表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破界の魔王と吸血少女  作者: めらめら
第7章 最後のバーベキュー
65/144

最後のバーベキュー

「ユウト、タスク……!」

「大丈夫だって、眠ってるだけだから」

 石畳に寝かされた2人の子供。

 その子たちに、まだ小学生3、4年くらいの少年が駆け寄る。


 魔影世界の人攫いから逃げて来た、香坂ソラだ。

 メイは不安そうなソラの肩を手を添えて、優しく彼にそう言った。


 いったん家に戻ったが、2人の友達の事が気掛かりで再び現場に戻って来たソラは、神社の境内でシュンたちに出会ったのだ。

 友達のユウトとタスクは、シュンたちによって魔影世界から助け出されていた。


「ソラくん、お父さんかお母さんには、この事は?」

「うん、言ってある。警察にも連絡するって言ってたから、もうすぐ……」

 遠くから、パトカーのサイレン音が響いて来る。


「じゃあ、俺達も行かないと……って、親父?」

 ソッコーで神社を離れようとリュウガの方を向いたシュンは、父親のおかしな様子に気づいた。


「着信300回……! 連絡入れるの、忘れてた……!」

 スマホを眺めるリュウガの顏が恐怖に歪んでいたのだ。


「シュン。ナ……母さんは今ドコに!?」

「え、ああ、母ちゃんはシーナの家……あの『お化け屋敷』だよ」

「比良坂の屋敷か……わかった!」

 シュンの答えに、リュウガはオロオロしながらスマホをしまった。


「そういえばシュン。私たちも、ナユタさんから買い物頼まれてたよね?」

「しまった! 忘れてた!」

 シュンが、母親のナユタから渡されたメモをポケットから取り出した。

 夕方までに買い物を終えて、比良坂邸まで戻らなければいけない。

 でも魔影世界への入り口を見つけたせいで、それどころではなかった。


「シュン。お、俺は先に比良坂の家に戻ってるからな。お前たちはゆっくり買い物してこい!」

 リュウガは落ち着かない様子でシュンにそう告げると、そそくさと石段の方に行ってしまった。


「もう日が暮れるわ……私たちも急がないと。行こう!」

「ああ、そうだなメイ」

「ホタルもご一緒します!」

 シュン、メイ、ホタルも顔を上げる。


「じゃあね、ソラくん。あとはよろしくね!」

「うん、ありがとうね! お姉ちゃんたち!」

 手を振るソラに別れを告げて、3人は次の目的地に歩き出した。

 目指す先は、駅前のスーパーマーケットだった。


  #


「牛肉、豚肉、それからラムとソーセージか……随分沢山買うんだな」

「お野菜も、タマネギに、カボチャに、ピーマン、あとエビとイカとホタテ? これって……」

 夕暮れ時の買い物客で賑わうスーパー『徳徳』の店内。

 ナユタから渡されたチラシを眺めながらシュンとメイは顏を見合わせた。


「これがお夕飯てことは……わかった。シュン、行こ!」

「おいメイ……」

 ナユタが夕飯に何をするつもりか当たりのついたメイ。

 彼女は買い物かごをカートに乗せて、笑顔でシュンを先導した。


「あーん待ってください!」

 買い物かごを下げたホタルが、2人の後を追った。


  #


「うーん。これちょっと買い過ぎじゃないのか? 母ちゃん……」

「いいって、シュン。だって、今日はハルさんに、お祖母ちゃん、シーナちゃん、ホタルちゃん、ナユタさん、カナタさん、リュウガさん……全員帰ってくるんだよ! これくらい買って行かないと」

