第七十二話 リアルゲーマー
目の前の男はスキルホルダーだと口にした。それは杉崎がスマフォに入れたゲーム名と一緒だった。
思えばゲーム画面が急に起動したかと思えばアグレッシブなプレイヤーがいるなどとメッセージが表示されていた。
もしプレイヤーというのがこの男のことであれば、スキルというのはリアルで実際に発動できる力ということになる。
そして現に目の前の男はボマーというスキルを所持していることを示唆しており、その力は常識では考えられないものだ。
「オラオラオラ!」
「チッ!」
男が右手を広げ、突き出していくと、次々と地面が爆破していく。厄介だと杉崎は考えていた。持ち前の勘の鋭さで何とか巻き込まれないでいるがいつまでも逃げられるわけもない。
「俺にもあるのか、あんな力が?」
改めてスマフォを取り出しステータスを確認する。リアルゲーマーのスキルは保有していた。
ただ説明がいまいちはっきりしない。リアルでゲームをプレイするとは何のことなのか?
そもそもこのスキルホルダーだけでゲームが出来ることはない。もしこのメッセージ通りなら画面の中ではなく現実でスキルを駆使してプレイヤーと戦うのが目的となる。
(考えろ俺! なにもないってことはないはずだ!)
杉崎は必死に頭を絞り、考えた。そしてふと思った。もしかしてこのゲームだけにこだわりすぎていたのではないか、と。
だがその時、すぐ後ろで爆発が生じ、その衝撃で吹っ飛んでしまった。
「ガハッ!」
「へ、やっと捉えたぜ」
「杉ちゃん!」
地面に倒れた杉崎に花咲の声が耳に届く。どうやら離れた場所で様子を見ていたようだ。逃げろと言ったが、やはり完全に見捨ててはいけなかったのだろう。
「チッ、お前の女か? ムカつくぜ。こっちは女なんて一人もいたことないってのによ! だが丁度いいぜ。てめぇを動けなくした後、目の前であいつらの手足だけふっ飛ばしてからやりまくってやるよ!」
「おいおい、童貞が無理してんじゃねぇよ。いきなりマニアックすぎだろうが。そういう妄想は脳内だけにしとけってキモいオタク野郎」
「て、てめぇ!」
こいつは力を手に入れて何をしでかすかわからないと考えた。だから挑発し、自分にだけ怒りが向くようにした。
だが、この後一発逆転の必殺の策を講じなければ杉崎は死ぬ。そうすれば他の皆がどうなるか、考えたくもなかった。
杉崎は自分のスマフォに目を向けた。ゲームの画面は閉じていて、デフォルトの画面に戻っていた。杉崎には一つ考えられることがあった。それに賭けていた。
「これは!」
そして気がついた。スマフォに入ったゲームアプリのキャラが総じて自分の顔になっていたことに。
「死ねっ!」
男が叫んだ直後、杉崎を中心に爆轟した。これまでより一層大きな熱と光。杉崎のいた場所に巨大なクレーターが出来上がった。
「杉ちゃーーん!」
花咲が叫んだ。涙さえ流している。
「そ、そんな……」
鈴木も唖然としていた。まさかこんなことになるなんて……逃げろと言われて逃げたが、杉崎ならなんとかするのではと考えていた節もあった。
だが、この爆発では、と後悔しかけたが。
「あ、待って! あそこ、誰か立ってる!」
しかし、佐藤が指差し声を上げる。その方向に人影。煙が晴れ、何者かが立っていた。位置的に杉崎の筈だが三人には判別がつかなかった。
なぜなら立っていた人物は何やらSFチックな衣装に身を包まれていたからだ。
「ふぅ、どうやら間に合ったようだな」
「あ、この声、杉ちゃん!」
だが、花咲はすぐにその人物が杉崎だと気がついたようだ。
「何? 何だお前、その格好は!」
爆発を起こした男が声を強めて詰問する。するとフルヘルムを撫でつつ彼、杉崎が答えた。
「バイオネーターというゲームを知ってるか? そのプレイヤーの格好だよ」
そういいつつ杉崎が銃を構える。バイオネーターはいわゆるFPSと称されるタイプのゲームだ。この手のタイプにはリアル系やSF系がありバイオネーターは後者であった。
