表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破界の魔王と吸血少女  作者: めらめら
第3章 闇を蒔く少女
19/144

それぞれの思惑

「それにしても、あいつ……」

 シュンは校庭の向こうに広がる街並みを、ぼんやりと眺めながていた。

 昼休み。

 ここは学校の屋上。

 シュンが一人で飯を食べたい時。

 そしてボンヤリ考え事をしたい時にやって来る、彼のお気に入りの場所だった。


 空は晴れていて、風も気持ちいい。

 小高い丘陵地帯に建てられた聖ヶ丘中学の屋上からは、シュンの住む聖ヶ丘の街が一望できる。

 シュンは購買で買ってきた昼飯のカツサンドの包みを、自分の前にひろげた。


 午前中は、案の定上の空だった。

 ノートに、自分で考えた如月家の『紋章』や、昨日手にした剣の落書きをしている内に、あっという間に授業は終わった。

 シュンはカツサンドにかぶりつきながら『彼女』の事を考えていた。


  #


「如月シュン……くん?」

 久しぶりに学校に姿を見せたその少女(・・・・)、夜白レイカ。

 レイカは教室に入って来るなり、ツカツカとシュンの席まで歩いてくると、彼にそう話しかけて来たのだ。


「あう……夜白……さん。久しぶり……」

「本当、どうしちゃったのかしら。少し見ない間に変わった。強く(・・)なっている……」

 シュンが、ドギマギしながら少女にそう答える。

 レイカは不思議そうに眉を寄せて、シュンの顔を覗き込んでいた。

 彼にむかって手を伸ばした。

 

 そして、ツ……


 真っ白な指先で、シュンの胸元を学生服の上から、ゆっくりとなぞったのだ。


「うおわぁ!」

 レイカの突然の行動に、シュンはのけぞった。


「な……何してくれるんや、この(あま)ぁ!」

「な……何してるのよ、シュンくん!」

 シーナとメイが、同時に怒りの声を上げた。

 ザワザワザワ……。

 教室が一斉にどよめく。


「あら、あなた()……?」

「シーナや。転校生の比良坂シーナ。見ん顔やなあ、名乗らんかい!」

 シュンの隣の机から、凄い勢いで跳ね上がったシーナを見て、不思議そうな顏のレイカ。

 昨日転校してきたばかりなのに、なぜかデカい態度のシーナが、レイカを指さして叫んだ。


「そう。私はレイカ。夜白レイカ。よろしくね……シーナちゃん」

 レイカは謎めいた微笑をうかべて、シーナにそう挨拶するした。

 そしてシーナとシュンに背を向けて、ツカツカと自分の席に戻って行ってしまった。


「何やぁ、あの女……けったいな真似しくさって……!」

 自分が変態なのを棚に上げて、シーナはブツブツそう呟きながらレイカの背中を睨んでいた。


「シュぅンンくぅんんんんんんん!」

「シュン、貴様ああああああ!」

 後ろの席からは、メイの恐ろしい視線がシュンの背中に突き刺さって来る。

 前の席からは、時河コウが凄い顔でシュンをにらんでいる。


「変わったって……どういうことだよ!?」

 わけが解らず、混乱したシュンが、レイカの方に目を遣る。

 レイカの人形の様な横顏は、何事も無かったかのように窓の外を眺めていた。


  #


「まったく、昨日から本当に妙な事ばっかり……」

 屋上でブツブツ愚痴りながら、シュンはカツサンドを食べていた。

 朝方の事を級友にはやし立てられた。

 そしてレイカの自称「一番のファン」であるコウからは、恐ろしい突き上げをくらった。

 ゆっくり飯を食うために、ここまで逃げて来たようなものだ。

 と、その時だ。


 ボフッ!


