第百一話 魔法少女になりました
佐藤は困惑した。何せ魔法少女になれると思ったら衣装は和の料理人みたいであり魔法のステッキはお玉である。こんなのでどう戦えというのか。
「さぁ魔法少女イインチョ! いよいよデビュー戦だよ!」
「え? 私名称イインチョなの!?」
「そうだけど?」
キュルンっという擬音つきで首を傾げるホワイトだ。それならまだサトウのままでいい気もしてしまう佐藤ではあるが。
「とにかく、君の魔法であのマガモノを倒してよ!」
「で、でも倒すと言っても……」
改めて右手のお玉を見る。
「大丈夫。魔法少女になった君には強い魔法の力がある。僕が今から君の魔法を教えてあげるよ! ちなみに光はマジカルシャインって名前だったりするんだけどね!」
なるほどと佐藤は納得する。
「ちなみに向こうの子はマジカルパワー、あっちはマジカルスパークなんだ」
その説明で委員長は何となく魔法少女の魔法のパターンが理解できた気がした。
「そして、委員長の魔法はね」
「う、うん!」
拳をギュッと握りしめ期待に胸を膨らませる委員長である。そしてホワイトが委員長の魔法を告げる。
「委員長の魔法は、デッドリークッキングだよ!」
「はい?」
委員長は小首をかしげた。
「委員長の魔法は、デッドリークッキングだよ!」
もう一度ホワイトが言った。
「あ、あの、何で、何でデッドリー! みんなマジカルなんとかとかなのに!」
「委員長の魔法は、デッドリークッキングだよ!」
「また言った!」
ホワイトは委員長の魔法を三回繰り返した。大事なことでさえ二回なのに三回も言うのだからそれはもう決定的なのだろう。
「うぅ、デッドリーとか何でそんなに不吉そうな――」
「うふふ、クッキングですって」
「おいおい、新人の魔法は料理かよ」
「戦闘には役立ちそうにないわね」
「そ、そんなことわからないだろう!」
佐藤の魔法を耳にした魔法少女達は、どこか小馬鹿にしているような雰囲気があった。
だが、光だけは佐藤を擁護している。ただ、佐藤自身、クッキングする魔法で一体何が出来るのかよくわかっていない。
「委員長。あのマガモノ、結構手強そうだよ! 委員長も魔法で加勢して!」
「え~と、でもどうすれば?」
「内なる魔法少女力を燃焼させて思いの丈をぶつけることで小宇宙が爆発し念となって高めた気が覚醒し幻の六番目の戦士として戦うことが出来るんだよ!」
「え~~~~~!」
ホワイトの言っていることがさっぱり理解出来ない佐藤である。
「まぁ、わかりやすく言えば気合でガンバ!」
キュルンっという擬音混じりにホワイトが言った。
「と、とにかくやってみる!」
委員長はお玉を持って、とにかく何かやってみようと思った。クッキングというからには料理が関係しているのかな? と思った瞬間目の前に調理器具や素材が並んだ。
「す、凄いけど、これ料理しろってことなのかな?」
どう見ても戦える環境ではないが、しかし魔法で生まれ道具である以上、そこに意味があるのかもしれない。なので委員長は料理を開始した。
「こいつ硬い、て、あの子本当に料理始めたわよ!」
「おいおいマジかよ――」
委員長が始めた料理に、魔法少女たちの呆れの声が飛んでくる。
「わ、私は委員長の料理が楽しみだよ!」
そんな中でも光だけは佐藤を応援してくれていた。皆が戦っているというのに何故か料理をしていることが申し訳なくも思うが、今現状佐藤が出来ることはこれだけだ。
「とにかく急がないと!」
フライパンにバターを投入し溶き卵を投入するが。
「へぇこれはオムレツだね。オムレツというと単純な料理に思えるが実は奥が深い。洋食屋の腕を見たいなら先ずはオムレツを見ろというほどにだ。たかがオムレツと他の料理を作ったフライパンを使い回すものもいるがこれは論外だ。特にプレーンオムレツは実に繊細な料理で他の料理の匂いや味が染み付いてしまう。それではどれだけ良い卵を使ったとしても台無しだ。3分後にまた来てください。本当のオムレツというものをご馳走しますよ」
