第五十六話 お医者さんごっこ
「は~い、皆久しぶり~デッドチャイルドだよ!」
「暫く更新できなくてごめんね。最近は僕たちみたいな子どもでも忙しくて中々時間が取れないんだぁ」
「でも、その分今日はとっておきのターゲットを選んだよ!」
「なんと、あのポイズンクィーンとして話題になった佐藤委員長を狙っちゃうんだ!」
「僕たちの悪戯、しっかり成功するかな?」
「わくわくするよねぇ」
「さ、それじゃあ早速悪戯しに行っちゃえ!」
「見ている皆、私たち、お小遣いが少なくてピンチなの!」
「だから気に入ったらチャンネル登録してねぇ」
「「「「「「さぁそれじゃあお姉さんを探しにレッツゴーだ!」」」」」」
うんうん、子どもたちは今日も無邪気で可愛いね。さぁ佐藤委員長を探しに出発だ。そろそろ学校も終わって帰宅時間の筈だよ。
「あ、見つけたよ!」
「う~ん、でも他にも一杯仲間がいて邪魔だよね」
「まとめてやっちゃう?」
「駄目だよ。こういうのは一人ずつじゃないとじっくり出来ないもん」
「このままつけていこうよ」
「そうだね! きっとどこかで一人になるよ!」
どうやら作戦は決まったみたいだね。佐藤委員長は友だちも多いみたいだけど、そっちはまた後の楽しみにとっておこうよ。
さぁ、皆で尾行だ!
「あのちっちゃなライオンかわいい」
「スライムみたいのもいるね。玩具かな?」
「面白そうだからあの子に悪戯しおえたらあれも狙おうよ!」
「「「「「「そうだね!」」」」」」
やっぱりこの辺りは子どもだね。ちょっぴり珍しい玩具に興味津々だね。
「あ、やっと一人になったよ!」
「うん、何か高そうなマンションに入っていくよ」
「家がお金持ちなのかな? 生意気だね!」
「お仕置きで悪戯してあげないとね!」
「よし僕たちも入ろう!」
佐藤委員長がマンションに入ったのを確認して子どもたちも入ったよ。オートロックだったけど子どもたちが鍵を忘れたって言えば簡単に入れてくれたよ。子どもの特権だね!
さぁ佐藤委員長を捜索だ! エレベーターの止まった階を確認したよ。13階だね。エレベーターで向かうよ。佐藤委員長の部屋はどこかなぁ?
あ、表札を見つけたよ。佐藤委員長って書いてるね。間違いなくここだね。
「いよいよ悪戯の開始だよ!」
「わくわく」
「どきどき」
子どもたちが背伸びしてチャイムを鳴らしたよ。一生懸命で可愛らしいよね。
そしてドアが開いたよ! いよいよターゲットとの――
「いらっしゃい」
「「「「「「え?」」」」」
……あれれ? お、おかしいね。扉を開けて出てきたのは佐藤委員長じゃないよ。男の子だよ!
