テンプレは目の前にあった……
今回は、気付いたら倍くらいの長さになっていました。
2月29日 本文の改稿を行いました。
ソード・ゴブリンを倒したという感動がないまま、俺はシステムと言い合っていた。ちなみに、助けに入った原因である少女たちのことは、頭から抜け落ちている。
「(血の色は……置いといて、"変異種"って巡り合いやすいものなのか?)」
【さあ? 私に聞かれても、分からないですしー…
それに、貴方が無知なのが、いけないのでしょう?】
やっぱりシステムには、知らないことがたくさんあると──。
そんな会話を脳内で行いながら、俺は地面に落ちているドロップアイテムに視線を向けた。この場所から見えるのは"何時ものビー玉"と、借りていたショートソードより長い『刃が120cmくらいある長剣』だった。
しかしながら、武器がドロップするってのはどうなんだ? 流石、ファンタジー……と言うべきか?
ビー玉を口に放り込み、噛むと何時もの言葉が聞こえてきた。
「(この"ビー玉"ってなんだ?)」
【さあ?】
一言で答えられてしまった。「さあ?」って何よ!?
「──あの、お怪我はありませんか?」
システムと言い合っていて、彼女たちの存在を忘れていたようだ。おずおずと話しかけてきたのは、魔術師っぽい女性だ。
無理矢理だが、胸元はタオルで隠されている。その事実が妙にエロっぽい。ポッチは隠れているが、谷は見えているので逆にエロいかもしれない。
「ああ。大丈夫──俺に怪我はないから」
落ち着いてと右手を彼女に向ける。俺の返答に満足したのか、嬉しそうな笑顔になる。こういうのを何と言うのだろうか? 『花が咲くような』とでも表現するべきか?
……俺に気があるかも? と、勘違いしたらどうしよう?
【そんなことは、有史以来ありえませんので、勘違いなんて恥ずかしいことしないでくださいね?】
俺の脳裏には、システムの黒い笑顔が浮かんだ。あながち間違っていないと思う。昔から何度も、女性の笑顔に勘違いさせられてきたから。
「もう1人の剣士は大丈夫なのか?」
紅くなっているだろう顔を彼女から反らし、ソード・ゴブリンに吹き飛ばされた女性に話の流れを向ける。注意の矛先を反らすのも目的の1つだが、深刻な異常が出ていたら不味い。
「はい。呼吸が変──とかはないので、問題ないと思います」
剣士の女性の近くに膝をつき、顔に耳を近付けて呼吸の確認をしている。その長い髪が、彼女の頬に触れたとき、微かに身動ぎした。気を失っていたが、もうすぐ目覚める感じかな?
─Side:女剣士─────────────
わたしは、ごくありふれた村の、普通の両親の元に生まれた。特に裕福と言うわけではなかったが、父さん・母さん・姉さん・弟と、多少のケンカはあっても仲は良かった。
わたしが14才の時に、父さんがモンスターに襲われ、大ケガを負った。一家の大黒柱たる父さんが、家で寝たっきりになったのは家族の生活に大きな打撃を与えた。弟は食べ盛りだったのも大きいし、わたしに至っては不器用だったので、剣を振るくらいしか出来なかった。
それでも、姉さんは村一番の器量よし。一番近くにある町の商家の息子に嫁に行っていた。本当に自慢できる姉さんだ。義兄さんたちの家族にも良くして貰っていた。安く薬を手配してくれたり、食料を融通してくれたりと……。
剣を振るくらいしか才能のないので、少しでも力になれるように、冒険者を選んだ。冒険者の登録は15才から。年が明けて春が来たとき、ギルドの門を潜った。
半年の間、たくさんの依頼をこなし続け、冒険者としての初心者を卒業した。登録時に説明されたが、最初の級の間は収入が低く、生活を維持し続けるのが大変だった。
運命の転機は昇級して、初めての護衛依頼だった。知り合いの冒険者も受けている事に安心しきったわたしは、商人と偽った『奴隷商』に引っ掛かってしまい、"奴隷"になってしまった。
無論、その知り合いの冒険者が奴隷商と癒着していたのは間違いないだろう。奴隷になったのは、わたしだけだから。
──ちなみに奴隷になったのはつい最近のことだ。
その中で、エルフの女性と出会った。彼女もわたしと同じ『違法奴隷』というもので、奴隷狩りにあったらしい。
"らしい"というのは、彼女から聞いた話しからしか判断できなかったからだ。詳しく話を聞けるほど、仲が良いわけじゃないからね……。
──そして、2度目の運命の日、私たちはソード・ゴブリンの率いる群れに襲われた。群れと言っても6匹だが、初級を越えたばかりのわたしには強敵だ!
