第六十八話 ここは俺に任せて
「ここは俺に任せて先にいけーーーーーー!」
虎島が巨大な改造人間を相手しながらそう叫んだ。それは50メートル級の巨人であり、その破壊力はあまりに強烈であった。
『ぐぉおぉお! 進撃の拳ぃいいいい!』
「パーフェクトカウンターフルバースト!」
50メートル級の巨人の必殺の拳と虎島のカウンターがぶつかり合う。互いに弾かれた後、再度虎島が叫ぶ。
「何やってやがる! 早くいきやがれ!」
「と、虎ちゃん」
「ふ、そんな顔するな景。安心しな俺は死なねぇよ。それに、この戦いが終わったらお前に言いたいことがある。だから、俺は死なねぇだからさっさといけぇえええ!」
「タイガーお前の気持ちは受け取ったよ」
マックスがそう言って理解を示した。タイガーは異世界での虎島の愛称だ。
「さ、いこキラ」
「で、でも」
「キラ、残念だがあいつはもう死んだ」
「待て待て俺はまだ生きてるぞーーーー!」
「キュッキュッ」
「お前、死んでもミラクは絶対守りなさいよ!! ミラクに少しでも傷つけたら消し炭にしてやる!」
こうして虎島に後は任せて一行は研究所の奥に向かった。
「虎ちゃん大丈夫だよね?」
「う~ん、フラグがすごく立ってたけどね」
「はい。私もこっちのラノベやアニメや漫画を見て覚えました。あれはもう死にますね」
「えぇえええぇえ!」
可愛い顔してキャラットは言うことがなかなか辛辣だった。
だが、それも仕方ないか。ここは俺に任せて先にいけなんて口にするだけでフラグが立っているのに更に俺は死なねぇにこの戦いが終わったらである。もう死ぬしかないだろう。
「さらば虎島、君のことは忘れない」
『俺は死なないぞーーーーーー!』
念話でそんな声が聞こえた気がしたが、一行は涙を堪えるようなそうでもないような顔をして先を急いだわけだが。
「きゃ、きゃぁああぁああ!」
「な、キラーーーー!」
「た、大変キラちゃんが触手に、ひ、卑猥なことされちゃう!」
「え! 薄い本みたいに!?」
次に待ち構えていたのは触手付きの強化人間だった。そして見事に景が捕まってしまう。
「海渡、私達はもっとこの状況を堪能したいから先にいけ!」
フォワードがそんなことを言って海渡に先を急ぐよう促した。虎島と違い卑猥なフラグしか立っていない。
「きゃ~~~~!」
「あ、キャラットまで触手に!」
「それはちょっと見たいかも」
「いいから早くいけってば! もう!」
やれやれとちょっと残念に思いながらも海渡は先を急ぐ。
「ギャァァアアアアアアア!」
田中が吹っ飛んだ。そして壁に激突した。
「ま、真弓の為にもここで死ぬわけには、あ、いややっぱ無理かも。海渡くん助け」
「うん、わかった。後は任せた」
「いや、ちょっと待って! 違う違うそうじゃない! 死ぬから! このままじゃ私死ぬからーーーー!」
「あ、大丈夫死ぬことだけはないから」
そして海渡は田中を置いて先を急いだ。だが田中と名前も姿も全く明かされなかった強化人間のことは決して忘れない!
そして海渡はいよいよデッドチャンネルを運営していた諸悪の根源たるデッド博士のもとに到着した。
「ちょっと待て! 唐突過ぎるだろがぁあああぁあ!」
博士が叫んだ。釈然としない顔で叫んだ。
「大体なんだこれは! 普通もっと前置きみたいのがあるもんだろう! 何か急に私の作成したデッドちゃんが消されて会員情報が漏出した上、わけのわからない心の声とかで全員もれなく抹殺しかけていて、わしも頭がパニクってるときに何なんだ貴様は!」
「と言ってもなぁ。悪人にわざわざこれから行きますよ~とか予告してくる必要は全くないよね?」
海渡はド正論をぶつけてやった。確かにわざわざ準備する時間を与えて相手に防衛させる暇を与えた挙げ句、最後に自爆スイッチで道連れにされそうになったりなどする必要は全く無いのである。
「くっ、だがそれでも貴様は甘い! こんなこともあろうかと、ここに最強の強化人間を用意しているのだ! お前の仲間が相手している強化人間が束になっても勝てない超強化型だ! さぁ来いイデオフ!」
――シィイィイイイイイイン
しかしその時、イデオフはやってこなかった!