「ホタルも、お腹が空きました……」

 スーパーからの帰り道。

 パンパンになったスーパーの袋を両手に下げて戸惑うシュンに、メイは指を折りながら屋敷に集まる者の名を上げて行く。

 ホタルも買ってきた食材を自前の風呂敷に包みながら、グーと鳴る腹をおさえた。


 その時だった。


「ひ……姫様!」

「あ……!」

 道端から疲れ切った声が聞こえて来て3人が足元を見れば、そこに居たのは小さなタヌキだった。


 首にひっかかっているのは、自力で無理矢理噛みちぎったらしいハーネスの切れ端。

 怪しいヨーチューバーの取材の手を逃れて、メイの匂いを追ってようやくココまで辿りついたらしい。


「ヤギョウさん!」

「酷いではありませぬか姫様! わしを置いて行くなんて!」

「ご……ごめんなさい、あの時は、慌てていてつい!」

 憤懣やるかたない顔のタヌキのヤギョウ。

 メイは冷や汗をかきながらそう弁明した。


「い……一匹忘れてた!」

 ヤギョ1の事を今思い出したシュンも、すまなそうにそう呟いた。


  #


「なんと! 接界点を通じて、『獣の谷』まで……!」

「ああ、まあな……」

 買い物を終えて、比良坂の屋敷に至る坂道を上りながら。

 シュンの話を聞いたタヌキのヤギョウが愕然として呻いた。


「なんと無謀な……獣王なき()の地はいまや、血に飢えた獣たちのひしめく無法の地。人間だけで入り込むなど危険すぎる! もしも姫様の身に何かあったら……」

「仕方ないだろヤギョウ? こっちの人間が攫われたんだから、助けに行くのがあたりまえだろ!」

「そうよヤギョウさん。これは私が言い出したの。それに……」

 前足を振り上げて怒りの声を上げるタヌキに、シュンとメイは反論した。

 メイはフェルトのバッグから、小さな笛を取り出し、手に取りじっと眺めて呟く。


「そんなに恐ろしい場所じゃなかったし、恐ろしい人たちばかりでもなかった……あの人(・・・)を見ていて思ったの。私を襲うように仕向けた……その魔王バルグルって人だって、何か事情があったんじゃないか……そんな気がするの」

「そうかもしれませぬ。そうかもしれませぬが、くれぐれも無謀な行動はお慎みくだされ! ひ、姫様の御身には、我らが吹雪の国の未来が……託されているのですぞ!」

 メイの言葉に、まだ怒りが収まらない様子のヤギョウが、苦々しい顏をしてそう告げた。


「ヤギョウ……?」

 シュンはふと何かが気にかかって、足元を歩くヤギョウを見た。

 ヤギョウの声には、ヤギョウの顏には、なんだか落ち着きのない不安の色があった。


 何か、それまで信じて来たものが、急に揺らいでいるような。

 胸に湧き上がって来る疑念を必死で押し殺しているような……そんな不安の色が。


 シュンは朝方のヤギョウの言葉を思い出す。


 ――小僧、お前に訊いても詮無いことじゃが、姫様は本当に……

 ヤギョウは何を疑い、何を恐れていたのだろう?


 もうすっかり日は落ちていた。

 坂道をにともった外灯の明かりが、3人と1匹の姿を白々と照らす。

 明かりは、ようやく見えてきた比良坂の屋敷までの道程を、銀色の光点でなぞり示している。


  #


「ただいまー。母ちゃん?」

「おそくなりました……」

「ホタル、ただいま戻りました!」

 ようやく比良坂邸に戻って来たシュンとメイとシーナが、屋敷の門をくぐると、


「シュン。みんな。帰ってきたでー!」

「あーもう。検査なんか要らないのに。あたし病院て嫌い……。あらシュン、あんたたちも、いま戻ったの?」

 荷物を肩から下げて庭先に居たのは、燃え立つ炎のような紅髪を揺らしたシーナ。

 そしてシュンの姉カナタだった。


 2人も、検査入院からいま戻って来たらしい。


「おかえりなさい。シーナちゃん。カナタ。あら、シュンたちも?」

 衾を開けて縁側に姿を現したのは、シュンの母ナユタだった。

 そしてそのそばには……


「おう、みんな戻ったか」

 父親のリュウガもいた。


「父さん! 戻ってたの!?」

「おうカナタ、久しぶりだな」

 父親との意外な再会に息を飲むカナタ。

 リュウガは笑顔でそう答えると、つっかけを履いて庭に下りた。


「カナタ。しばらく会わない間に、またずいぶん綺麗になったな!」

「や、やめてよね父さん、恥ずかしい……そんなことより……」

 自分の方に歩いて来る父親に、カナタは顏を赤らめてモジモジしている。


「なななな……カナタさん、そうやったんか、まさかのパパLOVE!」

 隣のカナタの様子に、唖然としてそう呻いたシーナの頭上に、ゴチッ!

