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破界の魔王と吸血少女  作者: めらめら
第2章 影の国より
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魔影世界

「……うおお!!」

 障子の向こう側に広がっている景色を目にしたシュンは、思わず驚愕の声を上げた。


 開け放された障子の向こう。

 屋敷の縁側ごしに広がる草深い屋敷の庭園。

 その光景は、まるでシュンが熱をだして寝込んだ時に見る、悪夢のようだった。


 中庭を静かに泳ぐように、大型犬ほどもある黒銀色のナメクジが何匹も草むらでうねっている。

 真っ白な大蛇が、チロチロと赤い舌を出しながら石燈籠の下にとぐろを巻いている。

 洞の様な眼窩に松明を燃やした木のような巨人達が、庭の松の木にまぎれて揺れている。

 池の中からボチャンと水音をたてて庭に上がって来たのは、鯉を小脇に抱えた緑色の……『河童』だった。


「そんな……これだけの数が……一度に?」

 メイも口を手で覆いながら、驚きの声。


「そうか……」

 シュンはメイを見て思い出す。

 幼かった頃の記憶を辿る。

 これが、いつもメイには見えていたモノたち。

 小さかった頃のシュンには見えていたモノたち。

 妖怪変化……百鬼夜行……シュンの頭をそんな言葉が駆ける。


「どや? これだけ『気配』が濃ければ……シュンにも『見える』やろ?」

「シーナ、こいつらは一体……」

 障子を開け放したシーナが、シュンの様子を見て言う。

 シュンは唖然としてシーナに尋ねる。


「普通のヒトには見えないモノ、妖怪、バケモン、モノノケ、アヤカシ……でも大丈夫や、みんな可愛いもんやで」

 縁側に立ち、涼しい顔でそう答えたシーナ。

 彼女はサンダルをつっかけてトンと庭に下りると、ポンポンと手を鳴らした。


「メララちゃん。ウルルちゃん。もう『体』の方は平気やね?」

 シーナが庭先を見回してそう声をかける。


「ウッス姉さん。もうバリバリっす!」

 庭園をぼんやりと照らしていた灯篭の中から、元気の良い声が返ってきた。


 ボオオオオ……


 灯篭の中から噴き上がった炎がシーナの目の前までやってくる。

 そして燃え上がる炎の羽衣を纏った、掌に乗るくらいの小さな少女の姿になった。


「はい、お姉さま。すっかり元通りですわ!」

 庭園の池の中からも、鈴を振るような少女の声が返ってくる。


 シュウウウ……


 水面が渦巻いて、空中に立ち昇った水柱。

 水柱もまたシーナの方に渦を巻きながら近寄って来るた。

 そして蛇のようにうねった水柱の下半身をした、これまた掌に乗るくらいの透き通った少女の姿になった。


「改めて紹介するわ。鬼火(オニビ)のメララちゃんと、水霊(ミズチ)のウルルちゃん。ウチのビジネスパートナーや!」

「妖怪と……」

「パートナー……?」

 シーナがニカッと笑いながら、傍らの『二人』をシュンとメイに紹介した。

 唖然とするシュンとメイ。


火の精(サラマンドル)水の精(ウンディーネ)……。何故この世界で人間と一緒に……?」

 縁側で立ちあがったタヌキも、改めて首をひねる。


「メララちゃんはな、千葉県四街道(ちばけんよつかいどう)のめいわガス灯通りで、一本だけボーボー燃えとるランプがあるゆうん聞いてな。ウチが見つけて保護したんや。ウルルちゃんはな、富山県の富岩運河環水公園ふがんうんがかんすいこうえんで夜になると噴水の水が勝手に躍り出すゆうん聞いてな。ウチが見つけて保護したんや」

 シーナは小さな妖の少女たちを、かわるがわる見回す。


「これがウチの……比良坂(ひらさか)の家のもんが代々負った務めなんや。身寄りがなくてフラフラしとる(アヤカシ)ひきとって、この屋敷みたいな『スポット』を提供して良心的な『労使契約』を締結してな、人に仇なすタチの悪い妖が出て来た時には、その者を封じるため、力を『貸して』もらうんや!」