 シュンの頭上に、モコモコした何かが落ちて来た。


「どわっ!」

「まーったくシュン。ドコ消えたかと思えば、こんなとこでボーッとしとったんか」

 慌ててシュンが振り向く。

 立っていたのは、燃え立つ炎のような紅髪を揺らした比良坂シーナだった。


「なんだよシーナ。お前も一人飯か?」

「ちゃうわ。このタヌキが外出たい言うからな、人目につかんトコロは……思ってな」

 シュンが鬱陶しげな顔でシーナにそう言う。

 シュンの頭に落とした物を見ながら、シーナは答えた。

 屋上の床に転がってるのは、モコモコとしたシーナのスクールバッグだったのだ。


「ぷはー! 暑かった!」

 そのバッグの中から、苦しそうな声で飛び出してきたのは、二本足で立った小さなタヌキ。

 ヤギョウだった。


「ヤギョウ。学校までついて来たのかよ……」

「当然じゃ! 何時また敵が襲って来るともわからん! 姫様をお守りするのが、今のわしの務めじゃ!」

 呆れ顔のシュンに、タヌキが胸を張った。


「それにしてもシュン……」

 シュンの隣に腰かけて、シーナが怪訝そうにシュンに尋ねる。


「朝の、あの女……夜白レイカゆうたな。あいつ、一体、何者なんや?」

「ああ、あいつか。凄く……綺麗だろ。それに、凄く……綺麗だ。そんでもって、凄く……綺麗なんだ……」

 シュンは首を傾げながら、シーナにそう繰り返した。

 シュンには、そうとしか答えようがなかったのだ。


 夜白レイカ。

 シュンやメイたちのクラスメート。


 道をすれ違う男どもが、全員目を見張って振り返ってしまう。

 そんな、ちょっと凄みさえ感じさせる美貌の持ち主。


 ただ、体が弱いとかで、めったに学校に来ない。

 そして来ても大抵、図書室か保健室で終日『自習』だ。

 人の多さに「当る」体質だという。


 親しくしているクラスメートは、一人もいないみたいだ。

 たまに教室に顔を出しても、口数は少ない。

 ……というか、誰か話をしたことのある者がいるのか、それもわからないのだ。

 それが、今日までの彼女に関して、シュンが知っている全てだった。

 今日も四限目の授業が終わった時点で、気分が悪いからと、スタスタと保健室に引っ込んでしまった。


「はーん。要は、『何も知らん』ゆうことやね……」

「何だよシーナ、あいつが、何か気に入らないかよ。また色々『匂う』とか?」

 呆れ顔のシーナに、シュンがムッとしてそう聞き返す。


「その逆や。何も『匂わん』かった」

「匂わなかった? それって『普通』ってことだろ?」

「ちゃう。普通の人間でもな、そのへん漂っとる妖ひっかけたり、『スポット』を通ったりしてるうちにな、僅かばかりの『体臭』が身につくモンなんや。接界の時は尚更や。それがあの女、全く何も匂わんかった。完全ムシュー。何やウソくさい。シュンの胸の創にも気付いっとったみたいやし……」

