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破界の魔王と吸血少女  作者: めらめら
第7章 最後のバーベキュー
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ゴブリンのサーカス団

 ガラン……ガラン……ガラン……

 暗い森に通った一本道の真ん中を、軋んだ音を立てながら一台の車が進んで行く。


「ほれほれ、ザック。しっかり荷を引いた! 日が変わる前に、次の村まで辿りつくんだよ!」

「ウゴゴ……。わかってますってガングの旦那……まったく、トロール使いが荒いんだから……」

 道を行くのは、金属製の何段重ねにもなった大きな葛籠を乗せた荷車だった。


 その車を鎖につないで引いていくのは、シュンたちの背丈の3倍はありそうな全身毛むくじゃらの大男だ。

 肩には大きなズダ袋を背負っている。

 腰からは、これまた大きな虫取り網のようなものを下げていた。


 そして、大男の引く荷車。

 巨大な葛籠の上にチョコンと座ってゲキを飛ばしているのは、シュンたちの背の半分もないようなシルクハットの小男だった。


「やっぱり……この前、猫人(ミアウ)の村で聞いた通りだった。あいつらがあの……」

「リート、あいつらは一体、何なんだ……?」

 夜道を進む怪しい二人組のすぐ前方。

 松の木の陰に身を潜めたシュンは、傍らのリートにそう尋ねた。


「あいつらは流れ者。何日か前から、機巧(からくり)仕掛けのサーカス団を率いた子鬼(ゴブリン)の旅芸人が谷を回っているという話を聞いて、気になってはいたんだけど……」

「あの荷物……。あの袋……。いかにもって感じだけど……」

 リートの言葉に、メイも眉をひそめた。


 谷の村々を巡る流れ者がいるという話を村人から聞いていたリートは、彼らの話から次の行先の当てをつけ、この場でその流れ者を待ち伏せていたのだ。


「ま、捕まえて調べるのが手っ取り早いわね。あなたたちは此処で待ってて。人間がいると知られたら、色々面倒だから……」

「あ、リート!?」

 リートはシュンを向いてそう言うなり、バサリ、

 白い翼を羽ばたかせてその場から浮かび上がると、荷車の正面向かって流れるように飛んでいった。


「そこの2人、止まりなさい!」

「あん?」

 リートが荷車にむかって叫んだ。


 ガチャン。

 大男が歩みを止め、車が静止する。


「私はリート。獣の谷の番人。最近、このあたりの村で泥棒や引き剥ぎが増えているの。悪いけど、荷物を検めさせてもらうわ!」

「へへへ……。これはこれは、獣の谷の兵隊の方でしたか……」

 リートが2人に刺突剣(レイピア)を向けてそう言い放った。

 荷台に乗った小男が葛籠から飛び降りて、リートの方に歩いてきた。


 背丈はリートの腰ぐらいまでしかない。

 イボだらけの顔に、大きなシルクハットが不似合いな男だった。


「あっしはガング。『からくり街』の、しがないゴブリンでさあ。細工の宣伝と見世物をかねて、そっちのトロールと一緒に獣の谷をまわってるだけなんでさ。こんな戦士の国で泥棒や引き剥ぎなんて、おっかなくって、とてもとても……」

「ウゴッ! ウゴッ!」

 ガングと名乗ったゴブリンの言葉に、ザックと呼ばれたトロールも同意してうなずいた。


「そうね、私も別に疑っているわけじゃないんだけど、これも仕事なのよ。さあ、その袋と、荷物の中身を見せて……」

「へへへ……。勘弁してくださいよ兵隊さん。荷物は大事な商売道具。ここで商いの秘密を見せるわけには……」

 リートの問いかけに、何かを誤魔化すようにニヤニヤ嗤いながら、ガングが彼女を止めようするが、


「いいから、見せなさい!」

「ウゴッ!?」

 タッ! 

 次の瞬間、リートが跳躍していた。


「わ!」

「強引!」

 木陰から様子をうかがうメイとホタルが目を瞠った。


 シュラン。

 真っ白な翼を撓わせてトロールのザックの頭上を飛び越えたリート。

 少女はザックが背おったズダ袋に、右手のレイピアを一閃させた。


 すると、ズルリ……ドサドサドサドサ……

 裂けた袋から、中身が一斉にこぼれて地面に転がり出た。


「人間! あんなに!」

 シュンは思わず、驚きの声を上げた!


