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破界の魔王と吸血少女  作者: めらめら
第8章 獣王進撃
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魔王の力

「はー……まったく……」

 昼休みも間近な4限目の授業中だった。

 シュンは窓際から校庭の景色を眺めながら数学教師、橋場の授業を上の空で聞いていた。


 ずいぶん久しぶりな気がするいつもの学校。

 だが、例の一件のおかげで授業の内容など、とても頭に入ったものではない。


 ――シュンは私を守るために戦ってくれたの。

 ――シュンのことを悪く言ったら、この私が許さない……!


 朝方の教室。

 シュンのことを厳しく責めたルナの頬をメイは強く張りった。

 そして、毅然とそう言い放ったのだ。


「秋尽さん……あなた……いえ、あなたたち……いったいなんなのよ!?」

 ルナは左の頬を押えながら、緑の瞳で自分を見据えるメイを睨んでうめいた。


「とにかくもう……! やめろって、お前ら!」

 シュンの親友コウがメイとルナの間に割って入った。


 その場はそれで収まったものの、それからのルナは始終厳しい表情で無言のまま。

 とてもシュンたちのことを許した様子ではない。


「ルナ……メイ……勘弁してくれ」

 シュンは口の中で小さく2人の名前を口にする。


 先週の市街の追跡に巻き込まれて、ルナの母親は重体のまま。

 事件の発端となったシュンたちを恨む気持ちもわかるし、彼女の情況を思えば胸がキリキリする。


 だがあの場でとった行動以外で、シュンたちに出来ることがあっただろうか。

 シュンは自分にそう問いかける。

 メイを庇い、自分の身を守ること。

 そのことだけでシュンは必死だった。


 他に、出来ることなんて……


「シュン。またさっきのコト考えとるんか?」

「うん? ああ、まあ……」

 ボーッとしたシュンの様子に気づいたのか。

 自分を小突いて小声で話しかけてくるシーナに、シュンは曖昧にうなずく。


「クヨクヨしても仕方ないでシュン。あの時はウチもシュンも、ああする事しか出来なかったんや。交通事故みたいなもんやで。気の毒やけど運が悪かったとしか……」

 シーナの言葉も、もっともだ。

 魔物の暴走で亡くなったり、怪我をしたりしたのはルナの母だけではない。

 それらの惨事の責任が、シュンたちにあるわけではない。


 悪いのは全部こちら側に出てきた魔物たちではないか。

 そう頭ではわかっていても……


 シュンは振り返って、後ろの席のメイに目をやった。

 メイはノートを開いて、黒板を眺めて、落ち着き払った様子で授業を聞いている。


 朝方の揉め事など、まるで無かったかのように。


 メイ、なんであんなことを……。

 シュンは戸惑い気味にメイを見る。


 メイは、ルナの言葉に耐えかねたのだろうか。

 シュンの気持ちを代弁したかったのだろうか。


 いや、それとも、もっと他に……


 はっきりしていることがあった。

 これまでの事件と、メイの関係を伏せておくためのラインハルトの計らいも、あの一件で潰れてしまったことだ。

 メイの出生や事件との関連まで思いが及ぶ人間はいないだろう。

 だが少なくともクラスの全員に、メイとシュンのつながりは知られてしまった。


 何よりも藤枝ルナに。

 ルナの怒りと疑念は、今やはっきりメイに対しても向けられていることだろう。


 ふと、メイがシュンの方を見た。

 メイの緑の瞳と目が合った。


 そして、フ……


 メイはシュンに向かって、満足そうに微笑んだのだ。

 メイの緑の瞳がシュンを見据えてキラキラと輝いていた。

 メイが無言で、シュンに何かを囁きかける。


「メイ……!?」

 シュンは、うなじの産毛が微かに逆立つのを感じた。

 メイは、自分がしたことを分っているのだろうか?