「突然なに!?」
ホワイトが突如口調を変えてオムレツについて語りだしたので佐藤がただただ驚いた。
「ごめんね、オムレツと聞くとついテヘペロッ♪」
キュルンッ♪ と舌を出して謝るホワイト。あざとい。
「と、とにかくオムレツが出来ました!」
「馬鹿! そんなオムレツで何が出来るっていうのよ!」
魔法少女の一人が文句を言う。確かにそのとおりかもしれない。だけど、これは魔法で出来た料理だ。それであれば例えばオムレツを食べた仲間がパワーアップするなどそういった効果ぐらいは期待できるかもしれない。
そう思いつつ、佐藤がお皿にオムレツを乗せたその時だった。
『ギャギャギャギャギャギャギャギャガギィイイイイグウウゥウギイイギャギャギャギャギイイイィアアァアアアアア!』
とてつもなく異様で悍ましい奇声が発せられた。地獄の底から響いてきたような叫びだった。
マガモノと戦っていた魔法少女がぎょっとした顔を見せる。全員がまさか別のマガモノがやってきたのか? と怪訝に思ったようだが、声の主は皿の上にいた。
『ウギャギャガガガガガギャガギギギギギアアァアアヴウヴウアァアギエガワァエタサアグェガwtwrfワfアアエアセアカオアオwァlwオハhファkフォリオホアklwltオイオアhフォアflwリョwhfロイワhフォァホラ9wフィアshフォァf!』
それはオムレツだった。いや、オムレツに似た何かだった。紫色のオムレツらしきものには大量の目玉が備わっておりギョロギョロと一つ一つが別々な動きを見せていた。
巨大な口が悲鳴を上げていた。それはとても異様な光景だったが、刹那。オムレツらしきものが膨張しマガモノに向けて伸び上がった。
そしてバクンッ! とマガモノの頭から齧り付きそのままゾゾゾっと飲み込んだ。
「「「「「――料理が相手を食べたーーーーーーー!」」」」」
魔法少女たちが一様に驚いた。タフで中々ダメージが通らなかった敵が料理に食べられるというシュールな方法で一撃で倒されたのだからそれも仕方ないかもしれない。
とは言え、これに一番驚いているのは佐藤であり、そしてホワイトもわなわなと肩を震わせながら語りだした。
「な、なんちゅうもんを作ってくれたんや。このオムレツに比べたら洋食屋の作るオムレツなんてただのオムレツや!」
「私、普通のオムレツ作ったつもりなのに!」
普通に作ったオムレツがただのオムレツなのは当たり前のことなのだった。ただし委員長のオムレツは普通ではない!
こうして結果的に佐藤のデッドリークッキングの力でマガモノは無事倒されたわけであり。
「結果発表~~ぱふぱふ~」
戦いが終わり、ホワイトが皆を讃えクラッカーを鳴らし、どこからともなく取り抱したラッパで祝い出した。
「さて、今日は新人の魔法少女イインチョが頑張ってくれました。なので今日の報酬は委員長が一番となります!」
「え! そ、そんな私なんてまだ初めてなのに!」
「まぁまぁ。魔法少女の世界では結果に応じてしっかり評価するからね。さて、それでは委員長にはなんと500万テリカが報酬として支払わえます!」
「そ、そんなに! て、え? て、テリカ?」
500万という金額に驚く委員長。だが、直後につけられた単位に小首をかしげた。
「え~と、テリカって?」
「あれれ~? ルールブック読んでなかったのかなぁ? 支払いはすべてテリカだよ! そしてテリカは魔法王国の通貨単位さ」
「あ、そうなんだ……つまりこっちでは使えない?」
「そんなことはないよ~換金すれば使えるよ~」
委員長が問うと、ホワイトが換金できることを教えてくれた。
「か、換金……でも、流石に金額は大きいよね……これっていくらぐらいになるのかな?」
「うん、そうだね。今のレートだと1万テリカで1円だね」