「……!」「……!」「……!」

 袋から現れたのは、細かい網のようなものに全身を拘束されていた。

 猿ぐつわを噛まされて、声にならない声を上げてもがく何人もの人間だった。


 子供がいた。

 ソラの友達だろうか。

 大人もいる、若者も、老人も、男も、女も。

 遠目に数えても、10人はいる……。


「わああ! 大事な商品が! ザック、回収しろ!」

「うごっ!」

 慌てて、ザックにそう命令するガング。


 トロールが人間たちを拾い上げようと身をかがめたその鼻先に。

 ピタリ。リートのレイピアが突き付けられた。


「やっぱり! 人間を攫っていたのは、お前たちだったのね!」

「待ってくれ、姉ちゃん!」

 青い瞳に怒りを煌めかせてザックを牽制するリートに、ゴブリンのガングは抗議の声を上げた。


「こっちに迷い込んで来た人間に、俺たちが何しようが、それは俺たちの勝手だろうが? 村から盗んだわけじゃない、引き剥ぎをしたわけでもない。何であんたにそれを責める権利がある!?」

「だめよ。この獣の谷で、人間に手を出すことは許さない。それがこの谷に定められた掟なの……。そっちの荷物も見せてもらうわ」

 ガングが怒りに声を震わせながらリートにそう訴えた。

 だがリートは聞く耳を持たなかった。

 ガングとザックに背を向けて、リートが荷車の上の葛籠に近づいて手を触れた、その時だった。


「待ちな、姉ちゃん!」

 リートの背中にガングはそう呼び掛けた。


「『獣の谷の掟』だと? そんな掟は、聞いたことがねえぞ。獣王バルグルが定めた掟だと言うのなら、その獣王はあんたらの国を捨て、どこぞに消えちまったじゃねえか? 今、あんたが口にしたのは谷の掟じゃねえな。あんたの掟(・・・・・)だろ……!」

「……黙れ!」

 ガングの言葉にリートは激昂して、ゴブリンの方を向こうとした。

 その時だった。


 パチリ。


 ゴブリンが自分の指を鳴らした。

 次の瞬間、パクン。

 リートの正面の葛籠の一部に小さな切り欠きが出来ると、

 

 ボオオ!

 

 突然葛籠から噴き出した真っ赤な炎が、リートの顏を覆った。


「うああう!」

 悲鳴を上げるリート。

 炎が少女の視界をふさぎ、金髪を燃やす。


「いまだ! やれ!」

 ゴブリンが会心の笑みを浮かべてそう叫ぶと……。


 パクン、パクン、パクン、パクン……


 金属製の葛籠の至る所に生じた切り欠きから、一斉に何かが飛び出してきた。


「あれは……人形!?」

「あんなに沢山……!」

 木陰に身を潜めたシュンとメイとホタルは、驚愕に息を飲んだ。

 葛籠から飛び出して来たのは、一体一体は手の平に乗るくらいの大きさの、精巧な人形だったのだ。


 松明を両手に構えながら、口から火を吐く『火吹き男』がいた。

 幾本もの虹色のクラブを、空中で回転させながら踊る『ジャグラー』がいた。

 自身の3倍以上のポールに乗って地面を飛び跳ねる『竹馬男』がいた。

 マリのように地面を飛び跳ねる色とりどりのボールに乗っているのは、太っちょの『玉乗り男』だった。


「な……なんだ、こいつら!?」

 顏から炎を払いながら、リートは戸惑いの声をあげた。

 今リートの足元を練り歩き、飛び跳ねているのは、機巧(からくり)仕掛けの自動人形。

 小さな、サーカス団だったのだ。


 ボオオ。


 葛籠に乗った火吹き男が、再びリートに炎を吹きかけて来る。


 ユッサ……ユッサ……ユッサ……


 リートの背丈位もあるポールに乗った『棒跳び男』たちが、彼女の周囲を縦横無尽に跳ねまわりがら、投網のようなもので彼女の翼を、身体を、絡め取ってゆく!


