第三十一話 皇帝の遊戯
皇帝の遊戯編のスタートです。
その日海棠はいつもどおり教室でクラスメートとだべっていた。隣には最近になって付き合い始めた佐藤の姿もあり、親友の杉田とその彼女の鈴木の姿もあった。
その時携帯電話から着メロが鳴り響く。しかもクラス中から一斉にだ。画面を確認するとメールが一件来ておりそれにはこう記されていた。
発信者:皇帝
本文
これは皇帝の遊戯である。諸君らは皇帝の支配下におかれた。お前たちは余を愉しませる義務がある。皇帝の権限は絶対である。命令に従わないものには強制的に刑を執行する。
最初これを見た時、誰もが信じることなく、笑い声を上げて皇帝だってよ、とメールの内容を茶化した。命令には最初はくだらない子どものいたずらのようなものだけが記されていた。
馬鹿にしていた彼らも当初は付き合って命令に従っていた。だがその命令は段々とエスカレートしていき、遂には殺人や暴行にまで及ぶものとなる。この時から流石についていけなくなり命令に従わない生徒が出てきた。
本文
皇帝の命令に従わないものには刑を執行する。ギロチンの刑。
何がギロチンの刑だ、と当初は誰もが馬鹿にした。だがその直後窓ガラスを突き破り電動ノコギリが飛び込んできて命令に従わなかった生徒の1人の首が刎ねられた。
当初は事故で偶然の一致だと思われたが、刑はどんどんと激しさを増し、通常では考えられないような死に方をするものも現れた。
その時にはもう誰もがこの皇帝の遊戯が悪戯なんかではないと信じて疑わなかった。そして遂には海棠の恋人にまで毒牙が及び、そして命令は海棠の家族を皆殺しにせよとまで――
「う、うぉおおおお! どうしてだ! どうしてこんな目に! 母さんや妹まで!」
命令通りにクラスメートが家に乗り込み、そして彼の家族を惨殺した。そして彼らは言った。仕方なかったんだ。やらなければ俺たちに刑が執行されてしまう。
だから海棠の家族が死ぬのは仕方がない、と。
憎いと思った、殺してやりたいと思った。その時、皇帝からまたもメールが届き。
発信者:皇帝
本文
これは皇帝の遊戯である。諸君らは皇帝の支配下におかれた。お前たちは皇帝を愉しませる義務がある。皇帝の命令は絶対である。余を愉しませるために命令を聞け。海棠は復讐を実行せよ。
海棠はニヤリと憎悪のこもった笑みを浮かべた。いったいどうやって調達したかはわからないが、皇帝は様々な武器や拷問器具を与えてくれた。
海棠は残ったクラスメートを惨殺して回った。泣こうが喚こうが関係なかった。本人だけではなくその家族さえも皆殺しにした。
こうして気がついた時には自分以外は誰もいなくなっていた。血まみれになった教室に1人座り込むと彼の耳に届く拍手の音。
その主を見た時、海棠は驚愕し血走った目を限界までこじ開けて言った。
「あ、あんたが、あんたが皇帝だったのか――」
◇◆◇
「皇帝の遊戯ねぇ……」
杉崎はデスゲームに繋がりそうなものをネットで片っ端から当たっていた。その時に見つけた話がこの皇帝の遊戯であった。扱いは都市伝説なため信憑性が薄いが、名前に知り合いと似たのが多かったのでついつい読みふけってしまった。
内容的には一応実際にあった事件とされており、どうやら定期的にどこかでこの皇帝の遊戯が発生しているらしい。記事にあったのは携帯電話が普及し始めたころのものであり杉崎が生まれるより昔のことだ。
とはいえ――リアルなニュースの記事を探してみて回ってもそのような大量に生徒が死んだような事件は見つからなかった。もし本当にそんなことがあったなら何らかの形で痕跡が残るものだろう。
「ま、流石にこれは嘘か」
結局杉崎はそう判断した。内容的にも突拍子がなくあまりにオカルトめいていたからだ。
いくらデスゲームといってもあまりに科学的根拠に乏しい。
「結局これといった情報が見つからないな」
ベッドにゴロンっと横になりそんなことを独りごちた。サバイバルロストに巻き込まれた時、杉崎はきっとこの連中こそが彼の父親を殺した犯人だとそう思っていた。だが、その後暫くしてから杉崎の父親が遺したフロッピーディスクが見つかった。
