どうしよう? ヤバイやつと、初めての夜
遅くなりました。ザコリオンの落としどころは、こうなりました! アスの冒険者生活が2日目が終わります?
結構、ギリギリな表現あるかも!?
3月6日 本文の改稿を行いました。
ギルドに入って来た"筋肉の塊"を見てしまった瞬間思った。「どうしよう?」と……。
「あんらぁ? きゃわいい坊やが~寝ているんだけどぉ、貰っていっていいのかしらぁん?」
クネクネと腰を振る、目の前にいる漢。セクシーポーズのつもりか、唇で指を加える様は『目の毒そのもの』である。時々、腰を前後にクイックイッっと動かすのは止めて欲しい。
その瞳に宿った光を感じ取ったとき、「ああ、捕食者そのものね」と本能的に理解できた。俺が巻き込まれない限りは、遠巻きで傍観しよう!
「姉さん、アレは何?」
受付席からクネクネする筋肉を、笑顔で見ている姉さんに声をかけた。移動方法に関しては、後退したというより"後ろ向きに逃げ出した"というのが正しいかもしれない。
「彼処でザコリオン様を見ているのは、クラブ"ビーストLOVE"のマスターである、トモグイン様です」
「(トモグインじゃなく、"共食い"じゃねえ?)」
【間違いなく、共食いの方でしょう。私の見る感じでは……そうとしか思えないので──】
グリン!! と、トモグインが俺たちの方に振り向き、歩いてくる。カツン! カツン! とリズムを刻み、その厚い胸板をピクピク動かせながら「ノン、ノン♪」と言わんばかりに、右手の人差し指を立て、左右に振っている。
靴の裏、主に踵の方には釘を打ち付けてあるのだろうか? 木製の床に金属音が響く。
「もぉう! ダメよん♪ ネイちゃんには前に教えたでしょ?
ファンファンの御姉様から、"キャンキャン"って御名前をいただいたって♪」
その言葉を聞いた時点で、俺の警戒心はMAXになった。「ファンファンと同類だと」心は叫んでいる!! 逃げ出そうとしたが、この時点では遅すぎた!!
隣で受付をしている、男性冒険者に服の裾を掴まれて、逃げられなくなっていた!?
受付まで来たとき、俺の存在に気付いたらしい。首を傾げ、マウス・イン・フィンガー。体は自由になると同時に、背後ではバタバタっと慌ただしい音が聞こえた。逃げたな! あの男ども……赦さぬ!!
「あらぁん、こちらのボクは?」
その言葉を聞いた瞬間、俺はその場から後ろに跳び距離をとった。うん、本能的なものです!
ソード・ゴブリンとは別種の何かを感じた!!
「(というか、その筋肉の塊で指を加えるなっての!)」
俺を見る目が怪しすぎる! 唇からは光ナニかが、肉体はピクピクと細やかに動き、内股を擦り合わせている! もちろん、片手は内股に挟んでいる。
──キモい! それよりも、"肉体的な恐怖を感じる"。
「ああん♪ 一目惚れよん! うん! ラヴュよん!!」
迫ってくる筋肉に、メリッサとルーナが頑張って引っ張ってきたザコリオンを変わり身として使う! 変わり身として使う!!
大事なことなので、2回言います!!
【スキル解放条件をクリアしました。〈君の屍を越えて行く〉を入手しました】
そんな言葉が脳裏を掠めるが、目の前に映るは、マッチョと肉団子の熱い抱擁。(ちなみに、ガッツリとキスしている)
自分で産み出した光景ながら、ズリズリとその場から後ずさることしか出来ない。両腕が"ふにゅん"とした柔らかな感触に包まれる。顔を動かし左右を確認すると、頬を薄いピンクに染めたメリッサとルーナがいた。ぎゅ~うと俺の腕を抱き締める。
顔が熱くなるのを感じる!! そんな俺たちを放置して、受付前はカオスになる。
「もぅ! そんなに待ち遠しかったの? きゃわいい♪」
そんな声が聞こえるが、『桃色空間』に包まれた俺たちには認識されない。イチャイチャしている3人と、ギャーギャー騒ぐ2人。ハッキリ言って迷惑でしかない!!
キャンキャンは正面から『ぎゅ~う』と熱く抱き締める。焦り、混乱するも叫ぶだけのザコリオン。
「こっ……この、ザコリオン様を──」
本来なら永遠に、永久に無視したかったのだが、俺の意識を危険な奴等に引き戻したのは、システムの声だった。
【今こそアノ言葉を使うときでは、ないでしょうか?】
「(そう思うか! 取っておいた甲斐があったぜぞ!!)」
心の中でサムズアップし、笑う俺とシステム。間違いなく、俺たちは悪魔の顔で笑っていただろう。鬼畜と言われても仕方がない!!