「しまった!」

 体勢を崩して地面に転がったリートの体に、一斉に小さな人形が群がった。

 リートの全身は、瞬く間にロープと網でがんじ搦めになった。

 地面に打ちつけられた杭で、その場から起き上がることもできない!


「へへ……。姉ちゃん、からくり街の人形師の業。舐めて貰っちゃあ困るぜ……」

「う……ぐぐぐぐ!」

 ニヤニヤ嗤いながらリートに近づくガング。

 リートはゴブリンを怒りの形相で見上げた。


「この時期、人間の収集はいい稼ぎになるんだよ。牙蜘蛛の旦那方が結構な値で引き取ってくれるんでね。俺たちが獣の谷を巡ってるのは、そのためでもあるのさ……。ザック。商品を回収しな!」

「ウゴッ! ウゴッ!」

 リートの周りを練り歩きながら、ガングは不敵に笑ってザックに指示を出した。

 ザックは袋を切り広げて、地面に転がった人間たちを拾い上げようとしている。


「悪く思うなよ姉ちゃん。あんたが余計な手出しをしてくるからいけないんだぜ。だが獣の谷の兵隊と諍いを起したとあっちゃあ、今後の商売にも差しさわる。誰にも知られず、ひっそり消えてらうぜ……」

「く……くそお!」

 ガングが少し神妙な顏でリートを見下ろすと、腰から下げた短刀を抜いた。

 リートに止めを刺そうというのだ。


 だが、その時だった。


「待てよ!」

「あん!?」

 道の前方から、怒りに満ちた声が響いた。

 ガングとザックが声の方を振り向くと……。


「人間!?」

 リートもまた声の正体に気付いて、驚きの声を上げた。

 そこに居たのは、シュン、メイ、ホタルの3人だった。


「お前ら、リートに手出しするな!」

「攫った人たちを、返しなさい!」

「あーもう。なんで二人とも、いちいち余計な面倒事に……!」

 メイとシュンが怒りに燃える目で、ゴブリンとトロールを睨む。

 ホタルはイヤそうな顔で頭を掻いている。


「人間だと……。じゃあこの女、やっぱり人間とつるんでやがったのか!」

「ウゴゴゴゴ……!」

 ガングとザックが、まるでゴミか何かを見るように、リートを見おろしそう吐き捨てる。


「だがまあ、こいつは運がいい。若くて鮮度のいい人間が、あと3匹増えるってことか。ザック、回収(・・)しろ!」

「ウゴッ!」

 ガングの命令に、ザックが頷いた。


 ズーン。ズーン。


 大きな足音を響かせて、トロールのザックがシュンたちに近づいて来る。

 ザックが腰から下げた大きな虫取り網の様なものに手をかけた。


「だめよ! 逃げなさい! あなたたちじゃ勝てない、殺されるわ!」

 リートが必死の形相で、地面からシュンたちにそう呼びかけた。


「ふ。勝てないってさ……。どうする、ホタル?」

「えへへ……。さあ、どうしますかねえ、シュン殿」


 シュンとホタルは、不敵に笑って互いに目くばせをした。

 リートには、人間世界で魔物に襲われたことは話している。

 だがその魔物を倒したのは、シュンたち自身の力であるという事を、まだ彼女に教えていなかったのだ。


「メイ、下がってろ。いくぞ、ホタル!」

「はい、シュン殿!」

 シュンとホタルが、一斉に自分たちの武器を構えた。

 シュンの握った黒剣の柄から、光り輝く水晶の様な刀身が形成されてゆく。


 ビュルンビュルンビュルン……

 シュンの左腕から生え茂った緑色の薔薇の蔓が、彼の全身を覆っていった。


「なんだ……あれは!」

「うごご!」

 ガングとザックが驚きの声を上げる暇も無く、ズサッ!

 トロールのザックの左眼に、ホタルの抜き打った棒手裏剣が突き刺さっていた。


「ガアアアアアアアア!」

「ザック!?」

 思いもよらない攻撃に、混乱する2匹。


「あの姿は……あの剣は……何なの!」

 シュンの変身を目の当たりにして、リートが驚愕の呻きを漏らした。


「リートを、返せえええええええ!」

 水晶の剣を構えたシュンは、雄たけびを上げながらガングに打ちかかった。


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