第三十六話 皇帝の正体
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「犯人、皇帝はお前だ!」
「ギャァアアァアアアア! 熱いぃいいぃいいいッ! 熱いぃいぃいいいいィ!」
「いや海渡、今それどころじゃなくないか?」
ビシッと指を突きつけ格好つける海渡だが、火達磨になって転げ回る底高を見ながら杉崎が海渡に語りかけた。
何せ全身が炎に包まれて先生が悲鳴を上げているのだ。古今東西様々なミステリーを見ても犯人が火達磨になっている時に、貴方が犯人ですね? などと落ち着いて語る探偵が現れるケースなど極めてレアだろう。
「うん、まぁそこは大丈夫だよ。死なない程度の炎だし」
「いや、死なない程度って……」
「でも、よく考えたらこの火、全く周りに燃え移らないね」
「近づいても熱くないな、なんだこれ?」
「これはまぁ、呪いの炎みたいなものだから周りには影響ないんだよ。それに命を奪わない程度に反省してもらうぐらいの熱さだし」
海渡が生徒の疑問に答える。もっとも当然だがこれは海渡の仕業だ。本来ならば刑を言い渡された佐藤の体が燃え上がり消し炭になる運命なのだが概念そのものを捻じ曲げてメッセージに有る皇帝に跳ね返るように工作したのである。勿論死なない程度に調整してだ。
「呪いの炎ってなんで海渡はそんなことわかるんだ?」
「はとこの嫁の弟の長男の先生の孫の師匠が呪い師やってたんだ」
「なるほどそういうことか!」
「それなら納得ね」
「知り合いに呪い師がいるなら呪いにも詳しくなるよね」
周りのクラスメートは海渡の説明に納得した。大体は素直でいい子たちばかりなのだ。男子はスケベだが。
「というわけで先生、貴方が犯人ですね?」
「ふ、ふざけるなあぁああ、あちぃい、あちぃいい! お、俺が犯人だって? あつあつ! 証拠はあるのかしょうこは! あちぃいいぃい!」
「この後に及んでミステリーの犯人みたいなこと言い出した!」
「私、火達磨になりながら犯人だと認めない犯人って初めて見たかもしれません……」
真っ赤に燃え上がりながらも、皇帝だと認めない底高に驚きを隠せない鈴木である。佐藤もこれまで読んだミステリーを思い返してみるが該当するものはなかったようだ。
「底高はこう言ってるけど犯人だって証拠とか根拠はあるのか?」
「え? う~ん、困ったな」
杉崎に聞かれ海渡は後頭部をさすって眉をへの字にした。底高が皇帝なのは間違いなかった。何故ならそんなことは海渡の鑑定眼であっさり看破出来ていたからだ。だが女神のことがあるので、それをそのまま話すわけにもいかないだろう。
「あ、そうだ。底高って漢字を逆にしたら高底って読むよね」
「「「「「「なるほど!」」」」」」
「なるほどじゃねぇえええ! あちいぃいいいい! あちいいぃいい! そんな雑な推理で決めつけられてたまるかぁああ! あちいいぃいい!」
しかし、底高は認めなかった。
「これだけの決定的な証拠を突きつけられても認めないとは強情な犯人だなぁ」
「いや、そこまで決定的でもないと思うが……」
やれやれといった様相を見せる杉崎。確かに犯人である根拠が名前だけではいまいちパンチに欠ける。
「うぉおぉおおおお! いい加減この火を消せええぇええええええぇえ!」
「先生が素直に皇帝だと認めれば消えるよ」
「私が皇帝ですぅうう! ごめんなさいぃいいいい!」
「「「「「「「えぇええぇええええぇえええ!?」」」」」」」」
あまりにあっけない自白に生徒が一様に驚きの声を上げた。ここまで頑なに皇帝であることを否定してきたというのに、まさに我が身可愛さにといったところか。
「はぁ、はぁ、はぁ、うぅぅうう」
炎が消え底高先生が蹲ったまま呻き声を上げる。
苦しげではあるがあれだけ燃えていたにもかかわらず、体には焦げ跡が見える程度であった。
「……怪しいとは思っていたが、底高先生やっぱりあんたが皇帝だったんだな」
「う、うぅ、まさかこんなにあっさり見破られるなんて」
「この野郎!」
杉崎に言われ、悔しそうに呟く底高。すると杉崎が襟首を掴み引き起こした。
