第三十五話 究極の選択
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海渡はビシッと自分の考えを突きつけた。そう海渡はこの中にこそ真犯人の皇帝がいると踏んだのだ。
名探偵海渡のこの見事な推理に誰もが言葉を失った。
「……いや海渡、そもそもこんな不可思議なメッセージを送るような存在だぞ? 前の事件もそうだがやってることが超常的なものだ。なのに佐藤がいるとわかっているから犯人はこの中にいるというのは無理がないか?」
「まぁそうですね」
「あっさり認めるのかよ!」
だがしかし、底高が疑問点を口にしたことで海渡があっさり引き下がり杉崎が叫んだ。まさかあそこまで堂々とこの中に犯人がいる! みたいに言っておいて底高の意見に返す言葉がでないとは思ってもみなかったのだろう。
何となくノリに従ってシーンとなった他の生徒たちも微妙な表情であり。
「ちょっと海渡、何か根拠があったんじゃなかったの?」
「別に……」
そう、海渡にはこれといった根拠はなかった。佐藤を知っているのをおかしいというのも何となくそれっぽいことを言ってみたかっただけなのだ。
「やれやれ呆れて物も言えないな。何もわかってないなら口を出すんじゃない」
額に手を添え、ため息交じりに底高が言う。呆れて物も言えないといった様子であった。
「いや、この中に皇帝がいるのは間違いないよ。そしてそれは比較的すぐに明らかになる」
だが海渡は何も全てにおいてデタラメを言ったわけではなく、そんな海渡の話に、は? と底高が顔を顰めた。そして底高の様子に疑問を感じたのは杉崎だった。いつもの頼りなさが悪い意味で感じられない。
「いいかげんにしろ! いいか? これは生徒1人の命が懸かっていることなんだ! そんなかもしれないなどという曖昧な理由では佐藤を全裸にしない理由にはならない」
「かもしれないなんて言ってないけど、それに佐藤さんは服を脱ぐことを承知してないよね」
「本人の意思よりも命の方が大事だろう?」
「そうだぜ海渡!」
「それに海渡だって委員長の裸は見たいだろう! 格好つけるな!」
矢島がついに隠しもせず裸が見たいことを暗に口にしてしまった。女子がヒソヒソと矢島について話している。彼の女子からの好感度は間違いなく急落中だ。
「確かに俺だって見たいか見たくないかで言えば見たい」
「ちょ、海渡……」
鈴木が目を細め不服そうに呟く。若干軽蔑したような雰囲気も感じられた。
「そ、そんな、でも海渡くんだけにだったら、そ、その……」
一方で佐藤は1人でもじもじしていた。一部の生徒が海渡め~! と悔しそうにしている。
「そうだろ海渡! お前もやっぱり男だもんな!」
矢島が同意を求める。こいつぶれないな、と杉崎がある意味で感心した。
「そりゃね。でも嫌がっている女の子を無理矢理脱がしたいとは思わないよ。流石にそれは男として最低だもんね」
クラス中の男子がしーんと静まり返った。正論だと思ったのだろう。
「か、海渡くん……」
そして佐藤は、じーんっと感動している様子であった。しかし話している内容は佐藤が裸になるかならないかでありなんとも締まりがない。
「海渡、お前の考えは立派だ。先生も誇らしく思う。だがな、今やこれはそういった感情論でどうにかなる問題ではない。1人の生徒の生死が懸かっていることなのだ」
しかし先生はその場の雰囲気に流されることなく、あくまで佐藤の為にも脱衣が必要と論じる。
「海渡、これは究極の選択と言えるだろう。佐藤がこの場で裸体を晒せば命は救われる。一方でもし裸にならなければ死ぬ。海渡、お前はこの2つのどれを選ぶ?」
底高が究極の選択を迫った。しかし多くの男子生徒は選ぶまでもないと考えているようだ。
「どうでもいいけど、それを何で海渡が選ぶんだよ……」
「あはは――」
杉崎のクールなツッコミに花咲も苦笑いである。
「俺はどちらも選ばない」
「な、何だと! どういうことだ!」
