心の中で叫び続ける俺!
ギルド登録です。
2月19日 本文の改稿を行いました。
門番に許可証を貰った俺は、広場に続く道を歩いている。見るものが珍しいので、先程から左右に目移りしてしまう。「コレは、毒を吐いてくるだろう」と思ったとき、吐かれてしまった。
【いくら田舎者でも、今の貴方のような不審者はいないので、キョロキョロしないで下さい!】
不審者ってどういうことだよ!? 感心しているだけだよ!
声を出さずに、心の中で叫んだ俺を褒めて欲しい。
【ほら! 100m先にギルドの看板が見えるでしょう? さっと逝きましょう】
『逝く』と『行く』間違ってない? そんなツッコミを入れる前に、ギルドの前に着いた。
『ギルド ユリシーズ支部』
この『ユリ』って『百合』ではないよね?
【そんなはずはないでしょう? そんなこと言ったら、王都の『ゲイリオン』は、ゲイばっかりになります!】
それはそれでヤダな──。俺は気持ちを切り替えて、両開きの扉を開ける。西部映画でよくある、ウェスタンドアというやつだろうか?
それとも『壊されることを前提とした扉』なのだろうか?
気持ちを切り替えて、門での確認時に気になったことをシステムに聞いてみた。
なあ、それにしてもこの世界って、共通語は『日本語』なのは何故だ?
【さあ? 私に聞かないで下さい】
本当に役に立たないな──そんな言葉は、心の中に封じ込める。それは、酷い言葉が待っているのが分かるからだ。
ギルドの中は小説に出てくるように、正面には受付があり、向かって右には掲示板があった。あれに依頼が貼られているのだろう。
反対側には、テーブル席があり数人のグループで分かれて座っている。きっと彼らは、パーティー毎に座っているのだろう。
何故か真っ昼間から酒を飲んでいるヤツがいる。
【登録受付は向かって右側の2つ目らしいです。さあ、早く登録をすませましょう!!】
システム鑑定からの倍プッシュ!! ただ休みたいから、急がせるだけって言うのが、少し残念である。
緊張していた俺は気合いを入れ、空いている受付に向かう。その瞬間、背中に寒気が走って「ビクン!」となった。ナニガ、オコッタ?? 周囲を見るが、普通……平穏だ。
「すみません。冒険者登録をお願いしたいのですが?」
こういう時って、最初が肝心なんだ。砕けた口調より、丁寧に話した方がトラブルが少ないと経験から知っている。俺の場合は、ほとんど巻き込まれる方向だったけど。
「登録ですね? 登録料として1000円かかりますが、よろしいでしょうか?」
俺は受付嬢の言葉に頷き、ポケットから銀貨1枚取り出した。
それにしてもこの姉ちゃんはヤバイ!! 何がヤバイって? 服装がだよ!!
【いくら胸元が大きく空いた服装だからって、胸をじっと見るのはマナー違反ですよ!】
「────!!??────」
ブフォア!! 何を言うんだ!? そんなこと、シテイナイヨ? 説明の最中にビクンっとしてしまった。
こんな時にハッキリと、「やっていない!!」と言えない俺ってダメなのだろうか?
【やっと真実に気付きましたか? 貴方のような男を、"エロガッパ"と言うのでしょうね!】
酷い事を言われているが、俺は反論が出来ない。
目の前にいるお姉さんは、身長は俺と同じくらいなのだが、体の一部がありえないくらいなんだぜ!? 巨……じゃなくて爆だな! 何が?って、胸がだよ! ム・ネ・が!!
ボンよりバィンな、爆乳なんだよ!! それを見せつけるように、肩口から上乳までをフルオープン!! 興味ないなんて、言えるわけがないだろ!!?
で、髪なんだが……若草色? それとも、ライトグリーン? の毛が肩までの長さなんだ。目はちょっと細目で少しつり目っぽいのでキリッとしたイメージだ。睫毛は意外と長い。
キレイなお姉さんって言うより、カッコいいお姉様・姉御って感じかな?
「こちらの用紙に記入して下さい」
淡々とした口調での会話は、人によっては冷たく感じるのかもしれない。相手が美人なので、俺は気にしないがな!
渡された用紙を見る。記入することは、名前・年齢・種族・使用武器・自慢のスキルor魔術──の以上5項目だ。
使用武器は分かるが、『自慢の』ってどうよ!? 突っ込んだら負けって気がする! 無視しよう!!
そのあとも確認は続くが、『好きな異性のタイプ・容姿』とかって登録に必要か?
