1.幼女との出会い
「ここに魔法を使えない奴隷がいるって聞いたんだけど、いる?」
「ああ、ヒロトさん。いますよ。買われますか?」
「買うつもりだけど、一応見てからな」
「ごもっとも。ではこちらへ。案内します」
すたすたと歩く奴隷商の後についていく。地下にある店の中は店主が持つ蝋燭の灯りのみしかなく、ちょっと先はもう暗闇だ。そこを躊躇なく歩けるのは流石店主といったところか。
俺は一応、無魔法『眼球強化』で視界を明るくしておいた。もし暗闇の中で襲われては敵わないからだ。
そう思いながら歩いていると、ある牢の前で止められた。中では一人の幼女が眠っている。
「こいつです。六歳くらいですかね。しかしヒロトさんに買われるってことはこの子もロクな目に遭わないんでしょうなあ」
「おいおい、人聞きの悪いことを。今回は違うんだ。ちょっと触ってもいいか?」
「ええ、良いですよ」
奴隷商に扉を開けてもらい、牢の中へ入る。そして幼女の腕に触れ、魔力を感知する。
「......うん、思った通りだ。買わせてもらうよ。いくらだ?」
「いつもヒロトさんにはお世話になってますからね。金貨一枚でいいですよ」
「へえ、いつもなら五枚はとるのに。大盤振る舞いだね」
「無能の奴隷は買い手が付かないんですよ。呪いの子として忌み嫌われてますからね。そんな奴隷を買うのはヒロトさんくらいのもので......」
「そうか。何にしろ安く買えるのは助かるよ。ありがとう。またよろしく頼む」
そう言って俺は金貨を渡した。
「さて、起きてもらうか」
魔法で幼女の目を覚ましてやる。
「はっ!? うぅ、何ですか......」
「へえ、六歳にしては流暢に話すね」
「不気味でしょう? そこも呪いの子といわれる所以の一つでしてね」
「なるほどね。よし、行くぞ」
「え......行くってどこへ」
よく分かっていない様子の奴隷に呆れ、奴隷商がこう言った。
「まだ分からないのか? お前はヒロトさんに買われたんだよ。せいぜい嫌われないように努力しな」
「えっ! い、いやあ! やめて! やめてえ!」
「ふう、うるさいな。ちょっと黙らせるか」
魔法で幼女の声帯の振動を止めてやる。自然、幼女は声を発せなくなる。
「ぁ......ぁ......」
「さあ行くぞ、別に殺しやしないから」
そして俺は幼女を担ぎ上げ、店の外へ出て自分の研究室へと戻った。
「まあ適当に座りなよ。これからのことを説明するからさ」
「......」
「ああ、喋れないんだっけ。今解いてあげるよ」
「......あ、あ。......喋れる」
さて、どこから説明したものかな。
「まあ、まずは自己紹介からいこうか。俺はヒロト、三十歳だ。実は俺は転生者でね。前世の記憶を持っている」
「え、転生?」
「そうだ。内緒だぞ」
「......そんな重要そうなこと私に教えていいんですか?」
「いいんじゃないか? そのことは君以外の誰も知らないけどね。まあそのくらい仲良くしたいってことさ」
「そうですか......」
「で、重要なのはそこじゃない。重要なのは、俺が無魔法の研究者ってところなんだ」
「む魔法、何ですかそれ? 聞いたことないですけど」
「誰にも言ってないからな。それでだ。無魔法については後で説明するとして、君にも無魔法を使いこなしてもらいたい。もちろん、君は奴隷だから拒否権はないけどね」
「私が、む魔法をですか?」
「その通りだ。じゃあ、無魔法がどんなものか実際にやって見せようか」
手元にあったテフルの実を手に取る。
「ちょっと持ってみな」
「うわっ! か、硬いです」
「だろう? とても素手では壊せないよな」
そう言って幼女の手からテフルの実を取り上げる。そして、
「だけど無魔法『握力強化』を使えば」
グシャッとテフルの実が割れ、中身がぐしゃぐしゃになって飛び出てきた。
「す、凄い......」
「これが無魔法だ。そうだな。五年後には君もこれくらいはできるようになってもらわなきゃ困るな」
「私にできるでしょうか」
「俺にもできたんだ。この世界で生まれた君なら確実にできるよ。じゃあ今日から頑張っていこうな。ところで名前聞いてもいいか?」
「ラシアです」
「ラシアか。これからよろしく」