魔瞳の煌めく時
「えー……引き続き、この時間は予定を変更し、御珠市フードコートから逃走した立て籠もり事件の『犯人』の動向についてお伝えしております……! これは……なんといいますか、信じられませんが……!」
御珠市上空。
市立中央公園の周囲を舐めるように旋回する報道ヘリコプターの機内で、TVT大橋アナウンサーが言葉を詰まらせていた。
猿に襲われたニクトピア御珠から無事避難し、猿が空中に逃走した後。
報道人の意地にかけて取材を続行する大橋アナだったが、いま報道ヘリに乗って傍らのカメラマンが撮影している光景……公園の上空で展開される、あまりにも荒唐無稽な光景に、状況を表現する言葉が出てこなかったのだ。
赤金色の鎧をまとい、何体ものロボットを従えて御珠市の空を飛行する怪物。
そして、彼らに追いすがって来たのは奇怪な空飛ぶバイクのようなものに乗った2人の……男と女だった。
黒いマスクに覆われてその素顔は分らないが、その背格好から、少年と少女くらいの年齢だろうということは容易に見て取れる。
その謎の2人組が今、中央公園上空で怪物の軍団と……激しい空中戦を繰りひろげているのだ。
「マジかよ……」
「映画のロケ……じゃないよな?」
昨夜の怪物騒ぎを目の当たりにしてもなお、大橋アナも取材班の一同も、夜空に展開される光景がまだ現実のものだと信じられなかった。
#
「やれ!」
その二人組……魔進軍馬マツカゼに乗ったカナタとシュンに向かって、赤猿シュタンゲが怒りの形相で叫んだ。
ヒューン ヒューン ヒューン……。
とたん、猿の号令に応じた12体の魔甲レギオンが一斉に、まるで青銀色の砲弾の様な勢いで、カナタとシュンのマシンに特攻していく。
「まとめて……叩き斬る!」
マシンのハンドルを握ったカナタが、迫り来るレギオンをにらんで呻った。
マツカゼの進路がレギオンの突進を避ける気配はない。
おもむろに、ス……。カナタの右手がハンドルのグリップを離れて、自身の正中線と直行するように胸元に構えられた。
そして次の瞬間。
「いくぞ! 旋風一文字斬り!」
横なぎに放たれたカナタの手刀。
右手に嵌められた『疾風の手甲』から発生した風の刃が、夜空を切り裂き突進するレギオンに襲いかかった!
バラン。
刃の直撃を受けたレギオンの一体が両断された。
上半身と下半身、腰部から切断されたレギオンが、飛行体勢を崩して眼下の公園へと墜落して行く。
「やったか……でも……!」
後部座席に座ったシュンが、もどかしげな顏。
姉の放った必殺の一刀は、残りのレギオンを撃墜するに至らなかった。
「散れ!」
カナタの攻撃を察したシュタンゲが、後方のレギオンに待避の命令を下していたのだ。
ヒューン ヒューン ヒューン……。
部隊を散開させて縦横無尽、マツカゼを取り囲んだレギオンが再び正面から、下方から、上方からカナタとシュンに迫って来る。
「やっぱり……大振りな技じゃアイツらは無理か……!」
「カナタくん! 妖怪の魔采軍配を狙い撃つんじゃ! それが無理なら個別撃破しかない。レギオンの頭を狙うんじゃ。頭部はセンサーの塊。破壊されればレギオンは行動不能になる!」
悔しげに呻いたカナタに、マシンのメーターパネルに配された通信機からラインハルトの声。
テレビの放送や、市内各所に配された魔捜ドローンの情報から、戦いの様子はラインハルトの元にも伝わっているようだ。
「なるほど……わかった、ハルさん!」
カナタは不敵に笑ってラインハルトにそう答えた。
「シュン! つかまってな、強行突破よ!」
「わかった! 姉ちゃん!」
猿のシュタンゲに向かって再びハンドルを切るカナタ。
疾走するマシン。
迫るレギオン。
「だあああ! 竜巻烈風突き!!!」
正面から突進するレギオンに向かい、カナタが裂帛の気合いと共に正拳突きを叩き込んだ。
とたん、ゴオオオオ!
