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計り知れない力~魔法の目に映るもの~  作者: 終久りむ
第1章 求めるもの求められるもの
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第9話 感覚訓練

     第1章 求めるもの求められるもの

     第9話 感覚訓練




 颯太は水属性の魔法を扱えるようになった。それと同時に扱えるようになった座標の力の方に可能性を見出しながら訓練に参加し始めた。

 

 

 短い挨拶を済ました颯太とガスパールは、訓練場の入り口から見て奥の方へ歩いていた。

 

 「この訓練場は普段、2つのフィールドに分かれている」

 「見た目は分けられたようには見えないね」

 「まあな。傷を自動で癒すフィールドが奥の半分、そうでないフィールドが手前半分だ」

 「それはまた便利な機能であると感じます」

 「口調がまた変だぞ」

 「ああ、ゴメン」

 

 そういうわけで、入口方面の激しく一騎打ちをしている人たちを横目に、剣を振ったり魔法を放っている訓練中の人の付近に来た。

 剣は見ているだけで重そうだ。ある女性が剣に振り回されていた。

 

 「ソウタはソードを持つのは初めてか?」

 「実際の剣に触れるのは初めてだよ」

 「じゃあ基本の構えと素振りだな」

 

 渡された1mくらいの長さの剣を右手に持つと、高校の剣道の授業でやった中段の構えをした。

 試しに一振りしてみたら、思っていたよりも軽かった。この体が異常なのだろうか。

 日本刀が1.5キログラムくらいだから、こんなものか。

 

 「タクマもそんな持ち方をしていたな」

 「それ多分拓也さんだね」

 「そうだタクヤだな」

 「同じ場所出身でね。学校で必ず練習する一般的な剣の構えだよ」

 「慣れていて変えようがないならそのままの構えでいいが、一応俺ら共通の構えを教えておこう」

 

 ガスパールは左半身を後ろにずらし、剣先を体の後ろに隠した。

 脇構えの左右反対の型と言うとしっくりくる。

 さっき見た女性は、八相の構えをしていた。男女別の構え方が決まっているのだろうか。

 何度か振って見せてくれて、ガスはこっちを見た。

 

 「実践じゃ小さい刃物持ってるからな。接近戦で右半身はだいたいそれで補う」

 「なら早く直剣の扱いに慣れて右側守りたい」

 「繰り返すが下手に型を変えなくてもいいんだぜ」

 「いいや、どうせなら変えよう」

 

 特別剣の道にこだわりがあるわけではないし、タイトルがやたら短い本に不思議運命を期待するような軽い姿勢で構えを変えた。

 それからはガスパールの剣の振り方を真似て、ひたすら振った。

 特に雑な素振りをしても何も言われないが、ガスパールは剣が風を切る音を聞いて良し悪しを教えてくれた。

 こういうのは論理的に説明するより感覚の方がよっぽど良いと互いに分かっていた気がする。

 踏み込み方やいざというときの剣の投げ方も教えてもらった。剣は中々投げにくいものだと知った。

 また刀身の長さも取って試し続けた。今のところは1.10mのものが腕に合うと感じた。

 そうこうして時間は経ち、俺とガスパールは早めの昼飯を摂ることにした。


 

 男子寮の食堂が人でいっぱいになる前に、食事をさっさと済まそうと考えていたが、今日のメニューがグラタンという早食いをケガさせる熱さにより熱冷ましの会話を挟むことを余儀なくされた。

 こんな言い方をしているが、別にガスとの会話が嫌と言うわけではない。

 でかくて分厚い男が今より多く集まって、視覚にこれ以上熱さを伝えたくないと考えているだけである。

 テーブルフォークを使って表面のチーズに切り込みを入れ、内側の肉汁とパスタの油に冷たい息を吹きかけ冷ます。

 

 「午後からは魔法の練度上げだ。ソウタの得意属性は何だ?」

 「水属性だよ。少々弱めの出力だと言われた」

 「水か。出力なんて積み重ねでどうにかなる。そうか水か」

 「どうかした?」

 「いや、オレの得意属性は風だからな。どう教えようかと考えていた」

 

 俺の指導役だから同じ得意属性と当然のように推測していた。

 さっき魔法の覚醒を行ったばかりだし、指導役の指名と順序が逆になったということか。

 

