軽くて脳震盪、酷いと_____。)
酷いと|……死ぬ|。その考えが頭によぎる。
(え、あれ……もしかして死ぬ?まじで?年齢=彼氏いない歴の私が?)
刹那、首から全身へ、身体中至る所を鈍器で殴られるような痛みが走った。
(くっ、う、あああぁぁぁーーーーーー。)
やがて童は痛みを忘れ、深い眠りについた……はずだった。
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(?アレ、ここどこだ?)
童が再び目を覚ますと見知らぬ天井、見知らぬベッドがあった。
(……病院、ってわけではなさそうだな。)
気を失う前に頭を打ったことから一瞬、病院ではという答えが浮かんだが直ぐに違うなと確信する。なぜならここは病院とするにはあまりにも豪華すぎたからだ。壮大な山と静かな湖というものを見事に美しいタッチで描かれたのがわかる絵画。タンスには、金と銀らしきものが使われており、更に机の上には瞳の大きさの真珠のネックレスやクリスタルの指輪、はたまたダイヤモンドらしき腕輪が無造作に置かれている。
(うわばっちぃ。まぁでも多分これは夢だろう。ちょっと見てみよう。)
そう思い、立ち上がる。ぴとっ、と足先が床に触れる。ひんやりとした感触が床から伝わる。夢にしては妙に現実的な感覚に少し疑問に思うが、「そんなこともあるだろう。」と思い、直ぐに思考を辞め、部屋を歩き回ろうとするが、思っていたよりも足が短いせいで転んでしまった。
「あだっっっ‼」
盛大に転ぶ。顔全体に鈍痛を感じる。同時に先程の「これは夢なのだろうか?」という疑問が再びよぎる。明らかにおかしい。
「ソフィアお嬢様!お目覚めになられたので…ハッ!大丈夫ですか!?」
顔を上げると、メイド服をきた、使用人らしき女性がいた。「大丈夫です。」と言いかけるが、額が妙にズキズキすることに気が付く。直後、女性が真っ青な顔で「!お嬢様直ぐに医者をお呼びいたします!クロード家のメイドの名に懸けて!」と言って部屋を飛び出した。
「ちょっ、待って!クロード・ソフィアってまさか!ってもう行っちゃったし…。それにしても痛いなぁ。」
軽く額を触る。すると、手にドロドロした液体が付く。
「ア、レ?」
もしかしてと、鏡を見る。そこには銀髪で青い瞳を持つ可憐な少女の額から血が流れている姿が映し出された。どろり、どろりと流れる血は、鼻の横を通り、口の端に届く。思わずペロッと舐める。舌の感覚細胞が脳に刺激を伝達する。そうして理解する。この痛み、この味、この姿…そして、私の身体の名前……これは、この世界は………夢などではなく……………あの、乙女ゲームの……
「白夢語の世界だぁぁぁぁぁーーーー!」
そう叫びながら混乱する頭に、先程の顔面強打の影響もあって童、いやソフィアは倒れてしまった。
次回は来週の19時頃を予定してます!未だに操作の仕方がよくわかっていませんが、頑張ります!あと、一応確認はしているつもりですが、誤字脱字があれば、ご報告していただくと嬉しいです。できる限り直すよう善処します。