マシンの正面に生じた巨大な竜巻が、レギオンたちを巻き込み、吹き飛ばしてゆく!
「姉ちゃん! すげえ!」
「いくよ、シュン! このまま一気に……」
シュンが姉の技に驚嘆し、カナタが意気を上げた。だが、その時だった。
ズドン!
何かがぶつかり合う音と共に、シュンの視界を何かが掠めた。
と同時にカナタの姿が、シュンの前方から消えていた。
「姉ちゃん!?」
唖然とするシュン。
一瞬の出来事で何が起きたか理解できない、だが、次の瞬間には、
「ああっ!」
マシンの下方、空中に放り出されて公園向かって落下して行く姉の姿に気付いて、シュンは悲鳴を上げた。
カナタの身体に激突して、彼女の身体をマシンの操縦席からもぎ取ったのは、弾丸の様に加速したレギオンのボディだった。
散開していたレギオンの一体が、正面突破に気を取られていた姉の身体を狙い打ち、彼女を空中に叩き出したのだ!
「姉ちゃああああああん!」
とっさに自身の左手を姉に伸ばすシュン。
ビュルン ビュルン ビュルン……
シュンの半身を覆った薔薇の蔓が、姉の元へと伸びていく。
そして、グンッ!
落下してゆくカナタの身体に巻き付いた蔓が、シュンとカナタを繋ぎ、彼女を空中に静止させた。
「姉ちゃん! 姉ちゃん!」
宙吊りになったカナタに、マツカゼの機上から必死でそう呼びかけるシュン。
だが姉の身体はグッタリしたまま、答えは無い。
激突する時に頭を打ったのだろうか。意識を失っているようだ。
そして、グラリ。
「うおわ!」
シュンが再び狼狽の声。
操縦者を失ったマツカゼの機体がバランスを崩して、機体そのものが落下を始めた。
「だめだ!」
とっさに操縦席に這い上がり、ハンドルを取るシュン。
どうにかバランスを取り戻したマツカゼが、高度を回復してゆく。
だが……
「クキキ……。どうした小僧。女がいないと何も出来ないのか?」
シュンの乗ったマシンの上方。
赤猿のシュタンゲが、シュンをにらみ下ろしてそう言った。
「姉ちゃん! 姉ちゃん! 目を覚ましてくれよ!」
「情けねえなあ、小僧! まだ生きてたのにはちょいと驚いたが、所詮は人間のガキか……今度こそ死にな!」
マシンを繰りながら姉を支えるのに精一杯のシュン。
シュタンゲは歯を剥いて嗤いながら、ゆっくり軍配を振り上げた。
「ぐううう!」
シュンは歯ぎしりしながらシュタンゲを見上げる。
蔓の力は姉を支えるのに手一杯。
剣は上空の猿には届かない。
マツカゼで強行突破しようにも、前方のレギオンの守りは固い。姉の力は失われている。
どうする、シュン?
そして……ジャッ!
咄嗟にシュンが構えていたのは、背中に下げていた猟銃。
ユウコから預かった魔器『鬼撃月』だった。
ズズズズズ……
シュンに残された僅かな蔓が、鬼撃月に絡みつき、黒光りした猟銃全体が、ほのかに紫色の燐光を放ち始めた。
「クキ……?」
新たに目にする飛び道具を警戒したのか。
赤猿シュタンゲの顔から嘲笑の色が消えた。
シュンは正面のレギオンの一体に銃を向ける。
レギオンの頭部に狙いを定める。そして、
「当たれ!」
祈るような気持ちでシュンは引き金を引いた。
ギュンッ!
通常の銃声とは異なる、何かが軋むような異様な音と共に、銃口から光弾……紫色の光が奔った。
だが数瞬の後……
「クキキキ……どこ狙ってるんだ? 馬鹿か、小僧!」
シュタンゲの哄笑が夜空に響いた。
シュンの一撃、『鬼撃月』の銃口から放たれた光の奔流は、レギオンの頭部の遥か右方を通過していた。
レギオンに掠りもせずに、光は夜の空に散乱した。
「く……!」
ギュンッ! ギュンッ!
