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破界の魔王と吸血少女  作者: めらめら
第8章 獣王進撃
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蹂躙

「ダメや、祖父ちゃん!」

 そう叫ぶと、シーナが教室の窓から身を投げる。


「うおあ!」

 シュンはとっさに、懐から取り出した剣の柄を振った。


 シュルルルル……

 『刹那の灰刃』が光り輝く水晶の刀身を形作ってゆく。

 シュンの左手から伸びた緑色の薔薇の蔓が、空中のシーナに絡みついた。


「シュン、サンキュ!」

「シーナ!」

 フワリ。

 薔薇の蔓を命綱にして、シーナが校庭に軟着陸した。

 シュンもまたシーナを追って、校庭向かって跳んだ。


  #


「行かせんぞ! 妖怪!」

「そうかい、来るか!」

 バルグルが歩みを止めて、再びラインハルトに向き直った。


 そのラインハルトの両手の掌底に、眩い金色が収束していく。

 そして、ピタリ。

 ラインハルトがバルグルに両の手をかざした。

 間髪入れず、


「『魔煌殲滅砲(マコウスマッシャー)最大出力(ギガマキシマム)』!」

 ビュウウウウン……


 裂帛の気合いと共に、ラインハルトの両手から奔った金色の輝き。

 老人の放った光の奔流が、空気を切りさく。

 一直線にバルグルを直撃する。


「消え去れ!」

 ラインハルトは、今度こそ勝利を確信した。


 『魔煌殲滅砲(マコウスマッシャー)』。

 レギオンの統率指揮に特化した魔甲至高鎧(マコウプライム)に、唯一装備された対魔殲滅兵器。

 全身のエネルギーを掌底の特殊水晶に集中して放出。

 物質系精霊系の区別なく妖魔を消滅させる。

 この技こそラインハルトの、まさしく最終兵器(リーサルウェポン)だった。


 だが……


「馬鹿な!」

 老人は驚きに目を見開いた。

 バルグルを直撃したスマッシャーが、徐々にその光を減じて行く。

 まるで乾いた砂場にまかれた水の様に。

 老人の放った必殺光線が、バルグルの身体を覆った鱗鎧に吸収されていく!


「魔気を鎧に溜めて撃ち出すのか……? 色々面白い事するな。だが……」

 斧を構えたバルグルが、少し驚いたような表情で老人向かって歩いて来る。


「駄目だな、その程度じゃ!」

「うおお!」

 バルグルが、ラインハルトに向かって自身の戦斧を振り上げた。


 蒼黒い炎が斧の両刃から噴き上がった。

 絶体絶命のラインハルト。

 だが、その時だ!


 ズドン!

 突如バルグルの胸板から、真っ赤な爆炎が噴き上がった。

 

「うあああ!」

「ぬう!」

 爆発の衝撃で吹き飛ばされるラインハルト。

 エネルギーを使い果たした魔甲至高鎧(マコウプライム)が、爆発の衝撃で老人から引き剥がされて校庭に散らばった。

 バルグルの動きも一瞬止まる。


「御屋方様、逃げてください!」

「ホタル!」

 ラインハルトを呼ぶ声に、老人が声の方を見上げた。

 校庭の上空を旋回する輸送用ヘリから弓矢を構えているのは、忍者箕面森ホタルだった。


 バルグルの胸に命中して爆発したのは、ホタルの放った爆雷の矢だった。

 ホタルが、上空から自身の武器『雷鳴の弓』を用いてラインハルトを逃がしたのだ。


「空から! 鬱陶しい!」

 バルグルが忌々しげにヘリの格納庫の際に立ったホタルを見上げた。

 その時だった。


「バニシング・バーニング・ウィップラッシュ鞭打(ベンダ)!」

 ボオオッ! 今度はバルグルの背面に、真っ赤に燃え上がる炎の鞭が炸裂した。


「ぐうう!」

 ヒュルン。

 とっさに振り向いたバルグルの右腕に、燃え盛る鞭が巻き付いた。

 鞭の使い手は、校庭に降り立ったシーナだった。

 すぐ傍には緑の蔓で全身を覆い、水晶の剣を構えたシュンもいる。


「お前がラスボスか! そっちから出向いてくるとはな!」

「こいつが……バルグル……!」

 右手の鞭を操りながら、燃え立つ炎のような紅髪を揺らしてシーナがバルグルをにらみつける。

 シュンも剣を構えたまま、複雑な表情でバルグルを見据えた。


 こいつが、荒くれ者の魔物を操ってメイを襲った、敵の親玉……!