今どきフロッピーディスクなど珍しいがだからこそ怪しいと思い中身を確認したら案の定だった。
そこには父の遺した調査記録が保存されていた。それには確かにサバイバルロストを追っていた様子もあったが、それ以外にもまだ追っていたグループの痕跡があった。ただその情報も完璧ではなく、その遺志を引き継ごうと杉崎はやっきになって情報をかき集めていた。
だがそれも中々進展がない。以前のデスホテルの時、田中からデッドチャンネルの事を聞いた。それはかなり怪しくも思えたが、完全紹介制のサイトらしく今のところこれといった情報は見つかっていない。
皇帝の遊戯はその過程で見つけたものに過ぎなかった。
「仕方ない、今日はもう寝るか」
杉崎は次の日のこともあるのでそのまま眠りについた。
「海渡くんおはよう!」
「おはよう海渡」
「佐藤委員長に鈴木さんおはよう」
海渡が登校していると途中で佐藤と鈴木から声を掛けられた。最近はよく2人から声をかけられる海渡でもある。サバイバルロストやデスホテルを通じて親交が深まったのもあるだろう。
「よっ、海渡。それに委員長と鈴木も」
「おはようございます」
その中に杉崎や花咲も加わった。2人は幼馴染で家も近いということで登校も一緒である。そんな2人とも最近はよく一緒に行動している。
そしてその中にはもう1人本来はいるはずだが。今は少しの間、異世界に行っているためいない。とはいえ。
「そういえば昨日は虎島からメッセージが届いてたぜ。島には無事ついたようだな」
「何か検問とか色々あって随分と時間掛かっていたみたいだよね」
「1ヶ月も待たされるなんてやっぱり海外って大変なんだね」
実は暫く神様と修業してたからなんだけどね、と海渡は心で思った。
「メッセージは私も見たよ。写真を送って~といったら送ってくれたけど凄くファンタジーっぽい景色が広がってたよ」
「私も見たお城が立派だったねぇ」
「あぁ、昔に造られたものなんだろうけど何か今でも暮らしてそうだったよな」
「うんうん! 生活感みたいの感じたよねぇ」
本当に暮らしている城だからそうなるよね、と海渡は心の中で思った。建前上はどこかの島なので言わないが。
さて、虎島の話題で盛り上がっていた一行であったがそこでまた1人声をかけてくる人物。
「皆様方おはようですわ!」
「ガウ!」
やってきたのは金剛寺だった。それを見た杉崎がギョッとした顔を見せ。
「金剛寺、一緒に登校になるなんて珍しいな。てかアカオも……」
そう、普段金剛寺は学校までいかにも金持ちといった高級な自動車で送り迎えされている。じいやと呼ばれるこれまた金持ちのトレードマークといえる存在もいつもは同行していた。
しかし今日は車ではなくアカオに乗ってやってきていた。どうやら高級自動車からアカオに乗り換えたようであり杉崎が驚いている。
「まさかアカオに乗ってくるとはな。いつものじいやはどうしたんだ?」
「じいやは置いてきましたですの。じいやの運転ではアカオの速度についてこれない、ですわ!」
「送り迎えにそこまで速度重要なのかな?」
鈴木は小首を撚る。確かにそもそも世の中には法定速度というものがあるのだ。アカオに適用されるかは不明だが。
「それにアカオなら下手なボティーガードより頼りになりますわ!」
「ガウガウ!」
「あ、それは確かに」
「頼りになるどころか、これ見て金剛寺に危害を加えようとする奴はいないだろうな」
「アカオちゃん、迫力あるもんねぇ」
アカオは金剛寺を乗せたまま、任せろ! と言わんばかりに吠えた。どうやら役に立っているようで何よりだと海渡は思った。
ただ、これには一つ問題があった。それは。
「ヒッ! ライオンだーー!」
「なんでここにライオンが!」
「しかも赤いぞ、赤いライオンだぞ! よっしゃ! ネットに上げて視聴者数稼ぐぜ!」
そう、当然だが校門近くまできたところで大騒ぎになるのだった。