わたしを騙し、彼女を家族から奪った奴隷商たちは、襲撃の第一波で反撃もせずに死んだ。弓による遠距離攻撃なら仕方ないと思うが、投石で呆気なく死ぬのはどうなのだろうか?
……まあいい、悪事を働いた報いだ!!
そんな事より、彼女を守らなくては!! わたしと違い、戦う術が無いのだから! わたしは"奴隷の首輪"を着けさせられ、魔法を封じられているが、剣を持ち戦うことは許可されている。
彼女は武器もない、薄い布の服しか着ていない! 魔法が使えないエルフは、ゴブリンにとっては格好の獲物だ!!
………
……
…
彼女の前に立ち塞がり、剣を抜きゴブリンたちと対峙してどれくらいの時間が経ったのだろうか?
今のところは拮抗した状況だが、戦っているソード・ゴブリン以外は傍観している状態だ。取り繕っても意味がないな。圧倒的にわたしの方が不利だ!
幸か不幸か、ゴブリンたちは一気に襲いかかってこず、獲物をいたぶるかのように、散発的な攻撃しかしてこない。最初の攻撃で1匹倒せたことが大きいのだろう。
それだけに、此方を嘗めているわけではないのを、理解してしまっただけに苛立ってしまう。焦るほど、向こうの有利になると分かっているのだが……落ち着くことが出来ない!
取り巻きゴブリンの挑発行為で焦ってしまったせいで、攻撃が雑になったところを反撃され、私は吹き飛ばされた!
普通なら、何度も地面の上を跳ね転がるのだが、壁……いや崖の下で陣取り、戦っていたので遠くに飛ばされることはなかったが、壁で背中を強打してしまった!!
「カハッ!」
内臓にダメージがあったようで、吐血してしまった。不幸中の幸いにも、食事事情は悪かったため、戻さなかったのは女性として助かったのだろう。全く歓迎できない事実だが!!
ダメージが思ったより大きく、少しずつ視界がぼやけてくる。
───────────────────
少しずつ、彼女に動きが出てきた。目が覚めるのだろうか?
「──ん、……んん──」
「目覚めるようだな──」
「良かったです」
俺の言葉に続いて、彼女が笑顔になる。その顔を見る限りでは、ホッと安心しているようだ。女性同士、仲が良かったのかもしれない。
俺たちは、剣士の女性の顔を覗き込む。反応が少しずつ活発になってくる。瞼がピクピクっとしたら、ギュッとキツく閉じる。
「ー…ああ! 大丈夫!?」
華の咲くような笑顔で、女剣士に話しかけます。
【何故、敬語なのですか?】
何となく??