焦ったシュンは続けて引き金を引くが、光弾はでたらめな方向に飛んで行くだけ。
「悪あがきしやがって……やれ!」
「やっぱり……駄目か……!」
シュンに向かって再び軍配を振るシュタンゲ。
迫るレギオン。
無念の呻きを漏らすシュン。
射撃の訓練など受けたことは無い。
おまけに、左眼は創で閉ざされている。
距離感をとれないのは致命的だ。
だが、その時だ。
「あ……」
シュンは自身の異変に気付いた。
目のあたりが、妙に熱いのだ。
創付きふさがれた左眼が、微かに疼くのを感じた。
もしかしたら……シュンは戸惑う。
両目で打てば、さっきよりは。
いや、再び撃っても、結果は変わらないかもしれない。
だが……今はこれしかない。姉ちゃんと……シーナを救うには……!
シュンは自分の顏に手を遣った。
顔を覆った忍者のマスクをかなぐり捨てた。
左眼を覆った真っ黒な眼帯を取り去った。
そして次の瞬間、
ガキンッ!
巨大な弾丸と化したレギオンがシュンの乗ったマツカゼに激突する。
「うあああ!」
バランスを失い再び墜落するマツカゼ。
空中に放り出されたシュン。
「今度こそ、くたばりな……小僧!」
赤猿シュタンゲは、勝ち誇った表情で落下するマツカゼとシュンを見下ろしていた。
だが……
「ぬうう!」
異変を察して猿は呻いた。
シュタンゲは気づいたのだ。
自身に叩きつけられる。強烈な気魄……そして闘志に。
糸の切れた凧のように空中を落下しながら、それでもなお猿から意識を逸らしていない少年に。
見開かれた両の目で、シュタンゲをカッと見据えたシュン、シュタンゲに向かってピタリと銃口の狙いを定め、彼を射程に捉えたシュンの姿に!
#
「うおあ!」
眼帯を外したシュンは、自身を見舞ったある強烈な感覚に戸惑いの声を上げていた。
レイカの蛇から被った左眼の創は癒えていた。
そして、見開かれた左眼から認識される世界は、これまでにシュンが味わったことのないものだったのだ。
近くも、遠くも、目に映る全ての事柄が、微細で鮮明に感じとれた。
破損したマツカゼの空中に飛び散る破片。上空で嗤う赤猿シュタンゲの、体毛の一本一本。辺りを舞う埃。そしてマツカゼから立ち上った煙の粒子の一粒一粒に至るまで。
シュンはそれらの全てを視覚することができた。
「これは……剣の力?」
困惑しながら、シュンは再び猟銃『鬼撃月』を構えた。
黒蛇の毒からシュンの左目を癒した剣の力は、単なる回復にとどまらない視覚能力を左目に与えているようだった。
「これなら……できる! いける!」
シュンは上空の猿シュタンゲに狙いを定める。
いまや、すぐ間近で見るように認識できる、猿の右手の黒銀の軍配に。
シュンは引き金を引いた。
#
「何か……おかしい!」
シュンの異変を察したシュタンゲがとっさに身を翻し、シュンの射程から逃れようとした。
だがその時には……
「当たれぇ!」
シュンの気合いとともに、
ギュンッ!
猟銃から放たれた紫色の光弾が、
バキンッ!
猿の右手の軍配を正確に貫いていた。
「しまった!」
砕ける軍配。
狼狽し辺りを見回すシュタンゲ。
次の瞬間には、
ガチャン ガチャン ガチャン……
シュタンゲのコントロールを失ったレギオンが次々に、空中で推進力を失い、地上向かって墜落して行く。
「くそ……小僧ぉ!」
怒りに歯を剥いて、シュタンゲが再び眼下のシュンをにらんだ、だがその時だった。
「ぐうお!」
猿の目が、恐怖に見開かれた。
シュンの猟銃は再び猿に向けられていた。そして、
「があああああ!」
ギュンッ!
間髪入れず、猟銃からは次の光弾が放たれていた。
シュタンゲが苦悶の叫び。
放たれた銃弾は、今度は猿の頭部を……シュタンゲの右の眼を正確に射抜いていたのだ!