そしてこのゲームは対戦も可能だがCoopという協力プレイのモードもあり、このモードではカスタマイズで強化したキャラでのプレイも可能だった。
杉崎もハマっていた為、かなりの強化を施してある。アーマーも強固であり武器も多彩だ。そしてこのスキルは自分が育てたキャラデーターを引き継いだ状態でリアルに反映出来るようだった。
そう、つまりリアルゲーマーのスキルの効果とはゲームの具現化であった。
「アーマーのおかげで助かったぜ。これがなきゃ死んでたかもな」
「ふ、ふ、ふざけるな!」
男は更に連続で爆発させる。だが杉崎にダメージはない。全てアーマーが肩代わりしてくれている。
「お前のそれ、威力を上げるのに溜めが必要なんだろう?」
「な!」
杉崎が指摘すると男は絶句した。杉崎が挑発した後の爆発は大きかったが、あれは溜める時間があったからと考えた。一方連続で行う爆発は規模が小さい。だから気がついた。
「悪いが、その爆発じゃこのアーマーは破壊出来ないぜ」
「く、くそ! 表示されてたプレイヤーは、お前のことだったのかよ! だ、だったら!」
男がグッと拳を強く握りしめた。溜めを作っているようだった。
「させるかよ!」
だが杉崎は構えた銃の引き金を引いた。発射された光線が男の肩をふっ飛ばした。
「ぎ、ギャァアアァアアァアア!」
「え?」
男が倒れ、肩を押さえてうめき声を上げた。大量の血潮が地面を汚す。
「……くっ」
杉崎は銃口を向けたまま呻いた。勿論予感がなかったわけじゃない。男は辺りを爆破しその被害はリアルにでている。このゲームは現実を舞台にスキルを振るえてしまう。
であれば杉崎が撃った光線も十分な殺傷力があることになる。もし体に当たれば肉体が吹き飛ぶぐらいに――
杉崎の動きが止まった。何度もデスゲームに巻き込まれはしたが自分の手で誰かを手に掛けたことなど無い。故に躊躇した。
「馬鹿が!」
だが、相手の男は残った手を突き出し爆発を起こした。溜めていたのかかなり大きな爆発だった。
「へ、へへ、やったぜ。殺す覚悟も無いやつがデスゲームになんか参加してんじゃねぇよ」
「……俺はそんな気はなかったんだけどな」
「な!」
しかし、杉崎は生きていた。アーマーにはまだ余裕があったからだ。とは言え今の爆破でそれなりに削られ耐久度は残り25%を切っている。
決めなければいけない。だが、逡巡してしまう。その時だった。
「こ、こうなったらせめてあいつらを!」
男が委員長の方を見た。そこには花咲や鈴木もいる。こいつは爆発で関係ない三人を狙うつもりだ。
「こうなったら一か八かだ! ショックウェイブ!」
杉崎は武器を切り替えて指に力を込めた。銃口からは光線ではなく電撃が放出され男に命中した。
「ギヒイィイイイイィイイイ!」
男は悲鳴を上げ、そして地面に倒れてピクピクと痙攣した。あっちこっちが焦げているがどうやら死んではいないようだ。ショックウェイブは電撃を放つ武器だった。あたった相手の動きを一瞬止める効果もあった武器だがそれが功を奏したようだった。
「ふぅ、何とか、倒したか?」
そう呟く杉崎。その時だった男のポケットからスマフォが零れ落ち画面が割れた。プスプスと煙も上げている。どうやら今ので壊れてしまったようだ。
その時、杉崎のスマフォが震えた。杉崎は画面を確認するが。
――おめでとうございます! 貴方は見事プレイヤーを倒しました! レベルが一つ上がります! この調子で他プレイヤーもガンガンぶっ倒せ!」
「倒した? 気絶も勝利に入るってことか?」
そのメッセージに首を傾げる杉崎だったが――直後倒した相手の体に異変が起きた。全身が光の粒子となりそのまま消え失せたのである。
「――おいおい、マジかよ……」
杉崎「遂に俺にも力が!いよいよ俺の時代か!」
虎島「最初は皆そう思うんだよな……」
田中「そうなんですよねぇ……」
真弓「パパにはずっと何もないし髪の毛も何もかも」
田中「酷い!」
海渡「何か暇だけど楽だからいいかな」




