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破界の魔王と吸血少女  作者: めらめら
第3章 闇を蒔く少女
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人狼再び

「あの声は!」

「この匂い、あいつが……来たんや!」

 階下から響いた悲鳴に、シュンとシーナが身構えた。

 シュンは屋上の縁に駆けよった。


「うそだろ……」

 屋上の金網ごしに校庭を見渡したシュンは、愕然として呻いた。

 学校の正門から、堂々と入って来たのだろう。


 その男は、なんだかフラフラとした足取りでそのまま校舎の方へと歩いてくる。

 ボサボサの髪、ヨレヨレのコート。

 男の両腕は剛毛に覆われ禍々しく肥大化している。手からは黒い鉤爪が伸びている。

 見間違いようが無い。シュンが昨日の夜に戦った人狼。


 黒川キリトだった。


「あいつが、まさか昼間から……学校にまで!」

 敵の襲撃の、予想を超えた単純さと大胆さにシュンの顔がこわばっていく。


 男の背後には、人が倒れていた。

 いかつい体格。

 トレードマークの赤いジャージ。

 校庭にうつ伏したその身体から、とめどなく流れ出た血が、周囲に赤い水溜まりを作っていく。


「荒木だ、あいつ、荒木を……!」

 シュンは、それ以上つぐ言葉を失った。

 倒れているのは、学年の生活指導主事。

 体育教師の荒木剛(あらきゴウ)だった。

 昼休み、学校に侵入してきた不審な男を止めようとしたのだろう。

 狼の爪に裂かれ、今は無残にその身を横たえている。

 動く様子はない。生死もわからなかった。


「先生が!」

「うわー!」

「キャー!」

 昼休みにボール遊びをしていた生徒たちの悲鳴が、校庭を行き交う。

 倒れた荒木と、男の周囲から、蜘蛛の子を散らすように生徒たちが逃げ去っていく。


「くそう、あいつ! ふざけんな!」

 シュンはやるせない顔で、金網を掴んで叫んだ。

 体育の荒木。ガサツで、声が大きくて、シュンたちの素行をいつも厳しく見張っている感じ。

 それでも、嫌いじゃなかったのだ。

 いつも生徒の事を気にかけている、あの感じが。


 それを、あの男が……!


 ズズズズズ……


 その男、黒川キリトの身体が、昨日と同じく、更なる変化を遂げて行く。

 全身が膨れ上がる。

 剛毛に覆われ、鼻先が伸び、口が裂ける。


 狼の姿に変じたキリトが……


 ギン!

 屋上のシュンを見上げた。

 屋上からも、はっきりと判った。

 ドロリと濁った狼の右眼、左眼はシュンに潰された時のままだ。

 口からしたたる涎。

 ふらついた足取り。

 昨日よりも、さらにヤバそうな感じだ。


「そこか、ガキども……女もいるな?」

「ひっ!」

 狼が、しわがれ声で屋上むかって吠えた。

 メイが慌ててシュンの背中に隠れる。


「無駄や。もう見つかっとる!」

 シーナの顔が苦々しい。


「もう、人目も何も構わない、ゆうこっちゃね。まずい……あいつが、このまま校舎の中で暴れたら……」

 シーナの声も、また張りつめている。


「どうしようシュンくん……クラスのみんなも、先生もいるのに!」

「だめだ……みんなが巻き込まれる……シーナ! 早く行こう。あいつを倒すんだ!」

 泣きそうな顔のメイ。

 居ても立ってもいられず、シュンはそう叫んだ。

 シュンは学生服の裏、内ポケットに無理矢理つっこんでいた剣の柄を取り出した。

 シュンは剣を右手に構えた。


「……!」

 シュンは縋るような思いで、剣の柄を眺めた。

 黒光りした剣の柄は、今はまだ沈黙している。

 また昨日のように、シュンに応えてくれるだろうか。

 シュンを守ってくれるだろうか。


「頼むぜ、『刹那の灰刃』……」

 シュンは剣の柄を握りしめてそう呟くと、


「いくぞ……『変身』!」

 剣の柄を頭上にかざして、気合を入れた。


 そして、


 ビュウウウ……

 

