表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/24

爽やかな朝は、奴に汚される!

 姉さんから奴隷に関する、レクチャーを受けながらの朝食が終わった。特に注意されたのが、奴隷である彼女たちを1人、若しくは彼女たちだけで行動させるときだ。

 奴隷という立場は、社会的地位は恐ろしく低い為、事件に巻き込まれても"自己防衛"としても力を振るえないのだ。


「ねえ、アス君たちもこれから、ギルドに行くのよね? よかったら一緒にどうかしら?」


 顔の横に当たる髪を、指で耳の上に流しながら俺たちに聞いてくる。たぶん昨日のザコリオン? だったら『俺に気があるんじゃねぇ?』と、勘違いしているだろう。

 俺か? 俺は姉さんの仕草に、誘っている意味がないことをある意味で知っている。というか、同じ宿で寝泊まりしていると、もっとキワドイ艶姿(本人にそんな意識なし)で、この2日間に幾度となく遭遇している。


「そうだね、2人も問題ないか?」


 俺の問に2人は笑顔で頷く。姉さんとの出会い自体は昨日だが、ある意味宿の中で濃ゆい時間を過ごしているからこそ、仲良くもなる。それでも2人はあくまで、奴隷としての節度で行動している。(夜は違うけど)



 外に出ると朝陽はすでに姿を見せ、町の住人は仕事を開始している。ふと視線を路地の方に向けると、10才に満たない女の子が重そうに木製のバケツ(・ ・ ・ ・ ・)をヨタヨタと下げている。

 宿屋では魔石が使用されていて関わらなかったが、住人のほとんどは井戸から水を汲み上げ、生活に利用しているようで、子供の仕事は小説に出るように、水汲みなんだろう。


「やっぱり、これが普通の光景なんだろうな……」


 便利な現代社会から異世界トリップしてきた俺としては、違和感というか……簡単に受け入れられない感じだ。

 そんな俺の口から漏れ出した言葉は、幸いにも隣を歩く2人には届かなかった。今は腕を組んでいないので、少し離れた位置を歩いているから当然だろう。


【当たり前じゃないですか! これ以上、おのぼりさん的な行動をしないでくださいね!】


 システムに注意されながらも、姉さんの店紹介を聞きながら歩いて行く。


【反論されないと、何か物足りないですね】


 少しシステムがグレた気がしないでもないが、基本的に仕事をしないので、グレたところで問題はない。それでも口に出さないのは、辛辣な返しを受けたくないからだ。

 ガヤガヤと元気な町並みを、ギルドに向かって行く。軒先に木箱を並べ机がわりにして、その上に大きな布をかけるガタイのいいおっちゃん。

 寸胴鍋だろうか? それを火にかけ、スープっぽいものを煮込んでいるおばちゃん。それを手伝っているのは、娘さんだろうか? 少し面影を感じる。朝食は食べたが、美味しそうな臭いに食欲が刺激される。



 そんな風に、町中をゆっくりと歩いて行くとギルドに着く。入り口に近付き、扉に触れたときに『なんかヤな予感』を感じたんだ。


「どうしたの? アス君」


 姉さんが扉に手を当てて、立ち止まった俺に声をかける。俺は返事することも出来ないくらい、その『ヤな予感』に心をかき乱されていた。


 俺は意を決して扉を開けた。


「待っていたわん!」


 両手を広げ、『この胸にカモン♪』と言わんばかりにY字で飛びかかってくる。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」


 ドガス!


 遠慮無しに真っ直ぐ蹴り出した。その姿を同郷の者が見たら『ヤクザキック』と言っているだろう。

 綺麗に顔面に靴底がメリ込んだキャンキャンは、真っ直ぐ5mほど後ろに飛び、頭から床に突っ込んだ。


「何するんだよ!?」


 ハァハァと肩で息を吸う俺と、あらあらとキャンキャンを見る姉さん、そして──汚物を見るような目で、キャンキャンを見ている、メリッサとルーナ(俺の奴隷たち)。2人の眼光は鋭く、冷たい印象を受ける。


「(変態さん(その手の人)には、ご褒美かもな──)」


【今のところ、なじられたい(その手の)人には会っていないのがせめてもの救いでしょう】


 俺とシステムはそんな感想を持った。実際に、目の前のキャンキャン(筋肉の塊その2)は変人であるが、変態ではない。


 ビクンッ!!


 俺じゃなく、キャンキャンだよ? (まあ、俺も驚いたのは事実だが)何度かお腹を上下に動かし、逆Uの字になり起き上がる。


「(何故に"ブリッジ"をしているんだ?)」


【さあ? でも方向的にこれ以上、この場所にいたくないですね!】


 そうシステムと相談して、俺はキャンキャン(それ)を迂回して受付に向かおうとした。その時に突然「ピクピク」動き出した。(気持ち悪いから、ガニ股で膝を動かさないで!!)