 あんなことをして事件が過ぎた後、ユウコや自分に非難の声が及ぶことを恐れていないのだろうか?


  #


 だがそんなシュンの心配事も、数分後に起こったより巨大な惨事の前で、一気に消し飛ぶことになる。


  #


 プルルルル……。


「うん?」

 いきなり右腕に走った細かい振動に、シュンの隣の席のシーナは小さく声を上げた。


 祖父のラインハルトが彼女に渡した腕時計型の携帯端末『ヒラサカ・ウォッチ』からのメッセージ。

 ラインハルトからの着信だった。


「どうしたんや、祖父ちゃん。もうすぐ授業済むから、またあとで……」

「シーナ! いいか、落ち着いて、よーく聞くんじゃ!」

 ウォッチの受話口に顔を寄せて小声で応対するシーナ。

 ウォッチからはオロオロした様子でラインハルトの声が聞こえた。


「ついさっき、聖ヶ丘駅前で巨大な妖気反応が計測された! 計測値5,000,000YK……信じられん数値じゃ!」

「妖気反応!」

「そうじゃ。反応源は時速10キロで移動中……あと3分でお前たちの学校に接触する!」

「おい比良坂……何を私語しているんだ? 携帯か!」

 ラインハルトの連絡に、思わず声を強めて席から跳ね上がるシーナ。

 数学教師の橋場が厳しい顏で寄って来た。


「今、わしとホタルとレギオンが全速でそっちに向かっておる。お前たちも、すぐに学校から離れろ!」

「わ、わかった祖父ちゃん!」

「シーナ? どうしたんだよ……」

 ただならぬ様子のシーナに、シュンもようやく異変に気づく。


「シュン。メイくん! ごっついバケモンがこっちに向かって来とる! ここから離れるんや。先生もみんなの避難、頼んます!」

「バケモノが、こっちに……」

「うそだろ……」

 ザワザワザワ……。

 周囲を見回し切迫した表情でそう告げるシーナに、教師の橋場を始め教室中に動揺が広がって行った。

 その時だった。


「グッ!」

 シーナの全身がこわばった。


「シーナ!」

「もう来たんか……この、叩きつけるような妖気……!」

 不安の表情でシーナを向いたシュン。

 燃え立つ炎のような紅髪を震わせてシーナは呻いた。

 そして……


「『秋尽メイ』……だったな。ココにいるんだろ?」

 ビリビリと空気が震えた。

 まるで腹の底まで響いてくるような野太い声が、学校中に鳴り渡った。


「あれは……!?」

 階下から響いて来る声の元を確かめよう。

 そう思って窓の外に目をやって、シュンは驚きの声を上げた。


 校庭の真ん中に、1人の男が立っていた。

 3階の教室の窓からでもはっきりわかる際立った体躯だった。

 2メートルは超えていそうな長身。

 身にまとった黒革のロングコートの上からでもはっきりわかる隆々とした筋肉。

 風に靡いた銀色の蓬髪。精悍な面構え。


 学校の正門から堂々と入って来たのだろう。

 校庭に立った男が、目の前の校舎を見上げてながらメイの名前を呼んだのだ。


「あれがバケモノ……でも人間?」

「いやシュン、あいつや……間違いない!」

 戸惑いの声を上げるシュンに、シーナは紅髪を震わせて声を荒げた。


(おい)らぁバルグル。獣の谷のバルグルだ。お前さん同様、『あっち側』の(モン)さ。(ゆえ)あってお前さんの身体に用がある。大人しく付いてくるなら、周りの連中に手荒な真似はしねえ。出てきな、『秋尽メイ』!」

 バルグルと名乗った男は再び校舎を見上げると、大きな声でそう言い放った。


「あいつが、『魔王バルグル』!」

「生きとったんか!」

 名乗りを上げたバルグルを、シュンとメイは驚愕の表情で見つめた。


 メイを狙う魔物の首魁。

 獣の谷のリートが慕っていた魔王。

 ラインハルトの攻撃で消滅したはずのそのバルグル。

 その男がいま、校庭に立ってメイを呼んでいる!


