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破界の魔王と吸血少女  作者: めらめら
第8章 獣王進撃
74/144

天剣ヤギョウ将軍

「さあバルグル……この者を殺して、剣をお取りなさい」

「リーリエ、だが、こいつは……」

 バルグルのそばでシュンへの止めをうながすレイカに、獣王は戸惑いの声を上げた。


「ううう……」

 二人の足元では、力を使い果たしたシュンが、動くことも出来ずに苦し気な息をしている。


「…………!」

 銀色の蓬髪を震わせて、バルグルは辺りを見回す。


 人間の戦士の幻惑の技で我を忘れているその間、獣王が周囲に与えた災禍は甚大だった。

 彼の振った『オルカンの破城斧』から奔った炎は辺りの地面を割り、校舎を突き崩し、学校の周囲の家々を倒壊させ、焼いていた。


 方々から人間の悲鳴と混乱の声が聞こえて来る。

 校庭でバルグルとやり合った人間の戦士たちは、炎に巻きこまれて死んだのだろうか、それとも既に逃亡したのだろうか。

 今この場に居る戦士は、足元で苦しげにうめくシュン一人だけだった。


「こいつは……俺との戦いを捨ててまで、仲間を助けようと……」

 緑の蔓に繋がれてかろうじて倒壊を免れている校舎を見上げて、バルグルは驚嘆の声を上げるバルグル。


「何を躊躇(ためら)うのです、獣王よ?」

 レイカは人形の様な貌を上げて、業を煮やしたように獣王にそう問いかける。


「先程の戦いでお分かりになったはず。この剣は炎を凍らせます。水を燃やします。この世の状を変え、人の性を変え魔王に匹敵する程の力を与えます。そう、この者の持つ剣は『人の世の剣』……『刹那(せつな)灰刃(かいじん)』。かの『裂花の晶剣』と対になる、世界の理を変える魔剣……。もしも他の人間や魔王の手に渡れば、その者に再びあなたの覇道を阻み、あなたを滅ぼすほどの力を与えることでしょう。そうなる前に、さあバルグルよ……」

「ぐ……!」

 レイカの言葉に、獣王は苦々しげにうめくと、先ほど地面にうち捨てた自身の斧を拾った。

 1歩、2歩、獣王はシュンに近づく。灰色の目でシュンの頭部を見据えて、シュン向かって構えた斧を振り下ろそうとするが……。


「やめだ、リーリエ。こいつとは……シュンとは勝負が着いちゃいねえ。戦士の生き死には勝負で決める! 仕切り直しだ。娘を追うぞ!」

 銀色の蓬髪を揺らしてシュンから翻ると、レイカにキッパリとそう言い放った。


「できませぬか、獣王よ?」

 レイカは少し残念そうに小首をかしげて、バルグルにそう囁いた。

 翻った獣王の脇を抜け、レイカはツカツカとシュンのもとまで歩みを進めた。


「あなたのその甘さが、お妃さまを殺し、あなたの覇道を阻んでいると、なぜ解らぬのです?」

「なん……だと!」

 凛然としたレイカの声に、獣王の顏が歪んだ。

 バルグルが再び斧に手をかけレイカを向いた。

 その時には既に、シュンの傍に立つレイカの手には一振りの短刀が握られていた。


「ですが獣王よ、あなたの悲願はまた私の悲願でもあります。あなたが手を汚さずとも、どこまでもあなたにお尽くし(・・・・)致しましょう……。いかな魔剣の力も、主の首さえ落とせば……」

「やめろ、リーリエ!」

「グッ! レイカ……」

 レイカの目的に気づいたバルグルが彼女を制そうとするが、


 ピタリ。無念の声を上げる動けぬシュンの首筋には、既にレイカの短刀が添えられた。

 だが、その時だ。


 バチン!


 何かの弾けるような音が空気を震わせて、次の瞬間、

 短刀を握ったレイカの手が、その肩口からゴソリと落ちた。


「な……これは……!?」

 レイカは自分の身に何が起きたのか理解できない様子で、地面に転がった自分の右腕を唖然として見下ろしていた。

 切断された腕は、その創口が黒く焼け焦げ、甘く腐った果実のような匂いを放っている。


「私の……私のウ」

 レイカが呆然とそう呟きながら、自身の右腕を拾い上げようとした、まさにその瞬間、


「滅びよ! 吸血鬼!」

 裂帛の怒号とともに、突如校庭の土が爆ぜた。


 と同時に、バチン!

