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破界の魔王と吸血少女  作者: めらめら
第6章 魔瞳の煌めく時
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新たな援軍

「あんたのお祖父ちゃんが……! あの……『比良坂ラインハルト』!」

 赤金色の鎧の内から姿を現した奇妙な老人。

 その姿を見たカナタが、シーナに向かって驚きの声を上げた。


「そや。あれがウチの祖父ちゃんや!」

「うううう……」

 涼しい顔でシーナが答える。

 こちらに向かってスタスタ歩いてくる「I LOVE 孫」の三語がプリントされたTシャツを着た老人を見据えて、カナタがうなった。

 直接会ったことは無くとも、カナタはその老人の顔も、名前も、以前から知っていたのだ。


 比良坂ラインハルト。


 生まれ故郷であるアメリカのスラム街を少年の頃に飛び出して後、十数年間世界中を放浪している。

 自身の天命を知りたいという胸を突き上げる熱情に駆られるままに、若きラインハルトはブラジルでは無認可医として多くの人の命を助けたり、中米某国では革命運動の陰の立役者になったりと波乱に満ちた旅の末、流れ着いた日本の地で出会ったある女性と、電撃的な結婚を果たした。


 そして婿入りした先である比良坂家が代々堅実に営んでいた医薬品会社の経営を引き継いだ彼は、今度はそこでも天才的な商才を発揮した。

 一代にして世界規模まで市場を拡大したラインハルトは、自動車、家電、ロボット産業といった分野にもその手を広げ、今や関連会社を含めた総資産は日本の国家予算にも匹敵すると言われており、政府の要人や各国の財界とも太いパイプを持っているらしい。


 正に現代の伝説。立志伝中の人物だった。

 その激動の半生を綴った自叙伝『私の疾風怒濤』(みんみん書房刊 ¥1,980)は刊行1億部を超える世界的なベストセラーとなっている。

 アメリカのチクタク誌が毎年独自に選出している「世界で最も影響力のある100人」にも、その名の上がらない年は無い、とにかく凄い男であった。


 そんなラインハルトが、シーナの祖父であり、妖怪ハンター『夜見の衆』の、西の統領だったというのだ。


「シーナ!」

「祖父ちゃん!」

 そのラインハルトが、シーナに向かって両手を広げた。

 老人の胸にシーナが飛び込む。


「よく戦ったぞ、シーナ! 危険な目に遭わせてしまったが、わしが来たからにはもう安心じゃ!」

「ええんや、祖父ちゃん! 必ず来てくれるって信じとったで!」

 燃え立つ炎の様なシーナの紅髪をナデナデしながら、フニャけた笑顔でシーナにそう言う老人。

 甘えるような声で、シーナは答える。


「お……お祖父ちゃん子か!」

 シーナと老人の様子を見て、呆れた様子でカナタが呟いた。


「祖父ちゃん、紹介するで。如月のカナタさんや!」

 ひと時の抱擁の後、老人から離れたシーナが彼にカナタを紹介した。


「おお……シーナから聞いとるぞ。君がカナタくん……あの如月家の……姉の方か!」

「如月カナタです……ど、どうも!」

 カナタを向いて老人がそう話しかけてきた。

 突如目の前に現れた有名人に、カナタは緊張ぎみに挨拶する。


「ラインハルトさん……アレは、一体?」

 カナタは老人に先んじて比良坂の庭に降り立った機械人形を指差して、ラインハルトに疑問をぶつけた。


「うむ……あれは『魔甲軍団マコウレギオン』。『魔器』と『メカトロニクス』のハイブリッドじゃ!」

 銀色と青鉄色の装甲に覆われた十一体の人型マシンを見て、老人は得意げにそう答えた。


「完成しとったんやね、祖父ちゃん!」

「ああシーナ。時代の流れと共に、術者減少の一途を辿る夜見の衆の戦力をカバーするため、我が『ヒラサカ・インダストリー』が秘密裏に進めて来たプロジェクトじゃ。古くより伝わる退魔の術と現代のテクノロジーとの融合……ようやく実用段階に達したぞ!」

 嬉しそうなシーナの合いの手に、ラインハルトは満足そうにうなずく。


「それにしても祖父ちゃん……さっきの馬と、あの鎧は?」

「うむ、あれは魔進戦馬(マシンウォーホース)マツカゼ。わしと、あの魔甲至高鎧(マコウプライム)を運ぶための高速機動ユニットじゃ!」

 老人の背後で待機している馬型のマシンと、地面に転がったアタッシュケースを見て首を傾げるシーナ。

 青銀色の機械馬と、赤金色のアタッシュケースに目を遣って、ラインハルトはそう答えた。


「う……ウチに内緒で、そんなモンまで!」

「ぐふふ……。お前をビックリさせたくてな、シーナ……」

 金色の瞳を見開いて驚きの声を上げるシーナ。

 悪戯っぽく笑ってシーナにそう言う老人だったが、次の瞬間には、その顔から笑みが消え目は真剣に戻っていた。


「シーナ。この4日間、お前には大変な思いをさせてしまったな。『夜見の衆』としての最初の大手柄、ぜひ孫のお前にと思って、このミッションを任せたが、まさかあれ程のアヤカシが出てくるとは……わしが甘かった! キョウヤくんの言葉は、大袈裟でも何でもなかったんじゃ……。すまなかった!」