「馬鹿な! 何故来ない!」
「そいつならもう倒したよ。途中で白旗あげてきたけど徹底的にやらせてもらったし」
「は? はぁああぁああぁああ!?」
デッド博士が叫んだ。目玉が飛び出そうな程に驚いてもいた。
「ちょ、ちょっと待て! 倒したというのか、あ、あのイデオフを!」
「うん」
「馬鹿な! 本気になれば世界をあっさり滅ぼすぐらいの強さなのだぞ!」
「うん、だからそんな危険なもの放ってはおけないもんね」
海渡の言うとおりであった。何かうっかり発動でもされて世界が滅んだ感じになっても困る。それでも海渡は生き残るだろうが。
「く、くそ、まさかここまでの相手とは、このデッドの目を以てしても、クッ、一生の不覚!」
デッド博士は絶句していた。まさか己が相手しようとしていたのがここまでの化物とは思わなかったのだろう。
「覚悟は出来たか?」
海渡が問いかける。ここまできたらもう博士に容赦する必要がない。
「ま、待て、わかったわしが悪かった! 謝る。ただわしは研究がしたかっただけなんだ! デッドチャンネルも研究資金を稼ぐために始めただけで悪気はなかった!」
「駄目だ。散々人の命を弄んだお前に明日を生きる資格はない」
拳を鳴らしながら海渡が近づいていく。だが、デッド博士がニヤリと笑みを深め、かと思えば着ていた白衣がビリビリに破れ上半身裸の状態で筋肉が膨張していき、元の姿とは似ても似つかない様相に変貌をとげた。
「馬鹿め! こんなこともあろうかと既にわし自身にも改造は施していたのだ! 死、グボォオオオオオオォオオ!」
しかし、当然だが海渡に勝てるわけもなかった。攻撃をする暇も与えず、海渡の拳が腹にめり込み、そこから更に拳の連打が繰り出される。
「オララララララララララララララララララララララララララララララララァアアアァアアアアアアアアッッッッッッッゥッ!」
「ブホッ! アグォ! イブェシッ! ヒギィ、グッ、ボラァアァアァアアアァアアアアア!」
そして博士は研究所の天井を突き破り大気圏を突破し更に宇宙の果てまでぶっ飛ばされたわけだが――
「……は? な、何だここは? ど、どこだここは?」
『~~~~~~~~(目が覚めたようだな)』
博士が目覚めると何か金属製の台のようなものに括り付けられていた。そして正面には何だかよくわからない姿の生物が博士には理解できない言葉で会話していた。
『~~~~~~(これはいいモルモットが手に入ったな)』
『~~~~~~~(あぁ色々と実験出来そうだ)』
『~~~~~~~~~(構造が単純な生物だからな。色々と試して死んでもまた蘇生すればいい)』
「ひ、やめ、やめ、何をする、やめろ! このわしを一体誰だと思っているのだぁああぁああ!」
博士が叫ぶ。しかしその声が彼らに届くことはなかった。連中はいわゆる異星人と呼ばれる存在だった。そして博士と同じく悪趣味な実験のしすぎで宇宙を追われているような連中でもあった。そんな彼らにとって博士は格好の餌でありいい検体でもあった。そして博士は自分が散々やってきたことと同じことをその身をもって受け続けることとなる。たとえ死のうが蘇生され何度も何度でも――