「流石だわん♪ このワタシが、選んだ(ボーイ)だけはあるわぁ」


 顔を見たくないが、漫画であるように『パァァァァァ』といった感じになっているのだろう。本来なら無視して済ませるところだったのだが───。


【〈ヤル気〉LV2 が発動しました】


 無情にも、スキルが発動しやがった!!


「──んなわけ、あるかい!!」


 キャンキャンのシックスパックの腹に向けて、上から脚を叩きつけた! ○○(なんとか)スタンプと言うのだろう。


 ズビシィン!!!!


 足を中心に、放射線状のヒビが入るかと言われるほどの衝撃と、音がギルド内に響いた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁん♪」


 不気味な叫び声を上げ、何処か満足そうな顔もそうだが声も同じ印象を受ける。それを気味悪く感じた俺は、反射的にその場を飛び退いた瞬間、『ドゴス!』と鈍い音が響き渡った。その音の発生源は、キャンキャンのお腹であり、姉さんの拳だった!!


「ちょっ──姉さん!?」


「全く。ト・モ・グ・イ・ン・様?  何度もご注意なさいましたよね? 『ギルド内でハレンチな行動をなさらないで』と──」


 姉さんの突然の変化(攻撃)に俺は戸惑っているのだが、メリッサとルーナ(2人の奴隷)は平然としている。


「な……何なんだよ!? 2人もそうだし、姉さんの拳の重さと音もだけど──誰か説明してよ!?」


【無理ですね! ありのままを受け入れてください♪】


「(あんたは本当に、平常運転だよね!!)」


 周囲を見回すが、皆驚いているのか動きがない。そう思いじっくりと顔を確認してみると、『男どもは明らかに、安堵した表情』を『女たちは姉さんに対し、"見惚れています"と言わんばかりの表情』をしている。

 男たちにとって、キャンキャンは"天災にして、害獣のようなもの"らしい。その認識が間違っていない為、その厄介さを伝え、より際立たせている。


「(姉さんの強さが、このギルドにいる受付嬢の平均以下で無いといいんだけどな……)」


 俺は気付いたことを、システムに漏らした。


【もし、平均的なステータスだったらどうします?】


 ──それはそれで、怖いよねぇ?


【何故、疑問系なのですか?】


 ──だってさぁ、現状の俺より"強い"んだぜ? 受付嬢としての嗜みだったら、粗相は出来ないだろ?


 言葉を濁すが本音は別にある。それは、『説教を受けたくないし!』という心の声であり、きっちりと漏らさないように封印する。


「「「「キャンキャン姉様!!!!」」」」


 キャンキャンほどではないが、引き締まった『細マッチョ』が4人駆け込んできた。それを見て、ビクンッとするのは男どもであり、この場にいる女性の視線は"いけない光"と灯しているように感じる。

 俺か? 細マッチョどもに驚きはしたが、女性の視線にゾクッとして、背中に冷や汗をかいていた。


 ──腐女子がいるのかよ!?


 俺の心の叫びは闇に消え、辺りはある種のカオスとなっていた。気を失ってグデェっとしているキャンキャンを、弟分?(もしくは、妹分?)が片腕・片脚と1人ずつ"慈しむよう"に担ぎ上げた(・ ・ ・ ・ ・)


 ──ワッショイ! ワッショイ!と掛け声をかけさせたら、面白いかな?


 冗談半分でそう思っていたら……


「「「「逝くわよん! そ~ら、ワッショイ! ワッショイ!

 キャンキャン姉様のお通りよん♪」」」」


 ガン! ゴン! ガガゴン!!


 キャンキャンの頭が、天井の梁に(・ ・ ・ ・ ・)ぶつかり(・ ・ ・ ・)床に逆さま(・ ・ ・ ・ ・)に突っ込む(・ ・ ・ ・ ・)その姿は酷刑だ! 違った、滑稽だ!


 ──胴上げを行いながら歩くってどうよ!? 俺、間違っている??


【答えは、誰も知らなウ!】


 ──何なんだよ!? "知らなウ!"って何よ!!?


 たった10mほどの距離を移動するのに10分。その間にキャンキャンが頭をぶつけた回数、50回オーバー……。


 ──受けたダメージ、"プライスレス♪"って要らねえよ!!


 その様を見ていた俺は気付いた! 俺の攻撃や、姉さんの1撃よりも『こいつら(妹分?)の移動方法が1番多くのダメージを与えていないか?』と言うことだ。


【ゲームならコンボやら、チェインがあったなら『50Hit!』をオーバーして、追加ダメージが発生しているでしょう】


 現実逃避するかのように、受付を何気なく見ると、そんなキャンキャンたちを無視して、受付業務とパーティ登録の準備を終わらせた姉さんが、俺たちを笑顔で手招きしている。


「(姉さん……貴女にとって、キャンキャンたち(これ)はどうなっていてもいいことなの?)」


「「行きましょう、アス様(アス殿)」」


 俺の疑問を無視して、2人は俺の手を軽く握り、受付に向かって歩いて行く。ゆっくりとだが、止まっていたギルド内の時間が動き出した。

 先程感じたことは棚に上げ、気にしないことにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