 カナタの拳骨が炸裂した。


「アタターーー!」

 頭を押えてうずくまるシーナをまったく気にせず、


「父さん、ごめんなさい、あたしがいたのに、家が、あんなことになってしまって……」

「なに、いいのさカナタ。お前たちさえ無事ならどうってことないさ。家なんて、また建てればいいんだよ……」

 しおらしい顏をして俯くカナタの肩に、リュウガが優しく手をかけた。

 だがその時。


「『また建てればいい』ですって……? いったい誰が建てた(・・・・・)家だと思ってんの!」

「ヒッ!」

 リュウガの背後から恐ろしい呻きが聞こえて来て、リュウガは肩をすくめる。

 母親のナユタが、リュウガをにらんでいるのだ。


「まったく、カナタとシュンが大変な時に、週一の連絡もよこさず、アッチ側をほっつき歩いてるなんて!」

「いや待ってくれナユユ。これはハルさんの……ほら、ボスから依頼された仕事なんだよ! ちゃんとしたビジネスでさ」

「仕事ですって? 稼いだお金、全部次の探検につぎこんじゃって、何のための仕事よ! 如月家を切り盛りしてるのは、このあたしなのよ!」

「仕方ないだろナユユ。冒険は男の夢でありロマンあり浪漫で、その……あの……」

「ロ、マ、ン、で飯が食えるか!」

「まあまあ、母ちゃん、親父も、久しぶりに会ったんだから喧嘩はやめろよ……」

 怒りが変な方向に暴走しはじめた母親をなだめながら、シュンはあきれ顔で両親の間に割って入った。


「あらまあ、騒々しいと思ったら……」

 次いで屋敷の広間から姿を現したのは、メイの祖母ユウコだった。


「お祖母ちゃん、ただいま! 買い物行ってきたよ」

 メイが両手で買い物袋を持ち上げて、笑顔で祖母にそう言った。


「そ……そうだったわ、買い物たのんでたんだった……さあ、みんな準備を手伝って。今日は全員揃って、みんな無事だったお祝い……バーベキューよ!」

「やっぱり!」

 気を取り直したナユタが、みなを見回してそう告げた。

 メイは緑の瞳を輝かせた。


 そして、パラパラパラパラ……

 屋敷の上空からヘリコプターのプロペラ音が近づいて来る。

 テレビの出演を終えた、比良坂ラインハルトも屋敷に戻って来たのだ。


  #


 すっかり日の暮れた比良坂邸の庭園に、肉の焼ける美味しそうな匂いが漂っていた。


「ほらシュン、そっちのお肉、もう焼けとるやん!」

「シーナ様、ピーマンが焦げてます! あとタマネギも!」

「あーもう、そんなに1度に乗せるからだよ!」

 シュンとシーナとホタルが、あーだこーだ言いながら。

 コンロに敷かれた網の上の食材をひっくりかえしていた。


「バーベキューて、楽しいけど何だかせわしないなぁ……」

 シュンがブツブツそう言いながら、手元のお皿に肉や野菜やソーセージを乗せていると……


「シュン……。一緒に……お肉焼こう!」

 そう言ってピタリ。


 シュンの傍らに寄り添ったのはエプロン姿のメイだった。


 ス……。

 メイの右手が、銀色のトングを持ったシュンの右手に添えられる。


「な、メイ!?」

 メイの行動にシュンは、一瞬かたまって動けない。


「ほら、こっちのも焼けてるから……」

 シュンの手を取りながら、メイが器用に肉を取り分け箸で取り……


「はい、シュン。アーンして!」

 そう言うと、シュンの目の前に、自分んの肉を差し出してきた!


