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第四十話 夢と女神と田中

 元勇者の海渡は白い空間に立っていた。正面には洒落た白色のテーブルセットが置かれていて、見た目だけなら文句無しに美しい女神がニコニコ顔で座っていた。


「また夢じゃない夢か~」


 海渡はやれやれといった様子で言葉を発した。以前も似たことがあったのでもう慣れっこだが。


「勇者様、どうぞ席へ」

「はい」


 とりあえず呼ばれてしまったものは仕方ないので、女神に促されるがまま席につく。


 すると小さな天使がやってきてカップを準備し紅茶を注ぎ皿にケーキまで用意してくれた。


「ありがとう」


 海渡がお礼を言うと天使は小さな羽をパタパタさせながら引き返していく。女神様と席について対面すると優雅に紅茶を啜り、ケーキを食し、美味しいですよとニッコリと微笑んでくれた。


 せっかくだからと海渡もいただくことにする。流石に神様が口にするだけあって紅茶もケーキも美味しかった。


「ところで、ここに呼んだということは何かあったのかな?」

「ふふふっ……」


 海渡の質問に女神様は優しくほほえみ返してくれた。だがそれも束の間。


「何かあった? じゃありませんよ! もう! 勇者様ってばもう!」


 悠然とした態度から一変、何か突然怒り出したかと思えばケーキをバクバク食べだした。さきほどの淑やかな所作は何だったのかというぐらいの食べっぷりであり、次々と追加のケーキを用意する天使が忙しなく飛び回っている。


「そんなに食べると太るよ」

「ふとりませぇん、女神は女神だから太らないんですぅ~」


 口を尖らして言い返してきた。女神なのに子どもみたいな態度である。


「とにかく、以前あれほど言ったのにここ最近の行動を見ていたらもうやりすぎがすぎます!」


 どうやら女神にはデスホテルや皇帝の遊戯での行動もしっかり見られていたようだ。


「でも、今回は魔法だってばれてないよ?」

「いやいや、バレてないといっても……そもそも、あんな適当な嘘でよく納得してもらえますね」

「嘘?」

「子どもでもわかる嘘ですよ」

「う~んでも俺、嘘は苦手なんだよね」

「そこはよくわかっているんですね……」


 女神様に呆れたような目を向けられ、小首を傾げる海渡である。


「全く、これなら以前聞いていたひいひい爺さんが武芸百般を極めていたとか、ひいひいひいひい婆さんが高名な陰陽師だったとかの方がまだ信憑性ありますよ」

「はぁ……」


 海渡は気のない返事をしつつ紅茶を啜った。


「とにかく、私から見てもこのまま勇者様のことを放ってはおけません」

「う~ん、また記憶改変するの?」


 海渡が女神に聞いた。サバイバルロストの時はそれによって海渡が使った魔法に関する記憶は消えていた。


「それは、止めておきます。一応は本当に謎ですがごまかせているようなので。それに記憶改変なんて本来そう何度もしていいものじゃないのです」


 確かにそうしょっちゅう記憶を変えられていては人類もたまったものじゃないだろうな、と海渡は思う。


「ですが、勇者様の事が放っておけないのも事実ですからね。丁度いい機会でもありますので手を打とうと思います」

「そう、どんな手なの?」


 すまし顔でピシャリと言い放つ女神。その手というのが若干気になる海渡であったが。


「ふふふ、それは後からのお楽しみです」

「そっか、じゃあ楽しみにしてるよ」

「か、軽いですね……」

 

 女神様に言われてあっさり引き返す海渡である。よっぽどのことがない限り相手が話したくないことにまで踏み込まないのである。


「そういえば虎島くんは色々大変そうですが上手くやってるみたいですよ。流石に勇者様と比べるわけにはいきませんが、武神曰くとても弟子らしい弟子だったとのことです」

「そう、上手くいったなら良かったよ。でも弟子らしくない弟子なんているの?」


 海渡の質問に、女神は呆れたような顔を見せた。


「もういいです。とにかく虎島くん達(・・・・・)が戻るのを楽しみにしていてくださいね」

「そうだね」


 海渡としてはあの調子で予定通り戻れるのか? と多少は心配していたが、女神の話を聞くに問題なさそうである。


「ふぅ、それにしても――地球に戻ったら戻ったで海渡様は本当、なんでこうも厄介事に巻き込まれるのか」

「俺は望んでないし、平穏に暮らしたいんだけど……」


 やれやれと頭を抱える女神だが、海渡としてもそれは不本意なことなのである。


「とにかくこれからは無事に過ごせるよう祈ってますよ」

「女神様が祈ってくれるなら安心かもね」

「はい。ではそろそろお時間のようなので――」


 そしてその言葉を最後に海渡は眠りについた。


 いつもどおりの朝が来た。朝食を食べてから家を出ようとしたところで、妹から昨日の件よろしくねと念を押された。


「あぁ、考えておくよ」

「真弓ちゃんも頼りにしてるって言っていたからね。あとハルも宜しくって」


 何故貞春がと思わなくもないがそこは軽く受け流し家を出た。


 途中で佐藤と鈴木、杉崎や花咲といったいつものメンバーと合流し学校へ向かう。


「皆様おはようですわ!」

「ガウガウ!」

「金剛寺さんお早う。アカオも元気そうだな」

「ガオン!」


 途中でアカオに乗った金剛寺とも一緒になった。アカオは撫でてやるとゴロゴロと喉を鳴らす。いよいよただのデカい猫感が増してきている。


「しかし昨日は大変だったよな」

「本当、デスホテルが終わって最近なにもないと思ったらこれだもんね」

「もう今度こそなにもないといいんだけど……」


 そんなことを話しながら移動する一行だが、そこで杉崎が思い出したように口を開き。


「そういえば、デスホテルの件で捕まった田中っておっさん不起訴になったらしいぞ」

「えぇそうなの!」

「私も杉ちゃんから聞いて驚いたんだ」


 杉崎の話に鈴木が驚いていた。花咲は杉崎から既に聞いていたようだが、海渡は何か聞いたこと有る話だなと頭をひねる。


「まぁ結果的に誰も傷ついてなかったとはいえ、中々びっくりだな」

「でも、それならそれで真面目にやってるといいんだけどね」


 佐藤が言った。最初に殺されそうになったというのに相手を気遣う姿勢を見せる辺り流石の委員長である。


「いったい誰の話ですの?」

「ガウ?」


 しかしこの話に金剛寺が疑問符混じりの顔を見せた。金剛寺はデスホテルの件には関わっていないのである。


「実はデスホテルという――」


 杉崎が金剛寺に説明を始める。そのころには既に学校の校門が正面に見えてきていた。いつもなら門の前に竹刀を持った鬼瓦の姿があるはずだ。

 

 だが今日はその姿がなく、代わりに警備員が1人立っていた。


「あれ? うちの学校に警備員なんていたっけぇ?」

「う~ん、見たこと無いけど、あれ? でもどこかで?」


 鈴木が怪訝そうな顔を見せる。佐藤も警備員がいた記憶はないようだがしかし、その顔に見覚えがあるようであり。


「おはよう。今日から宜しくね~いやぁそれにしてもみんな若々しくて可愛いねぇ」

「嫌だキモ……」

「てか誰? もしかして変質者?」

「違うよ! 今日から雇われた警備員兼ヘルパーの田中太郎だよ!」

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― 新着の感想 ―
とりあえず仕事に就けたんだ
[一言] あ。お前。
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