第九十一話 餓鬼の仕組んだデスゲーム
転校してきたばかりの鬼滅 美狩は餓鬼を狩るハンターで餓鬼殺しの異名を持つ少女でもあった。
般若の面を被り姿を隠して活動していた彼女だったが攫われた先であっさり正体がバレてしまう。
そしてピエロの格好した男が空中でふわふわと浮いたまま、連れてこられた全員に向けデスゲーム方式でチャンスを与えると言い放ってきた。
「さっきから随分と勝手なことを言ってくれてるが、一体俺たちに何をやらせようってんだ?」
「おっと、お前は逆鱗の竜の異名を持つ龍巳 竜藏でしたかねぇ。全く馬鹿な人だ。大人しく私達の申し出を受けて適当な餌を調達しておけばこんな目にあわなくてすんだのに」
「ふざけるな! 俺たちは確かに人様に誇れるような仕事はしてねぇが、魂は売らねぇ! 人身売買に手を染めるような外道に堕ちる気もねぇんだよ!」
竜蔵が吠える。しかし、ピエロはあざ笑いながらその視線をもうひとりの男に向けた。
「お前は公安の赤井 遼でしたか。ふふ、我々餓鬼一族について調べようなんて愚かな真似を。そういうのを蛮勇と呼ぶのですよ」
「黙れ、お前らは絶対に俺の手で壊滅させてやる」
「この状況でそれだけの口がきけるなら立派なものだ。そして――」
ピエロの視線が今度は鳳凰院 凍牙に向けられた。
「ふふっ、君も知ってますよ。アイッターでは自分の異能がどうたらと本当に痛い発言を繰り返していた。中々面白そうなのでネタ枠で連れてきてあげましたよ。光栄に思ってください」
「な、お、お前! そんなこと言って! 僕の封印が解かれたら、大変なことになるんだからな!」
鳳凰院が強がるが声は上擦っていた上にちょっと噛んでもいた。膝も笑っている。
「流石だな鳳凰院。この状況で武者震いとは」
「そろそろ教えてあげた方がいいかしら?」
未だに美狩は鳳凰院に疑いを抱いていないので、少し心配になってきた教子でもある。
「そして、最後は君、鬼滅 美狩。全く母親が目の前で殺され喰われたぐらいで根に持ち我らの同胞を殺して回るとは。その借りはしっかり返してもらわないとねぇ。もっともお前と一緒に連れてこられた連中は、お前が余計な真似をしたバツみたいな物。つまり完全な巻き添えさ。それを聞いて今のお気持ちはいかがですかぁ?」
「くっ!」
美狩が俯き悔しそうに呻くが、そこに教子が割って入る。
「顔を上げな美狩! あんたのせいじゃないって他の皆も言っていただろう。悪いのはそこでへらへらわらって見ているクソみたいな連中だ!」
「そ、そうだよ美狩ちゃんは悪くないもん!」
「私達は味方だよ」
「それに、目の前で両親が殺されたなんて、酷すぎます!」
教子の口調が変わり、観戦者となっている餓鬼どもに啖呵を切った。菜乃華や真弓も彼女を責めてなどいないし、委員長に関しては美狩の境遇に涙さえ浮かべている。
「う~ん、うるわしの友情。素晴らしい! だがしかし、われわれをクソ呼ばわりしたのは許せないねぇ!」
「そうだ糞になるのはおまえらだろうが!」
「俺たちに喰われて文字通り排泄物としてな!」
「さぁ、さっさと始めちゃって! こっちはずっと待ちかねてるんだから!」
見ていた観客たちが堰を切ったように騒ぎ出し、処刑! 処刑! とコールが鳴り響いた。全員目が血走っており、その異様な光景に委員長も言葉を失う。
「どうどう落ち着いて皆さん。さて、君たちにルールを伝えよう、なに単純な話だ。おまえたちには我々の用意した戦士と戦ってもらう。勿論お前たちが戦うのは人間ではない餓鬼だ。勿論ゲームを盛り上げるために丸腰で戦えとはいわない。後ろを見たまえ、様々な武器が用意されているだろう?」
全員が振り返ると確かに数多の武器が用意されていた。
「それらの武器は好きに使ってくれてかまわない。ただしそろそろ急いで選んだほうがいいかもねぇ。あと30秒もすれば我々の用意した戦士がやってくるのだから!」
「糞が!」
話を聞くなり赤井が動き出し。続いて教子、竜蔵、美狩が武器を取りに行く。
「わ、私達も」
「う、うんそうだね!」
「わ、私は、どれを――」
そして菜乃華、真弓、委員長もそれぞれ武器を選んでいた。
「うん? ははは、あの眼鏡の委員長って子はフライパンに小麦粉に卵と、一体何をするつもりなのかな?」
「自分が喰われる準備ってかぁ」
周囲の餓鬼から嘲笑があふれる。委員長はうぅ、と気恥ずかしそうにしていた。
「真弓ちゃんは弓なんだね」
「う、うん。昔ちょっと習ったことがあって。そういう菜乃華ちゃんは刀?」