 「魔法のことはよくわからないけれど、体を廻る魔力の感覚が同じなら感覚を教えてくれれば十分かも」

 「んーそうだな。変に混んだ話は苦手だからな。手本を見せればいいか」

 「なんとかなるね」

 「なんとかなるだろうな」

 

 なんとかなる。この意識は根拠のない自信となり人を前に動かす。

 感覚で教えてくれるといっても、伝わる教え方だからお互いの感覚の違いを楽しみながら動きを確認出来て暇にならない。

 ガスが良いと考えるであろう動きを意識してみると怒られるし、いい動きをしているときに限って無意識であることが多い。

 剣を振るという単純作業に、頭と体を往復する動作1つ1つに対しての微小な意識の差が面白い。

 

 「なあソウタ、前まで住んでた世界はどんな世界なんだ?」

 「急だね」

 

 こんなこと聞かれると思って、無難な回答は用意してあった。

 

 「球体の大陸のくぼみに海水が浸されていて、陸で75億人位の人が住んでる。動物や植物がたくさんあり、みんな重力で大陸側に押し付けられて生きているよ。あと魔法なんてない」

 「んー。世界の構造が違いすぎて想像しにくいな。海水ってなんだ?」

 「しょっぱい水かな。大量の小さな生物がいて、海を泳いでいる生物はそれを食べて生きているよ。地球の表面の7割は海」

 「さぞかし水の音が煩いんだろうな」

 「そうでもないさ。基本ゆったりしているよ」

 「そういうものか」

 「そういうものだね」

 

 人間が生きていることは変わらないから、やることもそんなに変わりはない。その辺の話もしておいた。

 食べ物や寿命や、それからこちらの世界とは全く異なるであろう命の価値についても簡単に話した。

 聞かれることに全部返答すること23回、グラタンを胃の中に全て入れ、コップの水を口に流し込んだ。

 

 「さて戻ろう。午後は魔法の基本練習だ」

 

 長い食事も悪くないと颯太は考えなおした。


 

 午前中より4人少ない訓練場に戻って準備体操が終わった頃、ガスパールが片手に葉っぱと花を掴んで俺の所に来た。

 屈伸し終わって顔を上げるとガスパールは言った。

 

 「まずは綺麗な円を描くことから始めよう。こんな感じだ」

 

 ガスは左手を前に出し、右手に握っていた葉と花をその先に投げた。

 すると葉と花が交互に並んで輪を作り飛んだ。

 浮かせていると言うと支えている力が目に見える。

 しかしガスの目の前の葉と花はゆったりと重力を忘れたように飛んでいた。

 

 「風は見えんからな。水は目に見えやすい。同じようにやってみな?」

 「わかった」

 

 右手を前に出し、体内の魔力を右手に集中させると、バレーボール位の大きさの水が歪な形をして揺れ動きながら発生した。

 今ので水を発生させるコツはわかったものの、形の調整が難しい。

 こういう作業はイメージが重要。ひとまず片手から両手に変更し、目を閉じ、とある海峡の渦巻きを脳内で再現してみた。

 綺麗な輪の実現は難しいが、輪に近い形で動きのあるものなら想像できる。

 そしてその想像は創造できると確信した。

 渦の重心と半径を一定に維持しながら一度作った勢いを利用しながら連続して回す......あれ?

 これもしかして座標使った方が簡単なのではないだろうか。

 

 「おお。すげえなこりゃ」

 

 ガスの声が聞こえてすぐに目を開けると、目の前に俺の身長ぐらいの水の竜巻が出来ていた。

 ただ下の方の形が歪だった。確かにイメージした渦の部分は上の方に出来上がっている。

 竜巻や渦巻きと例えるならば下の方はこのまま暴れまわらせてもいいけれど、気に入らない。

 イメージ通りにまっすぐな形になっていないし、ガスがさっきからこの水の渦に当たりそうになっている。

 一生懸命に避け続けるガスを横目に、次は座標を展開して、筒状に回る水を作ろうと考えた。

 竜巻の上の回転の勢いを竜巻全体に分散させる。

 座標があると幅と高さの調整がとても簡単だ。

 形を素早く変えず、ゆっくり慎重に回しながら整えるこの作業に覚えがあり、思い返してみるとそれは妹と行った陶芸体験だった。

 上手く筒状になってきているとは言っても、慎重さを忘れず原点の光と対象点の光を竜巻の中心部分に間隔を大きく広げて置いた。

 