【貴方のような『スケベ』を自由に動かすため──じゃないですか?】
然り気無く、俺をディスるシステム鑑定さん。マジっぱねぇ!! 目の前にいる姉さんのプロポーションが"ド"ストライクな以上、余計なことを言うと心理的ダメージを受けそうだ。
「これで問題ないですか?」
内心を表情に出さないように、気を付ける。出てないよね?
受付嬢は用紙を上から下にザッと流し読みする。変な質問には答えていない。大丈夫だと思う。
確認している間、何故か俺は尋問されているように感じた。『無言の攻め』ってやつだ。
─side:受付嬢──────────
今日もいつも通りの1日になるハズだった。昼食を食べ、あとは就業時間までこの『新規登録受付口』で待っている毎日の流れだと思っていた。
今の季節、新規登録はほとんどない。ちょうど大規模演習が終ったばかりだから。採集系依頼はあるが討伐依頼は激減し、冒険者の収入はしばらくの少なくなるのが原因だから。
そんな時期に彼は現れた。見た瞬間、私の中に形容しがたいナニかが溢れるのを感じ取った。私も受付をするようになって、50年を越すベテラン。今まで何度も、彼のような年の子を見てきた。でも、何かが違うような気がする。
虐めたい?……違う。弄りたい?……違う。似ているけど、何処か"違う"と心が叫んでいる感じ。
そう考えているとき、彼はビクン! としていた。もしかして、私の心の声に気付いたのかしら?? たま~に、いるしね♪
50年という月日は、エルフの私の時間からしたら、あっという間の短い時間。そんな月日を受付で過ごし、登録したばかりの子が昇級・年による引退・依頼中の不幸で亡くなったりと、色々なことを体験してきたけど、今回のは何処かが違う感じ──
こんな感情を冒険者に感じたことはない。『気づかれちゃダメ』と本能が囁く……。私はなんとか取り繕い、彼に声をかけた。
「すみません。冒険者登録をお願いしたいのですが?」
彼が目の前にいる立っている。私は"受付嬢モード"に切り替えて、彼の対応に当たった。
「登録ですね?────────」
──────────────────
聞けばシステム鑑定が答えてくれるだろう(かなり、天文学的なレベル)常識を、俺は受付嬢に色々と確認する。嫌な顔もせず、分かりやすく説明してくれる彼女に感謝している。
「──最後に『ランク』についてですが、自身と同ランクで"1P"、上のランクで"2P"になります。先ほど依頼について説明しましたが、『上限は1つ上、下限はなしですがPは付きません』のでご注意下さい。
最初は『Fランク:見習い』から始まりますので、まずは簡単な依頼をクリアしてPを貯めてください」
「Dランクで一人前、Aランクで一流って訳なのですね?」
受付をしてくれているお姉さんは、静かなまま表情を変えずに頷く。怒ってないよね?
【役立たずの屑が、人様に迷惑をかけるんじゃありません!!】
システム鑑定はさっきからこんな状態で、俺を言葉イジメしてくる。お姉さんの誘惑(主に爆乳)に耐え、俺の理性は暴走しそうだ。
………
……
…
それから10分ほどお姉さんから、様々な情報を聞いていた。ギルド提携の宿屋や武具屋に関する話も聞けたので、満足のいく時間だったと言える。
「──色々と教えていただき、ありがとうございます。依頼の方は明日から受けさせていただくので、よろしくお願いします」
俺は長く説明をしてくれた受付嬢に、心からの感謝を込めて頭を下げた。それを見た受付嬢はその細い目を、少し大きく開け俺を見ている。
「いいえ。こちらこそ、よろしくお願いします」
俺の目には、彼女が少し笑った気がした。──あくまで"気がした"であるが……。
【目の錯覚ですね! それとも、こんな場所で寝るなんて──器用ですね!】
ハッキリと錯覚だと言い張るコイツに、俺はどう言い返せばいいのか分からなかった。
この後は宿屋に向かい、飯を食って寝るだけだ!! 俺は考えを切り替え、教えて貰った場所に歩いた。
宿屋に着いたのは、ギルドを出て10分ほど歩いたときだ。
お姉さんから貰った紙に描いてある外観で、実際に見た感想は『何をしたいんだ?』の一言だった。吹いた風により、手から紙がフワリと天に舞い上がっていく。
目の前の建物? を見て1コづつ考える。屋根の色はマーブルカラーである。この世界にそんな色があるんだな……と思うんだが、此処までなら俺も深く悩まない。
それよりも酷いのが壁の色だろう。何故に、ピンク色なんだ!? 建物の形もどこか『ハニワ』っぽい。縦ではなく、横倒しになっている。
──コレのどこで寝るんだ?? 生活出来るのか?? 俺の脳の処理能力はアッサリとパンクした。
【バカがお利口さんのように考えても、何の役にも立たないのでいい加減諦めて、中に入って休みましょう!】
コイツには躊躇いってものは、言葉自体がないのだろうか?
