第七十七話 チートのことはもういいか
「か、海渡くん!」
今まさに命と大事なおっぱいが奪われそうになっていた佐藤が声を上げた。海渡が一撃で襲いかかった相手を倒したからだ。
命とおっぱいが助かったことが嬉しいのか、佐藤の瞳に涙がたまる。
「委員長、おっぱいは無事だった?」
だが、振り向いた海渡の発言でずっこけそうになる。
「か・い・とく~ん――」
「いや、ごめんごめん」
ものすごい迫力で迫る佐藤に思わず海渡もたじろぎ謝罪した。少々デリカシーの足りない発言だったかなと反省する。
「もう、海渡くんにとって私って何なのかな! もう!」
「おっぱ、いや大事な仲間だよ」
上目遣いでジト目を向けられそっぽを向く海渡。だがやはり海渡も男の子である。そこに危険なおっぱいがあれば守りたくもなるし気にもなるのだ。
「でも、ありがとう。でも何か私、いつも助けられてばかりだね」
そう海渡にお礼をいいつつも、しゅんっとした顔を見せる佐藤だ。
確かにこれで何度目か? と言えるぐらい佐藤は狙われておりちょっとした桃っぽい姫様みたいな状態ではあるが、それとて何も佐藤が悪いのではない。佐藤を危険な目にあわせる相手が悪いのだ。
「大丈夫だよ。それに俺だって委員長には色々とお世話になってるし。そういう意味ならお互い様だよね」
海渡が久しぶりにこっちに戻ってきた後、佐藤から改めて勉強を教えて貰ったりしたことがある。
佐藤はとても面倒見がいい心優しい少女でもあり、海渡だけではなくクラスの皆がお世話になっている。あの鮫牙だって佐藤だけは優しく接している。
「海渡くん……」
佐藤が海渡を見つめる。頬が紅潮していた。何となくいい雰囲気にも思えるが。
「お~い海渡ー! それに委員長ーーーー!」
しかし、そこに杉崎の声が届き、ハッとなった佐藤が気恥ずかしそうに顔を伏せた。
海渡が見ると杉崎が小さなヘリコプターで海渡達の前に降りてきた。隣には花咲もいる。
「海渡くんもいたんだね」
「うん、妹と一緒だったんだ」
杉崎と一緒にきた花咲が聞き海渡が答える。
「え? そうだったんだ……あれ? でもそれなら菜乃華ちゃんは?」
「田中や真弓ちゃんと今は一緒かな」
「なんでそこで田中が?」
腕を組んで首を傾げる杉崎。するとそこへ更に見知った面々がやってきた。
「虎島たちも来てたんだね」
「あぁ、委員長が大変そうだったから助けにきたけど、海渡がいたなら問題なかったな」
「キュッキュー!」
「それにしても、日本でこんな力を持った人たちが一杯いるなんてどうなってるのかな?」
景が不思議がった。確かにこれまでもいろいろなことがあったが、今回の出来事はその中でも特に際立っており大凡この世界では考えられないようなことがおこっている。
「え? これって普通じゃないの?」
「そんな筈無いだろう」
「タイガーには聞いていませんわ」
ファワードの疑問に答えるように虎島が発したが、待っていたのはキャラットの冷たい返しだった。相変わらず異世界の少女達は虎島に手厳しい。
「私もてっきり、これまでは理由があって皆力を隠していたのかと思ったが違ったのか?」
マックスも首を傾げている。
「そういえば杉崎も何か力がありそうだね」
海渡が問う。あのヘリコプターを見たからだ。
「それなんだが、このゲームが理由のようだ」
「杉ちゃん、それもう言って大丈夫なの?」
「あぁ、なにせここにいる全員もうこのゲームに巻き込まれている。花も委員長も俺の戦いに巻き込まれたから情報共有者になれただろ?」
そこまで言った後、杉崎が海渡たちにこれまでの出来事を話してくれた。
「そんなことがあったんだな」
「悪いな話せなくて」
「それは仕方ないさ。そういう事情ならね」
「しかし、これで杉崎も力を得たってことか」
「俺も?」
「あ、え~と」