「うん? それが、『人の世の剣』か? てことは……」

 バルグルが、シュンの構えた剣に目をやってそう呟いた。


「なるほど。お前らがアイツの言っていた『子供ら』か……!」

 シュンとシーナを見て、バルグルの灰色の目が興味深げに見開かれる。


「アイツ? あいつって、レイカのことか?」

「子供なのに、あの荒くれの3匹を倒しちまったんだって? すげえな……!」

 シュンの問いに答えず、バルグルは2人を見下ろして凄絶に笑った。


「ぬかせ脳筋! 今度はお前の番や! ウルルちゃん、シュンを手伝ったって!」

「わかりましたわ、お姉さま!」

 右手の鞭でバルグルを牽制しながら、シーナは腰に下げたペットボトルのウルルに指示を出す。


 シュウウウ……。

 ペットボトルから噴き出した水の精ウルルが、シュンの薔薇の蔓に吸い込まれていく。

 シュンの構えた水晶の剣が、青白い輝きを増して行った。


火の精(サラマンドル)水の精(ウンディーネ)か……。こっちの世界で人間に仕えてるのか? いったいどうして……?」

 バルグルは右手に巻き付いた燃え盛る鞭と、シュンの身体に染み込んでいく透明な水。

 それらを交互に眺めながら、再び興味深げに首をかしげる。


 そして次の瞬間、グン。

 シーナが右手の鞭を引いた。

 ゴオオ……炎の勢いが増す。


「くっ」

 バルグルの体勢が一瞬崩れたかに見えたその時だった。


「シュン、一気に片付けるんや!」

「うおお!」

「行きますわー! スプラッシュ・モイスティング・ウォータージェット水刃(ヤイバ)!」

 間髪入れず、シーナの指示。


 シュンがバルグルめがけて剣を振り下ろす。

 あらゆる物質を両断する水の刃となったウルル。

 刃は校庭を一直線に断ち割りながら、バルグルに命中。

 その巨体を両断した……かに見えた。


 だが……


 ドンッ!

