第三十話 キララ
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そして数日後、虎島は皆に見送られ電車に乗る――振りをしてその後海渡と合流し、その後女神様と面会することになる。
「こ、これが実物の女神様、と、とんでもなく美人だな」
「え? い、嫌だぁそんな美人だなんて。勇者様聞きました? 美人と言ったのですよ美人と」
「美人なのは認めるけどちょっと残念なんだ」
「そうなんだな」
「ちょっと勇者様! 虎島くんも納得しないの!」
「す、すまん……」
虎島は注意を受けて素直に謝った。それを見て女神様が、勇者様とは違って素直だ! などと口にしており、いったい海渡は異世界でどんな暮らしをしてきたのか、と苦笑する虎島であったが。
「ただしいいですか? 貴方には異世界に行く前に武神の下で修業してもらいますが神様は甘くはありませんからね」
「あ、あぁ。それってやっぱり海渡も修業したのか?」
「……しましたが、これから会う武神には絶対にその名を出さないであげてくださいね!」
「え? え?」
女神様に念を押され戸惑う虎島である。
「いや、ちょっとトラウマが出来てしまっているようで、だ、だから絶対にですよ!」
「海渡、お前、神様に何したんだ?」
「う~ん、ちょっと修業付けてもらっただけなんだけどね。実戦方式で」
「そ、そうか――」
何となく察する虎島であり、これ以上聞くのもなんだか怖いので考えるのを止めた。
「それと、異世界に行った後もすぐに転生した幼馴染と会えるわけじゃありませんし、会ったとしてもその先がきっと大変ですからね」
「……あぁわかってる。覚悟の上だ。でも期限以内に必ず見つけて一緒に戻るぜ」
「……それならいいでしょう。では、これより貴方を先ず武神の下へ転移させますね」
「……あ、その前に。海渡、本当にお前にはお世話になったな。感謝してもしきれないぜ。暫しの別れだがお前は俺の親友だ!」
「あぁ、頑張れよ」
その言葉を最後に虎島は光の粒子と変わり地球から去っていった。
◇◆◇
星彩 景はサバイバルロストというデスゲームに強制参加させられ、そして死んだ。そのことに後悔はなかった。
最後の最後で大事な人の盾になり死ねたのだ。そのおかげで彼を助けることが出来た。
天国に行けるかはわからないけど、悔いはないそう思っていた。そんな彼女が目覚めた時、何やら妙な白い空間にいて目の前にいたお爺さんがシクシクと泣いていた。
何故泣いているのか? と問えば景の境遇に同情してくれていたらしい。あまりに可哀想だからとどうやら本来呼ばれる場所とは全く別の世界の神様が召喚してくれたようだ。
そして神様が言うには、景の境遇を考慮して別世界でなら記憶をそのままに転生させてくれるという。いわゆる異世界転生という奴だ。景はラノベもアニメも結構好きだったからすぐにピンっと来た。
ただ、異世界は地球とは生活も文化も異なる。言葉だって違うだろうと心配にも思ったが神様曰く転生特典をつけてくれるのでそこまで心配はないだろうという。
デスゲームに巻き込まれて死んだというのに神様の話を聞いていたら気が抜けてしまったが、しかし折角ここまでしてくれるのだから受けてみようと思った。
そして景は異世界で転生しキララと名付けられた。元の名字がそのまま異世界の名前となったが覚えやすいから良しと考えた。
転生後の生活はわりと快適だった。いや、正確にはそれなりのトラブルもあったが転生特典で豊富な魔力を持って生まれたおかげか大抵のことは自力でなんとかなった。
学園でも疎まれたりすったもんだはあったが無事卒業することも出来た。
ただ、やはり中世ファンタジー感のある異世界だけあって両親や親族からはやたらと結婚を勧められてしまう。この世界では女は日本よりはるかに早くに結婚する。成人も15歳だ。だが、それでも景改めキララはどうしてもそんな気になれなかった。
男性となるとどうしても彼のことを思い出してしまうからだ。
キララは結局家を出て冒険者となる道を選んだ。冒険者は自由だし女性でも活躍している人が多い。