「……ん。ちょっと、フラフラするけど──」
額に手を当て、目の付近に影を作っている。森の中だが、木漏れ日が意外と眩しい。上に近い方向から光が射し込む以上、仰向けで寝ているから仕方がない。
もう少し時間を与えたいが、他に生存者がいるなら助けるべきだろう。「謝礼金目当てか?」と聞かれても、「違う!」と断言できない辺り、自分の黒さを感じてしまう。
「いきなりですまないが、君たち以外の生存者はいないのか?」
女剣士は俺の存在に、やっと気付いたようだ。そして気付いたのだろう、俺がゴブリンたちを倒したことを……。視線を左右に動かしている。
「──まさか、あんたが助けてくれたのか?」
「ああ。流石に数が多くて、時間がかかったがな──」
俺が助けに入るまで、かなりの無茶をさせたのは事実なので、女剣士に謝った。いくら倒す毎に強さが増しても、相手も意識のあるモンスターである。応戦してきたり、反撃をしてきたりと大変だった。
「──いえ。私たちが助かったのは、紛れもない事実。ありがとう」
魔術師っぽい女性に支えられ、上半身を起こす。その彼女に、地面に落ちていたショートソードを返す。刃の部分で手を斬らないように注意することは忘れない。
「これは君の剣だろ? 落ちているのを、勝手に借りてしまった」
「そのお陰で、私たちが助かったのだから、文句は言わないわ」
結構サッパリとした性格らしい。システムのような性格じゃないのは、俺にとってはとても有り難いことだ。
【結構な言い分ですね──】
そんなシステムの文句を無視して、ソード・ゴブリンがドロップした武器を装備する。禍々しさとかは感じない。
「(──ゴブリンソードって、ところか?)」
腰に差すには少し長いので、背中に背負うことにした。長さ的にも、バランスとしても問題ない。何故か鞘に付いていたベルトを肩から交わし、胸の前で留める。カチリと金具が噛み合い、体にピッタリと引っ付く。
「(しかし、コイツの鞘って──何処から産まれるんだ?)」
地面に刺さっていた時は、剥き出しの刃が光輝いていた。しかし、地面に刺さっている剣を抜くと刀身には黒い霧が集まり、固定化されて鞘に覆われた状態に変わった。
抜けるかを確認するのに柄を握る手に力を入れると、鞘だけが黒い霧になり霧散した。このときは、理不尽といえる現象に閉口した。
「(──『ファンタジーだから』で片付けていいのだろうか?)」
そんな風にゴブリンソードを振り回したり、突いたりと動作確認を行う。鞘のまま背中から抜いたり、剥き身から鞘付きに変化させながら上下に振ったり、様々な動作を繰り返す。
分かったのは刀身が120cmくらいあるので重く、振り回した際は慣性の法則が強く出て、小回しが利かない点だろう。昔に読んだ、西洋武器の本で記憶している範囲では、重量が8~9kgくらいはあったと思う。実際はもっと重いのだろう。力が増えているので、それほど重く感じないのは嬉しい。
動作確認している間に、女剣士は生き残りがいないの確認をして来たようだ。手には麻袋が下がっていた。必要物資の回収をしてきたのだろう。
「──どうやら、私たち以外の生存者はいないようだ」
顔を伏せ、力なく左右に振る彼女を見て、俺は大切なことを思い出した。後でも構わないが、何時までも"女剣士"や"女魔法使い"と心の中で呼びたくはない。
「あ~今更になってしまうが、俺の名は"アス"だ。2人の名を聞いていいかな?」
俺の言葉に2人は顔を見合わせ、少し笑っていた。元から落ち込んだ様子はなかったのだが、美人さんには笑っていて欲しい。
「私は、剣士のメリッサ。"元"冒険者だ」
「私は、ルーナです。見ての通り、"エルフ"です」
メリッサは冒険者だったらしい。頭の上でピョンっとと飛び出したアホ毛が上下に動いた。ルーナは耳元の髪をサラッと除けて、俺にその特徴的な耳を見せた。色っぽさを感じ、その仕草に「ドキッ」としたのは秘密だ。
【鼻の下を伸ばしていないで、早く町に帰りましょう! 暗くなる前に、町に着きたいです!】
──鼻の下を伸ばしてはいない!! そう言いたいが、ルーナに見惚れていたのは事実で、反論のしようがない!!
