プロローグ:男が『アス』となった日
2月17日 本文の改稿を行いました。
カタカタカタ…………
真っ暗な部屋の中で、無機質な音が響く。その部屋の中にある唯一の明かりは、パソコンのディスプレイの光だけである。
それが置かれているデスクの前には、中肉中背の男がイスに腰掛けている。彼こそがこの物語の主人公である。三十路で童貞に厨二を拗らせたおっさんである。
「むふふ──。また1つ、伝説を打ち立てた」
暗い部屋の中、笑い声が響いている。その男の見つめる画面には、レベル・ステータス・スキルなどがフルコンプされた、ゲームのステータス画面が映っている。満足げに眺めた男の鼻からは「ふんす!」と擬音語が付きそうなくらい、強い息が飛び出している。
「──さて、次はどうするかな……」
男は再びディスプレイを覗きこみ、キーボードをカタカタと叩き、また何かを探し出し始めた。どれくらいの時間が経ったのだろうか、男は1つのゲームに目をつけた。
「昔懐かしの、二次元か──」
男の知る限りで現在は、二次元のゲームはその姿を市場から消していた。今の時代は『VR』がゲームの主流になって久しい。
「よし! 次はこれにしよう!!」
男は選んだゲームをダウンロードし、インストールが終わると早速起動した。待ち時間中、ソワソワしていたのは秘密である。
最初に画面に写ったのはロゴだけで、オープニングムービーなどが一切無かった。タイトルロゴは【モーリーズゲーム】と出ている。
「オープニングはないのか……予算の都合だろうから──仕方ないのか?」
男は首をかしげるも、特に何も思わなかったのか、そのまま画面に魅いられる。実際、VRでも人から見えない部分にはあまり予算と時間をかけない。
ロゴが消えた次の画面では、「名前の入力をしてください」と出てきたので、迷わず『アス』と打ち込んだ。もちろんこの男の名前を短くカットしたものになる。
「次は『年齢』と『性別』か──性別を変える気はないから『男』で、年は……半分の『15才』にしよう」
簡単に項目を埋めていく。1つづつ確定するのは面倒だが、男は「楽しむ為の苦労だ」と心の中で割りきっている。
種族の項目では、人族・獣人族・森人族・土人族の4タイプにハーフを足した数しかなかった。
「このゲームには、年齢がある。そうなると、『エルフ』が一番長寿でいいだろう」
種族に関してだが、ヒューマンは性能的に言って『可もなく不可もなく』で平均80年くらいの寿命であり、ビーストは端的に言って『脳筋』であり平均60年の寿命、エルフはひょろい『魔法バカ』で平均1000年の化物な寿命を持ち、ドワーフはちっこい『ロリショタな鍛治バカ』で平均200年の寿命になる。
結構ひどい種族分けだが、男の主観であり救いようはない。
男は迷わずに種族を決める。そうすると画面に出てきたのは、男が15才のときに非常に近い姿だった。「ただ似ているだけだよな?」男は無理矢理そう思い込み、自分を納得させた。
最後のキャラ設定項目は、ステータスの割り振りだった。項目は、力・体力・速さ・魔力の4つで、ポイントは10Pだった。
説明文を見ると、レベルアップ時の上昇割合であり男は少し悩み、サクッと割り振った。
アス
15才
エルフ族
力:2
体力:2
速さ:2
魔力:4
画面には『以上の設定でよろしいですか?』と出てきたので、『はい』を押すと次の設定に移った。
そこで決めるのは、『スキル』であった。武術スキルが各2P、魔術スキルが各3P、その他の部分は4~5Pと分けられていた。内容をザッと確認すると、各スキルはピンポイントの特化系のようだ。用意されているポイントは20Pである。
「う~ん──まとまった感じのスキルが欲しいなー」
あちらこちらを確認していたら、その他の中に才能系といえるスキル群があった。ある程度のバランスはあるのだが、消費ポイントが軒並み高い。
〈武の才〉 武術全般に高い適正を持つ。レベルアップ時に、力・体力は基礎数値分を、速さ・魔力は基礎数値の半分をプラスする。(消費15P)
〈魔の才〉 魔術全般に高い適正を持つ。レベルアップ時に力・体力・速さは基礎数値の半分を、魔力は基礎数値の2倍をプラスする。(消費15P)
これら2つは"複合系才能スキル"であり、気を付ける点は『自力でスキルを覚える必要がある』ことで、少なくとも訓練は必要そうであることだ。
「──なんか『コレ!!』って感じじゃないんだよな……」
男は愚痴を言いつつも、コロコロっとリストをスクロールしていく。男の目に止まったのは、おすすめスキルであった。
セット名からしてもヤバイ雰囲気をプンプン感じ取れる。
しかも、各セットは"20P"と全てのポイントを消費してしまうモノだった。
『ヤル気セット』
『頑張るセット』
『ごろ寝セット』
『ヒモなセット』
数は4種類と少ないが、内容がわからず、名前も変で色々と怖い!!
「──って、なんなんだよ! 『ヒモなセット』って!!」
男は思わず突っ込んだ。『選ぶな! ヤバイ!!』本能が警告する。だが全部が掛け値無くヤバイ感じである。「ダメならリセットするか──」と簡単に妥協する男。
結局選んだのは──
『ヤル気セット』
であった。あのとき、「もう少し考えれば──」と後に男は後悔する。後悔先立たずである。
最終警告文が画面の右下の隅に出ていたが、男は気付かないまま『確定ボタン』を押した。途端に視界は暗転し、男は意識を失った。
この時、男の脳裏には「あれ? これってもしかして……」と思ったが、後の祭りである。
男の明日に幸があらんことを──。
初のギャグっぽい作品です。ほとんどが、主人公のツッコミになりますが、よろしくお願い致します。
あくまでも『ギャグっぽい』ですので、笑っていただけるかは分かりませんが、ご感想などいただけるように頑張ります!