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これも夢

「はぁ、はぁ・・・」

 竜斗は動機と息切れを覚えながら、直感していた。

 俺達は、あのトンネルの中で同じ幻を見たように、バスに揺られながら同じ夢を見ていたに違いない。


「忍撫も見ただろ?あの妖怪…」

「おぅ…また竜斗を狙ってたな…」

「やっぱりな…ミサキさんも見たと思うんだけど…」

 ミサキは目を開けたままボンヤリとした様子で、言葉が出ない。

 幻を見た後と同様、彼女が意識明瞭になる頃には夢の記憶は不明瞭になっているのだろう。

(…だよね?アトミさん)

 彼がアトミの方を見ると、彼女は伏し目がちに視線を落としながら頷いた。


 それにしても・・・

 結界とか封印とか、幻の剣とか雷撃とか、使おうとする前に固まってしまった。呪縛されたみたいに・・・。

 何だか冴えない気分だ。まだ夢の中にいるのか俺?

 見れば、忍撫もミサキも普通に服を着ている。

 …ってことは、夢とか幻じゃないってことか。

 …って、夢じゃ女子は裸が規定値(デフォ)かよ俺?

 心の中で自分自身にツッコミを入れる竜斗だが、夢を見ながら動悸と共に自身の下半身でも拍動を感じていたことは内緒である。

(アトミさんにはバレてたかな…)

 下車すべき停留所にバスが到着するまでには心臓の拍動も心臓以外の脈動も平静を取り戻した。


「えーと、今日はお疲れ様」

「また次も企画しましょうね」

「オレも混ざって良いか?」

「参加してもらった方が助かる」

 そう竜斗が言うのは、エロい意味で彼が暴走するのを忍撫が抑えてくれたと思うからである。


 竜斗とミサキは互いに名残惜しさと気恥ずかしさが入り混じった感情を秘めつつ、その朝に乗車したバス停で五人は下車し、解散となった。

 アトミは自身が魔術を行使したことを彼に悟られないか気にしながら逃げ去るように、ミサキと共にその場を離れた。


 いつものように姉妹の無言の会話が始まる。

「少しやり過ぎた?」

「結果オーライな気もする」

「『魔界の扉』、開けちゃったのかなぁ」

「でも、竜斗君、大丈夫だったみたいだし」

「丁度良い具合に、また彼の夢に入り込む手掛かりも掴めたけどね」

「よく思い出せないけど、私と彼、同じ夢見てたの?」

「そうよ。少しヤバかったけどね」

「その、ヤバいふうに染まって行きそうなのが恐いんだけど」

「少し悔しいけど、矢的さんに助けられたわ」

「竜斗君が壊れるのを防いでもらったわね」

「私達が彼を壊すのを防いでもらってるとも言えるのかしら…」



 忍撫とミサキ。この二人の女子が、竜斗に引力と斥力(せきりょく)を及ぼしている。


 一つ年上の幼馴染である忍撫は、何処までも竜斗を追ってくる。彼が空手や柔術に没頭すれば彼女は剣道に励んでいた。彼が出した幻の剣を受けたり、すぐに自分でも操ったりして彼を驚かせたかと思えば、当たり前のように同じ幻の中で彼と剣を交えたりできるようになった。そんな彼女を腕に抱えたときは『可愛い』と思ってしまったが、『オレの婿になれ』と迫られると何だか支配されそうで引いてしまう。


 忍撫とは対照的に、知り合って日の浅い同級生のミサキには、護ってやらねばという気にさせられる。何かを求めようと縋るような眼差し。そのミステリアスな瞳に引き込まれそうになる一方で、無意識に躊躇ってしまう竜斗がいる。それは、あの幻で見た妖怪が象徴するような(おそろ)しい何かが彼女の影に潜んでいるように感じるせいなのかもしれない。


 それ以前に、健全な男子高校生たる彼は、彼女達のエロスに惹かれていることとも否定できないのであり、その一方で、女癖の悪い父親の醜態を見た心的外傷(トラウマ)に縛られ、相変わらず異性への忌避感を拭いきれないのだった。


 そんな心の葛藤をアトミに読まれていることを竜斗は知っているが、そのアトミが魔術で竜斗の夢や幻を操ろうとしていたことは知らない。まして、呪縛されたような感覚が姉妹の魔術の影響かも知れないなどとは思いも及ばなかった。



 また(あやかし)に呪縛されるようなことがあっては面白くない。いち早く察知できるようにならねば…と、竜斗は道場で一人稽古に励んでいた。


 幻の剣を振っていると、いつの間にか其処に忍撫がいた。

 山寺で修行したときのように幻の剣を交えるのは暗黙の了解だ。

 気が付けば彼女はまた身体に晒を巻いただけの姿。

 やっぱり俺の幻は女子が裸なのか…完全な全裸じゃないけど…苦笑する竜斗。


 想い出したように、ミサキが現れた。長い黒髪で肝心な処はギリギリ隠れてはいるが、彼女も殆ど裸だ。

 これはもう、夢か幻だよな…いい加減、俺も悟れるようになったよ…


「そう。これは夢。だから、竜斗くんの好きにして良いのよ」

 艶然と微笑むミサキ。


 夢と判っていても、エロいものはエロい。

 竜斗が握る刀の放つ光が脈打ち始める。

 先刻から忍撫にも刺激されて充電(チャージ)してたところだ。そろそろ放電(ディスチャージ)しないと暴発しそうなんだが。


 ここで隙を見せると、あの妖怪が現れる気がする・・・そう思っていると、彼女の背後で影が不自然に揺らぎ、その影の中で二つの目が赤く光るように見えた。


2015.10.18 改稿

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