 舞い散る土煙の向こうから、再び何かの弾けるような音と共に奔った金色の光がレイカの身体を貫いた。


「あああ!」

 レイカの悲鳴が校庭に響く。


「リーリエ!」

 バルグルもまた愕然としてレイカを呼ぶ。


 光に打たれたレイカの身体が、真っ赤な炎に包まれる。

 炎に焼かれて瞬く間に、黒変して、捩じれ、崩れて行く少女の姿。

 1秒を経ずして、右腕を失った夜白レイカは、黒いケシ炭のようになって校庭に四散した。


「その(わざ)は稲妻! 天剣! 霜巨人(ヨートゥン)! ヤギョウ将軍か!」

 一瞬にしてレイカを倒した土煙の向こうの影に、バルグルは激昂して叫んだ。

 

「獣王よ! 小僧に手出しはさせぬ!」

 ビョ「さあバルグル……この者を殺して、剣をお取りなさい」

「リーリエ、だが、こいつは……」

 バルグルの傍らでシュンへの止めをうながすレイカに、獣王は戸惑いの声を上げた。


「ううう……」

 二人の足元では、力を使い果たしたシュンが、動くことも出来ずに苦し気な息をしている。


「…………!」

 銀色の蓬髪を震わせて、バルグルは辺りを見回す。

 人間の戦士の幻惑の技で我を忘れているその間、獣王が周囲に与えた災禍は甚大だった。

 彼の振った『オルカンの破城斧』から奔った炎は辺りの地面を割り、校舎を突き崩し、学校の周囲の家々を倒壊させ、焼いていた。

 方々から人間の悲鳴と混乱の声が聞こえて来る。

 校庭でバルグルとやり合った人間の戦士たちは、炎に巻きこまれて死んだのだろうか、それとも既に逃亡したのだろうか。

 今この場に居る戦士は、足元で苦し気に呻くシュン一人だけだった。


「こいつは……俺との戦いを捨ててまで、仲間を助けようと……」

 緑の蔓に繋がれてかろうじて倒壊を免れている校舎を見上げて、バルグルは驚嘆の声を上げるバルグルに、


「何を躊躇うのです、獣王よ?」

 レイカは人形の様な貌を上げて、業を煮やしたようにそう問いかける。


「先程の戦いでお分かりになったはず。この剣は炎を凍らせます。水を燃やします。この世の状を変え、人の性を変え魔王に匹敵する程の力を与えます。そう、この者の持つ剣は『人の世の剣』……『刹那(せつな)灰刃(かいじん)』。かの『裂花の晶剣』と対になる、世界の理を変える魔剣……。もしも他の人間や魔王の手に渡れば、その者に再びあなたの覇道を阻み、あなたを滅ぼすほどの力を与えることでしょう。そうなる前に、さあバルグルよ……」

「ぐ……!」

 レイカの言葉に、獣王は苦々し気に呻くと、先程地面にうち捨てた自身の斧を拾った。

 一歩、二歩、獣王はシュンに近づく。灰色の目でシュンの頭部を見据えて、シュン向かって構えた斧を振り下ろそうとするが……。


「やめだ、リーリエ。こいつとは……シュンとは勝負が着いちゃいねえ。戦士の生き死には勝負で決める! 仕切り直しだ。娘を追うぞ!」

 銀色の蓬髪を揺らしてシュンから翻ると、レイカにキッパリとそう言い放った。


「できませぬか、獣王よ?」

 レイカは少し残念そうに小首をかしげて、バルグルにそう囁いた。

 翻った獣王の脇を抜け、レイカはツカツカとシュンのもとまで歩みを進めた。


「あなたのその甘さが、お妃さまを殺し、あなたの覇道を阻んでいると、なぜ解らぬのです?」

「なん……だと!」

 凛然としたレイカの声に、獣王の顏が歪んだ。

 バルグルが再び斧に手をかけレイカを向いた、その時には既に、シュンの傍に立つレイカの手には、一振りの短刀が握られていた。


「ですが獣王よ、あなたの悲願はまた私の悲願でもあります。あなたが手を汚さずとも、どこまでもあなたにお尽くし(・・・・)致しましょう……。いかな魔剣の力も、主の首さえ落とせば……」

「やめろ、リーリエ!」

「グッ! レイカ……」

 レイカの目的に気づいたバルグルが彼女を制そうとするが、

 ピタリ。無念の声を上げる動けぬシュンの首筋には、既にレイカの短刀が添えられた。

 だが、その時だ。


 バチン! 何かの弾けるような音が空気を震わせて、次の瞬間、

 短刀を握ったレイカの手が、その肩口からゴソリと落ちた。


「な……これは……!?」

 レイカは自分の身に何が起きたのか理解できない様子で、地面に転がった自分の右腕を唖然として見下ろしていた。

 切断された腕は、その創口が黒く焼け焦げ、甘く腐った果実のような匂いを放っている。


「私の……私のう」

 レイカが呆然とそう呟きながら、自身の右腕を拾い上げようとした、まさにその瞬間、


「滅びよ! 吸血鬼!」

 裂帛の怒号とともに、突如校庭の土が爆ぜた。と同時に、バチン!