「ちょ……メイ!」

 驚いたシュンがメイを見ると。

 メイの目が、すわっている。

 顏は笑ってても、目がちっとも笑っていない。


「うう……いただきます……」

 シュンは戸惑いながらメイのさし出した肉を口に運んだ。


「ななな……どうしたんやメイくん。いつになく積極的……!」

 コンロを隔てたシュンとメイの姿に、紅髪を震わせて驚くシーナ。


「ふくく……いいですよメイ殿! その調子です!」

 そのシーナの隣では、ホタルが紫の瞳を光らせて小さくそう呟いていた。


「私も……シュンの欲しいな……」

「え、なんだって?」

 細い身体をクネクネさせながら、何か小さく呟くメイ。

 シュンがなにかと訊きかえすと、


「私も……シュンの焼いたソーセージが欲しい!」

「ちょ、おいやめろってメイ!」

 顏を真っ赤にしながらそう迫って来たメイに、シュンはタジタジになった。


「クキー! 無理くりなエロネタまで……! いったい、どうしたんやメイくん!」

「シーナさま、大丈夫で、シーナ様にはホタルがいます。ホタルが……慰めて差し上げます! ここか?、ここですか?」

「ぎゃーホタルちゃん! どこ触ってるんや!」

 楽しいはずのバーベキューの場が、色々大変なことになっていた。


  #


「まったくシュン……! いったい何をヘロヘロしとるのか……!」

 庭先に一角で繰り広げられている恥ずかしいやりとり。

 縁側に腰かけたカナタが苦虫を噛み潰したような顏で、焼き上がったエビをかじりながらジンジャーエールを飲んでいる。

 メイの不慣れなアプローチに戸惑うシュンを、歯がゆい思いで見ているのだった。


「まあまあカナタくん。危険な戦いを生き残ったのじゃ。シーナもホタルもそうじゃが、あの2人……メイちゃんとシュンくんは、特にな……。全員無事。今日くらいハメを外すのも、多めに見ようじゃないか……」

 同じく縁側に腰かけて、ラインハルトが日本酒で一献。


「メイ……なんてことを……!」

 隣にはユウコが居て、こちらは微妙な顏をしてメイを見つめながら茶を飲んでいる。


「ハルさん、ユウコさん。ご無沙汰しています」

「おうリュウガくん。やはり戻ってきたのか……」

「リュウガさん、お久しぶり……」

 ビール片手の如月リュウガが、改めてラインハルトとユウコに挨拶にやってきた。


「ええまあ。あっちの調査を続けたかったんですが、まさか子供たちが巻き込まれていたなんてね……でもまあ、大事にならなくて何よりでした……」

「いやいやリュウガくん。接界が終わるまでは、まだ何が起きるかわからんよ。君の仕事の邪魔をしたようで、痛し痒しではあるがな」

「リュウガさん、メイたちをココまで連れて来てくれたんですって? どうもありがとう……」

 リュウガとラインハルト、そしてユウコは、ひとしきり沈黙し、庭先の子供たちを見つめた。


「それにしてもハルさん。『むこう側』の事を世間に公表するなんて、またずいぶん大胆な事をしましたね?」

「ん、ああ。もう世間的にも、隠しおおせない所まで来ていたのじゃ。丁度良い機会だったのかもしれない。皆が『むこう側』との関係を考え直すな。君の息子のシュンくんには、とんだ荷物を負わせてしまったがな……」