「やった!」
落下しながら快哉を上げるシュン。
「ぐ……!」
猿の全身が弛緩した。
そのまま絶命したのだろうか。
シュタンゲの身体もまた地上へと墜落をはじめた。
全身を包んだ魔甲の鎧も、今はその制御が解けたのか。
鎧は赤金色の金属片と化して、1枚、1枚、猿の身体から剥がれて宙を舞った。
「姉ちゃん!」
シュンは蔓に繋がれたカナタを見おろす。
気を抜いている暇はなかった。
このまま地上に叩きつけられる前に……
シュンは姉の身体を手繰り寄せ、グッタリとした彼女を抱きしめた。
シュルルルル……
薔薇の蔓がシュンとカナタの全身を包み、緑色の燐光を放った大きな毬を形作った。
緑の毬は、そのまま地上へと吸い込まれてゆく。
#
「姉ちゃん……! 姉ちゃん……!」
御珠市中央公園の複合文化施設『パルテノン御珠』の円形広場の真ん中。
シュンは姉の身体を抱きおこし、彼女のマスクをはがして、何度もそう呼びかけていた。
薔薇の蔓に守られて、広場に墜落した二人の身体には落下によるダメージはなかった。
カナタの命にも別状はないようだった。脈も呼吸もある。
だが、その時だった。
「きゃあああ!」
「うああああ!」
公園にいた人々の間から、悲鳴が上がった。
「シュタンゲ! 生きている……!」
悲鳴の元を振り返って、シュンは呻いた。
「小僧……! 殺してやる……!」
全身から殺気を滾らせてシュンの元に迫って来たのは、傷付いた赤猿のシュタンゲだった。
潰れた右目から血を流し、その足はふらついていた。
猿の頭部を貫通しているだろうシュンの放った弾丸も、怒りに燃えるシュタンゲの行動機能を奪うまでには至っていないようだった。
「人間のクセに……! このシュタンゲをコケにしやがって……もう獣王なんざどうでもいい! 貴様らだけを……苦しめて殺す!」
「なあ……もうやめろよ。シュタンゲ……。俺たちはシーナを返して欲しいだけなんだ。シーナが無事で、お前がおとなしく自分の国に帰るなら、もう何もしないからさ……」
傷ついた猿をどうにか止めようとするシュン。
凶暴なバケモノだが、言葉の通じるこの猿に、直接恨みがあるわけでは無い。
死力を尽くした命のやり取りが、無性に虚しいものに思えて来たのだ。
だが……
「シーナ……? ああ、あのガキか……!」
シュタンゲがニタリと嗤った。
「ギャハハ! 馬鹿か! あいつを吸ってから、どんだけ経ったと思う? もうとっくに溶けてくたばっちまってるよ!」
「なん……だと!」
シュタンゲが腰に下げた瓢箪を見下ろして愉快そうに嗤った。
シュンは、息が継げなかった。
頭がふらつく。目の前が暗くなる。
怒りと混乱で、どうにかなりそうだった。
シーナが死んだ
シーナが死んだ
シーナが……死んだ……!
「どうした、小僧。素敵な報せに、少しは闘る気が出……」
シュタンゲが呆然とするシュンを見下ろしながら、そう言いかけた……その時だった。
ス……。
シュンの姿が、シュタンゲの視界から消えていた。
「……!?」
そして、猿が困惑の声を上げる暇も無く。
ズブン!
赤猿の胸を、何かが刺し貫いていた。
「ギャアアアアアア!」
猿の絶叫。
猿を貫いたのは輝く水晶の刀身。
目にも止まらぬスピードで猿の懐に飛び込んだシュンの突き立てた、刹那の灰刃だった。
「ユルサネエ……!」
両の目に怒りの炎をたぎらせて、シュンは苦悶の猿に顔を寄せてそう呻いた。
そして、ビュルン……ビュルン……ビュルン……
剣の刀身から、シュンの左腕から伸びた蠢く緑の蔓が、シュタンゲの全身に絡みつき、猿の創口に潜り込む。
「キエエエエエエエエ!」
地獄の悪鬼の様なシュタンゲの悲鳴。
ミシ……ミシミシ……そして赤猿の全身が軋んだような嫌な音が鳴り出すと、次の瞬間、
ズバッ!
