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破界の魔王と吸血少女  作者: めらめら
第2章 影の国より
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シーナのミッション

「『秋尽響也(あきづきキョウヤ)』……(アヤカシ)を見つけ、封じることを仕事とする『夜見の衆』の中でも、こと斬魔の技に関して当代に並ぶ者なしと言われた男。武蔵が魔装師の一族、秋尽(あきづき)家の末裔。祖父ちゃんから、そう聞いとるわ」

 シーナが話し始めた。


「『魔装師』って……なんだよそれ?」

「自分のエネルギーをな、剣や槍みたいな武器に注いで、尋常では斬れんモノを斬り、突けんモノを突く『能力(スキル)』に長けた者たち……。そして『力』の受け皿になる魔器を鋳造する『能力(スキル)』に長けた者たちの総称や」

 シーナはシュンにそう答えて、シュンが寝かされていた布団の方にツカツカと歩いていった。


「シュンも身に覚えがありまくりやろ? こないな武器や!」

「そいつは……!?」

 シーナはそう言って、シュンの枕元に置かれて在ったボロ布の包みを拾い上げた。

 そして布を取り、中身を取り出した。


 シュンは息を飲んだ。

 シーナが手にしていたのは、種類も良く解らない黒光りする金属のようなもので出来ていた。

 それは剣の……長さ30センチほどの『柄』だった。


 公園の戦いでシーナが握った剣。

 シュンの身体を妖しい蔓で覆い、狼を撃退した剣の柄だ。

 狼との戦いで中ほどから折れてしまい、シュンが握った時には光り輝く水晶のような刀身を形成してたモノ。

 狼を貫いたその剣も、今はその輝きを消し、刀身は根元から失われている。


「全くたまげたで。『刹那の灰刃』が、あないな姿になるなんて。いや、おそらくはアレが本来の姿か……」

 黒光りする剣の柄を、シゲシゲと眺めながらシーナは呟いた。

 そしていきなり。


「ぬうん!」

 燃え立つ炎のような紅髪を震わせると、金色の瞳を見開いて剣の柄を振り上げて気合を入れて振り下ろす。


「シーナ……何やってんだよ?」

 転校生の謎の行動に、シュンは目をパチパチさせる。


「ハー駄目か……何度試しても、ピクリともせぇへん……」

 シュンに答えず、シーナはガックリ肩を落として、剣の柄を撫でた。


「この『刹那の灰刃』もな、元々は秋尽の一族によって鋳造(つく)られた魔剣なんや。西と東の夜見の衆の和睦と共闘の証として、200年前に秋尽の一族より比良坂の一族に送られた大業物(おおわざもの)……そう言伝えられとったんや……」

「私の父さんに……私の家にそんな秘密が……?」

 シーナが、残念そうな顔でシュンを向いた。

 メイは唖然として、緑の瞳を泳がせる。


「そや。15年前、新宿で始まった『大接界』の時もな、溢れ出した(アヤカシ)を鎮めようと真っ先に新宿に飛んだのは秋尽キョウヤさん。メイくんの父さんやった……」

 シーナは、メイを向いてそう答えた。


「東の夜見の衆の陣頭に立って、キョウヤさんはなんや訳のわからない様子で一斉に暴れ始めた(アヤカシ)の群れを懸命に鎮め、封じようとした。そう聞いとる……。やがて新宿上空に生じた巨大な『接界点』は急速に閉じてゆき、新宿に生じたアチラ側の森も(アヤカシ)どもも、その姿を消していった……。それが15年前の『幻の森』事件の結末や」

「では……シュライエ様はその時に……!?」

 シーナの言葉に、ヤギョウが驚愕に震える声で、彼女をを見上げた。


「そや。きっとな。コチラ側に落ちて来たシュライエを見つけ、匿ったのがキョウヤさんや。細かい事情は分からんけどな、種族は違えど男と女やもん。そういう事もあるわ。そしてキョウヤさんとシュライエは結ばれ、メイくんが出来たと……そういう訳やね」

