幽霊のお話
「こわ~い話があってなあ……」
おばあが妖怪のような表情で話を切り出す。
子どもたちは震えおののいた。
おばあの顔の方がこわい。
「おばあ、ちょっとトイレ」
過去から学ぶ子が、事前にお手洗いを済ましに行く。
将来は立派な大人になりそうである。
その子がトイレから戻って来ると、
おばあはさっそく話の続きを語りだした。
(待っててもらわなくてもいいのに……)
トイレに行った子は、内心がっかりした。
「昔なぁ、おばあがまだ若いぴちぴちの頃……」
恐ろしい顔つきでおばあが語る。
すでに子どもたちがそわそわし始めている。
しかしおばあは気に留めない。
「裏山に大きな大きな樹があってなあ、
わしらは子どもの頃、いつもそこで遊んでおった。
たまに人が通るのじゃが、暗い感じの女の人で、
わしらは全く気に留めなかった」
おばあの表情が妖怪じみてくる。
「その女がなあ、いつしか姿を見かけなくなった。
そして……出たんじゃよ、煙のごとく」
おばあが軽く手を広げ、振り回す。
「こう、ボワーッと、幽霊のように」
ニタリと笑う。
ひとりの女の子がキャーと叫んだ。
他の子どもたちもビビりだす。
おばあの後ろに大きな影が出来ているからだ。
凝視する子どもたちの間で、
おばあが昔話を続けている。
しかし、もう誰も話を聞いていない。
黒い影はだんだん大きくなっている。
おばあの顔が妖怪よりも怖くなったところで、
その闇はふっと消えた。
後には満足に話を終えたおばあだけが残った。
子どもたちは、すべて消えてしまっている。
「ああ、美味しかった。
やっぱり若い子はいいのう」
おばあは女の幽霊の姿になって、
夜の闇に消えてしまった。
子どもたちは、結局誰一人戻って来なかった。