第二話:ひとみたいな『かみさま』
……へ?
かみさまが、殺した?わたしを?
目立つわけでもなくモテるわけでもなく何事も人並みで人畜無害そうなこのわたしを?正直特徴解かなさすぎて凹んでるわたしを??
……いや、ないない。
思わず真顔でぶんぶん手を振ってしまった。
友達はいた。家族もいた。不自由なんてない、不幸なわけない。
小心者のヘタレだし、今までやってしまったことと言えば、一度親に黙って学校を欠席したぐらいだ。
私を殺したところで、神様にはメリットなんてないだろう。
「ごめんね、君はなにも悪くないんだ。普通に生活して、普通に死ぬはずだった。……僕が、間違っているんだと思う」
「えぇと、そちらの手違いで死んでしまったとか?」
「違うよ。手違いなんかじゃない、僕がわざとこうしたんだ」
なんじゃそら。
話が全くつかめない。ごめんと言うばかりで、肝心なことはなにも言ってくれないのだ。
残念ながら私は人間だから、神様の心なんてわからないんです。口でちゃんと言ってください。
「神様」
「なんだい」
「私は、謝られたいわけじゃありません。ただ、真実を知りたいだけです」
真っ直ぐに神様を見て言う。
こういうときは相手をしっかり見ないと駄目だ。誤魔化されて終わっちゃうから。
見続けていると、神様はなにかを恐れるように目をそらした。
が、逃がさない。
へたりこんだまま動かなかった足を動かし、神様の視線の先に移動する。
ここには、壁なんてない。
唯々白いだけの空間。……たぶん、神様のためにある場所なんだと思う。何を聞かされたわけでもないけれど、そう思った。
この空間なら神様は私になんでもできて、こんな追求躱せて当然だろう。
だけど神様はなにもしない。
今もまだ、何かを恐れていながらも、逃げようとしない。……多分、誠実な人なんだろう。逃げることは簡単なのに、逃げない。
本人の言う通りだ。
人間のように恐れ、迷う。
神様は全知全能なんかじゃない。
そう知ると、目の前のかみさまが、唯の子供のように見えてきて、小さく笑ってしまった。
それを見て、神様が首をかしげる。
そんな仕草も妙に人間くさい。
笑ってばかりじゃいけないだろうと思い。姿勢を正してかみさまを見据えると、神様はびくりと震えた。
私は口を開き、言う。
「カミって、呼びますね」
「……へ?」
「かみさま、私に『神様』って言われるの、嫌がってたので。敬語は外せませんが、そう呼ばせてください」
神様相手に不敬かもしれないが、仕方がない。神様があんなに嫌そうにしているのだから。
心の中で誰にともなく言い訳する。
「でね、カミ、私は強要したい訳じゃないんです」
「……?」
「唯、知りたいだけなんです」
「わかってる、けど」
「だから、」
私は息をすう。
目の前の子供に言い聞かせる。
「だから、話したいときに話してください」
「あなたの話を聞いて、私は怒るかもしれません」
「罵ってしまうかもしれません」
「でもね、」
「絶対に、嫌いになんてならないから」
「許してあげるから」
「話してください」
一言一言、ゆっくりと区切って言う。
かみさま。
わたしのはなしをきいてください。
わたしをみてください。
おそれないでください。
今の私の願いは、たったそれだけ。
ふ、と息をつき、目を閉じる。あとは神様を待つだけだ。