第四話:異世界へ
『人として』生きる。神様をやめる。
これを聞いた時、私は完全にキャパオーバーだった。
今さら神が、人として生きられるんだろうか。いやそもそも、神というのは辞められるものだったか? いや、無理だろう。人間に蛙になれというようなものだ。そんなことできやしない。だって人間だもの。
頭を巡る思考の数々。断言しよう、その九割はどうでもいいことだった。残りの一割? キャパオーバーで頭を休ませてましたがなにか??
そんな私が混乱しながらも絞り出した言葉。
頭のいい皆様ならお分かりだろう、ろくなもんじゃないと。
「……私と一緒にいたいなら、メリットを提示してください。あと、お給金は月二十万以上がいいです。何卒よろしくお願いします」
な に を 言 っ て る ん だ わ た し は。
就職活動か? いや、面接でこんなことを言ったら終わりだ。自分の有用性を売り込まなければ。
じゃなくて。
一旦落ち着け、ひっひっふーひっひっふー。よし落ち着いた。
ということでちょっと真剣に考えてみよう。神様と一緒に生きるかどうか。いや死んでたんじゃなかったっけ。
「……お金なら、いくらでも用意できると思う、けど?」
……ん?
いきなりの神様の声に私の体が固まる。
えっと……おかね? そんなものが必要なんて私言っ、たわ。さっき言ったばっかだわ。
いや、混乱してる私の戯れ言なんて神様が聞くはずが……。
チラッ。
横目で神様の顔を盗み見る。
相変わらずの美貌に浮かんでいるのは、混乱。私と同じだ。
神様は手から一万円札をぼろぼろと……って待って?!
もしかしてこれ、神様も混乱してる?! 神様なのに!?
……いや、神様でも混乱するか。そりゃ神辞めてまでついていきたいと思った相手にこんなこと言われたら誰だって混乱するわな。うん。
「えぇと神様、ちょっと待ってください、うん、お金出さなくて良いから。しまってしまって」
そう言って手をわたわたと動かすと、神様は捨てられた子犬の様な目でこちらを見てきた。
そんな目で見てこないでください、また混乱してしまいます。
んんっと咳払いし、情報分析。
神様は人間になれる。私と一緒に、『人間』として生きる。
……ん? ということは、私は生き返ることができるのか? 実はまだ死んでなくて、重体なだけとか?
「あの、一つ質問いいですか?」
「っ!なになに、なんでもいいよ!!」
おぉ、目をキラキラさせてこっちにきた……。まさに犬って感じがする。
「私は生き返ることができるんですか?……家族や友達、急すぎて別れすら言えていない人が多いんです。二週間していたら、お葬式とか終わってる気もしますし……」
多少どもりながら聞くと、神様は不自然に身を硬直させた。
何か問題が?
「……できないんだ」
「へ?」
「君という人物を、そのままこの世界で生かしておくことはできない」
話によるとこうだ。
曰く、私はこの世界ではもう終わった存在らしい。
全く別の人の赤ちゃんとして生まれてくることは可能だけど、容姿や年齢なども変わってくるし、今関わっている人……家族や友人とは無関係になってしまう。
これだけならまだよかった。
無関係になってしまうのは辛いけど、母親が働いていたパン屋さんをこっそり見に行って、友人がやっていたインスタをこっそりフォローして、それだけでよかった。
けれど、これはそれ以上に欠点があるらしい。
曰く、これは誰かの運命を歪ませる方法なんだって。
運命なんて信じないけれど、これはいけないことだって思った。
なぜならこれには、本当に生まれてくるはずだった赤ん坊の精神だけどこかに出して、自分が入り込んでしまうという方法と、元々好き合うはずではない二人を無理矢理くっつけて、その子供に自分が生まれてしまおうという方法しかなかったからだ。
よって、これは私が認めないため却下。
そういうと思ったよ、諦め顔でカミにそう言われた。どういうことだ。
「えぇと、じゃあ私は生き返れないんですね?」
「それは違うよ。君は、異世界で生まれ変わることができる」
「異世界……?」
異世界。
そう言えば、カミは、私のことを『この世界ではもう終わった存在』と言っていた。
ということは、異世界ならば、このまま生まれ変われる……?
推測を伝えると、ご名答、と返事が返ってきた。
成る程、これなら私は、誰にも迷惑をかけずに生きていくことができる。
その上、カミっていう心強い味方付きだ。
ここで死に絶えるか、私のまま生きるか。
一考して、宜しくお願いしますと頭をさげると、カミは嬉しそうに微笑んで言った。
「やった! 嬉しい! それじゃあ行こうか、『迷宮世界バトルロイヤル』へ!!」
「待って?!」
それ名前的に気にしなくちゃ駄目なやつじゃん!?