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第三話:愛する君のために

「……神隠しって、知ってる?」


 暫くした後、神様は小さく呟いた。

 うつらうつらとしていた私ははっと顔をあげ、首をかしげる。


 神隠し。

 かみさまが、人を拐って神域までつれていってしまうこと。

 子供が狙われることが多い。それがどうかしたのだろうか。

 ……もしかして、それに私が狙われた?


「今君は、神隠しされたと思ってる?」

「……違うんですか?」

「違うよ」


 違うのか、よかった……。

 昔話では、神隠しされた子供は帰ってこなかった。よかった、神様は私を拐ったわけじゃない。

 ほ、と息をついたのも束の間、次には不穏な言葉が。


「神隠ししようと思ったんだけれどね、誰かに止められてしまった。どうやら君には加護があるようだ。全く、忌々しい」

「」


 言葉もでない。なに? 神隠ししようとしたって? それ、したかったけど出来なかったから諦めた、ということですよね?

 え、え、と混乱するが、先ほどした、何をしても嫌わないという約束を思いだし、怒りを静める。びーくーる、びーくーるだ私。


「でもね、私は君がどうしても欲しかった。神隠しなんてできなくても、君が老いていくのを眺めるくらいなら、拐ってしまいたかった。側にいて、ほしかったんだ」

「……」


 さっき言ったこととは違う、私を考えた発言だ。でも、本質は気遣いじゃなくて、子供の我が儘みたい。

 何かが欲しいから手に入れる。相手のことなんて、お構い無し。

 なんでもできてしまうからだろうか。神様は、どこまでも貪欲だ。


「だから僕は、君を殺した。殺したら、神域に連れてこれるからね。神が死ぬはずのない人間に干渉するのはルール違反だけど、それでも僕は君が欲しかった」


 だから、と神様は言う。


「僕と一緒に、ここで生きてはくれまいか」


 ……。

 ここで、生きる。

 家族を見守れて、友人たちの一生を見れて、そして恐らく、ゲームだって買ってくれるし、美味しいご飯だって食べられる。最高だろう。


 神様が神域に連れていった人間は、いつまでも生きられるといわれる。

 不老不死、憧れている人も多いだろう。だがそれは、長く生きているうちに発狂してしまうほどの退屈を味わうものなのではないだろうか。


 家族が死んでも、私は死ねない。人類が滅んでも、私は死ねない。かみさまがしんでも、わたしは―――――――――。


「お断りします」


 私ははっきりとそう告げる。

 何が神。何が神域。

 どうして私が、そんなものに振り回されなくてはいけないのだろうか。

 私は、普通に幸せになって死にたい。これは、強欲なのだろうか。少なくとも、目の前の神様より、私は自分の心配をする。

 不老不死、なんて。

 私はそんな業はおいたくない。


「貴方がここで私に強要するのなら、私は舌を噛んで死にます」


 呆然とする神に、強く告げる。

 舌って噛んで死ねたんだっけ。痛いのはやだな。というか、もう死んでいた気がする。やばい。


「君は、私に逆らうのかい?」


 にっこり、どことなく威圧感を放ちながら神様は聞いてくる。

 あ、これ終わりました私の人生。殺されて終わりですね来世に期待してください。


「私に選択肢はないんですね」

「そうだね」


 それを聞き、私はじりじりと後ずさる。ここは危険。逃げなければ。


 後ろを向いて走り出そうとした瞬間、神様は声をたてて笑い出した。


「あは、っはははは!」


 正直気違いだと思いました、はい。

 神様が気違いになった場合の対処法を今すぐ検索したい。教えてGoo○le先生。


「……わかってた。わかってたんだ、君がそう言うことは」


 急に真面目な顔になった。成る程、気違いの気分は変わりやすいと言いますからね、やだ怖い。


「君をずっと見てた、そう言っただろう」

「……えぇ、そうですね」

「だから、わかってたんだ。欲がなくて、強い君は、僕の手なんて取らないだろうと」


 欲が無くて() 強い() ですか……。私ってばいつの間にそんないい人になったのかしら。


「だからね、代替案を考えたんだ。……これなら君も、きっと肯定してくれる」


 にっこり、という効果音が付きそうな笑顔で神様が言う。

 ……凄く嫌な予感がするのは私だけですか。

 次の瞬間。

 神様の手に握られた、死神の鎌の様な物が、背にある羽を切り裂いていた。


「待っ」


 止めようとするが、伸ばした手が届く筈もない。さっき自分から離れたからな。

 私の手は空を切り、その間にもう片方の羽も切り落とされていた。


 呆然とする私と、どこか狂気を抱くように笑うかみさま。


「これで僕は、もう神様じゃない。たった一人の人間だ。もう、」


 もう、孤独に泣く事はない。

 神様はそう、晴れ晴れと笑って言った。


 私はその笑みに見惚れ、呆然と神様を見つめる。

 神様は、そんな私を愛おしそうに見ながら口を開く。


「私は君から全てを奪ってしまった。だから、私も自分を―――神を殺した。……まぁ君は望んで奪われた訳ではないから不公平かもしれないが……。そこは君の優しさに免じて許してくれると嬉しいよ」


「どうか、僕と一緒に『人として』生きてはくれないだろうか」

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