第零話:幸運スキルとは。
幸運スキル。
冒険者のスキルの内の一つで、罠の範囲を縮めるだとか、相手の動作を少し遅らせるといった、非常に地味な効果を発揮するスキルだ。
あってもなくてもいい、そんなスキル。
冒険者は皆、このスキルを絶対にとろうとはしない。
なぜならこのスキル、俗にいう『外れスキル』だからだ。
スキルレベルが一の時にできるのは、正直言ってほぼない。
二、三を越えて四になったとき、ようやくスキルが発動する。
だが、それでもまだまだ。
スキルレベルが四になったとしても、できるのはたまに相手の行動を遅くする程度の事。
十までいったら、危機の際に発動して命からがら、何て事もあるが、それでもやはり意図して出来ないため不便だ。
なんといったって幸運。足を滑らせても転ばなかったのも運だし、暗殺者に殺されそうになって危機一髪助かったのも運。
このスキルは気まぐれなのだ。
それからもう一つ、幸運スキルが敬遠された理由。
それはスキルの成長が遅いことだ。
昔、このスキルを興味本位で取った賢者がいる。
賢者というのは、一定のランク以上まで達した人間で、攻撃系でないスキル-----例えばバフ、デバフ効果のあるスキル-----を育てるのを得意とする者のことだ。
その賢者は、二百二十三まで生き、二百年以上かけて幸運スキルを育てたが、スキルレベルは十二までしか上がらなかった。
これでわかるだろう。
二百年でレベル十二。単純計算で、一レベル上げるのに二十年ほどかかる。
よって、ランクが千上がるごとに一つしか貰えない大事なスキルを、そんなものに費やすわけにはいかないのである。
スキル≪幸運≫、≪跳躍≫、≪支配≫。
『外れスキル』と呼ばれるそれらは、とらない。取るのはよっぽどの変人か研究者のみ。
それが常識だった。
あの日、一人の少女が現れるまでは……。