それぞれの武装
「これは……『魔器』!」
「なんて見事な!」
畳に並べられた武器の数々を見て、シーナとホタルが感嘆の声を上げた。
「ええシーナさん。これが秋尽の家に残してあった、後の魔器。キョウヤが造り、私に託した、選りすぐりの逸品よ」
ユウコはシーナを向いて、満足げに答えた。
「シーナさん、シュンくん。あなたたちの魔器を……」
シーナとシュンの武器を見て、ユウコがそう言う。
「「え? あ、はい……」」
シーナとシュンが、腰から下げた自分の武器を、座布団に座ったユウコに差しだした。
ユウコはシーナの銀色の錫杖を手に取って、シゲシゲと細部を眺めまわす、
「それは『扇魔の冥杖』。比良坂の家に代々伝わる魔器ですわ。精霊系のモノノケにウチの力をブーストして動かす、指揮棒みたいなもんなんです!」
「そうなの。あなたは『放魔術』の使い手……それもその齢で二妖を一度に。さすがは比良坂の跡取り……」
ランプとペットボトルの上にチョコンと座ったメララとウルルを見回しながら、得意げに胸を張って、シーナはユウコにそう説明した。
ユウコは感嘆の面持ちで、シーナと杖を交互に眺める。
「そして、これが……本物は初めて見る……!」
ユウコの声が、微かに震えていた。
彼女が次に手に取ったのはシュンの武器。
刀身の無い黒光りする剣の柄だった。
「そうです。それが『刹那の灰刃』。200年前、東西の夜見の衆の和睦の証として比良坂に送られた、無敵の斬魔刀! ……だった、はずなんやけど……?」
シーナも不思議そうに剣の柄を眺めて首を傾げた。
「キョウヤは、ハルくんに『この魔器』を持って来るように、そう言ったのね?」
神妙な顏で剣の柄を眺めながら、シーナにそう訊くユウコ。
「はい、そう聞いてます。次の接界の刻、ウチら夜見の衆が、これまで出会ったことも無いような恐ろしい大妖が動き出す。その刻こそ『刹那の灰刃』の封印が解かれる刻。14年前に比良坂の家にやってきたキョウヤさんの言伝です。でも……」
シーナが、今も納得いかない様子でシュンの方を向いた。
「確かに封印は解かれた。でもそれは、ウチら夜見の衆の手によってではなかった。退魔の術の心得も、修行も何もない、シュンの手で、力が解放されたんです……!」
シュンの左手を覆った包帯をマジマジ眺めるシーナ。
「今では、剣はもうシュンの言う事以外きかへん。あの不思議な薔薇の蔓……剣の力と刃は、まるでシュンと溶け合ってしまったみたいや!」
「シュンくんが……あなたが、そんな、まさか……!」
シーナの説明に、ユウコもまたシュンの方を向いた。
「ユウコ……さん? どうしたんですか?」
シュンは戸惑った。
彼を見るユウコの目に、ある感情が宿っていたからだ。
それは、隠しおおせない恐れの色だった。
「ううん。なんでもないのシュンくん。その魔器で、何度もメイを守ってくれたのね。何も知らない、無関係のあなたが……」
慌てて首を振り、ユウコはシュンにそう答えた。
「ユウコさんは、その剣の事、何か知らないんですか? 元々その剣は秋尽から比良坂に送られた物……秋尽家の魔装師が鋳造したものですやろ?」
シーナはユウコにそう尋ねた。
「ううん。私もその、『刹那の灰刃』のことは言い伝えでしか……それに、正確には、この剣は秋尽で鋳造られた物ではないのよ……」
ユウコは再び首を振り、残念そうにそう答えた。
「秋尽の物、ではない?」
シュンが驚きの声を上げた。
自身の身体と一体化して、奇怪な薔薇の蔓で何度もシュンを救った剣。
そのの正体を、秋尽のユウコもまた知らないというのだ。
「ええ。今から500年も昔。魔器の材料を求めて、乱世の日本の各地を巡っていた秋月の先祖が、武蔵のある集落に祀られていた剣を偶然、妖怪退治の報酬として譲り受けた、古文書にはそう記されていたわ……」
ユウコがシュンに答える。
「その地では昔、山ほどもある大きな鬼が暴れ回って、人間や地の神様たちを困らせていたそうよ。見かねた天の神様は、雷を落として鬼を引き裂き、その地に封じた。裂かれた鬼の腕は地上に残された。その国の刀鍛冶は鋼の様な鬼の爪を引き抜き、火を入れ鍛え、剣とした。そう言伝えられているの……」
ポツリ、ポツリ、シュンにそう説明するユウコ。
「鬼って……『みたま山の鬼』の話……!?」
シュンは、唖然としてそう呟いた。
みたま山の鬼。
子供の頃から、母親の話や絵本で知っている、御珠地域に古くから伝わる民話だ。
その話に出て来た鬼の爪が、西のシーナの手に渡り、今は巡り巡ってシュンの手の中に在るというのだ。
「ええ、何だか不思議な話だけれど……でも、シュンくんがその剣を振ってくれたおかげで、メイが救われたんだもの。本当に、ありがとう……」
ユウコは改めて、シュンに頭を下げた。