「『秋尽メイ』って……うちのクラスの秋尽メイだよな?」

「手荒な真似はしないって……何なんだよあいつ……あの格好?」

 教室中の生徒に、新たな動揺が広がっていく。


「あいつ……。正面から学校に……メイの名前を!」

「正面突破、知恵も工夫も何もなしや! ったく、狼といい猿どもといい、どうしてこう脳筋なバケモノばっかなんや!」

 バルグルの言葉に、シュンとシーナは怒りの声。

 メイと魔物のつながりが、完全に生徒たちにバレた。


「メイ!」

「シュン!」

 シュンは不安の表情でメイを向く。

 校庭を見下ろすメイの表情もまたこわばっていた。


「どうしたんだ? 出てこないなら、こっちから行くぜ?」

 校庭のバルグルが、しびれを切らしたようにそう呟いて、1歩を踏み出した。


 その時だった。


 パラパラパラパラパラ……


 学校の上空から空気を震わすプロペラ音。


 と同時に、ヒューーン……ヒューーンヒューーン……。


 飛来する砲弾のような掠れた音と共に、何体もの校庭に青銀色の金属塊が降って来る。


「来た! 祖父ちゃんや!」

 シーナが頼もしげな表情で、学校上空に飛来した輸送用ヘリを見上げた。


  #


「こいつは……見覚えがあるな、あの時の人形どもか」

 校庭に着地して、自身を包囲しながらマシンガンを構える戦闘ロボット。

 7体の『魔甲レギオン』を見回して、バルグルはそう呟いていた。


 そして、ガチャン。

 レギオンに続き、最後に校庭に降り立った異様な姿がある。


「貴様……信じられん、その妖気は……?」

 レギオンを引き連れて到着したのは、シーナの祖父。

 修理の完了した赤金色の機械鎧『魔甲至高鎧(マコウプライム)』にその身を包んだラインハルトだった。


「なるほど人間の戦士か。お前だな? この前、俺んトコに人形をけしかけてきたのは……」

「ではお前が『トロポサイト』の……! 馬鹿な、何故生きとる!?」

 目の前に居るのは、自身が魔甲レギオンで殲滅したはずの妖怪だった。

 そう気づいたラインハルトが驚きの声を上げる。


「ふん。あの場所に溜まった魔気は、シュライエの氷に裂かれた俺の体から漏れ出たものだ。すでにあの時、接界は盛りに近づき氷は砕けていた。あとは傷が塞がるまでの僅かな間、魔気を消し地下に身を隠すなんざ容易い事さ……で、どうするんだい?」

 バルグルは事もなげにラインハルトにそう答える。

 獣王は灰色の目でギロリと老人を見据えた。


「やるかい、あの時の続きを? さっき手荒な真似はしないと言ったが、相手が戦士なら話は別さ……」

「ぬうう……! そうじゃったか……」

 レギオンを見回して悠然とそう言い放つバルグルに、ラインハルトは怒りの呻きを漏らすした。


「ならば、今度こそとどめ! 子供らに手出しはさせん!」

 老人はこれも修理済みの右手の軍配、魔采軍配(マサイコマンダー)を振り上げた。


 とたん、ヒューン……ヒューン……ヒューン……

 手足の先端から、背面の推進器(スラスター)から蒼白い炎を漏らしたレギオンが、目にも止まらぬ速さで一斉にバルグルに飛びかかった。


 だが次の瞬間、ドンッ!

