チーム名とシュラント!
まだギルド内で騒いでいる"危ない筋肉たち"をとりあえず無視して、受付にいる姉さんの元に歩いていく。
【※マッチョメレンズは造語であり、世界には存在しないので探さないでください!】
「(何やっているの? システムよ……)」
いきなりシステムが語り出したので、思わず突っ込んでしまった。まあ、確かにそんな言葉が存在したら怖いよねぇ~。
「ごめんなさいね? トモグインさんは時々、ああなっちゃうの──」
──それって、『食指が動く男の子』がいたとかって落ちじゃねぇ? そうなんじゃないよね?
【間違いなく"その通り"でしょうね! 狙われないでくだないね? ──"何処を"……とは言いませんけど】
──不吉すぎるから、それ以上言わないで!!
俺の心の叫びは、あのキャンキャンには届かないだろう。(というか、届いたら恐いし)それに、ああいった種族──いや、人種は考えないだろう。それが迷惑になるとは──。
それは置いといて、本日の本命だ。
「それで、パーティ登録をした後に、オススメの討伐依頼はないかな?」
本当に最近は、頭の切り替えが早くなった気がする。
【私の教育の欠課ですね!】
──いや、全く違うし、文字も間違ってない!? 『欠課』じゃなくない『結果』だからね!?
【気のせいです。気にし過ぎると、無くなりますよ?】
──!?
そう言われて、サッと髪の毛に手が延びそうになった俺は、悪くない!! 男にとって、命の次に大事なモノだから……。
「アス君、パーティ名はどうするの? 私のオススメは"ツッコミ・エンドレス"なのだけど──」
「それって、名前ですらないよね!? 俺が1人、延々と突っ込むの!?」
思わず突っ込んでしまった! なんか嵌められた気分だ。
【"何処に"──とは言いませんが、注意してくださいね?】
──"嵌められた"と"ハメられた"をかけないで!?
姉さんや、他人には分からないシステムとのコント劇を繰り返していると、隣の受付から声がかけられた。
「クククククッ──。なるどほどな。ネイさんが自慢するだけの素質がある」
声の主を見ると、俺より一回りくらい年上の男の人がいた。口調からすると、姉さんから俺のことを聞いているようだ。
「──貴方は?」
色々とツッコミたいところだけど、まずはキチンと確認しないと……。
「俺様かい? チーム"ツッコミまち"のリーダーをしている『ボーケン・マクレーン』だ。ちなみに、チーム名はネイさん命名さ」
フサァっと髪をかき揚げるが、姉さんほどの色気はない。明らかに、"残念系二枚目"と言った感じで不憫だ。
「おいおい、いきなり酷いじゃないか」
余裕綽々で『やれやれ』といった仕草が似合っていない。
「繰り返し言うが、何度も酷いことを言わないでくれよ」
片手で顔の前側を伏せ、指の隙間から此方を見てくる。
この時になって俺は、言葉の齟齬に気付いた。喋っていないのに、相手が返事している事に気付いた。
「はい! 先ほどから『ズケズケ』と、突っ込んでおります!」
チラリと視線を送り確認したルーナは、俺の問いかけを正確に理解し元気よく、俺の質問を肯定した。
「まあ、いっか……"俺がそう感じた"んだし──」
俺はそう判断した。この男、ボーケン・マクレーンだったか?
うん、面倒だ。改名を付けよう!
──やっぱコレだよね~ 彼のあ・だ・名~♪
「君には"検挙"って言葉はないのかな?」
「検挙? どんな罪を犯したのです? ボーケン・マクレーンさん? 『検挙』ってことは、【三枚目男の罪】ってところでしょうか?」
!!??