 そう言って、シーナとカナタに向かって、老人は頭を下げた。


「ちょ……! やめてください。頭を上げてください、ラインハルトさん!」

「そや! あんなバケモンが出て来るなんて、ウチにも祖父ちゃんにも……誰にも予測できなかったで!」

 カナタとシーナが、慌てて老人にそう言った。


「だが償いに、これからは、このわしが前線で戦うからな。屋敷の守りも、このレギオンがあれば万全じゃ」

 すまなそうに頭を上げる老人だったが、庭に立ったマシンを振り返って自身の右腕にはめた腕時計型の機械の液晶をポチポチと押すと……

 

「れぎおんまーくⅠヨリまーくXⅠ、待機もーどニ移行シマス!」

 十一体の人型マシンが機械音声で一斉にそう答えると、銃を携え屋敷の周囲の巡回を始めた。


「シーナはわしの後方支援に回ってくれ。それからカナタくん、壊れた家は全額弁償して建て直すから許してくれ……」

 カナタを向いてそう詫びる老人だったが、次の瞬間には、


「それからな、『ラインハルトさん』だと、いちいち長いじゃろ? 『ハルさん』でいいぞ。わしは気取らない性格だからな!」

 彼女にそう言うと、老人はニカッと笑った。


「ハルさん……? え、あー、はい……わかりました」

「さあみんな、挨拶は済んだ?」

 カナタがリアクションに困っていると老人の背後から、短刀を収めた秋尽ユウコが皆を見回してそう言った。


「それにしても、相変わらず何でも自分で『開発』してしまうのね。本当に凄いわハルくん……」

 銀色の銃を携えて庭の各所に立った機械人形と、老人の傍らの機械馬を見て感嘆の声を上げるユウコ。


「何を言いますユウコ殿。ユウコ殿とお孫殿を守るためならば、このような事、朝飯前です! ユウコ殿の為とあらば、わしは地球の裏側からだって駆けつけますぞ!」

 ラインハルトはユウコを向いて、力強くそう答えた。


「そ、それにしてもユウコ殿……あいかわらず、お美しい……」

「まあ。いつもお上手ねハルくん……」

 顔を赤らめモジモジする老人と、コロコロ笑うユウコ。


「ちょ……? 祖父ちゃん。なにデレデレしとるんや! お祖母ちゃんに、言いつけんで!」

 老人の顔と老人が首から下げた「遺骨ペンダント」を交互に見ながら、厳しい顔でシーナは老人をつっついた。


「まあまあ、シーナさん。立ち話もなんですから。御屋敷に戻りましょう。今後の事も、話し合いたいし……」

「ユウコさん……無事だったんですね。よかった……。忍者も元気そうだし、あれ? ところで、アイツは……シュンは?」

 笑いながらシーナを諌めるユウコ。

 庭先に弟シュンの姿が見えない事に気づいたカナタが、不思議そうに辺りを見回す。


「シュン……如月家の()の方か。いま彼は……!」

 ラインハルトは、厳しい顔で屋敷の方に目をやった。


  #


「ぐ……ううう……ああ……!」

 屋敷の広間。

 布団に寝かされたシュンが、苦しげなうめきを漏らしていた。

 レイカの蛇の放った毒液はシュンの左眼を焼き、彼の視界を奪っていた。


「治療処置完了……治療処置完了……」

 シュンの布団の右側では、ラインハルトが率いてきた『魔甲レギオン』の1体が、金色のカメラアイを瞬かせながらそう繰り返している。

 といってもレギオンがシュン施した「治療処置」は、機械人形の右腕の装甲内部から飛び出した注射機による痛み止めの投薬にすぎなかった。


 ザワザワザワ……


 人狼キリトとの戦いで毒蛇に咬まれた時と同様だった。

 今、シュンの左眼を覆い、彼の傷を繋ぎ治癒しようとしているのは、薬とは別の、もっと奇怪なモノだった。

 シュンの左顔面に集り、内側から彼の傷を縫い止めて行くのは、緑に輝く棘持つ薔薇の蔓。


 魔剣『刹那の灰刃』の力だった。


「ああ、クソ、目まで……」

 布団から半身を起してシュンは怒りの声を上げる。

 レギオンの投薬が効いたのか。

 左眼の激痛は徐々に引いてゆく。


 シュンは鏡を覗き込む。

 左眼の創の修復は、既に終わりつつあるようだった。

 顔を覆った輝く蔓も、徐々にその量を減じてシュンの内側に沈んでいく。


 そして、蔓の隙間から覗く修復された左眼は、左腕の時と同様、異様な変化を遂げていた。

 閉ざされた左眼の周囲は、白銀色に輝いた微細な鉄片のような『鱗』に覆われていた。

 魚や蛇のような、別の生き物のようだった。

 剣の力はシュンの創を癒すその度に、彼の肉体の一部を変貌させてしまうようだった。


 だが、左腕を咬まれた時とは状況が違う。


 いまだに瞼は開かない。

 目の奥がズクズクと疼く。

 失われた視力は、果たして元に戻るのだろうか。


「ハアー……。俺の身体、どうなっちゃうんだろう……」

 自身の肉体の変化に、ドンヨリした気分になったシュンが、深くため息をついた……その時だった。


「シュンくん……。その顏……」

 ス……。

 レギオンの逆方、シュンの布団の傍らからシュンの額に手を添える者がいた。

 

「あぁ……!」

 シュンが息を飲む。彼の顔がこわばった。


 白い手がシュンの髪をかき上げた。

 冷ややかな指先がシュンの左眼を覆った鱗をスルリとなぞった。

 

「メイ……」

 シュンの声が固い。

 いつも間に其処にいたのか。

 寝所の襖を開け放して広間に入り、シュンの傍らに傅いて間近にシュンを覗きこむ者がいた。


 緑色に輝いたエメラルドの様な瞳。血の気の失せた蒼白い顔。

 目を覚ました、秋尽メイの顏だった。


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