「うん。何か刀持ってる人って強いイメージだったから」
笑って答える。だが、イメージだけで扱えるほど刀は甘いものではないが――
「……姉ちゃん。さっきの啖呵は見事だった。見直したぜ」
「あら、ありがとう」
一方で教子が竜蔵に認められていた。彼女も悪い気はしないのか微笑を浮かべている。
「おい、集中しろ何か出てきたぞ!」
すると赤井からの警告。そしてぞろぞろと腹の出た化け物が姿を見せた。
「こいつらは、下級の餓鬼か!」
美狩が叫ぶ。
「ご名答! 君たちの最初の相手は知能の低い雑兵の餓鬼だ。我々のような完全な人型と比べると知性も低く再生能力も持たないがそれでも虎ぐらいなら単体で軽く狩れるぐらいの力はある。さぁ、どれぐらいできるか見せてもらおうか!」
「「「「「「「「「「ガギャガギャギャーーーー!」」」」」」」」」」
そして一斉に大量の餓鬼が襲いかかってくる。
「姉ちゃん無理はするなよ」
「ご忠告ありがとう。でもね――」
向かってくる餓鬼に向けて教子が指で何かを弾いた。すると餓鬼の頭が次々と貫かれ地面に倒れていく。
「弾きの教子とは私のことさ。あんたらしっかり教育してやんよ!」
教子が叫ぶ。その手に握られていたのはおはじきだった。そう彼女はかつて矢田 郁代と教郁コンビとして恐れられていた。その際に教子が武器として利用していたのがおはじきであり、それを指で弾いて指弾のように扱ったのである。
たかがお弾き。されどお弾き。教子が弾くおはじきは厚さ1メートルの鉄板をも貫通するほどに威力が高い。
「俺も負けてらんないぜ!」
逆鱗の竜が迫る餓鬼へドスを振り抜いていった。餓鬼共がバタバタと倒れていく。彼もまた達人級の腕を持つ。
「ガギャッ!」
そして赤井は銃を使って応戦。手に持つのは大口径のリボルバー。しかも撃たれた弾丸は一ミリもずれることなく餓鬼の頭蓋を撃ち抜いていく。
どうやら公安の彼は射撃の腕に自信がありそうだ。
そして――
「お、おまえらわかっているのか! ぼ、僕の右手の封印が解かれたら大変なことになるんだぞ!」
壁際で鳳凰院が一人追い詰められていた。体がガタガタと震えている。それをみた竜藏が呆れた目で言った。
「あの馬鹿、武器も持たず何してるんだ?」
そう。鳳凰院 凍牙は武器を所持していなかった。それではあまりに無謀だが。
「違う! 鳳凰院はそもそも武器を持つ必要がないんだ。さぁ何をしている鳳凰院! 今こそその包帯を解き邪天眼の力を解放する時だろ!」
「……あの姉ちゃん何を言ってるんだ?」
「え、え~と……」
竜蔵の問いかけに教子が戸惑う。そう美狩は今でも鳳凰院の力が本物だと信じて疑っていない!
そして鳳凰院はというと、今すぐにでもチビリそうな顔で餓鬼相手に震え上がっていた。
このままでは喰われて死んでしまうのは間違いない。だがそれは嫌なのかついに鳳凰院 凍牙が右手の包帯に手をかける。
「こ、こうなったら俺は封印を解くぞーーーー!」
「アッハッハッハ、皆さん聞きましたか? 彼は遂に封印を解くそうだ! さぁ何が飛び出るのかな!」
ピエロが小馬鹿にしたように語り、周囲の餓鬼からも嘲笑の声が漏れる。
そんな最中、遂に鳳凰院 凍牙の包帯が解かれる。
「出ろ、何か出ろーーーー!」
――しーーーーん。
しかし、何も起こらなかった。包帯を解いても彼に変化はなかった。
「あ~っはっはっは! これは間抜けだねぇ。散々もったいぶって何もでないのだから!」
ピエロがあざ笑う。観客の笑い声も響き渡る。そして美狩もどうして? と言った顔を見せていた。
「ごめんね美狩。あいつは――しまった!」
「ガキャギャギャーーーー!」
教子が真実を話そうとするが、その瞬間餓鬼どもが鳳凰院に飛びかかった。
ヒィ、と短い悲鳴を上げる鳳凰院。
「も、もうダメだーーーー!」
鳳凰院の絶叫。だがその時だった。
『まだ諦めるには早いんじゃないか主よ』
「え?」
謎の声が発せられ、かと思えば彼の手に蒼い炎が発生した。そして迫る餓鬼どもを呑み込み凍てつかせ直後砕け散った。
「え? え? え? え~とこれは一体?」
『忘れるとはシンキチ冷たい。私はお前の中に封印されていた第七天魔獣神ダマルクだ』
「え、えぇえええぇえええぇええぇえ!?」
◇◆◇
一方その頃海渡は。
「海渡、ぼ~っとしてどうしたんだ?」
「あぁ虎島ごめん。ちょっと人助けをね」
「人助け?」
「キュッキュッ~?」
「おお、黒瀬格ゲー強いじゃん」
「……大会にも出たことある」
そんな感じで皆と遊びながら人助けもしていたのであった。