「何、大丈夫ですよハルさん。シュンは……あいつはあれでも、強いヤツです。きっと全部を受け止めきりますって……」

 頭を下げるラインハルトに、リュウガはニカッと笑ってそう答えた。


  #


「あ……す、炭がもう無いな、俺、取ってくるよ!」

 コンロの中で燃え尽きかけている木炭に気づいて、シュンはその場の空気を誤魔化すようにその場を離れる。


「じゃ、じゃあ私も!」

 メイもオズオズとシュンに寄り添って歩き出した。

 木炭のストックは屋敷の裏手。

 物置きの中にあるはずだ。


「こらシュン逃げるなや! ぎゃーやめてホタルちゃん! あっ! あぁ!」

「シーナ様、こうですか! こうですか!」

 シュンとメイを追いかけようとする。

 だがホタルに羽交い絞めにされて身動きとれず、変な声を上げるしかないシーナだった。


「メイ……何考えてるんだよ、ユウコさんだって見てるのに……」

「ごめんシュン……だって、ホタルちゃんから、あの恥ずかしいビデオを取り返さないと……シュンにも迷惑がかかるし……」

 物置への道すがら、シュンは顏を赤らめながら、メイを問いただす。

 メイも自分のしていることを分っているのだろう、モジモジ恥ずかしげな表情だった。


「あんなトリック映像(・・・・・・)、だれも信じやしないって。メイがあんなことするわけないだろ! ユウコさんだってメイを信じてるさ!」

「う……ん……そうだねシュン」

 済まなそうなメイの声に、


「ほら、元気出せよ。今日はみんな無事で、お祝いのパーティなんだから、肉が冷める前に早く炭を」

 そう言いかけて、シュンがメイの方を向いたその時。

 おもむろにメイの顏が、シュンのすぐ目の前にあった。


「メイ……な」

 シュンが口を開きかけた瞬間、


 ツ……

 その口に、メイの柔らかな唇が重なっていた。


「…………!」

 突然のメイの行動に、シュンは息を飲んで微動だに出来なかった。


 1秒……2秒……。

 時間が意味を失った。

 2人の時が止まったようだった。

 メイの身体がシュンの身体に重なった。


 メイの体温を、鼓動を、シュンは全身で受け止めた。


 そして、ス……。

 桜色の唇がシュンの口許を離れた。


「シュン……この一週間。本当にありがとう。なんだか凄く……恰好良かった。だからその……これは、お礼……」

 シュンを見上げるメイの整った顏が、はにかんでいた。

 メイの手がシュンの頬に添えられて、緑の瞳がシュンの目をまっすぐに覗き込んでいた。


「メイ……」

 そう呟いてシュンも、メイの両肩に手をかけた。

 胸の奥から、温かい気持ちが湧き出て来るみたいだった。

 シュンが再び、自身の唇をメイのそれに寄せようとした、その時。


「シュン! 炭を探すのに、いつまでかかってるのよ!」

 庭の方からシュンの名を呼ぶ声がした。

 シュンの母、ナユタの声だった。


「シュン! スペアリブとホタテが、冷めちゃうよー!」

 次いで姉のカナタの、苛立たしげな声。


「……だってさ、急ごうぜ、メイ!」

「……うん、シュン!」

 シュンとメイは互いに微笑んで肯き合った。

 2人は物置に向かって、足を速めていった。


  ###


 そうしてこれが、シュンとメイがそれぞれの家族と一緒に過ごす、最後の夕食になった。


 これから後、この世界で。

 2人が家族や友達と穏やかな時間を過ごせることは、2度となかったのだ。


  ###


 ドドドオオオ……


 闇の中に屹立した、黒い蔦に覆われた集合住宅の一棟が轟音を上げて崩れ落ちてゆく。


「リーリエ……時は来たぞ!」

 崩れ落ちた廃屋の、濛々たる土煙の中から。

 立ち現われたのは身長2メートルは超えるだろう、黒銀の鎧に覆われた男だった。

 月の光に照らされて、風に靡いた輝く銀髪。まるで王冠の如く頭に頂いているはヘラジカの様な巨大な角。

 無数の刀傷の刻まれた精悍な顔が、空に上った月をギラリと睨みつけていた。


「はい、お待ちしておりました。バルグルよ……」

 そう答えて男の傍らに跪いているのは、まるで人形の様な顏をした緋衣の少女だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