第二十六話 ペット
「母さん、ペット飼いたいんだけどいいかな?」
虎島の墓参りから戻った後、海渡は母親に相談を持ちかけた。
「何、ペットって犬? 猫?」
「う~ん、ちょっと違うんだけどライオンなんだ」
「え? ライオン? うふふ、面白いわね。全く高校生にもなって小学生みたいなこと言うのね」
「庭にいるんだけど、とりあえず見てみる?」
「はいはい、ライオンちゃんね。全くいったいどんなライオンちゃんなんだか」
「ガウ」
「…………(パタン)」
「ということがあって、結局許可が貰えなかった」
「当たり前だな!」
海渡は家であったことを杉崎たちに聞かせていた。話が終わるなり杉崎から猛烈なツッコミを受けてしまう。
「それで、あの、お母さんは大丈夫だったの?」
「うん、軽く気を失ったけどね」
「そりゃそうだろう」
心配そうに問いかけてきた佐藤に答える海渡。隣で聞いていた虎島は呆れ顔を見せていた。
「でも弱ったな。あれだけのライオン、そうそう飼えるものじゃないだろう?」
虎島が腕を組んで悩む。実際のところ海渡ならいくらでもやりようがあるが普通に飼えるならその方がいい。
「スズちゃんは無理?」
「流石に無理ね。てか、普通無理よね?」
「あはは……」
佐藤に問われ鈴木は眉を落とした。佐藤も言っては見たが苦笑まじりである。
「杉ちゃんも無理?」
「いや、流石に無理だろう。大体あんなの飼える奴なんて……いや待てよ――」
幼馴染の花咲に頼られるも弱ったように後頭部を擦る杉崎。だが、直後、顎に手をやり何かを考えた後。
「そうだあいつなら!」
「知っているのか杉崎!」
「海渡、なんかその反応ちょっとおかしくないか?」
「まぁなんとなく」
虎島にそれとなく突っ込まれた海渡であるが、本人も言ってみたかっただけなのだ。
なにはともあれ、一旦は放課後までまち、その後は杉崎と一緒にとあるクラスメートの家までやってきた。ちなみにキングレッドも一緒であり何故か誰にもみつからなかった。
勿論それも海渡の魔法によるものだが路地裏を通ってきたからねと海渡はごまかしておいた。
「皆さんお揃いでこの私に何か御用ですの?」
「あぁ金剛寺、お前にしか頼めないことがあってな」
杉崎が思い当たると言ったのはなんと金剛寺 玲香のことであった。見るからに豪邸と言えるような屋敷住まいであり庭も広い。おまけに執事やメイドまでついている。なるほど、確かにここであればキングレッドも不自由しないだろう。
「私にしか? うふふ、前は私のことを大したことないと言っておりましたが、やはり頼れるものはお金持ちのお嬢様ということですわね。オ~ホッホッホ」
片手を顎に当てて豪快に笑う金剛寺。その姿に海渡は目を丸くさせ。
「オ~ホッホって笑う人初めて見たな」
「確かにあまり見ないかも……」
そんな感想を述べた。佐藤も同意なようである。確かにこれもまた漫画でしか見ないような仕草である。
「ふれないでおいてやれ。キャラ作りに必死なんだから」
「そ、そこ! うるさいですわよ!」
同情のこもった目で口にする杉崎。すると金剛寺が顔を赤くさせてツッコんだ。
「恥ずかしいならやらなきゃいいのに」
「まぁそれが金持ちって奴なんだろう」
鈴木が目を細めて呆れ顔で呟くと、虎島がそんなもんだろうといった顔で語った。
「確かに凄くお金はありそう……」
花咲が金剛寺の背後に広がる庭園を眺めながら言う。
「あぁ、しかもあのサバイバルロストの影響で多くの財閥が没落したからな。結果的に金剛寺グループのランクが上がったんだ」
「棚ぼたって奴だね」
「う、うるさい! 貴方達、私を馬鹿にしにきたんですの!」
杉崎と海渡の会話に金剛寺が瞳を尖らせた。これはしまったと考えを改める。
「実は金剛寺に飼ってもらいたい生き物がいるんだ」
「飼う? この私が? また面白いことを。それでいったいどのようなもので?」
どうやら興味を持ってくれたようだ。なので海渡は近くに隠れてもらっていた彼を呼んだ。
「キングレッドこっちにこい」
「ガウガウガウ」
海渡が呼ぶとキングレッドが駆け寄ってきたわけだが。
「ら、ライオーーーーーーン!」
金剛寺は目玉が飛び出さんばかりに驚愕し、足を斜めにピンっと伸ばしたまま跳び上がった。なんとも器用なことである。
「な、なんでライオンがここに!?」
「あぁ実はカクカクシカジカでな」
「な、なるほど、カクカクシカジカなんですの」
とりあえず杉崎がカクカクシカジカで説明し、納得はしてもらえた。
「意外とあっさり理解してもらえたわね」
「気絶しなくてよかったよ」
「漏らさなかったしな」
「そ、そのことは忘れなさいですの!」
鈴木が言うと、海渡が自分の母親を重ね合わせるように口にし、杉崎などはサバイバルロストでの彼女の粗相を持ちだした。
それを思い出したのか金剛寺の顔がますます赤い。
とは言え確かに普通はライオンというだけでも驚きである。その上キングレッドは普通のライオンとは明らかに異なっている。中々受け入れられるものでもない。
「それにしてもデスゲームって、この間サバイバルロストに巻き込まれたばかりですのに良くやりますわね」
「別に巻き込まれたくて巻き込まれたわけじゃないんだけどね」
「「「「「確かに」」」」」
「ガウ?」
海渡の言葉に全員が反応した。確かに誰も好き好んで命をかけるようなゲームに参加したくはないだろう。
そしてそれを聞いていたキングレッドは呑気に首を傾けた。自分の将来がかかっていることなのになんとも他人事である――