虎島がしまったという顔で後頭部を擦る。すると海渡が後を引き継ぐように話に加わった。
「いずれ話すよ。とりあえずこの件だね」
「あぁ。委員長が助かってよかったが、俺はこのゲームを教えてくれたチートが何か知らないかなと思っていたりするんだ。だけど実はあれから全く連絡が取れないんだよな」
「そのチートというのがゲームを教えてくれたんだ」
「あぁ、それはハンドルネームだけどな。俺はスギッチとして登録していたんだけど」
「そうなんだね、そういえばさっき襲ってきた人がスギッチとかなんとか言ってたかも」
「そんな偶然があるんだねぇ」
「う~ん……」
三人の会話に虎島が目を細めて唸った。
「あれ? 何か登録が消えてるな?」
「杉ちゃんの言っていたチートって人?」
「そうなんだが何かあったのかな?」
「杉崎、もうそいつのことは気にしなくていいんじゃないか?」
「そうか?」
「そうだって」
虎島に言われて、まぁいっか、と杉崎もあっさり引き下がった。色々面白いゲームなどを教えてもらったりはしたがこんな危険なゲームに巻き込むような相手にそこまで未練はないのである。
「しかし、こんなイベントいつまでやる気なのか」
「手っ取り早いのはこのゲームを配信してるのをやっつけることだろうな」
「そんなこと出来るのか?」
「う~ん――」
杉崎が問うと虎島がちらちらっと海渡を見てきた。海渡ならそれぐらい出来るだろうと思っているのだろう。
そして海渡も仕方ないかなと思い始めたその時だった。杉崎を含めた全員のスマフォが震えだす。
一様にスマフォを確認するが、そこに映像とメッセージが流れてくる。
――やぁ始めまして。僕はこのゲームを皆に配信したゲームマスターさ。皆楽しんでくれているかな?
「こいつ何を勝手な!」
「待て杉崎! 一旦様子を見るんだ!」
文句を言う杉崎だが、それを虎島が止めた。その顔は真剣そのものだった。それは異世界からきた少女たちや景も一緒だった。
――さてこのまま楽しくゲーム続行といいたいところだけど、一人今すぐにでも邪魔をしに来そうなのがいるよね? 伊勢 海渡、君のことさ。
「こいつ! 海渡のことを知っているのか?」
――勿論さ虎島君。僕は君たちのことだって知ってる。
「――ッ!」
名指しされ虎島がたじろぐ。どうやら相手はただものではなさそうであり。
――さて、実は君たちに見てもらいたい人がいる。無謀にも一人でノコノコやってきた彼女をね。
『ゆ、勇者様ーーーー!』
「て、女神様もかよーーーーーーーーーーーー!」
虎島がスマフォを見ながら叫んだ。柱に鎖で縛られた女神を見て瞬間湯沸かし器の如く怒涛の勢いで突っ込んだ。そして呆れた。すかさず念話を繋げる。
『あんたまた一体何してんだよ!』
『うぅ、妙なゲームが地球で横行してるって知ってぇ、女神としては放っておけないと思ってきたのに勇者様に私もちょっとは出来るんだぞ♪ってとこ見せようと思ったのに~』
どうやら自分の手で何とかしようとしてまんまと捕まってしまったようだ。虎島が頭を抱える。
「な、なんでそこに先生が!」
「女神 サマヨ先生……」
杉崎と花咲も動揺していた。事情を知らない二人からすればどうして先生が捕まるのか不思議で仕方ないだろう。
――さて、もう言うまでもないね。この女神を助けたいなら海渡君、君一人で僕のゲームに付き合ってもらうよ。イエスなら画面の表示に従ってね♪
すると海渡のスマフォに挑戦を受けますか? Yes/Noという表示が出てきた。
「海渡、こいつは罠だ!」
虎島が真剣な顔で言う。海渡の力は十分知っているがそれでも相手が不気味で仕方ないのだろう。
「海渡くん……」
佐藤も凄く心配そうだ。だが、海渡は大丈夫さ、と笑みを浮かべ。
「ちゃんと女神様を連れ帰るよ。だからちょっと行ってくる」
そして指で海渡がYesに触れた途端その場から消え去るのだった――