いや、間違いなく寝たいだけなんだろう──
「──あ~らぁ! いらっしゃい!!」
ノブに手を伸ばそうとしたら、扉が開き中から出てきたのは『ピンク色のゴスロリ衣装を着た"筋肉の塊"』だった。はっきり言って「──不気味なナニか」としか言えない。
ハートが飛んでないことを、投げキッスをされないことを真剣に神に祈った。祈る先に不安があるのが問題だが。
「ファンファンのお・う・ちに、ようこそ♪」
ウィンクをされる。パチンって感じじゃなく、バチィンって音がしたように感じた。個人差はあると思うが。
俺はそれの進行方向から無理矢理体を動かした。
……いや、アレは喰らいたくないし。ウィンクは魔法って言うより、呪いだよな!? 後ろを通りかかった住人が、パタンと倒れているし!!
「……って! ちょい待てよ!? 此処って『宿屋』なんだよな!!」
さらに、するつもりのないツッコミを行い、我を忘れてしてしまった。そんな俺を目の前のファンファン?は、嬉しそうに体をくねらせている。
その太い指である場所を指してる。『宿屋? ファンファンのお・う・ち』と、ハニワのベルト部分に書いて……いや、彫ってある!?
ツッコミを入れている俺の後ろでは、犠牲になった通行人の男性を周囲の店から出てきた店員が「えっちら、おっちら」と運んでいる。
「気持ち悪いから、クネクネするんじゃないよ!!」
そんな俺の正当かつマトモな意見は、目の前でセクシーポーズ? を決めている筋肉に無視された。俺に、安息の地はないのだろうか?
背後から、拍手が聞こえている気がするが、確認する余裕なんかはない!!
「あああ~~~ん♪ 気持ちイ・イわ~」
俺の"奇妙な異物"を見るような視線に、筋肉の塊は凶声を上げた。背後の住人が『この場より、至急撤退せよ!!』とか、『お母さん、あの人たち何をしているの?』『アレは、見ちゃダメよ♪ さあ、お家に帰ってお昼にしようね?』『うん。わかった!』とか聞こえてくるのは、気のせいだ! 気のせいだよね!!
1つ分かったのは、この筋肉の思考回路は、間違いなく壊れている!!
【その心は……?】
"「これが正常だったら、軽く引きこもる自信がある!!」そう恐怖した"以上だ!!
俺とシステムが笑点風? な漫才をしていたとき、俺の背後から聞いたことがある声が聞こえてきた。
「……アスくん、来てくれたのね」
その声の主は、簡単に分かった。だって……登録したときの受付嬢ったのだから。2時間近く聞いていたら、多少は覚えるでしょう?
【何故に、敬語ですか?】
なんとなく??
しかも、彼女は受付にいたときの、5割増しくらい表情が分かりやすく、嬉しいって感情を感じ取れる。
……って言うか、なんか楽しそうにしていない?
【そんなわけないです……と言いたいのですが、どういう状況なのでしょうか?】
そんなことを俺に聞かないでくれ……。もう俺のHPはギリギリの量しか残ってないから!!
お姉さんは近くまでやって来ると、その細い腕を俺の左腕に回して、変な建物に向かって歩く。その最強な凶器に、俺の中にあった"抵抗感"が打ち消されていく。ただ、最後の悪あがきは行う。
……この中に入るの?
俺はお姉さんに目で語りかけるが、無視されたのか反応がない。宿屋? の入り口を潜るとき、お姉さんは俺の耳元で小さく言った。
「此処って変わってるから、1泊1000円と格安なの。その上、セキュリティーも万全なのよ♪」
オブラートに包んでいるが、ハッキリと『変』と認識しているようだ。そして、この宿屋? が安全なのは『セキュリティーがしっかりしている』ではなく、『ファンファンがいる"無法地帯"で、人が寄り付かない』からではないのだろうか?
扉を潜るとき後ろから、「ああ~ん! お熱いわ~♪」とファンファンの声が聞こえるが無視をすることに決めた。
後日、他の宿の金額を調べたら、"ファンファンのお・う・ち(あの宿)"が異常なほど安いと分かった。少なくみても30%くらいの金額だったので、逆に他の宿を探す気になれず、ズルズルと利用している。完全に"悪循環"だね!
そうして、激動(ツッコミ過多)の1日が終わりを告げた。