 昨日と同じだった。

 剣の柄から緑の(かずら)がたぎった。

 シュンの全身を奇怪な蔓が這っていく。

 陽光の下に在ってなお、蔓の緑の光は周囲を妖しく照らしていた。


「よし、いける! まってろよアイツ!」

「待つんや、シュン!」

 猛り立つシュンが、狼に叫んだ、その時だ。

 シーナがシュンを止めた。


「どうしたんだよシーナ?」

「その力、そのナリで、顔バレしとるのは、後々いろいろマズイやろ!」

「うぐっ!」

 シーナのツッコミにシュンが固まった。


 シュンの魔剣から放たれる生きた蔓の鎧は、シュンの全身を這っている。

 とはいっても半透明で隙間も多い。

 顔まで完全に覆い隠しているわけではない。


 正体を晒したまま狼とここで戦えば、友達や教師に後から何と説明すればいいのか。

 追及を受け続ければ、昨日の戦いで警官の銃を奪った事もバレるだろう。

 警官殺しの関係者と疑われることもあるかもしれない。


「でも、一体どうすればいいんだよ!」

 よい考えが浮かばず、イライラするシュンに、


「大丈夫やシュン。ウチにええアイデアがあるで!」

 シーナがそう即答すると、自分のスカートに手を入れて、何やらモゾモゾ怪しい動きをはじめた。


「な、何やってんだよシーナ?」

 嫌な予感のするシュン。


「ウチのパンツや! パンツ頭被って戦えば、みんなそっちの方が気になって顔なんて覚えられんやろ?」

「アホかー! 変態かー!」「何言ってんのよ、この痴女!」

 シーナは、自分のパンツを脱ごうとしていたのだ。

 シーナの『アイデア』にシュンとメイが怒りのツッコミをかます。


「ん……? 顔を覆う……そうか!」

 メイが、何かに思い至った。


「シュンくん、これ!」

 メイが手元のポーチから何かを取り出してシュンに手渡した。


「これは!?」

 シュンが驚きの声。

 渡されたのは、花柄のカワイイ三角巾だった。


「今朝、朝ごはん作った時、そのまま持ってきたの……これで顔を覆えば、きっと大丈夫、バレないよ……」

「わ……わかったよ、ありがとなメイ!」

 モジモジしながら、シュンにそう言うメイ。

 シュンもちょっと照れながら、メイの三角巾を顔に巻いてゆく。


「なななな三角巾……ちょっと待ちぃ! そっちの方が、よっぽど変態くさいやんか!」

「「パンツよりマシ!」」

 憤然と抗議するシーナを、シュンとメイが斬って捨てた。


「よし、いくぜ!」

「どこ行くんやシュン? 出口はあっちやで」

 三角巾で顔を覆い、緑の蔓を身に纏ったシュンは、そう叫んで屋上の金網をよじ上りはじめた。

 シーナが屋上の塔屋を指さして首を傾げる。


「そんな、かったるいことしてられるか! 1秒でも早く、あいつを止める!」

 シュンは決然とそう叫ぶとんだ。

 金網を超えて、校庭を見下ろした。

 狼は既に校舎の間際だ。


「たのむぜ!」

 シュンが剣を振り気合いを入れる。

 シュルン。剣から伸びた蔓の一束が、屋上の金網に巻き付いた。

 そしてそのまま、


「だああ!」

 シュンは、校庭にむかって身を投げたのだ。

 

「シュンくん!」

「なるほど、ま、しゃーないか。そのマスクはメイくんの『仕込み』に負けた、ゆうことにしとくわ」

 驚きの声を上げるメイ。

 呆れ顔で、ボソッとそう呟くシーナだったが、次の瞬間には、


「メララちゃん! シュンのサポート、頼んだで!」

 キリリとした表情でシュンを見ると、懐から取り出した銀色の錫杖を振ってそう叫んだ。


「わかったっす! 姉さん!」

 ボオオオ……スクールバッグの中のランプから炎が放たれた。


 火の精メララが空中に飛び出すと、地上に落下してゆくシュンの身体を包む。

 昨日と同じく、メララの炎が蠢く鎧の中に吸い込まれてゆく。

 落下を続けるシュン。もう地上は目前だ。


 シュンの身体が校庭に叩きつけられる……と見えたその瞬間。


「やっ!」

 シュンは空中で剣を振った。

 ビュン。屋上の金網の絡みついた蔓がシュンを引っ張る。

 シュンの身体はそのまま校庭に軟着陸した。


「グワオ……来たか、小僧……!」

「この殺人鬼……! いかれ狼! よくも荒木を! お前は今、ここで、ぜってーに俺が倒す!」

 今まさに、昇降口から校舎に入り込もうとしていた人狼キリトが、シュンを見て呻いた。

 シュンもまた狼に怒りの声を上げた。


 シュンは剣の柄を狼に向ける。

 柄から噴き出した輝く緑の奔流が、透明な水晶のような煌めく刀身を形成する。


「よくも俺の目を、肩を……! 引き裂いてやるぞ……手足をもいでやる……腸を引きずり出してやる……!」

 狼がドロリと濁った右眼でシュンを見おろし、舌なめずりをした。


「あれは一体……」

「なんなの、あいつ!?」

「化け物が……戦ってる!」

 窓から顔を出して、校庭を見ていた生徒や教師の間に、驚きの声が上がってゆく。

 キリトの周囲から逃げ出した生徒たちも、異変に気づいてシュンとキリトを向く。

 ザワザワザワ……学校全体に、動揺の声が広がって行った。

 

  #


「気合い入っとるなシュン、さてウチらもボヤボヤしてられん、何かサポートに使えそうなものは……と」

 屋上からシュンを見下ろしたシーナが、ブツブツと呟きながら校庭を見渡していたが……


「あった、使える……あれや!」

 校庭の何かを見つけたシーナが、そう言ってニヤリと笑った。

 

「メイくんとタヌキは、安全なとこ隠れとき! 行くで、ウルルちゃん!」

「わかりましたわ、お姉さま!」

 水の精ウルルを連れたシーナが、塔屋むかって駆け出す。


「ちょっと、どうするつもりなのよ!?」

 メイは、慌ててシーナの背中を追った。


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