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第46話 王族席

 フィーリアはレオンと共に鍛錬場へ用意されている王族席へ向かう途中突然の事に不安な気持ちをレオンへ告げる。


「兄様…私なんかが王族席へなんて…大丈夫なの?」


「それは、殿下からの要望だから心配はいらないよ。

 それよりも……」


「兄様…?」


「フィーリア、よく来たね。」


 レオンが何かフィーリアへ伝えようとした時にクリストファーの明るい声が聞こえた。

 王族席にはクリストファーと、王太子妃のセフィーヌが居た。

 フィーリアは淑女の礼(カーテシー)をとる。


「王太子殿下、並びに王太子妃殿下。ご機嫌麗しく存じ上げます。」


「フィーリア、嫌だな堅苦しい挨拶はいらないよ。

 幼い頃のように気軽に話してくれないかな?」


「それは…あの…

 それと、殿下…こちらのお席は私には似つかわしくない場所すぎて…恐れ多いのですが…」


「そんな事はないよ。フィーリアはジークの婚約者だろう?ジークは臣下へ下ったとはいえ私のたった一人の弟だからね。だからフィーリアにここが相応しくないと言う人間はいないよ。

 それに、ここからならジークの活躍がよく見えるからゆっくり観覧してほしい。」


「フィー。今日は殿下のお言葉に甘えさせてもらおう。

 殿下がここまで言ってくれてるんだ。断る方が不敬にあたるよ。」


「兄様…

 殿下。殿下のお心遣いに感謝致します。お言葉に甘えさせて頂きご一緒させてください。」


「呼び方が気になるけど、まぁそれは大目に見ようかな。

 フィーリアはセフィーヌと話すのは初めてであったかな?」


「はい。デビューの拝謁の際に初めてお目にかかりましたので…」


「セフィーヌはフィーリアの事は?」


「宰相様であるウェストン侯爵様のご息女であられて、レオン様の妹君様で、リトラル子爵様のご婚約者である事は存じております。」


「そう。私はねフィーリアとは幼い頃から親しくしているのだよ。途中、ウェストン家の習わしで多くの事を学ぶ為に王宮へ上がらなくなってしまったから、こうして話すのは本当に久しぶりだね。もう、ウェストン家の勉学も終わったのならこれからセフィーヌの話し相手として王宮へ来たらいい。」


「えっ!?」


「殿下!」


「レオン何をそんなに驚いているのだい?セフィーヌも同じ年頃の令嬢と交流もしたいだろう?

 母上だって昔よくカトリーヌ様とお茶を楽しんでいたではないか。

 心配しなくとも良い、父上と宰相には私から話を通しておくよ。」


 フィーリアは自分が言葉を挟めるような立場でもなく、クリストファーに押しきられとんでもない事が決まりつつある事に不安を感じた。

 そして、フィーリアが目を向けた自分と同じように今の話の当事者であるセフィーヌはこちらの話に気を止めている素振りもなくクリストファーにも目を向けずまだ試合の始まっていない鍛錬場を黙って見詰めていた。


 模擬試合が始まり騎士達の剣術や武術は実践さながらであり迫力があった。

 何人もの相手から勝ち進んだ一人の騎士の相手の騎士は黒髪の少し長い前髪を靡かせ剣を持つ見覚えのある人であった。


「ジーク…」


 ジークフリードの相手はジークフリードよりも背も体格も大きい相手であった。そして沢山の相手を倒して勝ってきた姿から見ても強い相手である事はよくわかる。

 そんな相手にもジークフリードは表情を変える事もなく剣の打ち合いが始まった。

 フィーリアは何度かジークフリードと手合いをしていて、ジークフリードからかなり手加減をされている事はわかっているが、それでもジークフリードの剣さばきと身のこなしのスピードが速い事はよくわかっていた。