「俺は委員長の裸も守るし命も守る」
「か、海渡くん――」
この答えで遂に佐藤が涙を流し始めた。一方でどこか達観して見ていた杉崎は若干微妙な表情である。
「だけどよ海渡」
ここでまた矢島が立ち上がった。既に女子からの好感度がだだ下がりな矢島だがこれ以上何を語るというのか。
「俺達はいつか必ず委員長の全裸かそれとも命かどちらかを選ばなきゃいけない日が来るんだぜ? その時にどっちを選ぶか……全裸に決まってるだろう!」
「男の俺から見ても矢島、お前は最低だぞ」
妙に格好つけて堂々と言い放つ矢島に杉崎がジト目で返した。当然だが女子の好感度は最低ラインを更に割って今やマイナスだ。
「わかりましたわ!」
その時、話を聞いていた金剛寺が机を叩きつけるようにして勢いよく立ち上がった。全員の視線が一斉に彼女に向けられる。
「つまり正解は沈黙、ということですわね!」
「よし金剛寺は座ってろ!」
自信満々に口にした金剛寺だが見当違いもいいところなので杉崎が座らせた。
そしてここまで一言も喋らず大人しくしていた黒瀬だけが、うんうん、と力強く頷いていた。
「むぅ、見ろ! こんな馬鹿な言い合いを続けている間に、もう14分も過ぎてるではないか! もう時間がないぞ! とっとと佐藤を脱がせるんだ!」
「嫌だ。言ったはずだ、俺は委員長の裸も命も守ると」
「まだそんな世迷い言を! いい加減取り返しのつかないことになるぞ!」
佐藤が全裸になることを拒む海渡。底高は妙に佐藤を全裸にすることに必死に思えるが――とにかくこの間に遂に約束の時間が過ぎてしまい。
「お、おぃBINEにメッセージが来たぞ!」
「こっちにもよ!」
再びクラス中のスマフォが鳴り響き、全員に皇帝からのメッセージが届いたわけだが。
皇帝
皇帝の命令に従わないものには刑を執行する。火炙りの刑。
遂に皇帝からの刑が言い渡されてしまう。火炙りというその言葉に教室中がざわついた。
「お、おいこれまずいんじゃない?」
「確か俺が見た話にもこんな感じで生徒が死んでいたぞ!」
杉崎も、くっ、と呻き声を上げてそのメッセージを確認した。正直言えば悪戯なら良かったのにという考えもあった。
何よりさっきまでのなんとも馬鹿馬鹿しいやりとりに気が抜けた自分がいたのも事実だ。
だがこうやって現実に都市伝説で見たものと同じメッセージが届くと、嫌でもこの皇帝の遊戯が現実味を帯びたものに感じられてしまう。
「海渡、今からでも委員長を脱がすんだ! そうすれば助かるかも知れない!」
矢島が叫ぶ。すると底高が頭を振り答えた。
「それは無駄だ。皇帝の権限は絶対そして一度下された内容が覆ることはない。海渡、お前の浅慮な判断で佐藤の命は断たれることになるんだぞ!」
「う~ん、それはどうかな?」
底高が海渡を指差し批判めいた口調で叫ぶ。だが肝心の海渡はそんなものどこ吹く風と言った様子であり。
「か、海渡くん」
「大丈夫。委員長は心配しないでいいよ」
「し、信じてるからね海渡!」
不安そうな顔を見せる佐藤に安心感のある言葉を返す海渡。そんな海渡に鈴木が祈るような顔で言葉を投げかけた、その時だった。
「うわ、な、何だ!」
「突然、発火したぞ!」
そう、それが突然燃え上がり、教室が騒然となる。
「ひ、ヒギャアアアァアアァアア! 熱い、熱いぃいぃいいぃいいい!」
そして火達磨となり教室を転げ回る。その様子に全員が、え? という顔を見せており。
「お、おいおい海渡、どうなってるんだ? 何でよりにもよって底高先生が火に包まれているんだよ?」
「グォオオォオオオオ! アツイアツイアツイアツイ! な、なんで私がぁああぁあぁッ!」
そう、皇帝の命令によって火炙りにされたのは佐藤ではなく底高であった。すると海渡はスタスタと転げ回る底高に近づき指をさしながらこう言い放った。
「これではっきりしたな。このゲームの犯人、皇帝はお前だ!」
遂に意外な人物が皇帝だと判明しました!