「あれ? え~とここ佐藤委員長の部屋だよね?」
「……委員長に何か用かな?」
男の子が答えたよ。そういえばこの子もみたことあるね。
「あ、一緒に帰ってた人」
「確か海渡くんって呼ばれてたよ」
「え? 彼氏さんなの?」
そう。確かに佐藤委員長と一緒に帰っていた男子の一人だね。
「別にそんなんじゃないよ」
「佐藤委員長はどうしたの~?」
「今はいないよ。ここには俺しかいない」
海渡の話を聞いて、子どもたちが相談し始めたね~。
「ねぇどうする~?」
「しょうがないからこいつでいいよもう」
「こいつとは酷い言われようだなぁ」
「あはは、ごめんね。それでねお兄さん。実は僕たち動画配信やってるんだ~」
「そうなんだ子どもなのに凄いね」
おっと、どうやら子どもたちはターゲットを友だちの海渡という少年に変えたみたいだねぇ。
「それでね、お兄さんに協力してもらいたいの!」
「動画配信に?」
「そうだよ~いい?」
「逆に聞くけど本当に俺でいいの?」
あっと、少年が子どもたちに確認してきたね。そりゃ本当なら佐藤委員長の方が良かったんだろうけど仕方ないよね。
「大丈夫だよ! 仕方ないもんね!」
「何か失礼な話に思うけど、ま、別にいいよ。それで何すればいいの?」
「え~とねぇ~」
「「「「「「お医者さんごっこ~!」」」」」」
「「「「「「ん~! んん~! ん~ん~!」」」」」」」
「は~い僕たち~これからしゅじゅちゅをはじめまちゅよ~大丈夫大丈夫怖くないからねぇ~」
「「んぐう! んぐぅうううううぅうう!」
「んぉ~ん~ん~!」
うん、さぁ子どもたちの悪戯が始まったよ。海渡相手にお医者さんごっこを……始めるつもりだったのにおかしいね。今ベッドに寝かせられているのは子どもたちの方だよ。
あれ? どうしてこうなったのかなぁ~? ちょっと思い返してみるよ。
そう、いつもどおり、子どもたちが手斧で先ず海渡の足を狙ったんだ。狙ったんだけど。
「何してるの?」
「え?」
「あれ? あれれ?」
「お、おいどうなってんだよ!」
「し、知らないよ! 手斧の方が、ぼろぼろだし!」
そう。切りつけた筈の手斧が使い物にならなかったんだ。おまけに海渡はピンピンしていたんだよ。
「ふむ、よくわからないけど、それがお前らの遊び?」
「ち、ちがう! 僕たちはお医者さんごっこを!」
「あぁ、なんだそうだったんだ。そういってくれればいいのに。じゃあ部屋へ行こうか」
「え? ど、どうしよう?」
「馬鹿ここまできたらやるしかないだろう!」
「きっと手斧は古かったんだよ!」
「そうだねぇ」
そして子どもたちはお兄さんとベッドのある部屋に向かったんだ。そこで子どもの一人が金属バットで殴ったけど……ケロッとしていた……。
「それでどうすればいいの?」
「え? あ! もちろん僕たちが医者でお兄さんが患者だよ!」
「そう。じゃあこれでいいかい?」
そうだ。そして海渡という少年がベッドで横になり全員で手足をロープで縛って。
「ふむ、なんでベッドに縛ったの?」
「暴れないためだよ~これから患者さんの手術を始めるからね~」
「手術ね。痛いのは嫌かな」
「大丈夫だよ! ほら、この五円玉で痛くないように催眠術かけるから!」
「これで全然痛くないよやった!」
「そうなんだ。凄いねやった」
「……は?」
「何言ってるのこいつ?」
子どもたちが誂うように語りかけたけど、海渡は全く慌てる様子もなかったんだねぇ。ただの強がりだと思って、それからメスという名のサバイバルナイフで突き刺したけど。
「え? あれ? あれれ?」
「さ、刺さらないよ?」
「え? どうなってるの?」
「だ、だったら肉叩きだ!」
今度は子どもたちが巨大な肉叩きで頭をぶんなぐったよ。
「鋏で切っちゃえ!」
鋏でジョキジョキしたよ。
「電動ノコギリだ~~~~!」
ついに電ノコまで用意したよ! でも……
「わ~すごいね。本当に全くいたくないよ。君たち凄いね」
海渡にはどれも通用しなかったんだ――
「はぁ、はぁ、ど、どうなってるんだよ!」
「なんで、なんで全く傷つかないの!」