 空気が震えた。


「うあ!」

 シュンの身体を、衝撃波が叩いた。


「どぎゃ~!」

 頭上から、シーナの悲鳴が聞こえる。

 バルグルの姿が、一瞬で校庭から消えていた。

 何が起きたか訳がわからず、シュンは上を見る。


「シーナ!」

 空中で、シーナの身体が回転していた。

 右手に持った魔器『乱魔の鞭』は、無残に引きちぎられていた。

 シーナの周囲のそこかしこに、火の精メララの真っ赤な炎がまき散らされている。


「あいつは身体が小さすぎる。鞭さばきもマダマダ……。仲間の火の精(サラマンドル)を、上手いこと制御(つか)えてねえ。そしてお前は……」

 ズシン。

 そしてシュンの背後に何かが着地する音。

 背中を野太い声が叩いた。


「う……あ……あ……」

「遅すぎる。踏み込みが甘い。その剣もロクすっぽ使えてねえ……戦士じゃねえな」

 シュンは恐怖の呻きを上げながら、背後に立った者に振り向いた。


 空中からシュンの背後に降り立ったのは、バルグルだった。

 シュンの刃がバルグルに到達するその刹那、驚異的な脚力と目にも止まらぬ速さで校庭から跳躍した獣王。

 バルグルは右手に巻き付いた鞭ごとシーナの身体を撥ね上げて鞭を引き千切ると、そのままシュンの背後に着地したのだ。


「筋は悪くない。鍛えればいい戦士になるかもしれない。だが……」

「うあああああ!」

 バルグルがゆっくりと、シュンに向かって斧を振り上げた。

 恐怖で混乱したシュンが、無茶苦茶に剣を振り回してバルグルに切りかかる。


「ぬん!」

 バルグルが斧を振った。

 斧から噴き上がった蒼黒い炎が、シュンに炸裂した。


「ぐあああ!」

 シュンの全身がふっとばされる。

 炎に押されて全身から引き剥がされる蔓の鎧。


 シュンの服を、髪を、炎が焦がす。


 ドサリ。

 シュンのすぐ近くに、撥ね上げられたシーナが墜落してきた。


「お前はまだ子供だ。それに戦士じゃない。殺しはしねえ。だからそこで寝てろ……」

「う……う……」

 校庭に転がったシュンを一瞥して、バルグルは呟く。


 全身の痛みで、シュンはその場から動けない。

 シーナもまったく動く気配がない。

 気を失っているのだろうか。


「わああ! シーナ様! シュン殿も!」

 上空のヘリからは、慌てふためいたホタルが再びバルグルに弓を引こうとしていた。


「そっちも!」

 だが間髪入れず、バルグルはヘリを見上げる。


 次の瞬間、バルグルの銀色の蓬髪がザワザワと波打って何本もの銀色の刃のようなものに変じた。、


 ビュンッ! ビュンッ! ビュンッ!

 バルグルの蓬髪から飛び出した刃が、次々とヘリに命中してゆく。

 その機体を引き裂き、空中で解体してゆく。


「そ、そんなー!」

 ホタルの悲鳴。

 たまらず忍者が、ヘリから飛び出した、次の瞬間。 


 ドドンッ!

 空中の輸送用ヘリが、爆発四散した。


  #


「シュン、みんなも!」

「姫様、早くこの場から離れるのです!」

 教室の窓から戦いの行方を目にしながら、メイの声が震えていた。

 メイの足元では、シュンのバッグから飛び出したタヌキのヤギョウが、必死の表情でメイにそう訴えていた。


「なにあれ、タヌキが喋ってる……!?」

「秋尽メイって、いったい……!?」

 教室には、更なる動揺が広がって行った。


「どうすれば……どうすれば……!? ん?」

 シュンたちの危機。

 窮余の策を求めて必死で頭を巡らすメイ。


「そうだ、あれは……!」

 何かを思い出したのか、メイは自分のロッカーに目を遣った。


  #


「邪魔するヤツは、こんなもんか? もういねえな……」

 校庭に転がる苦痛の呻きを漏らすシュン、シーナ、ラインハルトを見回して、バルグルはため息をつきた。

 獣王が斧を右肩に担いで、再び校舎に向かって歩き始めた、その時だった。


「ん? あれは……」

 何かに気づいたバルグルが、歩みを止めた。


 ヒィィィィイィイイイイロロロロロ……


 辺りの空気を裂いて校庭を、甲高い音色が渡っていく。

 音の源は、校舎の内側だろうか。

 おそらく笛の音だろう。

 まるで(トビ)の鳴き声のような。

 だが金属的な硬さもある音色が、校庭に、そして街全体に鳴り響いていくのだ。


「あの音色は『翼人(ジレーネ)の笛』……。何故この世界で鳴っている?」

 そう呟いたバルグルが、不審げに首をかしげる。


 そして、次の瞬間唐突に、トン。


 教室の窓から飛び出して、バルグルの前に立った小さな影がある。

 自分の10倍以上ある魔王をにらみ上げた、直立歩行する小さな獣の姿。


「ヤギョウ! なんで!」

 校庭に転がるシュンが、絞り出すような声で呻いた。

 バルグルの前に立ったのは、タヌキのヤギョウだった。


「久しぶりだな。獣王バルグル!」

「その声、その魔気……お前、『吹雪の国』のヤギョウ将軍か!」

 ヤギョウの名を呼ぶバルグルの声に、隠しおおせぬ昂ぶりがあった。


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