 舞い散る土煙の向こうから、再び何かの弾けるような音と共に奔った金色の光がレイカの身体を貫いた。


「あああ!」

 レイカの悲鳴が校庭に響く。


「リーリエ!」

 バルグルもまた愕然としてレイカを呼ぶ。

 光に打たれたレイカの身体が、真っ赤な炎に包まれる。

 炎に焼かれて瞬く間に、黒変して、捩じれ、崩れて行く少女の姿。

 一秒を経ずして、右腕を失った夜白レイカは、黒いケシ炭のようになって校庭に四散した。


「その業は稲妻! 天剣! 霜巨人(ヨートゥン)! ヤギョウ将軍か!」

 一瞬にしてレイカを斃した土煙の向こうの影に、バルグルは激昂して叫んだ。

 

「獣王よ! 小僧に手出しはさせぬ!」

 ビョオオオ。

 風が舞い、土煙が飛散すると。


 そこに立っていたのは巨人だった。

 バルグルの巨躯を2回りほども上回る、全身が金色の毛皮に覆われた半人半獣の2足の巨人だった。


 黄金の巨人の両腕からはパチパチと金色の火花が飛び散っていた。

 その両手に握られているのは、絶えず形を変えてゆく二振りの……稲妻(・・)だった。


「があああ!」

 獣王の斧が穿った地割れに身を潜め機会をうかがっていたのだろうか。

 輝く巨人となったヤギョウが両手の稲妻を振り上げバルグルに斬りかかる。


「ぐおおお!」

 バルグルもまた雄叫びを上げて斧を振ろうとするが、ヤギョウの稲妻の方が一瞬早かった。


 ヤギョウの両手から放たれた金色の雷光が、レイカの時と同様、バルグルの胸部に突き刺さる。


 ボン!

 鈍い爆音と共に、バルグルの纏った鱗鎧(スケイルメイル)が爆ぜる。獣王の隆々たる筋骨が、シュンから刀創が剥き出しになる。

 苦悶の呻きを漏らすバルグル。


「いま一撃!」

 間髪入れず再びバルグルむかって剣を振るヤギョウだったが、


 バチン!

 次にヤギョウの放った稲妻は、獣王のかざした『オルカンの破城斧』の刃に引かれ、バルグルの身体には至らなかった。


「受けきったぞ! ヤギョウ!」

 稲妻を帯びてパチパチと火花を散らす斧を振り上げ、バルグルがヤギョウにそう叫んだ、だがその時には、


 ゴオオ。

 ヤギョウの周囲に、風が撒いていた。

 獣王の身体を、凄まじい突風が叩いた。


「ぬう!」

 風に阻まれ一瞬身動きの取れない。

 バルグルの目の先で、ヤギョウは動けぬシュンの身体を抱え上げた。

 そしてヤギョウとシュンは、突如校庭に生じた竜巻に巻き上げられて、獣王の眼前から姿を消した。


「ヤギョウ将軍……雷と竜巻を操る吹雪の国の霜巨人(ヨートゥン)。だが奴の魔気ではこれ以上俺と張る余力はなかったか! にしても、聞きしに違わぬ恐るべき剣!」

 肩で息をしながら、バルグルは校庭に砕け散った自身の鎧を見据えて、それでも心なしか満足げにそう呟いた。


「リーリエ……」

 バルグルは、荒れ果てた校庭に残された夜白レイカの右腕に目を遣った。

 剥き出しになったレイカの真っ白な手の内には、シュンの首に添えた短剣『鬼刺刀』が、まだしっかりと握られていた。

 レイカの残骸を見つめる獣王の灰色の目には数瞬、やるせない悲愁の影がさしていた。

 だがやがて、獣王は意を決した様子でヤギョウとシュンの消えた空を仰いだ。


 パラパラパラパラ……。

 空からはヘリコプターのプロペラ音、近づいてくるサイレンの音。

 人間の救助の手と、軍隊(・・)がバルグルに迫っていた。


「ぬうん!」

 バルグルは気魄を込めて、斧を振らず自分の拳で地面を打った。


 ズズウウウ……

 再び鳴り響く地鳴り。

 立ち込める土煙。

 煙が晴れた後、校庭の真ん中には大きな穴が穿たれていた。

 バルグルの姿は、もう其処には無かった。


 そして、ハサハサハサ……

 微かな翅音を立てながら、校庭に残されたレイカの片腕の周囲を舞う一片の影がある。

 それは1頭の、黒翅の蝶だった。


  #


「これは……いったい何が!?」

 リートとメイの行方を追って、雑木林に辿りついたシーナは、金色の瞳を見開いて愕然と辺りを見回していた。

 周囲の木々は、みなへし折られ焼け焦げ、地面の各所からプスプスとキナ臭い煙が上がっていた。


「うううう……」

 そして、荒れ果てた林の真ん中で、1人へたりこんで苦し気な声を漏らす少女がいた。


 肩から血を流して、白い翼が今は真っ赤に染まっている。

 メイを連れ校庭を飛びたったリートの姿だった。


「翼の姉ちゃん、しっかりせえや!」

 あわててリートに駆け寄り助け起こそうとするシーナ。


「メイが……メイがあの男に!」

 リートは振り絞るような声でシーナにそう訴えると、ガクリと力尽きて、それきり意識を失った。


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