 シーナは、アッサリそう答えた。


「そして『幻の森』事件の後、キョウヤさんが表舞台に立って妖怪を狩ることはパッタリ無くなったいう話や。どういう心情かはわからんけどな、一線を退いて夜見の衆の仕事から身を引いたんや。そんなこんなで、新宿の事件から1年過ぎて、夜見の衆の間でも『大接界』で生じた動揺が落ち着きはじめた……。そんな頃だったゆう話や」

 シーナは、メイを見た。

 

「突然の事だったいうで。ウチら西の夜見の衆の統領……ウチの祖父ちゃんのトコに、キョウヤさんがやって来たんや」

「父さんが……」

「シーナの祖父ちゃんのところに!?」

 神妙な顔で話を続けるシーナに、メイとシュンが同時に声を上げる。


「そや。酷い傷を負って、切羽詰まった様子だったそうや。キョウヤさんが持ってきたのは、秋尽の家に代々伝わる文書、巻物、鋳具の一式。門外不出のはずの秋尽家秘伝の数々やったんや」

 シーナは二人に答えた。

 

「そしてキョウヤさんは、ウチの祖父ちゃんにこう言ったんや。秋尽に比する黄泉の衆の実力者。比良坂の統領と見込んで頼みがあると……。『夜見の衆』としての秋尽は絶えたものと思って欲しいと。魔装の秘伝は全て比良坂に譲ると。そのかわりな、次の『接界』が始まった時、ある約束を果たしてくれと。酷く動揺した様子でそう言ったそうや」

「約束……」

「そや。それが……」

 シーナがメイを指差した。


「キョウヤさんの一人娘。メイくんの身を守る事や!」

 シーナが高らかにそう言った。


「キョウヤさんは祖父ちゃんに頼んだ。詳しい事情は言えんけど、次の『接界』が始まった時、これまでウチらが出会ったことも無い様な強大な(アヤカシ)が動き出す。『夜見の衆』、いや、この世界そのものに大きな災いをもたらすような大事が起きる……その時こそ比良坂に譲った魔剣『刹那の灰刃』の封印が解かれる刻。剣を使って自分の娘を、メイくんを何としても(アヤカシ)から護ってほしいとな……そう言って、来た時と同様、唐突に祖父ちゃんたちの前から姿を消したんや」

「父さんがそんな事を……」

 金色の瞳がメイを見据えるシーナと、戸惑うメイ。


「そして『接界』の時機が近づいてきた。世界の各所に生じた小さな綻びから、アチラ側のモノノケたちがヒョコヒョコ出入りするようになってきた。比良坂が、秋尽に約束を果たす刻が来たんや! でもな……」

 シーナは、やるせない貌で剣の柄を見下ろす。


「敵の力はウチらの予想を超えとった。ウチに先んじて、メイくんを監視すべくこの地にやってきた夜見の衆、『比良坂御庭番衆ひらさかおにわばんしゅう』のメンバーが次々に連絡を絶って行ったんや。正体のわからん(アヤカシ)に喰われたんや。それが……」

「例の『連続殺人か』……」

 事件の糸が一本に繋がった気がして、シュンは息を飲んだ。


「そや、犯人はあの狼! ウチの放魔の術も、魔剣『刹那の灰刃』も、あいつには通じんかった。にしても何かがおかしい……」

 シーナは懐から銀色の錫杖を取り出す。

 右手の魔剣の柄と、左手の銀の錫杖を、無念そうに交互に見回す。


「それにしてもシーナ。そんな脆くて危なっかしい剣で、よく戦おうと思ったな?」

 シュンがあきれた様子でシーナの手にある、刀身の砕けた魔剣を見て言う。


「そこがおかしいんや! 納得いかんのや! 試し斬りは何度もしてきた。木も、岩も、小豆も、灯篭も、お地蔵さんも、何でもスパスパ切れるゴッツイ剣やった。あないなことで簡単に砕けるなんて、ひょっとすると……」

