叔母とレオタード
既に回を遡って改稿していますが、竜斗や彼の祖父のフルネームが、やっと判明。
朝が来て、竜斗は目覚める。日課である道場の掃除を早くからこなす。
「昨日あったことは、どこまで現実だったんだ?」
稽古で祖父に気絶させられてからは半分夢の中だったが、気絶する前、喫茶店に行ったのも、その前にミサキを見たのも夢ではない。夢であろうとなかろうと、竜斗には異世界の出来事のように思える。
少し遠い目をしている竜斗の背後にトオルが忍び寄る。視界より外の気配には敏感になった気がする竜斗だが、それに反応しようとする瞬間、目眩のような感覚がある。トオルの掌は昨日のように空を切る。
掃除の後は、型練習をすることになっている。上下前後左右の攻防を想定した準備体操のようなつもりでやっていたが、昨日の祖父の話では、イメージ次第で天地四方に『結界』を張る技法になるのだと言う。
「普通に動けておるようじゃな。日頃の掃除や鍛練は、邪気を祓い、寄せ付けぬためにもなるのじゃから、怠らぬようにせい」
(じっちゃんは『邪気』だの『結界』だの、怪しいことを言うようになった。やっと高校生になった俺達の中二病を再発させたいのか?)
祖父の辰造が孫に古武術の稽古をつけ始めたのは約半年前だが、その頃に息子夫婦、つまり竜斗の両親が家を出て行った。
竜斗が幼い頃、父は空手の大会で優勝したり格闘技のイベントで賞金を稼いだりして、道場に通う弟子も多かったが、弱点があった。喧嘩は強いが酒と女に弱い。
酔って暴力沙汰に関わったのが切欠で、空手道場は流行らなくなった。夜遅く酒やら香水やらの臭いをさせて帰宅したりで夫婦仲は険悪になった。
ヒーローだったはずの父が、酔って頭に女性用肌着・・・悪い夢だったことにしてほしい、竜斗が消去したい過去である。
去年の夏、父の妹で国際結婚していた衣理が米国から帰国した。母の親友でもあった衣理は兄の酒乱の惨状を見かね、母に別居をすすめた。父は修行の旅とか言って家を出、いつ帰るか判らず、父のDVを恐れる母は帰省したままとなった。
衣理は日本の高校に通いたがっていた息子、トオルを留学生として呼び寄せて実家に下宿させ、押門家の家事を引き受けることにした。
そんな経緯で竜斗の家は現在、両親不在の代わりに、祖父の辰造、叔母の衣理、従弟のトオルが同居している。
辰造が古武術を応用した整体、整骨術を副業とし生計の足しにしているが、最近は衣理がフィットネスのインストラクターとして稼ぐようになった。実年齢より若く見えると評判の『美魔女』として雑誌で紹介され、OLや主婦に人気である。
確かに、雑誌に掲載されたレオタード姿は、高校生の息子がいるとは思えない体型だ。トオルが双子姉妹のヒップを見分けるほどの尻フェチもとい、女性の身体への観察眼を持つことと関係があるのだろうか?
トオルの父、カーチス博士は日本の古い文化を研究し、米国と日本を往復している。彼が衣理を見初めたのは、彼が研究取材で来日したさい、彼女が武術の稽古をしていたときだったという。
結婚して渡米、出産の後、エリ・カーチスこと衣理は通い始めたフィットネスジムで才能を認められ、インストラクターを任されるようになった。
独自に武術の要素を取り入れたカラテ・エクササイズが話題となりビジネスとして成功、アメリカンドリームを体現して凱旋帰国みたいなことになっている。悪夢を体現してしまった兄とは対照的だが。
ハリウッドでカンフーのスタントにも関わったとかいう彼女の身体能力は未だ衰えず、空中三段蹴りのような技もこなす。その鍛え上げられた健康美を誇る叔母を竜斗は『エリ姐』と呼ぶが、そんな彼女が朝食を支度してくれている。朝稽古を終え食卓につく竜斗とトオル。
「二人とも、高校生になって彼女でもできた?そのへんの処どうよ?」
「リュウト、キになるオンナノコ、できたみたいでス」
「本当?」
「いや、気になるっていうのはそういう意味じゃなく・・」
「じゃぁどういう意味?」
トオルも衣理も面白がっている。
「できたらコンド、フィットネスきてもらいまス!」
「それは楽しみだわん」
「・・・ご馳走様」
衣理に見送られ、登校する二人。トオルは女子の話題で竜斗の動揺を誘い、隙を窺う作戦で、今日も竜斗の背中を狙っている。
母親に影響されてか、トオルは見た目が派手なアクションの真似をしたがる。おかげで無駄な動作が入り、技をかわされやすくなるのだが。
それでなくても、背後の気配には敏感になっている竜斗だ。足音でも聞こえようものなら、その音の主の体型、姿勢、呼吸までリアルにイメージできてしまう気がする。
サブタイトルからエロスを期待した皆さん、御免なさい、