血と臓物を撒き散らして、シュタンゲの全身が爆ぜた。
蠢く薔薇の蔓に、内側からその身体を引き裂かれたのだ。
ゴロリ。
苦悶の形相のまま、猿の生首が石畳に転がる。
「シーナ……ごめんな……」
シュンは虚ろな目で、足元に転がった真っ赤な瓢箪を見た。
まだ、何も感じない。現実感がない。涙も出てこない……。
「せめて……ハルさんにこれを……ん?」
祖父のラインハルトにシーナの亡骸を届けようと、瓢箪を手に取ったシュンだったが、異変に気付いた。
瓢箪の中から、小さな声がする。
シュンは瓢箪に耳を当てる。
「……! ……ここやシューン!」
「……! シーナ!」
瓢箪の内側から微かに聞こえるシーナの声に、シュンは矢も楯もたまらず、瓢箪の栓を抜いた。
とたん、シュポンッ!
青白い光の渦と共に石畳に転がり出たのは、水の精ウルルの透明な羽衣にその身を包んだ、無傷のシーナの姿だった。
「シーナ……お前!」
生きていたシーナの姿に、全身の力が抜けるシュン。
目からはひとりでに涙が零れる。
「シュン! ふああああああああん!」
ウルルの羽衣を解き、一糸もまとわぬ姿になったシーナが、シュンに抱きついた。
「シーナ……」
シュンもシーナを拒まなかった。
「シュン。怖かったわ……でも信じとったで……」
シーナが金色の瞳を潤ませてシュンを見上げると、おもむろに、
ツ……。
シュンの唇に、シーナの柔らかな唇が重なった。
「んんう!」
戸惑いの声を上げるシュンだったが、シーナの無事に安堵の想いで全身に力が入らない。
シュンはシーナにされるままでいた。
「ギギギ……調子こくなよ……ガキども……」
「あ!」
「お前は!」
石畳から聞こえてきた呻きに、シュンとシーナが警戒の声を上げた。
声の主は広場に転がった生首。
赤猿シュタンゲの首が、最後の力を振り絞って二人に歯を剥いている。
「お前らは……魔影世界最強格の魔王に目をつけられているんだぜ。獣王が動き出したら……そっからが……地獄だ……!」
それがシュタンゲの断末魔だった。
次の瞬間には猿の目から生気が抜け、その頭も、広場に散らばった手足や胴体も、白い煙になって風に散っていった。
「負けないさ……どんな奴が来たって! みんなと一緒なら……!」
風に散る猿の成れの果てを見上げて、シュンは小さくそう呟いた。
パラパラパラパラ……
夜空を行き交う報道ヘリのライトが、地上のシュンたちを照らしている。
猿から逃げた人々も、遠巻きにシュンたちを眺めている。
「あーあ。完全に顏バレしとるやん、シュン。それにその顏……祖父ちゃんの方も、これからどうするんやろ……」
シーナが不安そうな顏で、マスクを取ったシュンの横顔を眺める。
「ううう……! あ痛つつつ……シュン!」
頭を振り振り、そう呻きながらシュンの方に歩いて来たのは姉のカナタだった。
「シュン……! あのバケモノは……!」
「姉ちゃん! あいつは……シュタンゲはやっつけた! シーナも無事だった……勝ったんだ!」
シュンはカナタを向いて力強くそう答えた。
姉の方も、気を失っていただけらしい。
「そう……やったんだね。シュン……でも、あんた……!」
ようやくハッキリしてきた視界に映ったシュンを指差し、カナタは唖然としてシュンにそう尋ねた。
「その目は……一体……!」
「え……!?」
姉の言葉にシュンは自分の左目に手をやった。
#
カナタの視界に映ったシュンの左目は、異様な輝きを放っていた。
その瞳は黒色から、宝石のエメラルドを思わせるような、緑色へと変貌していた。
まるで彼女と同じ、深みのある緑へと。