「信じられないよ! いみわかんない!」
「さてっと。じゃあ――」
すると海渡がロープを引きちぎって起き上がったんだ。金属ロープでしっかり縛った筈なのに、まるで紙テープでも引きちぎるように軽々と……この時点で子どもたちも気がついたんだ。普通じゃないって――
「それじゃあ次は交代だね。今度は君たちが患者になる番だ」
その結果が、これだ――
「んぐぅううぅうううううう!」
「あらあら腕を一本きったぐらいで痛そうねぇ。おかしいわよねぇ勇者様。しっかり五円玉とやらで痛みを無くしたはずなのにねぇ」
「そうだねぇ」
海渡という少年がそう呑気にかえしていた。手術をしているのは彼の仲間らしかった。見た目には妖艶な女だ。しかし角が生えていて翼まである。まるで悪魔のような姿だった。
「ふふ、でも勇者様。こんな良い患者を連れてきてありがとうね。最近ちょっと暇していたのよ。でもこの子たちなら悪魔医師としても本望」
「むぅううぅうぅううううううう!」
「あらあら泣いちゃって。男の子なんだから我慢しないとね、と」
悪魔医師と呼称していた女が男の子の足を切り落とした。
「はい、じゃあこっちのこの腕と交換してみようか。う~ん、いまいちかな? じゃあこっちの女の子の頭をお腹につけて女の子の頭に――」
「楽しそうだねぇ。じゃあ、後はピオスレクスアの好きにしていいから」
「勇者様もう行くの? 最後に子どもの声でも聞いていったら?」
そう言って医師が子どもの猿ぐつわをとった。
「ひ、ひぐ、ふ、ふざけるなよぉおおお! 何だよこれぇええええ! 何で僕たちがこんな目にぃ」
「こんな目にも何もお医者さんごっこをしたがったのはお前たちだろう?」
「ふ、ふざけるなぁああああ! こんなの知らない! 僕たちは医者で患者はお前たちだろ! だいたい、こんなの犯罪だ! 児童虐待だ!」
「ならお前たちが殺したのは何だ? それだって罪だろ?」
……そう海渡という少年が尋ねた。
「ば、ば~か! 僕たち子どもは何したって罪にならないんだよ! ばれたってちょっと反省したふりしてれば許されるんだ! だけどお前は違う、こんなの、こんなの人殺しだ! 犯罪者だ!」
「あらあら勇者様に失礼な口の聞き方ね。耳をとっちゃえ」
「ぎゃ、ぎゃぁああああぁあ! いたい、いたい、いたいよぉママァ、どうしてこんな、嫌だ、僕は死なない、こんなところで死ぬ器じゃない! 僕の夢はお医者さんだ! 将来立派なおいしゃさんになるんだ! だから馬鹿な連中相手にしゅじゅつの練習をしてただけなんだ! 医大はお金がかかるからそれを配信して稼いでいただけだ。ただの子どもの悪戯だよ! それの何がわるいってんだよぉおおお!」
「うふふ、すごく身勝手な話。いいわぁ、こういうのを相手に実験できるなんて悪魔冥利に尽きるというものよ」
「ふ、ふざけるな何が悪魔だこの変態! 変なコスプレしやがって!」
「あらあら悪い子ねぇ。そういう子にはしっかりお仕置きしないとね。そうそう人殺しと言ってたけどそれはないわよ。ここは私の特別なオペルーム。いくら切ろうが貼り付けようが解体しようがお前たちは死なない。凄く痛くて凄く苦しくて、生きているのが嫌になるぐらい辛いだろうけど、でも決して死ねないの。だから嬉しいの。だってお前たちで私は1万年! 2万年、いえ、もっともーーーーっと! 遊ぶことが出来る! 手術がたのしめる!」
「え? え? いちま、え? にま、え? な、何言ってるの? 悪魔って、そんなの、冗談だよ、ね? 嘘だよね」
「嘘じゃないさ。これはリアルだ。そしてもう一つ、罪を犯しても子どもなら許される? そんな筈無いだろうば~か。じゃあ、後はじっくりと好きなだけ遊んで貰いなよ」
「ひ、いやだ、助けて、謝るから、もうしないからぁああああ! 反省します反省してます!」
「……反省した振りしていれば許される、だったかな?」
「ち、違う、違ううぅうう! いやだぁああああここからだしてぇえええぇええ!」
そして海渡という少年は消えた。後に子どもたちの悲鳴だけを残して――




