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第21話 ドレス

 今夜のジェシカの家の夜会へフィーリアはレオンのエスコートで出席する事にした。ジークフリードとはあれからまだ話をするどころか一度も会っていなかったからだ。

 あれから、ジークフリードはウェストン家へ一度も足を運ぶ事がなかったのだ。フィーリアはそんなジークフリードにさらに色々な気持ちが綯交ぜになっていた。

 そんなフィーリアの目の前にあるのは今夜の夜会へ着ていくドレスだ。このドレスにフィーリアは見覚えはなかった。

 このドレスを持ってきたのはレオンで、どうしたのかと聞いても今夜の夜会で着る為のドレスだとしか答えてくれなかった。


 そんな事をぐるぐると悩んでいるフィーリアを見ながら扉の前でレオンとミアがフィーリアに聞こえないように話していた。


「まさか、あいつがこんなドレスを用意していると思わなかったよ」


「御自分のお色を入れた物を贈られる事は貴族の中では珍しい事ではありませんが…フィーリア様への想いの深さを感じさせられますね。」


「想いの深さ?これは執着って言った方が正解じゃないかな?

 前の夜会の時の首飾りもそう思ったけどね。」


「あの方と執着という単語があまり結び付かないのですが…」


「あいつは自分から手に入れる事を諦めたり手放した物が今まで余りにも多かったから、フィーに対してだけは絶対に手に入れて手放したくないって思いが強いんじゃないのかな?あいつが唯一心から望んで、最後まで諦めなかったのがフィーであったからね。

 ミアには感謝していたよ。」


「いえ…私はフィーリア様の事を考えての行動でしたから。」


「後は…今夜のあいつ次第かな?」


 レオンがフィーリアに渡したドレスはジークフリードが以前から用意していたドレスであった。フィーリアとこのような状況になっていなければジークフリード自身から渡そうと考え大分前から注文していたドレスであったが、今夜の夜会で自分からのドレスとはフィーリアには伝えずレオンから渡してもらっていたのだ。

 そのドレスは、シャンパンゴールドのシフォンとレースが重なりチュールの表面にはメレダイヤが散りばめられているAラインのドレスであった。またそのチュールの表面には金と赤色の刺繍が入っており、胸元の切り換えではワインレッドのサテン生地に黒色の刺繍が入り所々にブラックスピネルの石が飾られているリボンで結ばれていた。

 フィーリアの容姿から普段は淡いパステルカラーのドレスが多かったが、初めて着るこの色味のドレスもフィーリアのまだ幼さの残る容姿に反して大人っぽく見せその相反した風合いが色香を纏うような魅惑的な仕上がりとなっていた。


 いくらフィーリアでもこの色味のドレスが誰からなのかなんとなく察してはいたがレオンが言う気がない事にも気が付きそれ以上問い詰めなかった。


 夜会へ向かう馬車の中でレオンは笑みを深めてフィーリアに言葉をかけた。


「その装いとても似合っているよ。フィーはどんなドレスも着こなしてしまうね。」


「ありがとうございます。でも、兄様はこのドレスの出先は私には教えてくれないのよね?」


「う~ん…まぁ、僕が教えなくともねぇ。

 ねぇ、フィーリア。」


 レオンの口調が変わった事がわかりフィーリアは訝しげにレオンを見詰める。


「兄様どうしたの?」


「フィーリアはジークとの婚約はどう考えている?」


「え…?」


「ジークとの婚約が本当に嫌なら父上と僕で解消する事は可能なんだ。

 フィーリアの本心を教えてほしい。

 この婚約は政略的なものではないとジークからも聞いたはずだよ。それを踏まえてジークとの婚約が嫌であるなら無理強いはしたくない。」


 フィーリアは真剣なレオンの表情から本気で自分が嫌がればこの話をなかったものにすると言っているのだと理解した。


「ジークと結婚する事が嫌なのではないの。

 だけど、ジークが我慢してこの話を受けたのではないかという事が不安なの…

 私達のこの幼馴染という関係のせいで同情から私の事を娶る事になったというなら、自分の事ばかりだけれど私だって惨めだし…悲しすぎるから…」


 いくら政略結婚でも、自分が想いを寄せている相手から同情で結婚を決められたなんて耐えられないとフィーリアはずっと感じていた。自分の気持ちが向いていない相手なら割り切る事も出来たかもしれない。しかし、ジークフリードだけはどうしても割り切る事など出来なかったのだ。


