第十八話 死のディナー
『さぁ気を取り直して次の部屋は当ホテル自慢の豪華なディナーを味わってもらうよ!』
結局服が濡れることもなく、誰も怪我することなく、ピラニアだけ食べて部屋を出た一行。
そこでまたDeathのテンション高めな声が聞こえてきた。若干自棄気味にも思える。
さて、次の部屋では高級そうな長テーブルが準備されており、テーブルの上には沢山のご馳走が用意されていた。確かにこれはディナーと言える代物だろう。
『はっは~! どうだい豪華な料理の数々、たまらないだろう』
「うっぷ、いや、腹いっぱいだしちょっと勘弁」
意気揚々と語るDeathであったが、杉崎は口元を押さえ苦しそうに遠慮した。すると周りの女子も顔を歪め。
「私もこれ以上食べたら太りそうだし……」
「胃がもたれそう」
「食欲わかないですね……」
『お前らがさっきの部屋でピラニアなんて食うからだろうがぁあああぁああ!』
死配人の怒りの声が飛んできた。そんなこと言われてもなぁ、と女子たちと杉崎が眉を顰める。
『おま、ちょ、ふざけるなよ! 大体本来なら最初のゲームとさっきのゲームで肉体的にも精神的にもぼろぼろになってるはずなんだよ! 腹だって減る! そんな時にこの豪華な料理を見れば砂漠にオアシスを見たような喜ばしい雰囲気になり、すぐにでも飛びつくやつの1人や2人出てくるはずなんだよ!』
「だったらさっきのゲームで食料なんて用意しなきゃ良かったのに」
『そもそもピラニアは食料じゃねーよ!』
当たり前のように言う海渡にDeathが怒りの声を投げ返した。しかし海渡には全く意味がわからない。
それもそのはず、海渡のいた異世界では食料を現地調達することなど日常茶飯事だった。外を旅して回るときなど基本食べ物は魔物を狩って手に入れた肉だ。そんな暮らしが長かった海渡からすれば倒したピラニアを料理して食べるなどごくごく当たり前なことなのである。
『く、とにかく! ここでは全ての料理を残さず喰うのが礼儀! それをしなければ次の部屋にはいけないからな!』
「な、なんてこった。これがデスゲームの真の恐ろしさってことか」
「食べたくもないものを食べろだなんて、なんて恐ろしい」
「高カロリーのものを食べて太れだなんて鬼です!」
「胃薬とかありますか?」
『お前ら揃いも揃ってデスゲームがそんなにゆるいわけないだろうがぁああ!』
叫んだ直後、はぁはぁ、という息を荒くさせる死配人の様子が聞こえてきた。ツッコミの激しい人だなと海渡は呑気に思った。
『いいか! その中には一つだけ猛毒が仕込まれた料理がある! このゲームではそれも含めて全て食べなければ次の部屋にいけないんだよ! わかったか! つまりここでは必ず誰かが死ぬ! さぁ貴様らに毒がどの料理に仕込まれているかわかるか』
「毒はこの鳥の丸焼きに仕込まれているね」
『ニョホオォオォオオオオオオオ!』
スピーカーからDeathのあまりに間抜けな声が聞こえてきた。
「え? 海渡わかるのか?」
「まぁね」
「おい、本当か?」
虎島が死配人に向けて聞く。すると下手くそな口笛の音が聞こえ。
『ふふ~ん、どうだったかなぁ、てかそんなことおしえるわけないよねぇ』
「あいつ致命的に嘘が下手だな」
『だ、黙れ!』
虎島が呆れたように言うと、Deathが恥ずかしそうに声を大にさせた。
「でも全部食べないと出れないってあいつが……」
「うん。だからこれは俺が食べるよ」
「え?」
『は?』
するとなんと毒を見破った海渡自らが鳥の丸焼きに口をつけてしまった。
「う――」
その直後、うつむき加減にそんなことを口にする海渡。すると皆が慌てだし。