決して被害が及ばないであろう場所から、俺は遠慮せずにザコリオンを指差し、片手を口元で立てある言葉を呟く。(周囲に聞こえるように言う時点で、呟くとは言わないだろうけど)
「──ああ、ザコリオンは童貞なんだよ! だから、最初は優しくしてやってくれ!」
「なぁ!?」
「あらぁん?」
正反対の反応を見せる、ザコリオンとキャンキャン。ザコリオンの顔は真っ青になり、チアノーゼを思い浮かべる。キャンキャンの顔は喜色に染まっている。(キャンキャンの場合は喜色よりも、"気色悪い"が正しい?)
青くなったザコリオンに、トドメを指すための言葉を探す。
【"100連続失恋中"なのは、どう利用しますか?】
システムの言葉でピンっと来る。こいつも面白おかしくする気満々のようだ。しかし、俺も同意見!
此処が攻勢に出るべきところ。躊躇ったりはしない!!
「……しかもさ~此処だけのは・な・死。ザコリオンって100連続失恋中らしいから、そんなこと忘れるくらいの経験をさせてやってよ?」
──決して、善意からのセリフではないことは、周囲にいる男たちには分かっているだろう。周囲の男どもの顔色は青い。それでも動かない理由はただ1つ。
『キャンキャンに喰われたくない』
ただそれだけである。助けなかった以上、此処にいる男たちに俺を批難することは出来ない。したければするが良い!!
俺は、貴様らの屍を越えて行く!!
強いから変なのか、変だから強いのかは分からないけど。
【私は、後者でないことを、切に祈ります】
「(そうだな、俺も同意見だ)」
後ろから聞こえる「ギャワー!!」だの「イヤァァァァァ!!」とか聞こえているが、煩い背景の音として処理をする。
俺の腕に抱き付いている2人の温もりしか感じない。
「この後は、如何致しますか?」
肩に頬をくっつけ、ルーナが上目で確認してきたので、ギルド内をチラリと見回し簡潔に答える。受付席に座っている、姉さんと視線が合うが頷いているので、何も問題ないのだろう。
「この場にいても、やることは無いから宿に帰ろうか」
俺の言葉にメリッサとルーナは笑顔で頷く。この時点でザコリオンのことは脳裏から消え去っていた。華が咲いているのは、俺の周囲だけになるが、気にしては負けだと思う。
「俺様は~~───」
コイツと再び出会ったとき、俺は「やっぱり、そうなったか」と呟いていたらしい。
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ギルドを出たあと、俺たち3人は色々と買い物をすることになった。資金的には、大銀貨1枚、銀貨6枚(16,000円)の収入があったからでもあるが、2人の衣服関係が非常に少ないからだ。
「ハブラシ、コップ、タオル……」
呟いているのは、俺の腕を抱き締めているメリッサだ。当然のことながら反対側には、ルーナが抱き締めている。両腕とも幸せな"ふにゅん"という感触に包まれている。
「時間はあまりないが、服を見に行くか?」
これまで結構な買い物をしてきたが、俺はもちろんのこと、2人の腕にもは何も無い。このスキルには感謝している。
「(本当に、アイテムボックスは便利だな)」
【この世界の住人は、レベルでの増減はあっても、全員が持っていますからね】
俺の呟きに答えたシステムの言葉は本当だ。この世界の住人は、生まれつき"アイテムボックス"を持っている。(初期で10種類1個)
これは、レベル1つ上がる毎に1個ずつ増え、レベル10毎に1種類ずつ増えてゆく。(LV99で99種類、99個)
俺はその中で唯一の例外で、『種類制限無し、1枠99個』となっている。ゲームである仕様を引き継いだ形になる。それなので、同種のアイテムを2枠とか3枠をストックすることが出来るチート仕様と言える。
「そうですね。古着なら、大銅貨1枚もあれば買えますからね」
大銅貨1枚と言うことは、100円くらいってことだろう。こちらの物価は恐ろしく安く、嗜好品でも3分の1、日用品にいたっては大体が5分の1~10分の1くらいになる。たぶん、王都なんかは物価が上がりそうだが。
「普通の人なら古着で、私たち奴隷だと良くて古着と言えるな」
これは「ボロ着が流行」とかではなく、作製する手間の関係もあり、新しい服はオーダーメイドになるからだ。
「新しい服に関しての金額はどんなもんなんだ?」
「物によりますが、だいたい銀貨1枚(1000円)くらいですか? 私は、町での生活がほとんどないので、詳しくは分かりませんが」
ルーナはあまり町での生活が無いようだ。まあ、俺自身はこの世界での生活自体が無いんだけど……。
──うん、法律などで色々と迷惑をかけそうだ。
【まったく、否定できないですね】
──あんたはもう少し、他人(主に、俺)に優しくしろよ。
【無理ですね! 私のアイデンティティーに関わりますので、絶対に拒絶します!!】
反省の色の無いシステムに呆れるも、2人の声に意識を切り替える。
「アス殿、この店が町の皆がよく買い物に来る服屋になる!