 空気を震わす爆音とともに、レギオンの青銀色の装甲が校庭中に散らばる。


「なに!」

 驚愕の声を上げるラインハルト。

 7体のレギオンの内、すでに5体が一瞬にして砕け散っていた。

 バルグルの右腕からは、蒼黒い炎のようなものが噴き上がっていた。


「また人形の特攻かよ。まったく能の無い喧嘩をする奴だな……」

 興がそがれたように呟くバルグル。

 獣王の右手から噴き出した青い炎が収束していく。

 炎はバルグルの身の丈と同じくらいもあるオブジェを形作っていった。


「くっ! レギオン、魔壊榴弾(マカイグレネード)!」

 間髪入れずラインハルトが叫ぶ。

 老人の声に呼応して、残った2体のレギオンがバルグルの長身に組み付いた。


 カッ! 次の瞬間、辺りが一瞬真っ白な閃光に塗りつぶされた。


「これでどうじゃ……」

 老人が安堵の声を上げる。

 レギオンの最終兵器(リーサルウェポン)

 妖気に干渉して魔物を内側から破壊する『魔壊榴弾(マカイグレネード)』を至近距離で、二発同時に炸裂したのだ。


 いかに強大な力を持った魔王でもこれならば……

 ラインハルトが勝利を確信した、だが次の瞬間。

 白い閃光を切り裂いて、黒光りした巨大な刃が老人の目の前に来た。


「ううお!」

 とっさに攻撃をかわす老人。


 次の瞬間、ズーン。

 轟音を上げて、大地が揺れた。

 まるで大きな地震みたいだった。


「きゃああ!」

「うわあ!」

 地響きで校舎が揺れる。

 教室の生徒たちが、恐怖の悲鳴を上げる。


「なるほど、魔気に干渉する武器か。俺たちのことをずいぶん調べてるんだな……?」

 徐々に輝きを減じて行く『魔壊榴弾(マカイグレネード)』の向こうから、バルグルの野太い声。

 老人の前に姿を現したバルグルは、全くの無傷だった。


「たしかに、その辺の連中なら一撃でくたばっちまうだろうが、(おい)らにはまだまだ……」

 老人にそう言い放つバルグル。

 彼のまとった黒いロングコートが、さいきほど同様、青黒い炎に包まれて変貌して行く。


 炎の中から現れ出でて、いまやバルグルの胸板全体を覆っているのは、黒銀色の鱗鎧(スケイルメイル)だった。

 そして今、バルグルが右手に握っているのは、身の丈ほどもある巨大な両刃の戦斧(バトルアックス)だった。


 校庭の地面は、バックリと巨大な亀裂が生じていた。

 亀裂は校舎まで走って、コンクリート製の壁面の各所が無残にひび割れている。


 先ほどの地響き、校舎どころか、学校から半径数キロを襲った地震。

 それはバルグルの振った斧によるものだったのだ。



退()きな人間、相手にならねえ……」

 巨大な斧を老人にむけてかざしながら、バルグルはつまらなそうにそう言った。


「こいつは『オルカンの破城斧(はじょうふ)』。俺が振えば山を断ち城を崩す。石でできた人間の城もな……。さ、余計な死人を出す前に、この俺を前に通しな……!」

「ぐ! 相手にならん……じゃと? それは、どうかな?」

 ラインハルトの脇を通り、校舎に歩を進めようとするバルグル。

 赤金色の鎧に身を包んだ老人は、バルグル向けて自身の掌底を構えた。


 ヒュウウ……ウウゥ……ウゥゥゥ……


 そして、老人のまとった魔甲至高鎧(マコウプライム)の全身から掠れた音が漏れ始めた。

 鎧の手足の先端に、黄金の光が収束して行く。


「うん?」

 バルグルの動きが止まった。


「あれは……祖父ちゃん! 駄目や!」

 教室から祖父の戦いを見ていたシーナが叫んだ。


「シュン、サポート頼む!」

「シーナ!」

 シーナがシュンそう言った次の瞬間。

 シーナの身体が、教室から窓の外に乗り出していた。


 タッ!


 そしてシーナが3階の教室の窓から、校庭向かってその身を投げた。


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