第六十五話 あぁ、女神サマヨ……
海渡にあの動画を見せたのは杉崎だった。今日は祝日の休みで海渡や虎島など皆で遊びに出ていたのだが、そこで杉崎が海渡に教えたのである。
もっともそれがなくても海渡はある程度察していたが、とにもかくにもそのことがあって杉崎がかなりのショックを受けていた。
「俺のせいだ……俺が自分だけでデッドチャンネルについて調べるなんて言ったから……」
「杉ちゃん……」
花咲がそっと杉崎の肩に手を乗せて、心配そうに眉を落とした。杉崎が自分を責める姿が見ていてつらいのだろう。
「杉崎……馬鹿、お前がしっかりチェックしていたから委員長のピンチがわかったんだろう! それに海渡なら大丈夫だって」
虎島が杉崎を励ました。だが、杉崎は気落ちしている。
「でも、委員長の場所だってわからないんだぞ? それなのに、もし委員長に何かあったら……」
杉崎が歯牙を噛み締め悔しがる。虎島としては海渡が動いた時点でもう問題ないと確信していたが、それを杉崎に説明するのはなかなか難しいが。
「あ! 勇者様から連絡がありましたわ! 委員長と家族を無事保護したそうです!」
「え?」
すると、女神サマヨがスマフォをチェックして喜色満面で教えてくれた。女神様は海渡の監視の役目もあるため、皆が遊びに行くときに何故かついてきたのである。
「てか、普通に勇者様って言ったよな今?」
とは言えその迂闊な言動には虎島も冷や汗である。この状況だから杉崎には聞こえてなかったようだが。
「良かったな杉ちゃん!」
「いや、お前が杉ちゃん言うな」
そして田中もやはり何故かついてきていた。娘の真弓がジト目を向けていて、海渡の妹である菜乃華も苦笑していた。とは言えこれは朗報である。
「良かったね杉崎くん」
「キュッ~♪」
「これで心置きなくご飯が食べられます」
「うむ! しかしあの海渡という少年やるな!」
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「本当、どこかの誰かさんは何も出来てないのにね」
「俺か! 俺のこと言ってるのか!」
「べ~つに~」
虎島が詰め寄るとフォワードが頭に手を回しながらツーンという態度で答えた。むぎぎっと虎島が歯を噛み締めてると、はは、と杉崎が笑顔を見せた。
「全く、あいつは凄いやつだな本当」
「こうなったら私がすぐに迎えにいきますわ! 待っているのですわ!」
そして金剛寺がどこぞへと消えていった。
「あいつどこに行く気なんだか……」
「でも、委員長が無事で良かったね杉ちゃん」
「あぁ、本当に。俺も強情はらず素直に頼るべきだった――」
その時だった。車が何台も止まり、ぞろぞろとマスクやらサングラスやらで顔を隠した集団が下りてきて襲いかかってきた。
「な、なんだこいつら!」
「オラァ! ぶっ殺す!」
「そっちの田中と娘は連れてけ! こいつらはぶっ殺す!」
集団はナイフや刀、それどころかライフルや拳銃、マシンガン、クロスボウ、弓矢、ショットガンなどを手にしていた。
「死ね!」
「くそ!」
「杉ちゃん!」
男が花咲に向けてショットガンをぶっ放す。咄嗟に杉崎が前に出て花咲が叫ぶが。
「チッ、なんだテメェら」
「と、虎島! 大丈夫なのかよ!」
しかし杉崎との間に虎島が立ち、背中で散弾を受け止めた。それから更に何度も撃たれるが、それを全て受け止めてみせる。
「こんなもので俺が倒せると思ったのか? 俺をやりたきゃ最低限ロケットランチャーぐらい持ってくるんだな」
そういいながらポキポキと拳を鳴らした。ショットガンを持った男たちがビビっているが。
「だったらこれを喰らえ!」
しかし、一人がロケットランチャーを持ち出して撃ってきた。飛んできたミサイルが虎島の正面で爆発。男たちがよっし! とガッツポーズを取るが。
「訂正だ。ロケランでもやられるつもりはねぇ!」
虎島が叫ぶ。
「キュッキューー!」
しかもその間に近づいたミラクが膨張し突然現れた暴漢を取り込んだ。スライムの中で悲鳴を上げる連中に、ふんっ! と虎島が鼻を鳴らし、更に近くにいた連中をぶっ飛ばしていく。
「この不届き者がぁああ!」
「いぎいぃいいい! いてぇえええぇええ!」
「消し炭になりなさい!」
「あちぃいいいいいいいい!」
「全くやりすぎよ皆。痛みがめちゃめちゃ残る程度に回復しておくね」
田中親子を襲おうとした連中はマックスに腕を切られ、フォワードに燃やされていた。しかし殺すのはここでは不味いと知っているキャラットが治療魔法で最低限の治療はしてあげる。ただし痛覚は何倍にも鋭敏にさせてだが。
「エアインパルス!」
「「「「「ぐほぉおおおおおおお!」」」」」
景に襲おうとした連中はその魔法であっさりふっとばされる。こうして突然襲いかかってきた連中は次々と彼らにやられていった。相手が悪いとしかいいようがない状況であり。
「ふん。誰か知らんが馬鹿な連中だ。この程度で俺たちに勝てるかよ」
パンパンッと手を払い虎島が勝ち誇った。確かにたかが武器を持った程度の連中じゃあまりに力不足だ。しかも見たところこいつらはただ武器を持っただけの一般人である。
「しかし一体なんなんだこいつら?」
「お、お前らおとなしくしろ! さもないとこの女が死ぬぞ!」
「は?」
叫ぶ声に虎島が振り返ると、そこには女神サマヨを捉えた男の姿。銃を頭に突きつけてるが、はぁ、と肩をすくめる虎島であり。
「そうか。そんなにやりたきゃやれよ」
「は? い、いいのかよ」
「あぁ、好きに」
「ちょ、何言ってるんですか! バカバカバカ! 私が貴方のためにどれだけ苦労したと思ってるのよ! それなのに見捨てるなんて薄情者~~~~~~!」
虎島がずっこけた。まさか女神ともあろうものがこんな見苦しいことを言い出すとは思わなかったからだ。
「へ、へへ、ほら女もこう言ってるぜ?」
「そ、そうよ! 私が死ぬなんてとんでもないことなんだから」
「て、あ、あんたなぁ」
思わず虎島は念話で女神に話しかける。
(何言ってんだよ! あんた女神様だろ! その程度なんとかしろよ!)
(うぅ、そんなの無茶よぉ。だって女神が外界で力を使うには色々制約多いんだもん! 書類とか手続きとかそういうのしないと駄目なんだもん!)
(いや、だったらあんた何でこんなとこまで来たんだよ……)
虎島も呆れ顔である。
(そもそも女神なら肉体的にも強いんだろ?)
(それが地上に下りるのも大変で。何とか妥協して妥協してこの依代を利用して来たんだけど……)
(来たんだけど?)
(この依代のパワーって、物心ついたときから毎朝欠かさずにラジオ体操を続けてきた29歳OLぐらいでしかないの!)
(それちょっと人より健康程度の普通の人間じゃねーか!)
虎島がツッコんだ。念話でツッコんだ。そして頭を抱えた。
「まさか女神様がここまでポンコツとは……」
「こら~ポンコツって言うなぁああああ!」
紛れもないポンコツである。