「フィーリアはジークの事を想っているんだね?」


 フィーリアはレオンの言葉に今まで誰にも悟られないように隠していた想いに胸が詰まり、言葉にならなかった。瞳に涙が滲む。

 自分は、やはりジークフリードの事が好きなんだと改めて思い知らされたような気持ちになった。

 先日のジークフリードの想いの言葉は動揺したし、疑問が残る所もあったけれど、本音はとても嬉しかったのだ。自分が想いを寄せていてもうこの想いが通じ合う事はないと思っていた相手が自分の事を愛していると言ってくれたのだ。嬉しくない訳がない。

 レオンの問いに対して言葉に出来なく頷いた。


「そう…それなら僕は何も言わないよ。」


 レオンは納得したというような表情を浮かべてフィーリアの頭を優しく撫でた。

 兄のレオンからは幼い頃から揶揄(からか)われる事はあってもそれは愛情の一つで本当に大切にされているという自覚はあった。今回も本気で自分の事を心配してくれた事も伝わってきていた。


「兄様…ありがとう。」


「フィーも、もうデビューした淑女(レディ)なんだよね。

 いつの間にか、可愛い我が家の天使だけではなくなったんだなって改めて実感したよ。」


「デビューしたけれど、いつまでも兄様の妹よ。」


「うん。そうだよ。

 だからね、いくらジークでも可愛いフィーを泣かしたら僕は怒ってしまうからって、その事をジークにも伝えたんだ。」


 もういつものレオンに戻りおどけながら話す姿にレオンの先程までの本気さがさらに伝わってきた。



 マーヴェス家で出迎えてくれたジェシカはフィーリアの装いを見て含み笑いを浮かべた。

 夜会ではジェシカの友人を紹介してもらって同世代の令嬢方と話したりとフィーリアにとっても楽しく過ごすことが出来た。

 そして、今はレオンとジェシカが踊っている姿を壁際でぼんやりと眺めていた。フィーリアの傍らには今日ジェシカをエスコートしていたジェシカの一つ下の弟でマーヴェス侯爵家の嫡男でもあるルーク・マーヴェスが立っていた。『フィーリアに変な(むし)が寄ってこないように見張っていなさい』と、ジェシカから言われていたからだ。


「あの…マーヴェス様、巻き込んでしまってごめんなさい。私は大丈夫ですから他の方と踊ってきてください。」


 遠巻きからルークの様子を伺い踊りたそうにしている令嬢方が数人いたのだ。ルークはジェシカと良く似た風貌をしており銀色の髪の毛は少し長く後で括っており、光の加減で様々な色に見える灰色の瞳もジェシカと同じ色をしていた。性別を感じさせない中性的な整った風貌をしている事も目を引いていた。


「姉上から頼まれた事だし、これで離れでもしたら恐ろしい目に合うからな…

 それに、気にしなくていいよ。令嬢方との関わりも面倒だから、かえってありがたいぐらい。」


 ルークはそう言うとフィーリアをジッと見た。

 ルークはあまり感情が表情に出ないのか表情から何を考えているのかがわかりにくいとフィーリアは感じた。


「あの…なんでしょう?」


「姉上から色々と話には聞いていたけれど…想像していたのと違う感じだなと…思って?それに、姉上から話を聞いていた事もあるのか初めて会った気がしないよ。」


 フィーリアはジェシカが何てルークに自分の事を話していたのかとても気になってしまった。


「あ…私はあまり社交界での評判も良くないから…そんな私とずっと一緒に居たらマーヴェス様の評判にも傷が付いてしまうかと…」


「別に人が言う評判は僕はどうでもいいかな?それに、僕は自分の目で見極めた事しか信用していないし。

 後さ、評判がどうのって話していたら我が家の姉も色々以前は言われていたからさ、最近はレオンのお陰で落ち着いてきたけどね?

 僕の事は家名で呼ばなくていいよ。ルークと呼んで?

 レディ・ウェストン嬢、君の事もファーストネームで呼んでも構わないかな?」


「ええ…」


 未婚の令息からファーストネームで呼ばれる事にはフィーリアは少し抵抗があったが、相手はジェシカの弟であるし大丈夫かと思い了承の返事をした。


壁際(ここ)でずっと立っているのも何だから、フィーリア嬢宜しければ一緒にダンスを踊ってくれますか?」


 そうルークに誘われ何となく話しやすいルークに気を許しルークの差し出している手に自分の手を乗せた。







ここまで読んで頂きありがとうございます!

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