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第四話 外れた弾丸

 少女は正義感に溢れていた。それは祖母の影響が強かった。祖母は優しくもあったが悪いことを悪いと言える芯の強さも併せ持っていた。


 困っている人を見つけたら自らが進んで手を伸ばし、人様の迷惑を考えない相手がいたらたとえガラが悪そうだったり、とても表の人間には見えそうもない相手であっても諭すような人だった。佐藤はそんなおばあちゃんが好きで誇りに思っていた。


 だからこそ、今この状況においても黙っていられなかった。だが、相手は少女の説得が通じるような相手でもなかった。そもそも組織としてあまりに大きく、彼女の常識が通じる存在などではなかったのである。


 男が随分と厳つい拳銃を腰から取り出した時、佐藤は覚悟を決めた。おばあちゃんみたいに上手くいかなかったよ、と心でつぶやくとギュッとその目を閉じた。


 銃声が鳴った。初めて聞いた銃の音はとても大きくまるで稲妻が落ちたかのようだった。これで、私は死ぬのか。せめて死体は綺麗なままでいたら、と思いつつ、無理かな、と心のなかで自嘲した。


 そして――少女は気がつく。自分の身にまだ何もおきていないことに。そしてすぐ正面で誰かの声がすることに。


「――おいおい、こんなもの撃ったら危ないだろう? おっさん、人に銃を向けてはいけませんって、習わなかったのか?」


 恐る恐る目を開けると男の子の背中があった。凄く広くてたくましく思える背中だった。誰のものかすぐには理解できなかった佐藤であった。


 そして、そんな二人に唖然とした顔を見せる男が一人。軍服姿の彼であり。


「は?」


 思わず軍服姿の男の口から間の抜けた声が漏れた。今起きている出来事に脳の処理が追いつかず、現状を把握するのに幾分かの時間が掛かる。


「ところで、これどういう状況?」


 そんな最中、軍服男と彼が殺そうとした少女の間に立った少年がキョロキョロと辺りを見回しながら随分と呑気なことを口にした。

 

 男は一瞬この少年が何者だったか考えてしまうが、程なくして思い出した。確か教室の隅で男の説明も聞かず寝息を立てていた頭の悪そうな生徒だ。


「あ、え、と、海渡、くん?」


 すると、彼に守られるようにして立っていた佐藤委員長がキョトンっとした顔で背中の相手に尋ねていた。


 海渡が振り返り佐藤に答える。


「うん、あぁ、怪我はないようだね。無事で良かった」

「あ、あの、その、海渡くんが私を助けてくれたの?」

「結果的にそうなるのかな?」

「馬鹿な事を言うなーーーー!」


 叫んだのは軍服姿の男だった。海渡が軍服男に顔を向け、ポリポリと顎を指で掻いた後、誰? と誰にともなく尋ねた。


「お、お前なぁ……この状況で呑気に寝てるからこうなるんだよ」

「き、危険に鈍感じゃこのゲームで生き残れない、よなぁ?」


 杉崎が呆れ眼で口にし、虎島は何がなんだかといった様子だ。


 だが、ここで彼らは一つ誤解していた。何故なら海渡は誰よりも危険に敏感だったからだ。当然だ異世界では常に危険と隣り合わせであり鈍感では生き残れない。危険察知能力に長けていなければ魔物や盗賊にあっさり殺されるような世界だ。


 しかし、それでも海渡が眠り続けていたのは異世界の暮らしが長かったため、海渡が危険と認識する対象がすでに一般から見てあまりに常識はずれなものなのだということだ。つまり海渡自身いまに至るまで全く自分に危険が訪れたと思っていない。


 だからこそ眠れた。だがしかし、彼は同時に知り合いや仲間の危険にもアンテナを張っていた。故に佐藤委員長が銃で狙われたことを察して目を覚まし軍服姿の男が撃った凶弾から彼女を守ったのである。


「お、お前らいいかげんにしろよ! 呑気に会話なんてしやがってこの銃が見えないのか!」

「うん? はぁ、見えてるけどそれが何か?」

「き、貴様ァ……」


 銃を向けながら問う男だが、海渡はまるで玩具の拳銃でも見せられたかのごとく軽いノリで返していた。軍服男の蟀谷がピクピクと波打っている。どうやらかなりご立腹の様子だ。


「どうやら1発目は、つい手がブレて外してしまったようだな。こんなことは初めてだが猿も木から落ちるって奴だ」

「う~ん、それは違うと思うけどなぁ?」

 

 今度は海渡が腕を組み小首を傾げる。


「黙れ! もういい、だったら先ず貴様から殺してやる! 死ね!」

 

