第七十一話 オススメのゲーム
新章開始です!
『ねぇスギッチ、このゲームって知ってる?』
杉崎はBINEを通じてある日そんなメッセージを受け取った。相手はネットを通じて知り合った友人だった。もっとも現実では一度もあったことはなくネットゲームで対戦したり協力したりネットで情報を共有し合ったりなどが主の付き合いだった。
ネットの向こうの友人はよく杉崎にオススメのゲームを教えてきた。多くはスマフォで楽しめるソシャゲだった。
今回その友人が勧めてきたのもそうだった。タイトルはスキルホルダーだった。何ともシンプルなタイトルだなと杉崎は思った。
ただ、彼が勧めて来たゲームにこれまで外れはなかった。杉崎はスポーツもこなすが、インドアのゲームも嗜むタイプだ。
だから新しいゲームと聞けば心惹かれる物がある。
『知らないけどチートが教えてくれたってことは面白いんだろう?』
チートはこの友人のハンドルネームだった。ちなみに杉崎はスギッチだ。そしてチートは杉崎の質問に肯定するようなスタンプを返してくる。
『今まで誰もプレイしたこともないような斬新なゲームさ。きっとスギッチもハマってくれるよ。やめたくてもやめられなくなるぐらいにね』
踊るようなスタンプも交えてそう教えてくれた。ふむ、と顎を押さえゲームの内容をよく見る。
どうやらガチャでスキルを得てそれでプレイヤーと戦うゲームなようだ。説明は非常にシンプルなものだが、デザインも含めて興味を惹かれる。
『わかった入れてみるよ』
『うん、なら僕とも今度戦おうね。楽しみに待ってる。スギッチを歓迎するよ』
そこで話は終わった。杉崎は早速アプリをダウンロードし起動してみる。プレイ開始を押すとガチャが現れた。
最初は無料で回せる。この手のゲームではよくあることだ。杉崎はガチャを回した。
――おめでとうございます! リアルゲーマーのスキルを得ました。これで貴方も正式なプレイヤーです! スキルを駆使して敵を倒せ!
画面にそんなメッセージが表示された後ステータスのような画面になった。そこには杉崎の名前が表示されレベルとスキル名も記されていた。
「……あれ? 俺、名前なんて入力したっけ?」
ふと疑問符が浮かぶ。ゲームはいきなり始まりガチャを回したわけであり、当然名前を記入することもなかった。
「しかも、こっからどうするのかさっぱりだ……」
色々と画面をいじるが特に何か始まるわけでもなかった。自分のステータス画面から何も変わらないのである。
仕方ないのでスキルをタップして見ると説明が表示された。
リアルゲーマー
説明
リアルでゲームをプレイする。
なんだこれ? と首を傾げる。正直良くわからない。
仕方ないのでBINEでチートに聞いてみるが反応がなかった。既読にもされない。
「寝たかな? ま、仕方ないか」
とりあえず杉崎はゲームについてはまた今後聞いてみようと思いその日は寝た――
「やっぱり何もないな」
「杉ちゃんどうしたの? スマフォばかり気にして?」
休みの日、杉崎は幼馴染の花咲に付き合って街に繰り出していた。杉崎も買いたい物があったのでちょうど良かった。
杉崎はチートから教えてもらったゲームを気にしていた。あれから色々と試してみたが一切何もおきなかった。
しかもゲームを勧めてくれたチートとは連絡が取れない。それからネットでもこのゲームについて調べてみたがこれと言った情報は見つからなかった。
不気味だから消してみようかと思ったが削除することが出来ない。色々と試してみたがどうやっても無理だった。
杉崎は何かの詐欺か? と通帳などもチェックしたが不正に課金されて取られたなどということはなかった。個人情報を抜かれているような様子もない。
ただ知らない内に名前が表記されていたのも事実だ。そのあたりも気になるところではある。
「ちょっと新しいゲームを始めたんだけどな……」
「そうなの? 杉ちゃんゲームも好きだよね」
「興味があるのはとにかくやる、それが俺なのさ」
「ふふ、でも面白いなら私にも教えて。やってみたい!」
そう言って花咲が笑顔を綻ばせる。彼女は杉崎のやることにはよく興味を示す。好きになった漫画やゲームなんかも杉崎の影響によるところが大きい。
「う~ん、それがどうもプレイ出来ないんだよなぁ」
「え? どういうこと?」
花咲が杉崎の見ているスマフォ画面を覗き込み、ドキッとした顔を見せる杉崎だが。
――ブルルルルルッ
その時、スマフォが震えた。
「ちょっと悪い」
「あん」
杉崎がスマフォを持ち上げ画面を確認する。ゲームの画面とメッセージが表示されていた。
『バトルチャンス! 周辺にアグレッシブなプレイヤーがいます!』
「なんだこれ?」
表示されたメッセージに小首を傾げる杉崎。その時だった――爆発音が鳴り響き街なかに黒煙が立ち上がった。一瞬にして和やかなムード漂う街並みが一変し、人々の悲鳴が飛び交う。
「ヒャッハーー! すげーぜこれは! 何だこのスキル、最高じゃねぇか! オラオラッ!」
更に連続で爆発が起き、脇に停まっていた車などが宙を舞う。電柱や横断歩道も倒れていった。
「なんだこれ? あいつ何やってんだ?」
杉崎が目を向けた方には腕を翳し、辺りを爆破しまくっている男がいた。
面長で悪そうな顔した男だった。一体何が起きているのか杉崎にはすぐには理解できずにいた。
何を使って爆発を起こしているかもわからない。男はただ手を翳しているだけで、爆弾のようなものを投げている様子もなかったからだ。
「ちょ、ちょっと貴方、な、何をしてるんですか!」
「あ?」
「ちょ、委員長! 流石にそいつは不味いって!」
だが、その時、男に文句を言うメガネ少女を見つけた。佐藤だった。側には鈴木の姿もある。
「こ、こんなことして、め、迷惑です!」
「迷惑? ハッハー! そんなのわかってやってんだよ。しかしお前、胸も大きいし、中々タイプだぜ。思わず爆破したくなるぐらいにガッ!」
「杉ちゃん!」
思わず疾駆し、杉崎は男の顎に向けて飛び膝蹴りをかましていた。
うめき声を上げ男が尻餅をつく。
「杉崎くん!」
「え? どうしてここに?」
「たまたまだ。いいからとにかく逃げろ! すぐに!」
「う、うん! 逃げるよ委員長!」
「でも……」
「いいから! あ、花ちゃんもいるし! お~い!」
杉崎は花咲にも一緒に逃げろと叫ぶ。そこでぞわりと悪寒を覚えた。
杉崎が飛び退くと立っていた場所が爆発する。
「てめぇ、俺様に向かってやってくれるじゃねぇか」
「チッ――」
何とか回避したが、相手が異様な力を持っているのは確かだった。
「このボマーのスキルホルダーに挑もうなんてな。お前、死んだぞ」
「スキルホルダーだ、と?」
杉崎を睨みながら男が言う。その言葉に杉崎は思わず自らのスマフォに目を向けた――




