表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破界の魔王と吸血少女  作者: めらめら
第3章 闇を蒔く少女
18/144

嵐の前

 ジリリリリリリ……


 遠くの方で、何かが鳴る音がする。

 ベルの音、時計……目覚まし時計……もう朝か。

 シュンは朦朧とした頭でそう考える。


 ジリリリリリリ……

 時計のベルが、頭の中で大きさを増していく。

 やばい、もう起きなきゃ。

 今日、学校だよな。

 昨日が月曜だから、今日は火曜日……


 ジリリリリリリ……

 目覚まし、止めねーと。

 あー眠みー、だりー……


 いつもの朝のように、シュンが意を決して目を開ける。

 そして枕元の手を伸ばそうとした、その時だった。


 スースースー……


 シュンの胸元で、誰かの寝息が聞こえる。


「うん?」

 シュンはようやく異変に気付いた。

 シュンと同じベッドの中、シュンと同じ布団にくるまった何かがいる。

 シュンに向かい合って、誰かが眠っているのだ。


「う………おおおおおあ」

 シュンの眠気が飛んだ。

 シュンの顔が蒼ざめる。

 水玉模様のパジャマ。

 燃え立つ炎のような紅髪がクシャクシャしている。

 シュンの胸元で無邪気な顏で眠っているのは……

 転校生の比良坂シーナだったのだ。

 

「どわー! 何やってんだよシーナ!」

 シュンがベッドから跳ね起きる。

 ここはシュンの家。シュンの自室だった。


「うーんーあー。もう朝か……」

 シーナもまた目をこすりながらベッドから起き上がる。

 猫のように伸びをする。

 その時だ、バタン。

 シュンの部屋のドアが乱暴に開いて、


「な……な……何やってんのよ二人とも……!!」

「ちょっとまて、違うんだメイ!」

 緑の瞳に怒りを滾らせてシュンとメイを睨んでいるのは、白いエプロン姿の秋尽メイだった。

 シュンの顔が、恐怖に歪んだ。


「あー、なんじゃもう騒がしいのう……」

 床に丸まって寝ていたタヌキのヤギョウが、そう言ってノソノソと起き上がった。


 いったい全体、何でこんなことに?

 頭をフリフリ、シュンは昨日の夜の記憶を整理していた。


  #


 昨日の夜の事。


「それにしても、ほんとすげー豪邸だなシーナ」

「そやろ? この屋敷はな、比良坂の(もん)が東に下って仕事する時の別邸。(アヤカシ)たちの憩う『スポット』みつけて、大昔に買い取ったものなんや! コチラの世界にも『匂い』……妖気の堪りやすい『スポット』があってな、そう言う場所見つけては、メララちゃんやウルルちゃんみたいな、身寄りのない(アヤカシ)を導いてあげるんや!」

 夜が更けたシーナの屋敷の広間から、妖の集う中庭を見回しすシュン。

 シュンが改めて溜息をつくと、シーナは得意げにうなずいた。


 その時だ。


「どうしようシュンくん。私、そろそろ帰らないと……」

「そうだな、話はまた明日にして、そろそろ帰ろうぜ」

 メイが不安そうに屋敷の広間の振子時計を見上げた。

 もう十時をまわっていたのだ。

 家に連絡を入れているとはいえ、祖母のユウコが気を揉み始める頃だ。

 シュンも座布団から腰を上げる。


「そやな。そろそろ行こか」

 シーナもヒョウ柄のカバンを肩にかけて、畳から立ち上がった。


「「あえ?」」

 シュンとメイがシーナを向いた。


「行くって何処に? おまえン()ココだろ?」

 首を傾げるシュンに、


「決まってるやろ、シュンの家や! お泊まりや!」

「ちょまままま……なんでそういう話になるのよ!」

 シーナが、涼しい顏でそう答えた。

 動転してシーナを睨むメイ。


「メイくんを守るために決まっとるやんか……」

 シーナは不思議そうにメイを見た。


「調べはついとんねんで。メイくんは、お祖母ちゃんのユウコさんと二人暮らし。お祖母ちゃんは厳しくて、外泊や家に友達連れこむなんてのはもっての外。その一方……」

 シーナはシュンの方を向く。


「シュンの家はメイくん()の隣。シュンは今、ほぼほぼ一人暮らしで、家の中ではヤリたい放題や!」

 一体、いつそんなことを調べたのか。シーナは得意げに二人を見回してそう言った。


「ウチは匂いでバケモンがわかる。シュンにはわからん。シュンはその剣でバケモンと戦える。ウチには今んとこ無理。これらの要素(ファクター)を考慮して、メイくんの警備プランを立てるなら、導かれる回答は1つ……」