 メイとシュンに得意げにそう続けるシーナ。


「なんと……『接界』でこちら側に迷い出て来た者たちと……そのような関係を!?」

 タヌキが驚きの声を上げる。


「『接界』……『コチラ側』、『アチラ側』……何言ってるかさっぱりわかんねーよ。『アチラ側』ってなんだよ!?」

「それに……何で私が狙われないといけないの?」

 頭から「?」マークが消えないシュンが、シーナに尋ねる。

 メイもまた納得のいかない顔。


「せやな……『アチラ側』の事情については、ウチもようわからん。そのへんの事情は、そこのタヌキが詳しいんとちゃうか?」

 シーナも怪訝そうな顔で、屋敷まで勝手についてきた二足歩行する変なタヌキを向きそう言った。


「お前も、『アチラ側』のモン。この『接界』を機に、何か企みがあってウチらに近寄ってきたんやろ?」

「ねえ、何か……知っているの、タヌキさん」

 タヌキを指差して問い詰めるシーナ。

 メイも恐る恐る喋るタヌキに尋ねる。


「答えろよタヌキ! 大体、一番最初にメイを襲ったのは、お前じゃねーか!」

 シュンもタヌキそう言ってタヌキに迫った。


「タヌキではありませぬぞ、姫様。わしはヤギョウにございます!」

 タヌキ……ヤギョウは、メイを見上げてそう答えた。


「『魔影世界(シャテンラント)』……その娘が『アチラ側』と呼んでいる我らの生まれた世界の名前じゃ……」

 シーナの方を見ると、ヤギョウは重々しくそう答えた。


「お前たちの生まれた世界と、表裏一体となったもう一つの世界。普段は互いに認識することも行き来することもできない背中合わせの世界。それが我らの国々、魔影世界(シャテンラント)じゃ」

「ちょっと待てよ。『互いに認識することも行き来することもできない』のに、何でお前らは此処に居るんだよ。何でメイの事を知ってるんだよ?」

 遠い目をするタヌキだったが、シュンは納得がいかない。


「その理由が『接界』じゃ」

 ヤギョウは答えた。


「本当の原因は誰にもわからぬが、15年に一度だけ、お前たちの『この世界』と、我らの『魔影世界』が交わり、繋がってしまう時期があるのじゃ。それが、今じゃ」

 ヤギョウが続ける。


「確かに、わしがこの世界に辿りついたのも、今回の『接界』で繋がった『入口』を通じての事。この者達もおそらく過去の『接界』でこの世界に迷い出て、この世界に居付いた者達じゃ」

 ヤギョウは、庭先で揺らめいている異形の者達を見回しながら言った。


「異世界からの客人ってわけか……」

「でも、それと私と、一体何の関係があるの? 私はあなたたちの事なんて知らないし、それに『姫様』って、一体なんのことよ?」

 次々明かされる世界の仕組みにシュンは茫然とそう答えるしかなかった。

 メイは首をかしげてヤギョウに尋ねた。


「そうや。それに、公園で戦ったあの『狼男』、これまで見たことも無いタイプやった。ヒトの姿して、完全に妖の気配を隠してた。それに、メララちゃんの炎が効かないなんて。あんな強いバケモン、生まれて初めてやで!」

 シーナも不審そうにヤギョウに言った。


「敵の正体は、まだわしにもハッキリわからん、だが……あの者は、おそらく人間。何か術を用いて我らの『力』を『注がれた』者!」

 ヤギョウも首をひねりながら、困惑気味にそう答えた。


「人間? あの狼男が!?」

「『力』を『注がれた』……?」

 驚きの声を上げるシュン。

 シーナもわけがわからない様子だった。


「そうじゃ。それも、本当に強大で危険な力。おそらくは『魔王』か、それに比肩する眷属の力……彼らの力添え無しには考えられない魔気じゃった……」

 公園の戦いを思い出したのか、ヤギョウは身震しながら続けた。


「ま、『魔王』ってまさか……?」

 またもや出て来た謎の言葉にシュンがそう訊く。


「うむ。我らが『魔影世界(シャテンラント)』の国々をそれぞれ統治する、最強の力を持った魔族。列強の王たちのことじゃ!」

 ヤギョウは震える声でそう答えた。


「そして、姫様……こちらの世ではメイ様と呼ばれる貴方もまた、魔王の血を受け継ぐ御方。我らが『吹雪の国』の魔王シュライエ様がこちらの世界に残した、我らの主となるべき御方なのです!」

 メイの方を向き直ってヤギョウは、恭しく彼女にそう言ったのだ。


「ウソでしょ!?」

 メイの緑の瞳が驚愕に見開かれた。


「ちょ……! メイが『アチラ側』の魔王の子!? つくならもっとマシな嘘つけよ!」

 シュンも愕然としてヤギョウを問い詰める。


「うむ……姫様も、そこの小僧も、にわかに信じられぬのも無理からぬこと。ですが、これは真実(まこと)の事なのです。すべては15年前の『接界』より始まったこと!」

 ヤギョウは腕組みしながら肯いたが、再びメイを見上げてそう言った。


「「15年前??」」

 声を揃えるメイとシュン。


「そうです。15年前に起きた『接界』と戦。あの『接界』は、『何か』がおかしかった……」

 ヤギョウが話を始めた。


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