 シュンの問いかけに、眉を寄せてしてブツブツそう呟くシーナ。

 その時だ。


「うん?」

 更に何かに引っ掛かったように、シーナは顏を上げてシュンを見た。


「そういや、シュンも確か、初めて会った時……クンカクンカ」

「またかよ? やめろってシーナ!」

 シーナはシュンに顔を寄せて、クンクン彼を嗅ぐ。

 鬱陶しそうにシーナから離れるシュン。


「そっか。今は駄目か。剣の匂いが強すぎるわ。ま、ウチの気のせいかも……」

 シーナは首を振りながら、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。


「ところでシーナ、お前、一体いつまで俺ン家にいるつもりなんだよ……」

 シュンは改めて、非常に迷惑そうな顔でシーナにそう訊いた。

 毎朝毎朝、あんな修羅場が続いては堪らない。


「決まっとるやろ。ウチが指令を果たすまで。メイくんを守りきるまでや。襲ってくる敵みんな片付けて、今の接界が終わるまでや!」

 シーナが胸を張ってシュンに答える。


「ま、まずはあの狼男と、ボスの『バルグル』ゆう魔王を片付けな。あんなやばいバケモンがその辺ほっつき歩いとるなんて、『夜見の衆』としても、絶対に許せんしな……」

「狼……『黒川切人(くろかわキリト)』か……」

 シーナが忌々しげに顏を歪めた。

 シュンは男の名前を思い出して、うなじの毛が幽かに逆立つのを感じた。


 黒川キリト。


 シュンと戦った狼の正体。

 ネットや新聞で調べれば調べるほど、その男の凶暴さは常軌を逸していた。


 女性に対する暴行事件が8件。

 うち1件は、来客も多かったファミリーレストランの、トイレの死角。

 1件は、あろうことか衆目の中、昼間の電車の中だったのだ。

 彼を取り押さえようとした乗務員と乗客3人をナイフでメッタ刺しにして重傷を負わせた。

 そしてそのまま走る電車から車外に逃亡、フッツリと姿を消して警察の手を逃れていたという。


 そんな異常な男が、メイを狙っていたというのだ。


「あいつ。今度会ったら、絶対に倒す!」

「一番気をつけなあかんのは、今から二週間。正念場は二週間後。満月の夜や!」

 シュンは懐に忍ばせた魔剣の柄を握って、小さくそう呟いた。

 シーナがシュンを向いた。


「過去のケースからいって、その夜が接界のピーク。それからアチラ側とこちら側は、またすぐに二つ分れてく。接界が終わってしまえば、アチラ側のモンも、もうコッチで大した悪さも出来んやろ?」

「そうじゃ。それまでの間に、何としても姫様を守りきり、シュライエ様の行方を探し当てるのじゃ!」

 ヤギョウが、シーナの言葉に頷いた。


「ところでヤギョウ……その、シュライエが……メイの母さんが見つからなかったら、お前ら、どうするんだよ?」

「うむ……。そんなことは考えたくもない。だが、その時は……」

 シュンが神妙な顔でタヌキにそう訊く。

 ヤギョウの境遇を思えば、メイを守るだけでなく、メイの母親の、シュライエの行方も気にかかる。

 タヌキの顔は苦々しかった。


「姫様……メイ様に、我らが吹雪の国に……魔影世界(シャテンラント)にお戻りいただく」

「な……ウソだろ? メイを魔影世界に!」

 ヤギョウは重々しくシュンにそう答えた。

 シュンの顔がこわばった。


「ははーん……そういうことだったんか……」

 シーナが何かに思い至ったように、腕組みをしてウンウンうなずく。


「嘘ではない。メイ様はまだ幼いものの、その身に纏われた魔気の格は、間違いなくシュライエ様の……魔王のもの。我らの国にお戻りいただき、我らの新たな女王となるに相応しい御方じゃ」

「だめだ! そんな、メイを連れてくなんて!」

 シュンを見上げてヤギョウが続ける。

 シュンは慌ててヤギョウに抗議する。

 その時だ。


「え、私が……」

 茫然とした声が、シュンの背中から聞こえて来た。


「メイ!」「姫様!」「メイくん!」

 振り向いた三人の前に立っていたのは、緑の瞳を驚きに見開いた、秋尽メイだった。

 昼休みも終わろうとしていた。

 姿を消したシュンとシーナが気になって、ここまで探しに来たのだろう。


「その通りです姫様。姫様は人間の世界でなく、我らが魔影世界(シャテンラント)でこそ、そのお力を振われるのがふさわしい御方。共に我らと戦い、我らをお導きくだされ!」

「いえ、でも、そんな……」

 メイに熱弁をふるうヤギョウ。

 キョドキョドのメイ。


「だめだ! だめだ! 絶対だめだ!」

「なるほどねー。という事は、メイくんを守り切って、メイ君がアッチ行ってまえば……」

 憤然とヤギョウに叫ぶシュン。

 シーナの金色の瞳が、妖しく輝いた。


 と、その時だった。


 ゾワッ!


 タヌキの全身の毛が逆立った。


 ピタリ。


 シーナの動きが止まった。


「……シュン、メイくん、タヌキ。その話は後や!」

「ああ、そのようじゃな……」

 シーナが顏を歪めて、忌々しげにそう言った。

 ヤギョウの声も掠れていた。


「おい、じゃあ、ひょっとして……」

「ああシュン。昨日よりも、もっとエゲツない匂いや。来おったで白昼堂々……あいつや!」

 二人を見回し不安げなシュンに、シーナが呻いた。


「まさか、真っ昼間に!」

「近い! 学校に……入り込んどる!」

 シュンが愕然とする。

 シーナもまた驚愕の声。


「キャーーーーー!」

 そして階下から、恐ろしい悲鳴が聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