キララは転生特典もあってか冒険者として若いうちからすぐに頭角を現していった。途中で仲の良い友だち兼仲間も出来ていつの間にか4人で常に行動をともにするようになっていた。
成人したばかりの15歳でありながらキララのパーティーはあっという間にSランクとなった。
そしてある時、キララにある依頼が舞い込んでくる。それは魔王討伐の依頼だった。物騒にも思えるがこの世界では定期的に魔王と呼ばれる存在が生まれる。基本的には魔王は生まれて間もなくは高ランク冒険者ならまだ相手できるとされていた。
故にキララたちのパーティーに話が来てそれをキララたちも快諾したわけだが。
『ガッハッハッハ、どうしたそんなものか?』
「そ、そんな、魔法が全く効かないなんて……」
そう。キララたちが相手した魔王には完全魔法遮断というスキルが備わっていた。キララは転生特典で豊富な魔力を有す魔法特化型であった。その力があれば魔法耐性程度ならいくらでも打ち砕けたが完全魔法遮断となれば話は別だった。しかも完全魔法遮断はあらゆる魔法を通さない。
「な、なら僕が!」
パーティーではよく脳筋と誂われていた女騎士が果敢に挑んでいく。だがこの魔王、なんと肉体的にもかなり強かった。女騎士の力では通用しないほどに。
『カッカッカぬるいぬるい。生まれたばかりと油断したな。我はかつて生まれ変わりのスキルを有していた。一度は倒されたがそれによってステータスそのままこうして復活を遂げたのよ。しかも新たに強力なスキルを手に入れてな!』
いわゆる強くてニューゲームという奴だ。それを魔王が行なったのだからたちが悪い。
『さぁこれで終わらせてやろう。喰らうが良いそして消え去れ! 究極死滅魔法デスゲイム!』
魔王の手から黒い光線が放たれた。巨大な光線であり傷ついたメンバーではとても避けられない。
前に出たキララが盾となる魔法を行使する。
「くっ! 多重障壁!」
『無駄だ! デスゲイムは魔法を喰らう魔法でもある! そんなもので防げはしない!』
魔王の言う通り、黒い光線はあっさりと障壁を飲み込んでいった。もう為す術がないと思った。これで死ぬのかなと諦めに似た感情が湧き上がった。
折角仲良くなった皆が守れなく申し訳なく思った。そして最後に思い出したのはやはり思い出のあの人、虎島であった。
「せめて最後に、もう一度会いたかったな……」
「馬鹿言え! やっと再会できたのに最後にされてたまるかよ!」
「え?」
その時だった大きな盾を構えた何者かが割って入りなんと魔王が放ったデスゲイムの魔法を受け止めたではないか。
「え? う、嘘?」
「嘘じゃねぇよ! 正真正銘本物の虎島さ。そして今度は俺がお前を守る番だぜ!」
『な、ばかなぁあああ! あらゆるものを滅する我のデスゲイムが!』
「悪いなそっちがあらゆる物を滅するならこっちはあらゆるものから大切な人を守る最強の盾なんだよ! 武神仕込の最強のな!」
虎島が叫ぶ。そう虎島が武神の下で修業し得たものは失わないための力。そして守る力。盾の英雄イージスの力だった。
「さぁお返ししてやるぜ、喰らいやがれ俺のパーフェクトカウンターフルバーストを!」
そして虎島は受け止めた魔法にさらなる威力を上乗せして跳ね返した。
『くっ、だが無駄だ我が使用したのも魔法! ならば完全魔法遮断で防ぐことが出来る!』
「甘いぜ!」
ニヤリとほくそ笑む魔王。だがしかし、デスゲイムの光が魔王を飲み込み、その身が崩れていった。
「な、なにぃいいいい! 馬鹿な我のスキルがぁああああ!』
「残念だがこの技は跳ね返したものに絶対貫通属性を付け加える。そもそも武神から授かった力は物理属性! 魔法遮断だろうと意味がないんだよ!」
『そ、そんな、馬鹿な――』
そして魔王は滅びた。自らが放った究極死滅魔法デスゲイムを増幅し反射され、物理属性の貫通属性に変換されて食らったのだ。もう復活することもない。
そして虎島は笑みを浮かべて彼女を振り返り。
「景――」
そう彼女の名前を呼んだ。景の目には涙。虎ちゃんとかつての愛称で呼ばれ、たまらず駆け出す虎島だったが。
「ちょっと待った~~~~!」
「は?」
しかし、なんと虎島が景に近づくのを阻止するように一人の少女が行く手を阻む。
