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2.境界線
その子は自分のことを『佐羽』と名乗った。
鏡の世界では自分一人だということ。
寂しい時はいつも鏡をのぞく僕を見ていたこと…。
静かで怖い世界だから僕たちの世界にあこがれていたこと。
なぜか自分だけ鏡の世界に生まれ落ちたこと。
不思議なことだらけだった。
聞いていてうなずいてあげることしかできなかった。
「お願いこっちに来て…少しでいいから」
こっちに来てって言われて鏡の前までしか行けなくて悔しかった。
何とか悲しみに苦しむ心を包んであげたかった。
でも佐羽は僕が鏡すれすれまで近づいて彼女自身の存在を見つけてくれたこと
にすごく喜んでいた。
そして僕たちは鏡越しに見つめ合い
また会いに来るねと約束した。
この時ほど鏡の向こう側に行きたいと思ったことはなかった。