ヒッ、と底高が情けない声を上げる。怯えた子犬のような目をしておりさっきまでの威勢は完全に消失していた。
「お前、自分が何したかわかっているのか!」
「だ、だから皇帝として佐藤くんの裸をつい……」
「そっちじゃねぇ! 過去に行われた事件もお前がやったんだろう? 皇帝として!」
「は? か、過去? 何のことだ?」
「とぼけんな! 生徒を全員皆殺しにしたんだろうが! さっき言っていた知り合いってのもお前のことなんだろう!」
「ち、ちがうそれは誤解だ! そもそもあの話も信憑性を持たせるための嘘だし!」
「……は? 嘘?」
底高の発言に杉崎の目の色が変わった。怒りに満ちていたものから今は困惑の色が窺える。
「おま、そんな嘘!」
「いや多分嘘じゃないよ」
「海渡……」
杉崎の後ろから海渡が声をかける。首を巡らせ杉崎が海渡に視線を向けた。
「嘘って、じゃあこいつは過去に何もないってことなのか?」
「たぶんね。それにそもそもこんな事件を起こすような人が、そんな弱々しくておどおどしているのも妙な話だしね」
海渡が言うと、杉崎が確かにと言って襟首から手を放した。実際のところただの演技と考えることも出来るのだが海渡は演技ならすぐにわかる。
何より鑑定眼で過去に何もないことはわかっていた。
「ちょっと待て、海渡の言うとおりだとしてだったらお前はどうやって皇帝になったんだ? まさか本当に悪戯で? いやでも……」
これが1人2人だけが対象だったなら悪戯でもわからなくもない。だがクラスの生徒全員のBINEにメッセージを送るなど不可能である。
まして杉崎が持っている端末のセキュリティーは完璧だ。こんなおどおどした教師が破れるとはとても思えない。
「き、きたんだ私にも何者かから、次の皇帝は私だって。だから私も都市伝説を知っていたから折角だから乗ってやろうと思って。さ、最初は半信半疑だったんだ。だけどやってみたら本当に皆にメッセージが送られているとわかってつい」
「じゃ、じゃあ私をその、は、裸にというのは?」
黙って底高の話を聞いていた佐藤だがどうしても気になったのだろう。問い詰めるように言葉を投げかけるが。
「わ、私の命令だ。その、す、好きなんだ女子高生が。特にメガネ女子とそしておっぱいが。佐藤くんはそんな私の趣味にどんぴしゃだったんだ! そんな逸材が目の前にいたら脱がしてみたいと思っても仕方ないだろう? 皆もそう思わないかい?」
「思うかこのエロ変態教師!」
「死ね! 100回しね!」
「ギャァアアァアアァアアア!」
素直に自分の性癖まで包み隠さず白状した底高だったがすぐに女子に囲まれてタコ殴りにされた。
先生の悲鳴が教室にひびきわたる。だが男子は一切手を出さず、わかるわかるぞ、と一部涙を流すものまでいた。
「大体、委員長が好きなら何で火炙りなんて刑を命じたのよ!」
女子の手でぼろぼろになった底高を見ろしながら鈴木が怒りを顕にした。確かに欲望を満たそうとしたとして殺すことはないだろう。
「そ、それは私にもわからないんだ! 火炙りは私が書いたものではなかった。ただあの時は気分が昂ぶってあんなことを口に……自分でもよくわからないんだが……ん?」
どうやら底高は途中から自分が自分でないような感情に支配されていたようだ。そしてそこまで説明した直後、再び全員のスマフォにメッセージが届いたのだが。
これは皇帝の遊戯である皇帝の権限は絶対である皇帝の権限は絶対である皇帝の刑は執行される執行される執行される執行される佐藤は火炙り火炙り権限は絶対刑が執行されないナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ死ヲ異分子ノ、ハイジョ、ヲ、死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
「ヒッ、な、なんだこれは!」
教室中から悲鳴が上がり、思わず底高がスマフォを投げ捨てた。その直後スマフォの画面から腕が伸び底高の頭を掴んだ――
メンテナンスで評価システムが変わったようですね。
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