第十六話 こんなこともあろうかと
「は? オリハルコン?」
聞いていた全員が目を丸くさせ、しまったと海渡が口を塞いだ。もっともすぐに、ま、別に大丈夫か、と思い直したが。
「とにかく、これでもう出れるね」
「あ、そういえば!」
「こんなわけのわかんないホテルさっさと出ていこうぜ」
「いや、でもこの壁壊すって凄いことなんじゃないの?」
「あ、俺空手とかやってたんだ」
「「「「「なんだそうだったのか~」」」」」
海渡がそう説明すると他の客は全員納得してくれた。意外と何とかなるもんだな、と安心する海渡だったが。
『んなはずあるかーーーー! 空手で何とか出来るかーー! アホかお前ら! 常識ってもん考えろよ!』
なんとその反応にツッコミを入れてきたのは主催者のDeathであった。
「いや、と言っても、実際壁壊れたしなぁ」
宿泊客が口々に言う。基本的にはありえない気もするが人は納得したがる生き物だ。何かそれっぽい理由があれば、そうかもしれないと思ってしまってもおかしいことではないのかもしれない。
「大体、勝手にこんなところに連れてきて命を懸けたゲームをしてもらうとかほざいているやつに常識を語られたくはないな」
「「「「「確かに」」」」」
杉崎が呆れたように言い放つと、他の客も同意してみせた。
「とにかく俺たちはここを出ていくぞ。君たちもいくだろう?」
「あぁ、そうだな。もうここにいても仕方ないし」
『馬鹿が! この私が何も考えていないと思ったか』
「何それ、どういう意味?」
鈴木が怪訝そうに問う。すると不敵な笑い声が聞こえてきて、その後主催者が堂々と言い放つ。
『こんなこともあろうかと、外にはたっぷりと地雷が仕掛けてあるのさ。迂闊に外に出たらドカンだぞ!』
「な、なんだって!」
「外に地雷って、流石に嘘だよな?」
「そうだハッタリよ!」
「というか、さんざんありえない言ってたくせに想定していたのかよ」
宿泊客が嘘か本当かと話し合っている時、虎島は発言がどことなく矛盾しているDeathに突っ込んでいた。
『う、うるさい! 俺は慎重なんだ!』
「え~と、つまり地雷は本当?」
「それじゃあ、やっぱり外に出れないの?」
委員長と花咲が不安そうに口にする。
「地雷が仕掛けてあるのは本当みたいだね。だからちょっと除去してくるよ」
すると今度は海渡がそんなことを言ってスタスタと壁の外に出ていった。
「は? いや海渡! それが本当なら!」
――ズドォオオオン! ドゴドゴドゴドゴズドドドォオオオン!
だがしかし、虎島が止めようとしたときには既に海渡の姿はなく直後、派手な爆発音が豪快に響き渡った。
『はは、馬鹿めが! 迂闊に外に出やがって。だから言っただろう地雷があると! それを無視するから粉々に吹っ飛ぶんだ!』
「そ、そんな海渡くん、い、いやぁあああぁあ!」
「うん? 呼んだ委員長?」
「へ?」
Deathの発言を耳にし絶望の籠もった悲鳴を上げた委員長だったがそれはすぐに無駄に終わった。あっさり海渡が姿を見せて返事したからだ。
『どうなっとんねんこらぁああああ!』
またDeathが叫んだ。だがしれっとした態度で海渡は。
「いや、鬱陶しいし邪魔だろうから地雷は全て爆破させて撤去しただけなんだけど」
「海渡、それはだけじゃないぞ」
「大体地雷を爆破させてどうして平気なんだ?」
杉崎と虎島が呆れ顔で尋ねる。周りの客もさすがに理解できないという顔つきだったが。
「あ、俺、親戚に自衛隊員がいるんだ」
「「「「「な~んだそういうことか」」」」」
『それがどうした~~~~~~!』
周りの宿泊客が納得したのとほぼ同時に死配人のツッコミが飛んできた。
『親戚が自衛隊員だから何だ! お前と全く関係ないだろうが!』
「いや、でも地雷とか撤去できそうじゃん?」
海渡が言う。別にボケでもなく本人はそれで何となくごまかせるかなと思っていた。地雷は本来なら魔法で次元に放り込めば済む話なのだが今回は不自然に思われないよう敢えて全て爆破したのだ。普通なら軽く死ねるがボンバウェーイの爆発にも涼しい顔で耐えられる海渡であれば全くの火薬不足なのである。
「あぁ、でも親戚に自衛隊員がいればなんとなく地雷とか撤去できそうだよね」
「うんうん、納得ぅ」
『揃いも揃ってばかばっかりか!』
「てかお前そんなにツッコんでばかりで疲れないのか?」
『誰のせいだ誰の!』
腕を組んで虎島が問うが余計なお世話だったようだ。
「とにかくこれでもう帰れるんだよな?」
「うん、もう危険はないね」
「良かった~なら帰ろう帰ろう」
「全く冗談じゃないぜ」
「もうこんな場所二度と来ないからな!」
『え? え? いや、ちょっと待って、え?』
しかし、Deathが戸惑っている中、宿泊客は次々とその場を離れていく。
「それじゃあ俺たちも行こうか」
『ちょっと待ってーー! お願いします! 待って! 待ってくださいほんま頼んます! 少し待って少しだけでも話を聞いてお願いします!』
「おいおい、遂に死配人とかいうのが頼み込みだしたぞ」
どこの誰かは知らないがあまりに卑屈すぎてつい脚を止めてしまった海渡たちである。
「そうは言ってもこんな危険なところにいてもしかたないしな」
『そこを何とか! この日の為にこっちも色々準備してきたんですよ! 本当、お願いだからちょっとでいいから遊んでいってよ! 楽しいから凄く楽しいから!』
「でも危険なんでしょ?」
花咲がお高いんでしょ? みたいに聞いた。
『いやいやぶっちゃけると一番危険なのはこの部屋で、本当この先は大したこと無いんで! そんな危険もないんで本当、何ならゲームをクリアーしてくれたら賞金も出すし願いもなんでも叶えますので!』
「お前、必死すぎるだろ」
虎島が目を細める。もはや死配人としてのプライドなど何もないようだ。
「というか、一番危険なところに私が選ばれたんだ……」
『正直すまんかったと思ってる! 本当にこの通り、謝罪しますから!』
本当にDeathは必死だった。その様子にやれやれと顔を見せながらも海渡は皆を振り返り。
「皆、どうする?」
と、そう聞いた。
「いや、そんなお化け屋敷に行く? みたいなノリで言われてもな……」
「海渡、危険はないの?」
「う~ん、まぁ無いかな」
「あっさり言うなお前」
『グギギギギギギギッ!』
「うん?」
『いや、なんでも無いですよ~そうそう危険はないからねぇ』
Deathが悔しそうに歯ぎしりしたが鈴木が反応したのですぐに猫なで声で返してきた。
「……ま、海渡がこういうなら行ってみてもいいか。なんでもしてくれるって言ってるしな」
「私は杉ちゃんが行くなら」
「お前らが行くなら仕方ないから付き合ってもいいが、おいその言葉に嘘はないんだよな?」
『勿論さ! デスホテルのマスターとして約束は守るよ!』
「まぁ嘘だとしても本当にさせるけどね」
海渡が何気なく言った。軽いノリだがやるといったらやる男だ。
「わ、私はか、海渡くんが行くなら」
「委員長がいくなら勿論」
「なら決まりだね」
結局、彼らはこのままデスホテルの中を進んでいくことになったのだった。




