表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破界の魔王と吸血少女  作者: めらめら
第1章 魔剣覚醒
5/144

迫りくる影

「滋賀県から転校してきた比良坂詩菜(ひらさかシーナ)いいます。みんな、よろしうたのんます!」

 通学路でシュンとメイを舐めまわそうとした変態。

 転校生のシーナが、紅髪を揺らしながらニヘッと笑った。


「あいつは……!」

「あの子は……!」

 シュンも、メイも、呆れて言葉が出てこなかった。


「席はそうだな、如月の隣が空いているから、とりあえずそこだな」

「どーもどーも、よろしくですー」

 担任の緋川が、無情にもそう告げる。

 シーナは周囲の生徒に調子よく挨拶しながら、シュンの隣の机までやってきた。


「」


「おい、お前! 学校にまでストーキングかよ? それに、朝のアレは一体どーゆうつもりだよ?」

「ふっふっふ。『学校までストーキング』ね。ま、当たらずとも遠からず、やね」

 隣の机で、カバンからテキストを引っぱり出しているシーナを、シュンは小声で問い詰める。

 シーナは、涼しい顔をしてシュンに答えた。


「ウチはあの()の……『秋尽メイ』の守護者にして監視者や。このウチが、初めて任された大仕事! 周りの連中から一人前と認められる、初チャンスなんや!」

「こいつ、本物の電波……!?」

 得意気な顔をして、訳のわからない事を喋り続けるシーナに、シュンは本気で怖くなってきたが、


「『任された』って……誰に? 『周りの連中』って……何?」

「ふっふ。知りたいかね? 彼氏くん?」

 具体性のグの字も出てこないシーナの返答に、そう突っ込んだむと、シーナが下世話なおばちゃん顔になってシュンをつっついた。


「か、彼氏って……別にそんなんじゃねーし……って、いや、違う違う! 知りたい、教えろ!」

「秘密や、教えられん!」

 一瞬動転しておかしなことを口走るシュンだったが、気を取り直して再びシーナに返答を迫ると、シーナはあっさりそう答えた。


「……ぐっ! こいつぅ……!」

 シュンは再び、シーナを殴りたい衝動に駆られた。


  #


 昼休み。

 シュンは教室で親友のコウとダベっていた。


「まったく、本当に変な奴でさ、あいつ」

「うーん。確かに何だかおかしな気もするけどな……」

 シーナの奇行にブツクサ文句を言うシュンに、ツンツン頭のコウも、腕組みしながら肯くが、


「ま、気にし過ぎじゃねーの? ただの虚言癖の電波女だろ。嘘が周りに飽きられたらまた、『幽霊を見た』とか『UFOを見た』とか別の嘘を騒ぎ立てるのさ」

「うーん……」

 なんとも辛辣な口調で、シーナの奇行を一蹴した。

 親友のコウの物言いに、妙な苛立ちを覚えたシュンだったが、そこは何も言わずに唸っていると、


「ところでさシュン。例の『事件』、また新しい遺体が見つかったらしいぜ!」

「例の事件……」

 コウが目を輝かせて、シュンに顔を寄せて来た。

 シュンは更に苛立たしい気分になって来た。


 最初の事件が発生してから、もう一ヶ月。

 周辺地域を恐怖に陥れている、連日の通り魔殺人事件のことだ。


「なにしろさ、検死しようにも『遺体』は、ほんのチョッピリしか残ってないんだってさ!」

 コウが焼きそばパンを食べながら、嬉しそうに話を続ける。


「衣服や持ち物もズタズタにされてて、被害者の身元を確かめるのにも苦労してるんだって! 警察は『野犬』の仕業だと思ってるらしいけど、今の日本にいるか~? そんな犬?」

 親友の話を聞きながら、シュンは嫌そーな顔でほうじ茶をすすっていた。


「コウ、もうわかったからその話はやめろって!」

 シュンは手をパタパタさせて、コウの話を止めた。

 この手の猟奇話はコウに負けず劣らず大好きなシュンだったが、近所で実際にこんなことが起これば、暗い気持にもなる。


「そうか……それよりさ、知ってるか? 例の『お化け屋敷』に、誰か引っ越して来たんだってさ!」


 『お化け屋敷』?

 シュンは眉をひそめた。

 聖ヶ丘の中腹に構えられた大邸宅だ。

 もう何十年も誰も住んでいない、荒れ放題のお屋敷。

 通称『お化け屋敷』。

 長野の大富豪が東京に構えた別邸だと、まことしやかに唱える者もいるが、本当のところはよくわからない。


 あそこに人が……シュンはうなじの産毛がかすかに逆立つのを感じた。


 『見えないモノ』の数が、急に増えて来たと訴えるメイ。

 おかしな転校生。

 連続通り魔殺人。野犬のしわざ?

 『お化け屋敷』に住み着いた者。


 それぞれは全く無関係なようにも思えるが、これだけ色々なことが、一度に同時に起こるなんて……。

 何かが、気になった。


  #


 キンコンカンコーン……


 放課を告げる鐘が鳴った。


「うー寒みー!」

 聖ヶ丘中学の校門を出たシュンは、ブレザーの襟を押さえながら、一人家に向かって歩きだした。


 満開を迎えた街路の桜も、ドウドウと吹き抜く花冷えの風に、早くも薄桃の花びらを散らしつつある。

 いつもならコウや他の友達と、公民館に寄ってモンハンやトレカで遊ぶのだが、今日はなんだかそんな気分ではなかった。


 シュンは携帯をチェックする。

 またもや近所で殺人事件が起きたというコウの話は本当だったようだ。


 うなじのあたりがチリチリする。

 何か、おかしな事が起き始めてる。

 そんな予感に、彼は恐ろしいような浮き立つような、妙な高揚を覚えていた。

 その時だった。


 ボフッ! 突然、シュンの背中を何かが叩いた。


「メイ!」

「シュン君、ごめん! 先に帰ろうとしたんだけど、実は、その……」

 シュンが驚いて振り向くと、そこにいたのはスクールバッグを両手で持ったメイだった。

 ショートレイヤーの黒髪を不安そうに揺らしせながら、メイはおずおずとシュンにそう切り出した。

 

「家まで、一緒に歩いて! やっぱり何かいる。何か、つけてくる……!」

「まてよメイ、何かって、何……!?」

 通学路を小走りに進みながら、切羽詰まった様子でそう言うメイに、シュンも小走りになってメイを追いかける。


「何か、大きな、黒い、毛が生えた、犬みたいな……!」

 メイがそう言いかけた時だった。


 ガサリ。


 二人の背後の緑道の生け垣から、何かの動く音がした。


「「あっ!」」

 メイが思わず声を上げた。


「犬……『野犬』!?」

 シュンは呻いた。


 夕日に赤黒く染まった生け垣から飛び出してきたモノ。

 夕日を背中にして二人の前に飛び出してきたモノ。

 逆光に黒く染められてその正体はわからないが、そいつは毛むくじゃらで四足の、確かに大きなケモノのような姿だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