 「なかなか良い感じじゃないか!」

 「かなり微調整が上手いな。おっとあまり声を出さん方がいいか」

 「構いませんよ。段々慣れました」

 

 知らない顔の先輩たちが何人か集まって見物している。これじゃ大道芸人だ。

 微調整が上手いと言われると確かにその通りだろう。半径1m、高さ3mをずっと維持しているから。

 勢いを利用した調整は、必然と規模も大きくなってくる。

 そして規模が大きくなるにつれて、体の怠さが徐々に増してきた。

 王座の前で注意された魔力の出力の小ささを思い出したが、水の量はまだ減らさない。

 十分に筒状で回り続ける水の塔が出来たところで、高さを少しづつ小さくした。

 魔力も同時に少しづつ体に戻し、高さが10cmになったところで維持した。

 この輪の感覚を掴もうと見つめて30秒、座標を視界から消してガスパールの方を見た。

 

 「ガス、こんな感じでいい?」

 「操作の工程がややこしかったが、一つ一つ綺麗にできていたし、結果もばっちりだ」

 「それは良かったよ」

 

 正直かなり疲れた。何リットル分かわからないが、この程度の水の量で制圧できる人の数なんて良くて1人だろう。

 褒められる事は嬉しい。けれど自分の得意魔法がこの規模じゃ残念極まりない。

 

 「おい新人君、魔法を使い始めて何日目だ?」

 「ソウタです。今初めて使い始めました」

 

 見物者達が皆一様に驚いているということはまずまず良い結果ということか。

 まあ始めたころの物事は他人から褒められるなんてよくあることだ。

 挫折させないためとかやる気の保持とか。これらは同義か。

 けれど、護衛者達はそういう建て前発言を嫌うのだったな。

 

 「ガスパールの指導が格別上手かったからね!」

 「ほお! お前がぁ?」

 「俺らにも教えろよぉ!」

 「へぇ、あんたガタイが良いだけの男じゃなかったのねぇ」

 「オレの指導の仕方、あんたら知ってるだろ?」

 

 先輩達は俺の冗談がわかっているのかいないのか。

 ガスは若干困った顔をしながら誤魔化していた。

 ガスがいじられ役であることは今の様子で分かった。

 

 「水は風で風は水? 哲学指導か何かか?」

 「......。」

 

 先輩達、振っといてなんですがガスの顔がちょっと怖いのでそろそろその辺で。


 

 「しばらくはこうやって得意魔法の扱い方に慣れることが大事だ」

 「想像と実現のギャップを感じている」

 「初めはそうだとも」

 

 先輩達は一騎打ちという名の娯楽のために訓練場入り口方面へ戻って、俺はガスの風の形を真似する作業をひたすらに熟した。

 単純な図形の表現から、物を切るような実践的な魔法まで魔法の基礎の動きを沢山した。

 

 「オレがここに来たばかりの頃、指導役をぶっ飛ばしてたからな。ぶっ飛ばされもしたが」

 「それだけ魔法の瞬間出力と容量が大きいなんていい事じゃない?」

 「いや、その頃は人を1人分しか持ちあげれないような力だった。今はその頃の何十倍も上手く早く強く扱える」

 「ほぉ。訓練内容が気になる」

 

 訓練期間の長さよりも訓練内容が純粋に気になった。

 王が言っていた努力次第ということが、単に魔法を繰り返し使っていれば強くなるという意味だとは限らないからだ。

 そして気になると言った時のガスの悪い顔を俺は見逃さなかった。

 

 「えっ、いきなり鬼の特訓が始まるの?」

 「オニというのが何か知らないが、大した事じゃない。気絶するだけだ」

 「なぁんだ。ん? 気絶?」

 「体内の魔力を全部吐き出すと気絶する。だが、これを繰り返すと魔力の内包量はどんどん多くなる」

 「もっと効率的な方法はないのです?」

 「チマチマさっきみたいに魔法を練っても技術が上がるだけで瞬間出力や魔力容量はさほど増えない。気絶するまで使えばかなり効果はあるぞ」

 「かなり?」

 「かなりだ」

 

 俺の得意魔法についての問題点をすぐに解決できるならば喜んでやろう。

 解決されないようならマリアさんにでも言ってやろう。

 

 「どんな形でもいい。魔力で水を出せるだけ出せ」

 「わかった」

 