「シーナさん。シュンくん。この魔器は、あなたたちの力になるでしょう。面倒事に巻き込んでしまった私の、せめてものお詫び……あなたたちに、これらを譲ります」
ユウコが、畳に広げられた『魔器』の一式に目を遣った。
「秋尽の魔器を……!」
「ええ、シーナさん。あなたは放魔の術を使う。ならばアレを……」
驚くシーナに、ユウコが、黒い蛇の様な鞭を指差してそう言った。
「これは?」
「それは『乱魔の鞭』。蛟や鬼灯を宿してふるえば、錫杖を凌ぐ退魔の力を放つでしょう……」
鞭を手に取り首を傾げるシーナ。
シーナを向いてユウコは答えた。
「ならば、ならばホタルは弓を! 弓術には覚えがあります!」
「そやな。ホタルちゃんは弓の腕もあるからな。ユウコさん、頼んます!」
目を輝かせて身を乗り出す箕面森ホタル。
シーナもユウコにそう言った。
「わかったわホタルさん。これは『雷鳴の弓』。念を込め矢を放てば、矢は爆雷となって敵を砕くでしょう」
ユウコはそう答えて、ホタルに赤い短弓を手渡した。
「だったら、あたしは……」
そう言って座布団から立ち上がる者がいた。
「ユウコさん、コレを借ります! あたしには、うってつけだわ!」
鉤爪の付いた青光りする手甲を指差して、ユウコにそう言ったのは、シュンの姉。
如月カナタだった。
「姉ちゃんまで!」
「お姉さんも!?」
唖然としてカナタを眺めるシュンとシーナだったが。
「あたりまえでしょシュン。家を壊されて、あれだけ好き放題やられて、黙って引っ込んでられるかっつーの。それに、あいつらまたメイちゃんを狙ってくるんでしょ? あたしにも殴らせなさい!」
カナタは平然とそう答える。
「ありがとう、カナタさん。これは『疾風の手甲』。打てば風を裂き、敵を切り裂くでしょう。あなたの腕ならば、きっと使いこなせる……」
子供の頃から、カナタの空手の研鑽を知るユウコは、そう肯いてカナタに手甲を渡した。
「私はこの『鬼刺刀』を。いざという時、メイを守るのは私……。そしてシュンくんあなたは……」
黒革の鞘に収まった短刀を握りしめ、そう呟いたユウコが、シュンの方を向いた。
「これは『鬼撃月』。息子のキョウヤが設計し、作り上げた最後の魔器。これを修練して魔弾の射手となれば、剣の及ばぬ相手を倒すことも容易い。あなたを守る、強力な武器となるでしょう……」
猟銃の部品と弾丸の一式を指さして、ユウコはシュンに言った。
「俺が……銃を!?」
シュンは戸惑いの声を上げた。
銃を取り、射撃の訓練など、考えたことも無かった。
「取っておきや、シュン。護身の武器は多いに越したことないからな!」
「ああ、シーナ……わかった!」
シーナがシュンにそう促す。
シュンはそう答えて、ユウコの差し出す猟銃の一式を手に取った。
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「ま、何はともあれ、全員無事。ユウコさんの傷も大したこと無くて何よりね……」
そう言って、カナタが大きく伸びをした。
「ところでシーナ? これから、どうする?」
シュンはシーナにそう尋ねた。
シュンとメイの家は倒壊している。
今はシーナの屋敷に身を隠すしかないのだろうか。
「どうするもこうするも、当分みんな、ここに居るしかないやろ。ユウコさんのお許しも出たし、今日からみんなで『合宿』や!」
燃え立つ炎の様な紅髪を揺らしながら、シーナが、なんだか嬉しそうだ。
「仕方ないわね。父さんと母さんに連絡して、落ち着く先が見つかるまで、しばらくここに世話になるわ!」
忌々しげにカナタもそう呟く。
「それがベストですわ! また敵がいつ襲ってくるかわからんし、この屋敷なら、多少の備えも、そして『援軍』も……」
そう答えながら、シーナは卓袱台の上でノートパソコンを開いた。
そして何やら熱心にキーボードを打っている。
「何やってんだよ、シーナ?」
「祖父ちゃんにメールしとるんや! 最初は御庭番衆とウチがいれば、ミッションの遂行は余裕や、思っとった。でも状況が変わったんや。早急に連絡して、新たな『援軍』を手配してもらわな……」
訝しげにシュンがそう訊くと、厳しい顔でそう答えるシーナ。
どうやら自分の祖父にメールをしているらしい。
その時だった。
「うん!?」
キーボードを打つシーナの指が止まった。
「どうしたんだよ?」
シュンがパソコンを覗く。
シーナの目が、ブラウザに表示されたポータルサイトのニュース画面に釘付けになっていた。
「シュン……テレビを!」
「あ、ああ!」
シーナの声が固かった。
広間の一角に置かれた大画面テレビのリモコンをシュンが押すと……
「「「「うおああ!?」」」」」
テレビのニュースに映し出された映像に、みなは驚愕の声を上げた。