「町までは近いと言っても、暗くなる前に着きたいから、移動を開始しても構わないか?」
俺は早口で2人に話しかける。
頷いたのを確認した俺は、先頭を歩き彼女たちを先導する。森の中から出るまでにも結構な時間がかかった。
日が地平線に見える山々に消え去る前に、なんとか町に辿り着くことが出来た。門の前に見えるのは、門番の兄さんだった。
「おう、意外と遅かったじゃないか! どうしたんだ?」
「そこの森の中で、ゴブリンの集団に襲われた人たちがいたようなんです。その生き残りが、後ろの2人なのです」
俺の言葉で、背後にいた彼女たちに視線を向けた。
「そうなのか──。運が良かったのか、悪かったのか──」
兄さんの顔は、辛そうに歪んだ。襲われたことは不幸だが、助かったのは幸運に違いない。そう思わないと、この世界では生き辛いだろう。
何気なしに自分のカードを懐から取りだし、兄さんに渡す。動きのない2人を不思議に思い、彼女たちに振り向く。
「そういえば、2人はカードを持って────「お嬢さんたちは、奴隷だったのか!?」ー…はい?」
2人に向けていた顔を、兄さんの方にゆっくりと向ける。ギギギギ……と、油の切れたドアの蝶番のような動きになった。
俺の脳内は、「2人が奴隷? なにそれ? どういうことなの?」っと簡単に混乱していた。
「お嬢さんたちにも、思うところはあるだろうが、出来るなら彼とは仲良くしてやって欲しい」
兄さんはサッパリとした笑顔で、メリッサとルーナに笑いかける。どうにか思考が働きかける。
「(──え~っと、小説で良くあるパターンってヤツ?)」
混乱の極みにある俺は、現実逃避をしようとしたが──。
「「よろしくお願いしますね? ご主人様!」」
メリッサとルーナの心からの笑顔がそれを許さず、さらに追い討ちをかけたのは、何を隠そう──俺のスキルだ!!
何時もに増して、俺の心を抉ってくれた!
【条件を満たしました。〈俺のモノは俺のモノ、お前の全ては俺のモノ〉が解放されました。】
──はい? 何故此処で、ジャイアニズムが出てくんの?
【固有能力 【ヤル気セット】の初期条件の全項目の解放を確認しました。
【ヤル気セット】はLV2に上がり、新たな項目が出現しました】
──なんのことじゃコレー!? っと、自分のステータスを見た俺は、さらに心の中で叫んでいた。
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アス
LV8
HP:320
MP:126
力:75(+33)
体:90(+42)
速:76(+33)
魔:42(+12)
ユニークスキル
【ヤル気セット】LV2
システム鑑定LV2
ヤル気LV2
ヤってやるぜ!LV2
黄金比はボン・キュ・ボンLV2
逝忠気枡LV2
黄金率はプニ・ペタ・ストンLV2
俺のモノは俺のモノ、お前の全ては俺のモノLV2
??
??
??
??
??
スキル
〈異種族交配〉LV3 (3/30)
〈肉体美〉LV3 (3/30)
〈剣技〉LV2 (18/20)
〈自慢の上腕筋〉 (1/10)
アーツ『飛刃』『強撃』
奴隷
メリッサ
ルーナ
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意味不明なスキルが増えただけでなく、新たな『??』項目が5つも出現している!? サモハン!?(意味不明)
混乱はさらに深くなり、俺は内心で焦るばかり。1番の不安要素が【ヤル気スキル】というのが救われない!!
この場で、orzになりそうな自身の心をなんとか支え、表面上は取り繕い3人に尋ねる。
「俺、契約した覚えは……ないんだけど?」
「何を言っているんだ? 奴隷は"法律"では『モノ扱い』なんだぞ? 主人なしの状態を入手したら、アス──お前が主人なんだ!」
「門番のお兄さんの言う通りです。私たちは、貴方様の従順な奴隷──如何様にでもお使いください」
ルーナの言葉に驚愕し、隣のメリッサを見ると「うんうん」と頷いている!? ちなみにメリッサのアホ毛も、うんうんと上下に動いている。
【やるじゃないですか! この変態♪】
──四面楚歌(一面はシステムだが)──そんな言葉が、俺の脳裏に浮かんだ。ナゼ、コウナッタ……。