 膝を曲げ、両手を突き出し、視界の座標も消して、魔力と集中力を目の前に集中した。

 魔力のコントロールが効かなくなるまで最後の一滴を絞り出した瞬間、頭の中でプツンという音がして脚の力がなくなった。

 後ろに傾いてゆく視点をガスの方に向けると、まるで自分が昔やられた嫌なことを後輩にやらせているような嬉しそうな顔が見えた。

 もしかして騙された? いやさっきのやり返しだろう。それにしても頭の中のプツンという音が余りに心臓に悪すぎる。

 全身が麻痺した状態で盛大に倒れた。


 

 訓練場サイドにある観覧席で目が覚めた。

 空は夕方になりかけの青色と茜色のグラデーション。

 寝ていた時間は30分か1時間かといったところ。

 ガスは他の訓練中の女性のサポートに参加しているようだ。

 俺もそこに向かおうとしたが、体が重くて尻が浮かない。

 しばらく眺めておこう。腹が減った。

 

 その赤毛の女は火属性の魔法が得意らしい。熱風がこちらまでくる。

 20mまで平気な顔で火を飛ばしているところを見て、彼女のような人が護衛者の中でも重宝される人だろうなと遠い眼差しを向けていた。

 今はガスと50mほど離れた位置で風と火の押し合いをしている。

 どっちも同じ勢いの魔法で均衡していて、どちらが勝つのかと周りの先輩達も期待の目を赤くして眺めている。

 赤毛の女の方を見ると、一瞬だけ目が合った気がした。それだけ余裕なのか。

 いや、赤毛のほうが辛そうな顔をした。どうもガスは手加減をしているらしい。

 最後は風が火の外側をすっぽり覆い、ガスの圧勝で終わった。

 見ていて圧倒する魔力量を前にして、あの場に立つことはあるのだろうかと重たい体に語りかけた。

 静けさが広がる訓練場の真ん中で、悔しそうに俯く赤毛の女の姿がとても印象に残った。

 

 赤毛が俺を指さし、ガスパールは俺が起きていることに気が付いた。

 俺が起きていることをガスに教えてくれたのだろう。ありがとう。

 

 「調子はどうだ?」

 「最悪。体が重たすぎる」

 「だろうな! これから訓練の最後にこれをやるから覚悟しておけ!」

 「どうも体を改造している感覚が怖いんだが。なんだよあのプツンッて音」

 「もとより訓練とはそういうものだ。安心しろ、帰りは肩を貸してやる」

 

 少々興奮した様子のガスの肩を借りながら寮の食堂に戻ることにした。

 帰り際に少しだけ回復した魔力で座標を展開して見た赤毛の女の俺に対するヘイト値が90であるのを目にして殺気を感じ、早歩きで訓練場を後にしたのだった。

 

 食堂に着いてすぐに飯をもらい口に入れた。今日のメニューはご飯に肉とタレをのせただけのシンプルな丼ぶりだった。

 野菜も言えば出るらしく、おかわりも自由なので、今は2セット目の丼ぶりと野菜を食している。

 すると向かいでゆっくり食べているガスに注意された。

 

 「魔力の枯渇と空腹の感覚はかなり似ているから留意しておけよ。がっついて吐くやつ何人も見ているからな」

 「そりゃいいことを聞いた」

 

 後で吐き気がくるあれだな。焼肉食っている途中でそんな感覚あったような気がする。

 忠告通りスプーンのスピードを落とした。

 落ち着いたところでさっきのことを聞くことにした。

 

 「俺が寝ている間、何してたの?」

 「あー、エミリーとかいう名前だったか? あの赤毛娘の出っ張ったプライドを折ってやった」

 「大丈夫なのそれ?」

 「あのままじゃ成長しないと確信したからな。護衛者として必要なことだ。それに慰めが必要なら今頃指導役のエイダが傍にいると思うぞ」

 「本当は?」

 「暇だったから。と言えばいいか?」

 「真面目でお節介を焼く人は苦手だから」

 「気に入らなかったのは事実だぞ?」

 

 今日1日でガスパールが俺の指導に本気になっていることがわかった。

 あの赤毛のように自惚れず、毎日訓練に励もう。せっかく出来た指導役であり友人だ。俺も本気でやろう。

 それもこれも、全ては俺の平和な暮らしのためなのだ。

 

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