 今、目の前で行われている模擬試合はあっという間に勝敗がついてしまった。ジークフリードの圧勝であり、ジークフリードは傷一つなかった。


「さすが()()()だよね?」


「え…?」


「あいつが試合に出ても戦う前から勝敗なんて決まっているようなものなのに、あいつの力そのものが反則だとも思うよ。試合にもならない。」


「殿下…?」


「フィーリアは知っていた?ジークの二つ名。」


「はい…」


「あいつはさ…選ばれた人間であって普通の人間とは別物なんだよ。」


 クリストファーのジークフリードへの言葉にフィーリアの胸の中は何とも言えない気持ちが涌き出てくるのがわかった。

 クリストファーはジークフリードの事を良く思っていないのだろうかと感じる。幼い頃は仲の良い兄弟のようにフィーリアからは見えており、特にジークフリードはとてもクリストファーの事を慕っていた事はよく覚えていた。


 フィーリアが視線をジークフリードへ向けるとジークフリードも王族席を見据えているように見えた。しかし、その目線はフィーリアではなく別の所を見ているように思える。


(ジークは…誰を見ているの…?)


 ジークフリードの視線の先をフィーリアは辿ると行き着いたのは自分の隣にいる人物のように思えた。


(殿下の事を見ている…の…?)


 そして、フィーリアはクリストファーの向こう側に居る人物にも目を止めた。妃殿下であるセフィーヌはじっとジークフリードの事を見詰めていたのだ。

 フィーリアの胸がざわめく。

 試合に出ていたから見詰めているのだとフィーリアは思うようにしたが、それだけではないような不安を覚えた。



 ◇*◇*◇*◇*◇


「フィー?」


「えっ!?あ…」


 フィーリアは模擬試合の後、ユーゴがジークフリードからの言伝てだとレオンへ伝えに来てくれ、第二師団副団長執務室でお茶を飲ませてもらっていた。

 しかし、ジークフリードが執務室へ戻るまでの間王族席での事が色々と頭の中を駆け回りぼんやりとしていた時、戻ってきたジークフリードから声を掛けられ驚いてしまった。


「どうした?」


「あ…ジーク…模擬試合お疲れ様…あの…」


「何かあったのか?」


 ジークフリードからそう聞かれ、特に何事もなかったがそれでも頭の中はぐるぐると様々な事に埋め尽くされているような感覚であり、何て答えたら良いのか悩んでしまう。


「何も…なかったんだけど…

 緊張で…疲れてしまったのかもしれないわ…」


「まぁ…席が席だからな…王太子殿下とは久しぶりだっただろう?ゆっくりと話せたか?」


 フィーリアはジークフリードがジークフリード自身の兄であるクリストファーの事を王太子殿下と呼ぶ違和感を感じたが、今の二人の関係性的にはそれが正確な呼び方であり、また何とも言えない気持ちになった。そして、フィーリアは今のクリストファーが幼い頃に一緒に過ごしてきたクリストファーと何かが変わってしまったようにも感じていた。


「久しぶりすぎて…幼い頃のようには話せなかったわ…

 それに、やっぱり王太子殿下となられたら幼い頃とは違うようにも思って…昔のままではいられないわよねとても重責な位に就かれたのだもの…

 ジークは殿下とお話される事はあるの?」


「いや…第二師団は王族とは直接的に関わりのある部隊ではないから会う事も殆どないよ。」


「そうなの…

 あ、まだ言っていなかったけど、模擬試合優勝おめでとう!

 とても強い方ばかりの騎士達の中での優勝なんてさすがジークね。」


「ありがとう。」


「また、今度手合いを私ともしてね。」


「ああ、そうだな。」


 フィーリアはこの何とも言えない不安は何なのだろうかと思い、そして、そんな考えをジークフリードに気付かれたくなく話を変えた。

 しかし、そんなフィーリアの様子に気が付かないジークフリードではなくジークフリードはフィーリアとクリストファーの間に何かがあったのでないと感じた。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

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