「どうやら貴方が私達を助けてくれた。それは事実のようね。そのことに関してはお礼を言わせてもらうわ!」
「お、おう……」
お礼を言うと言っているが指を突きつけ瞳も尖っていて、どうにもそんな風には思えず戸惑う虎島だったが。
「それで、貴方キラちゃんの何なのですの?」
「へ? キラ、ちゃん?」
「あ、あのね。私はこっちではキララで、だからキラ……」
景に説明されて納得する虎島。すると今度は女騎士や僧侶っぽい格好の少女がキラの左右に立ち。
「たとえ助けてもらったとしても、男は信用できない!」
「大切なキラちゃんを男の毒牙から守るのです!」
「そうだよ! だってキラちゃんは私達の大切な仲間なんだからね!」
結局キラの仲間の3人は、彼女を囲むようにした後ギュッとその身を抱きしめ、虎島から遠ざけるようにして睨んでくる。
「あ、あはは……」
折角の再会にもかかわらず近づくことさえ叶わない虎島。そして彼は思い出していた、たとえ再会できたとしても楽ではないという女神の言葉を。
あれは、そういう意味だったのか……そう考え、苦笑する。そして何故かキララを抱きしめたまま3人が向こうへと走っていた。途中で何度かジャンプしながらだ。
「くっ、ま、待て、ちょ、待てよ!」
そして虎島は彼女たちを追いかける。思ったよりも早く武神の修業を終え、余裕で戻れるかと思った虎島だったが、今は本当に期間までに戻れるかな? という不安さえ頭に過ぎっていた。
だが負けるな虎島、前途多難な異世界ぐらしはまだまだ始まったばかりだ! 期間もあと2ヶ月ほど残っているぞ!
◇◆◇
黒瀬 帝は完璧な人間だ。芸術から運動、勉学、格闘技に至るまで全てが完璧だった。
だが完璧故に彼はどこか冷めてもいた。決して笑うことなく何も楽しめない、おおよそ感情というものが一切抜け落ちたような、彼はそんな少年だった。
故に虎島が学校を休学すると聞いた時にも何も思うことがなかった。寂しいと思うことも悲しいと思うこともなかった。生きていたとされる幼馴染へ向けた寄せ書きにはしっかりメッセージを残したし、暫しのお別れ会とされたカラオケにもしれっと参加したがそうなのだった。
そんな彼でも1人危険だと思う男がいた。海渡だった。記憶は改変されていたがサバイバルロストの時からそう思っていた。おまけに話によるとどうやらまたデスゲームに巻き込まれ海渡のKARATEや親戚に自衛隊員がいたり川なんとか隊のメンバーにいた人がいたおかげで助かったという。
危険だと思った。野放しにしてはいけないと思った。何故自分は巻き込まれなかったのだと若干不機嫌になったりもした。
そして海渡を始末せねばとも――そしてその時はやってきた。今日は授業で調理実習がある日だった。絶好のチャンスだった。なぜなら調理実習であれば何の疑いもかけられず料理に毒を仕込み海渡を殺すことが出来る。勿論毒と言っても市販で買ったりなど足のつくような真似はしない。
黒瀬は完璧な男だった。故にミステリーにも精通していた。ただ歩いているだけでも殺人事件に遭遇する眼鏡の子どもが出てくる漫画や、やたらとドロドロした事件に巻き込まれ何かと名に懸けたがる高校生が出てくる漫画も全巻読破した程だ。
そんな黒瀬なら調理実習で扱う素材や調味料だけで毒を作ることなど造作もなかった。しかもこれなら証拠も残らない。完全犯罪――計画は完璧だった。
そう、あとは――黒瀬はコインを指で弾いた。くるくると回転したコインが手の甲に落ちてくる。その手を開いたその時――出てきたのは天使だった。
「すっごい美味しい! 黒瀬くんって料理上手なんだね」
「……隠し味のケチャップが決め手なんだ」
「すっご~~い」
「ケッ」
結局黒瀬はその日海渡を殺害するのは諦めた。だがそのおかげで、得意の料理と決めての隠し味で女子の好感度があがったぞ! 鮫牙が面白くなさそうにしているが結果オーライだ!
虎島「この調子なら何れ俺も海渡を超える日が!」
女神「絶対に無理です」
虎島「いやでも1パーから99パーの間ぐらいで……」
女神「絶対に無理です」
キララ(虎ちゃんがんば!)
というわけでデスホテル編はこれで最後です。次は皇帝の遊戯編が始まります!