周囲にいた冒険者たちは絶句した──ようだ。
「シングルの冒険者の癖に、少し生意気じゃないかな?」
「二枚目を気取って、三枚目なのはどう説明するのですか?」
実際に酷いことを言ったのは俺の方だが、『キレた上位ランクと巻き込まれた下位ランク』では実践経験の面から見ても、力で訴えたら目の前の二枚目(偽)の方が確実に悪くなる。
───実力面では上位ランクが下位ランクに劣っていても……だ。
俺の目から見た感じでは、俺とボーケンとの"差"は僅差で、総合的には総合的には俺の方が高いだろう。キレるかな? と思っていたのだが、彼は流せたようだ。
「子供の言うことに、目くじらを立てるのは大人気ない。それでもあえて言おう。
俺様は『ランクA:一流冒険者』ボーケン・マクレーンだと覚えておけ!」
「それでアス君、チーム登録で必要な"チーム名"はどうする?」
さらりと彼の自己紹介を流し、事務仕事の進行をする姉さんは『空気を読まない』、もしくは『どうでもいい』らしく、再びチーム名について聞いてきた。
「──あの……ネイさん「仕事の邪魔です! 黙ってください!!」──は、はい!」
姉さんに突っ込まれたら先ほどまでの勢いが無くなった。それどころか直立不動になった。
背筋をピンと伸ばし、両手は脚の横で指をしっかりと伸ばしている。もちろん、足元では両足の踵をくっ付けている。顔色は青く、姉さんに対する恐怖が感じ取れる。
「2人に希望のチーム名はあるか?」
奴隷とはいえ、彼女たちは俺の家族も同然だから確認した。
【その前に、"家族が増えない"といいですけど……】
含みのあるシステムの一言に、反論ができなかった。──特に昨夜のことを思い出すと。
「(そうだね! けど、俺はエルフだから、そう簡単じゃないけどね!)」
【自分の所有スキルをキチンと、認識していないのですか?
〈異種族交配〉がありましたよね?】
──イヤ~なことを思い出した(昨夜のこと)。その時は、キチンと責任をとろう(男として)。
そんなこんなで、チーム名が決まったのは、ギルドに入ってから1時間が経っていた。
そして、姉さんから紹介された依頼は【シュラントの討伐】というものだった。
「姉さん、シュラントって何?」
「大雑把に言うと、『兎』ね! 体が赤いのが特徴よ♪」
姉さんの言葉から出てきたイメージは、『赤兎』と呼ばれる真っ赤な兎だ。しかし、此処は異世界。そう簡単にはいかないだろう。
隣に立っているメリッサを見ると、何か言いたそうにしていたので、視線で許可を送る。
「私が以前聞いた話では、『牡は凄く狂暴』で『メスはオスに襲いかかる』──とかだったと思う」
何て言うか、『狂暴化』しているだけって話じゃなさそうだが。
【取り合えず、実物を見た方が納得するのではないのでしょうか?】
──そうシステムは言うのだが、『何か罠に嵌められそう』と思うのは、どうしてなのだろうか?
姉さんの方を見るが、特に訂正点がないのか無言でニコニコしている。その笑顔に裏があるように思うのは、俺の心が穢れてきたせいなのだろうか?
【元々、穢れきっていたモノが多少汚れたところで、変わりませんよ♪】
──そろそろ、慣れないといけないのだろうか? 心の声へのツッコミに……。
【何を言っているのですか? 当然じゃないですか!!】
心の中で「ああ、そういうモノなの──」と妙な納得をさせられた。
「近くにある森に棲息しているのかな?」
「南門から出て、街道を1時間ほど歩くと十字街道が見えてくるので、そこを右えっと……西に向かって30分で目的の森に着くかな?
その森が"シュラントの森"と呼ばれるほど、たくさん棲息しいているから、遠慮なく倒してね。あまり数が増えすぎると、他の森に遠征するから」
そうなると、その『シュラントの森』は広いのだろうか?
「それと、メリッサさんの言ったように、メスのシュラントである"メシュラント"には大変注意してね。
はっきり言って、『襲いかかって』来るから要注意よ!」
指を伸ばし、俺に忠告してくる姉さんの迫力に負け、俺は頷くだけだった。
ギルドを出た俺たちは、目的地を目指して町を出発した。
ちなみに、ボーケン・マクレーンは放置されている。