数は少ないが、新しい服に下着──私たちに必要になる『丈夫で長持ちする服』がたくさんある」
メリッサの言葉に店内を見回すと、入り口に近い場所にある箱の中には『古着』が、奥に当たる壁際には『新しい服』がかかっている。
壁にかかっている服は、新しい服であり平均銀貨5枚、最高銀貨10枚くらいの高級品になる。物干し台に下がっている服は、平均銀貨2~3枚といったところである。ちょっと高級志向と言ったところだろう。
「そうだな──普段着として、新しい服を2着、仕事用として古着を3着、下着は5枚くらいか?」
古着を見ると大体が、上下で大銅貨3枚だったので3着で大銅貨9枚×3人分で銀貨2枚、大銅貨7枚(2,700円)、普段着を2着×3人×2枚で大銀貨1枚、銀貨2枚(12,000円)になる。
下着に関しては、女性用を見せてもらうが『カボチャパンツ』であり、新しいモノだけで大銅貨1枚だった。ちなみに、男性用は『ステテコパンツ』立ったのは言うまでもないだろう。(両方とも紐で留めるタイプ)
下着が5枚×3人×1枚で銀貨1枚、大銅貨5枚(1,500円)になった。
合計が大銀貨1枚、大銅貨6枚、銅貨2枚(16,200円)になった。服だけで討伐報酬が全て飛んでしまったが、俺的には良い買い物であり、俺の奴隷扱いになったメリッサとルーナが少しでも平民の服装に近付けたので問題ない。
【結構な量の買い物ですね。あまり無駄遣いは、感心しませんよ?】
「(そうでもないだろ? この程度で、彼女たちが俺を受け入れてくれるなら安いし、悪感情を持たれるよりは、何倍もましだろ?)」
注意してきたシステムに、俺自身の考えを話す。
俺だって男だ。彼女たちのような、魅力的な女性に好意を持たれたい! 奴隷だからではなく、「俺だから」と思って欲しいという思いが強いのは否定しない。
「アス様、今日の稼ぎ以上の買い物になってしまったのですが、お金は大丈夫なのですか?」
頬を薄く染めながら、俺を見上げるルーナに"ドキリ"とした。現状、幸せタイムに戻っている。服屋での買い物が終わったら、高速と言えそうな速さで、俺の腕に2人は抱きついた。
「こんなに良くして貰っているから、余計に気になるね」
メリッサも買い物で使いすぎだと思ったようだ。2人を安心させるため、俺は笑顔で答える。
「持っているお金に関しては、まだまだ余裕があるから安心しな! 服に関しても、他の奴等がどうなのかは分からないが、俺としては"奴隷でも、綺麗であって欲しい"んだ。
お前たちは、自身の容姿をどう捉えているか分からないけど、俺の目から見て、"美人が着飾らない方が勿体ない"と思うんだが?」
少し恥ずかしいがハッキリと、俺の思いを伝える。言葉がゆっくりと浸透した2人の顔は、瞬く間に真っ赤に染まる。
「「!!?──その、ありがとう(ございます)」」
そのあと宿屋に向かい、ファンファンに奴隷に関して確認した。案の定、姉さんと話した通り「いやぁ~ん♪ きゃわいいわねぃ」と喜んでいたが、両手を胸の前で合わせて、クネクネする筋肉の塊は目の毒だった。
【流石、キャンキャンが姉と慕うだけあって、気持ち悪いですね。料理と部屋の状態が良いだけに、とても残念です】
──俺には、あのメルヘンチックはダメージ多いですが!?
金額に関しては、俺と同室なら「半額でおぅKよん♪」と言ったファンファンに2人が食いつき、同室となった。2人的には、そこら辺は譲れなかったのだろうか?
通された部屋のベッドが『キングサイズ』だったのは、気をきかせすぎじゃねえか? と本気で思った。2人が喜んでいたのが、意外すぎた。(答えは、その夜に分かったが)
「お風呂が付いている部屋って、結構な高級なんですけど──此処は怖いくらい安いですよね?」
──そんなことを言うルーナだが、ファンファンと言う化け物がいる以上、客足は遠退くだろう。危険地帯(仮)に来る、バカなヤツはいないだろう。
「それにしても、変わった形の宿屋だな」
──変わったではなく、"変な"じゃないだろうか?
「その、アス殿……」
「あの、アス様……」
「「初めてだけど、これからもよろしくお願いします!」」
どんな状況かと言うと、3人で風呂に入り、真っ裸で布団の中にいる。そう言えば分かるだろ?
2人気持ちは、風呂に入っているとき、ストレートに確認した。
「……色々と迷惑をかけるだろうが、よろしく頼むな!」
俺は2人を抱き締め、終わらぬ夜の戦いを始める。
「「はい♪」」