「ば、馬鹿、海渡何やってんだ!」
「うそ、海渡くん早く吐き出さないと!」
『か、カカカッ! 馬鹿が! 何のつもりか知らないがその毒を口にしたら手遅れよ! はっは、まさか一番厄介そうなそいつが毒で死ぬとはな! さがこれでもう、お前らは――』
「うん、旨い」
『て、な、何Deathとぉおおぉおおおおおぉおおおお!?』
しかし、海渡は全く平気だった。うつむいたのにも特に意味はなく。毒入りの肉も海渡が美味しく頂くのだった。
「お、おい本当に平気なのか?」
「平気だよ。ちょっと刺激があってそれもいいアクセントになってるし。あ、でも皆は食べたらだめだよ死ぬから」
「死ぬからってお前なぁ」
海渡のノリに杉崎が目を細めた。何せ毒が仕込んであるというのに海渡にはちょっとワサビがしみるぐらいの感覚なのである。
『待て待て待て待て待て! おま、何なんだよ! ティラノサウルスすら一舐めしただけで死ぬ劇毒だぞ! なのに何で平気なんだ!』
「俺、毒が効かない体なんだよね」
『どこの暗殺者だよお前は!』
Deathが激しくツッコんだ。もはやこれで何度ツッコんだかわからないほどだ。
「てか、そもそもティラノサウルスにも効く毒って何でわかるんだよ」
『今そこツッコむところ!? ゲホッゲホッ!』
ワンテンポ遅れて虎島がツッコミを入れる。Deathはもう声を荒らげすぎて喉が枯れ始めていた。
それはそれとして、たとえティラノサウルスが死ぬような毒が本当だとしても海渡には全く問題がなかった。
異世界にはひと噛みで星そのものを毒殺するような凶悪な蛇もいたが、それを未処理で食べても全く問題にしないほど海渡は毒に抵抗がついているのである。
「これでもう毒の心配はないよ」
「海渡が言うならもう安心だな」
「でも、お腹がいっぱいなのよね」
「それなら、そろそろ胃も落ち着いてきてると思うよ。ピラニアは何か消化に良さそうだし」
「そうか? いや、でも確かに何か大分胃がスッキリしてきたぜ」
「おお本当だ、寧ろ腹が減ってきたな」
「私も~」
こうして胃が落ち着いてきた彼らはテーブルの上の食事に手を付けていった。ちなみに勿論、実際にピラニアが消化によかったわけではなく、海渡の魔法で胃の消化を助けたのである。
しかもその上で余分なカロリーは消失するようにしておいたから太る心配もない。女の子にも安心なのである。
「う~ん、味はまぁまぁかな」
「そこそこってところだな」
「近所のファミレスよりはちょっとは美味しいかな」
「いかにも大量生産しましたって感じのチキンはいただけないわね」
「丸焼きはそれなりにいけたんだけどね」
『何和気あいあいと食事をして、ちゃっかり味にダメ出しまでしてるの!?』
まさか用意した食事に文句を言われると思わなかったのだろう。Deathも驚きである。
「俺は少々頂けなかったな。特にこの豚の角煮は出来損ないだ、食べられないぜ」
『しっかり全部食ってるだろうが!』
虎島が言うと、どこかから彼らの食事風景を見ているのか、Deathが声を大にして叫んだ。ちなみに確かに皿はしっかり空である。
「ふぅ、何とか食べきったわね」
「杉ちゃん、お腹いっぱいだよぉ」
「結構食べたもんなぁ」
「なぁ、食後のデザートはないのか?」
『お・ま・え・ら、ふざけるなよ! これはデスゲームなんだぞ! デザートが出るような甘い物じゃないんだよわかってるのか!』
「そう言われてもなぁ」
ムキになって叫ぶDeathだが、そもそも死のゲームなど海渡が望んでないから仕方ないのである。
そんなわけで再び腹を満たした一行は無事次の部屋まで進むのであった。