 シーナは納得いかない様子で剣の柄を握りしめていたが、


「シュン。ちょっとこっち来てな」

「ん? なんだよ」

 唐突に貌を上げてシュンにそう言った。

 シュンがシーナの方を向くと、


「これ、握ってみ」

「あ、ああ」

 シーナが剣の柄をシュンに差し出した。

 シュンがシーナの剣を受け取ると、


 ボオオオオオ……


「うん?」

 シュンが戸惑いの声。

 公園の戦いの時と同様だった。

 剣の柄全体が、薄っすらと緑色の光を放ち始める。

 透明な水晶のような刀身が剣の柄から浮かび上がって来る。

 シュンの右手を妖しい蔓が伝い始める。


「おわあ!」

 慌てて剣を畳に取り落すシュン。

 シュンの手を離れた剣が、急速に輝きを失って、蔓は薄らぎ空中に散って行った。


「やっぱり! シュンの手の中に在るときだけ、『力』が解放される。なんでや!?」

 シーナの金色の瞳が、驚きに見開かれていた。


「し、知らねーよそんなの……あ!」

 シュンは何かに思い至る。

 公園での戦いの時、血塗れのシュンの手から、剣の柄は、彼の血を吸っていた。

 アレが、何かの引き金だったのだろうか?


「まあ、しゃーないわ。原因は追い追い調べるにしても……いずれにせよ、あのバケモンは絶対またウチらを……メイくんを襲ってくるはずや! ウチの術だけではあいつは倒せん。剣を使えるのはシュンだけ……」

 少し困り顔で首を傾げながら、ブツブツとそう呟くシーナだったが……


「わかったで! 『プランB』や!」

 そう言うと、おもむろにシュンの手を取り、彼の腕にしがみついた。


「ちょ……何すんだよ!?」

 シーナを振り解こうとするシュンだったが。


「シュンもウチと戦うんや! シュンの剣にウチの放魔術のサポートを……メララちゃんやウルルちゃんの力を『乗せる』ことが出来れば、あんなバケモンの十匹や二十匹、余裕(ヨユー)や!」

 興奮した面持ちのシーナ。


「シュン、ウチと合体や! 合体技でバケモン倒して、メイくんを守るんや! どや! ウィン・ウィンやろ?」

 そう言って、シーナがシュンの右手に抱きついた。


「ちょままま……待てよシーナ! いきなりすぎんだろ!」

「ちょっとシュンくん! その痴女から離れなさい!」

 シーナのアイデアに戸惑うシュン。

 メイは激昂して叫ぶ。


「まったく騒がしい連中じゃわい……」

 ヤギョウが、あきれた様子でそう呟いた。


「それにしても、あの逃げた狼……『人間』って言ってたよな、タヌキ?」

 ようやくシーナから逃れたシュンがヤギョウに尋ねる。


「ああ。おそらくな。あの姿は確かに魔影世界の魔狼(ワーグ)。だが、この人の世に在って自在に魔気を秘し、二足で歩き、そして尋常の魔狼とは比較にならぬ強さ……」

 ヤギョウは頷いた。


魔狼(ワーグ)ってことは例の『獣王』の……『バルグル』の仲間ってことか?」

「おそらくな。だが、獣王がそのような術を用いるなどという話は聞いたことがないわい……それに、ヤツのあの感じ(・・)……『何か』が違う。わしの知っておる獣王の気性とは異なる、もっと邪悪な『何か』を感じる……」

 シュンの質問に、ヤギョウは不安げにそう答えた。


「本当に、他に心当たりはないの? タヌキさん……」

 メイも不安げに、スマホをポチポチつつきながら、街を騒がす殺人事件のニュースを追っていたが……


「あ!」

「どした。メイ?」

 突然、メイが驚きの声を上げた。

 シュンがメイにそう訊くと、


「シュンくん……これ!」

「こ、こいつ……!?」

 メイはスマホのディスプレイをシュンの方に向けた。

 シュンもまた驚きの声を上げた。


 ディスプレイに映し出されていたのは、夜の公園でシュンと戦ったヨレヨレのスーツの男。

 忌まわしい狼男の人間の時の顔だったのだ。



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