 長々とシーナが続ける。


「ウチがシュンの家にお泊まりして、メイくんを警護するんや!」

「ななななな……!」

 シーナが、シュンの腕に抱きついて嬉しそうにそう言った。

 突如の提案に固まるシュン。


「そんなのダメー! ダメ絶対!」

 メイが、ショートレイヤーの黒髪を怒りで逆立たせて叫んだ。


  #


 そんなこんなで、固まったシュンと怒りに震えるメイを、どうにかなだめてすかして納得させたシーナ。

 「絶対にシュンには指一本触れない。狼の件が解決したら即刻シュンの家から退室します」

 という誓約書をメイに書かされた後、タヌキのヤギョウを監視役につけられつつ、ノウノウとシュンの家に上がり込んだ。

 シュンの姉のカナタの部屋を間借りして、その夜から居候(いそうろう)を決め込んだのだった。


  #


 如月家の朝の食卓だ。


「おいっす! 姉さん!」

「おはようございます、お姉さま」

 テーブルの上のランプとペットボトルから飛び出した少女たち。

 メララとウルルがパジャマ姿のシーナにそう挨拶した。


「おはよー! メララちゃん、ウルルちゃん」

 笑顔のシーナ。

 火の精メララと水の精ウルルは、万一の時のボディガードとして、メイに付き添って秋尽家に泊まり込んでいたのだ。


「指一本触れないと……指一本触れないと……! シュぅンンくぅんんんんんんん!」

 シュン(とついでにシーナ)の朝食を用意するため、彼の家までやってきたのに。

 メイは食卓でブルブル震えるシュンと、涼しい顏のシーナを恐ろしい目で睨んでいた。


「申し訳ありませぬ姫様……つい寝入ってしまいまして」

 フローリングのタヌキが、すまなそうに頭をかく。


「違うんだよメイ。気が付いたらこいつが勝手に……!」

「うーんおかしいなあ? ウチもそんなことした覚えないし……まあウチな、寝相(・・)が悪いんや……」

 食卓に座って、言い訳がましいシュンと、首を傾げるシーナ。


「ど……どこの世界に、寝相のせいで別の部屋のベッドの中まで転がっていくヤツがいるのよ!」

「まあまあ、えーやんかメイくん。シュンに何かシタわけでもなし、ほれ、はやく食べんと遅刻すんで」

 怒りが収まらないメイだったが、シーナはジャムトーストを咥えながら、ニヘッとに笑っていた。


  #


「そういやシーナ? お前、昨日の怪我とか、もういいのか?」

 朝の通学路、メイとシュンとシーナが並んで歩いていた。

 後ろからはタヌキがついてくる。

 狼との戦いで、シーナも結構な傷を負ったはずなのに。

 シュンの傷は剣の力で塞がったが、シーナは何ともないのだろうか。


「うん? 大丈夫や、あのくらいの傷ならな、一晩あれば余裕で治るんや!」

 シーナが、何事も無かったようにそう答える。


「ふーん……そういうもんなのか?」

 シュンが首を傾げた。

 妖の匂いが判ったり。

 傷の治りが早かったり。

 シーナも特別の血筋ならではの体質らしい。


「そんなことより二人とも、遅刻するわよ!」

 メイが、不機嫌そうな顏で早足になった。


「おっとやべー!」

「あーん待ってーな!」

 シュンとシーナが、それに続いた。


  #


「どーもどーもです、おはよーです、みなさん!」

 遅刻ギリギリ、シュンとメイとシーナが、聖ヶ丘中学2年C組の教室に駆けこんだ。

 クラスメートに、調子よく挨拶して行くシーナ。


「なんだよシュン。転校生と一緒に来たのか? ずいぶん仲いいんだな?」

 今日はシュンよりも早く登校していた時河コウが。

 コウは机についたシュンに前の席からそう話しかけて来る。


「別に、そーゆうんじゃねーし!」

「ふーん、まあいいか。そんなことよりさ、シュン!」

 不機嫌そうに答えるシュン。

 コウがシュンの方に身をのりだしてきた。


「今日はさ、『あいつ』が来てるらしいぜ!」

「あいつ……って?」

「レイカだよ! 夜白玲花(やしろレイカ)! 最後に御顔を拝んだのはもう三ヶ月前だぜ、あーたまらん! はやくコイコイここに!」

 何を言っているのか解らないシュンに、コウが興奮した顏でそう答えた。


「夜白……レイカ……」

 シュンが唖然とした表情で、そう繰り返した、その時だった。


 カラリ。


 教室の入り口の引き戸が開いた。


「おはようございます……」

 鈴を振るような澄みきった声でポツリとそう挨拶しながら、教室に誰かが入ってきた。


 フワリ。


 一瞬、教室の中を涼やかな風が渡り、百合の花の甘い香気が流れた気がした。


 入ってきたのは、一人の少女だった。

 身に纏った学園のブレザーから伸びたスラッとした手足。

 長い髪はまるで夜空を流し込んだような漆黒のストレート。

 どこか陰りのある切れ長の目。黒珠のような瞳。

 雪をも欺く透き通るような白い肌。

 朱を差したように濡れた唇。まるで人形のように整った顏。


 教室に入って来たのは、まさに、目の覚めるような美少女だった。


 ザワザワザワ……


 男子どもの間に、声にならないどよめきが走っていく。


「来たぞ。夜白玲花(やしろレイカ)だ……シュン! すげーぞ!」

 ご多分に漏れず色めき立ったコウが、シュンにそう耳打ちした。


「………!」

 シュンはしばし息を飲み、少女の美顏から目が離せない。


「レイカ……ちゃん」

 メイも唖然としている。


「うん? なんや、あいつ!?」

 そして少女に気づいたシーナの顏が、幽かに歪んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