 再び教室に銃声が響き周囲から悲鳴が上がった。軍服男がニヤリと口元を歪めるが。


「いや、だからそんな物、人に向けて撃ったら危ないよね?」

「……は?」

「へ? ちょ、ちょっと待て……」

「い、いったいどうなってんだ?」


 銃弾は全く当たっている気配がなく、海渡は呑気に諭すのみ。杉崎と虎島は目をパチクリさせ、銃を向けている軍服男の腕もプルプルと震えていた。


「俺が2発も、は、外すだと?」


 軍服男がそんなことを口にする。だが、男はもっと早く気がつくべきだった。50口径のデザートイーグルを撃ったにもかかわらず、壁に一つも穴があいていないことに。そして海渡の手が握りしめられていることに。


「くそ! だったらこれで殺す! もう何人が死んでも構うものか!」


 今度は軍服男が連続で引き金を引き、5発分の銃声が教室内に響き渡る。


 だが、海渡は何事もなかったかのようにそこに立っているし生徒は誰1人として傷ついていなかった。


「あの、いい加減うるさいんだけど」

「馬鹿なああぁああああぁああ!」


 もはや男には冷静さの欠片も感じられなかった。


「く、くそ! 銃が、俺の愛用のデザートイーグルがおかしくなったとでもいうのか!」

「いや、あのさ。もしかして気がついていないの?」

「気がつく、だと?」

「うん、さっきからあんたが撃った弾丸はほら」

 

 そして海渡が握っていた左手を開くと、パラパラパラパラと50SAEの弾丸が手から零れ落ち床に散らばった。


「&%$?!"#$ピェπ※ーーーーーー!?」


 目玉が飛び出たような驚き方でわけのわからない叫び声を上げる軍服男。そして唖然として言葉をなくす生徒たち。


「で、これ何? なんかのイベント?」


 そして海渡はやはりどこか抜けている発言を繰り返す。それを見ていた杉崎は呆れたような驚いたようなそんな顔で答えた。


「さ、サバイバルロストというデスゲームに巻き込まれたんだ俺たちは……」

「デスゲーム? へぇ、そんなのが本当にあった――」


 その時だった。ボンッ! と海渡の首に巻かれた首輪が爆発した。内部の小型爆弾が作動したのだろう。途端に生徒たちの悲鳴が広がる。杉崎と虎島も目を見開き、悔しそうに口を開いた。


「な、海渡ーーーー!」

「くそ、バカ野郎が! 調子に乗っているから!」

「あ~はっはっは! そうだ最初からこうすればよかったんだ! 爆死だ! 爆死第一号――」

「おお、これ爆発するんだ。へぇ~」

「ヌガファアァアアアフォオオオオアアァアアアアア!?」


 だが、首輪が爆発こそしたが海渡は全く意に介していない様子で元気に立っていた。軍服男が再び驚き絶叫する。

 

 ちなみに爆弾が付けられてもここまで海渡が全く反応しなかったのは、彼にとってこの程度の爆弾は何の脅威にもならないからに他ならない。


 異世界にはボンバウェーイという魔物がいた。地面の中に隠れて近づいてきたものがいたら爆発するというはた迷惑な魔物だが、その威力たるやTNT換算で100メガトン級である。しかしそれらが100匹ほど密集していた地帯でうっかり踏んでしまい大爆発が生じた時でも彼は無傷だったのである。


「ふは、ふはは、ふははははははっ!」

「何か突然笑い出したけどどうしたんだろ?」

「お前が無茶苦茶すぎるからだろ……」


 海渡が指をむけ尋ねると、杉崎はやはりどこか呆れた様子でそう答えた。


「黙れ! そこまでだ! 貴様大人しくしないとお前以外の連中の爆弾を起動させるぞ!」

「え?」

「う、嘘だろおおお!」

「ふ、ふざけるな! まだデスゲームも始まってないのに殺されるなんてゴメンだぞ! 佐藤も鈴木も犯してないのによぉ!」


 軍服男の発言に生徒が再び悲鳴を上げ慌てふためいた。1人妙なことを口走っているのもいるが。


「ははは、そうだ。意味がわからんが、例え貴様が銃も爆弾も平気だろうが、他の生徒は別だ! さぁ、どうする? お前は他の生徒を見殺しにするか? それならそれで貴様の優勝で終わらせることも出来るがわざわざ助けたその女を見殺しにするような真似を貴様に出来るか!」

「あ、うん。確かにこれは危険だな。次元収納――クラスメートと先生の首輪」


 海渡がそう口にすると、全員の首からヒュンッと首輪が消えた。


「あたたははばふふばぁああぁあああああ!」

 

 瞬時にクラス全員の首輪が外れ消え失せたことで、軍服男はまるで氷の地獄に落とされたような悲鳴を上げるのだった。

ずっと勇者のターン!


ここまで読んで頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
100メガトンは流石に・・・ ヒロシマ型原爆の6700倍、ソ連が開発した世界最大の水爆と同等(それでも実験の時は地球への影響を考慮して半分に抑えた)なので、例え異世界でも大げさすぎるかと・・・ せめて…
[一言] 何と言う素早いざまぁ 他の作品だと何故か隠そうとして延々と引き伸ばすのが多いから、これは良いw
[一言] 主人公かっこつけてるとこ悪いが先生が半裸にされてるのはいいの?
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